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第二話

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 あいにくと俺たちには勇者になれるほどの力はなかったので、いまは冒険者として出来ることを出来る範囲でやっているわけだが。

 ルインは俺たちの身の上話をぽかんと口を開けてきいていた。
 さてと……
 俺はレドとクルツを見た。二人とも、俺と同じ意見のようだ。

「なあ、ルイン。俺たちと組まないか?」

「えっ、俺なんかで、いいんですか……?」
 ルインは不安そうに言った。

 わざととはいえ、あれだけ派手に追放されたばかりなんだから当然か。
 俺は安心させようと笑って言った。

「そんなに深刻に考えるなよ。出来ることをやってくれりゃいいだけだ」

「うちには補助魔法の使い手はいないしな」
 レドがクルツを見ながら言う。

「僕はこの世で最も美しい、火属性の攻撃魔法にしか興味がありませんので」
 クルツは真顔で言った。

 本人の言うとおり、この波打つ赤い髪の魔法使いは火属性の攻撃魔法しか使えないのだ。
 レドは盾役だから、回復も含めた補助の類いは剣士の俺がやっている。一人でパーティを支えられる万能な勇者を目指して剣も魔法も修めていたのだが、こんな形で役に立つとは思わなかった。

「どうする、ルイン? 仲間になって――」

「よろしくお願いします!」
 ルインはテーブルにぶつかりそうになるくらい勢いよく頭を下げてきた。

 その様子に俺たちはつい笑ってしまった。ルインも笑った。

「じゃ、新しい仲間も加わったことだし、今回は俺のおごりだな」

「流石はジャック。それでこそ俺たちのリーダーだ」

「今日のあなたは美しいですねえ」

 俺が宣言するとレドとクルツが拍手した。

「こんなときだけ持ち上げるんじゃねえよ」
 笑ってそう言いながら会計を頼んだのだが、思ったよりも金額が多かった。

「なあ、俺たちこんなに注文してないと思うんだが……」

「先に出てった人たちの分も入ってるからね」
 店主はしれっと言った。

 あいつらめ……いつか見返してやるからな。



 こうしてルインがパーティに加わったわけだが、初めのうちはルインも俺たちに遠慮しているようなところがあった。
 なので、加入してから数回のクエストでは俺が直接指示を出して、補助魔法を使わせていた。

 なんとなく予想していたことだが、ルインは役立たずなどではなかった。指示を出せば素早く、言われたとおりに動いてくれた。

「案外使えるじゃないか。誰だ、お前を役立たずなんて言った奴は」
 オークの討伐クエストをすんなり達成したあと、俺は剣を収めてルインに言った。

「ジャックさんの指示が的確だからですよ。前のパーティの時よりもずっと動きやすかったです」
 ルインはそう言った。

 まあ、あの食い逃げ野郎よりは俺の方が上手く指示を出せるだろうが……

「言われたことをきちんとこなせるのだって立派なことだぞ」
 レドが言う。

「そうですよ。ルイン君のおかげで僕たちの効率は上がっています。いいですね、補助魔法というのは。僕の炎が、より美しく輝くようになる……フフッ、フフフッ……」

 クルツはなんか危ない笑い方をしていたが、こいつの言っていることは正しい。俺もルインがパーティに入ってから明らかに戦いやすくなったと感じている。補助魔法の使い手と組むのは俺たち三人とも初めてなんだが、一人いると便利なんだな。

「俺、役に立ててるんですか……?」
 ルインは少し不安そうだった。

「おう。お前を拾ってよかったよ。これからもよろしくな」
 俺は思ったとおりのことを言った。別に気を遣う必要はなかった。ルインは立派な冒険者で、俺の仲間だ。

「はい! よろしくお願いします!」
 ルインはパッと笑顔になって言った。

 さてと、それじゃ、帰ってギルドに報告だな。



 ルインがパーティに加わってからしばらく経った。
 俺たちは調子よくクエストをこなしていき、CランクからBランクへの昇格を果たしていた。
 昇格自体も喜ばしいが、なによりよかったのはルインを追放したあの食い逃げ野郎がとても悔しそうにしていたことだ。ざまあ見ろってんだ。

 いま俺たちはAランクへの昇格を目指している。手応えは感じていた。俺たち四人ならいけると確信が持てた。

 元々俺たちは勇者という夢を諦めた奴の集まりだ。もちろん依頼は責任を持ってこなしていたが、必死になって上を目指したりはしていなかった。

 出来ることを出来る範囲でやればいい。
 いつの間にか、それが俺たち三人の目標となっていた。
 だが……

「ハァッ!」
 俺は気合いを込めて剣を振る。

「ヌゥ……!」

 それをレドが体全体を守れるほどの大盾で受けた。前日にオーガの討伐を達成したので今日は休みなのだが、俺はレドと森で訓練に励んでいた。
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