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第三話
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「ジャック、一休みしないか?」
「ああ、そうするか。もう三時間ばかりぶっ通しでやってたからな」
レドの提案に俺はうなずいた。
剣を鞘に収めて革袋から水を飲んだ。冷たくて美味かった。レドも同じように水を飲んで一息ついていた。
「クルツのやつも同じようなことしてるんだろうな」
「あいつの魔法、明らかに前より強力になってるからな」
俺が言うとレドはうなずいた。クルツは「美学に反する」などとアホなことを言って俺たちとの訓練には参加していないが、鍛錬に励んでいるのは間違いない。
だが、この場にルインはいない。あいつには俺たちの訓練は秘密だった。
「俺たちは、Aランクに上がるな」
「ああ、ルインがいるからな」
俺が言うとレドも同意した。
初めのうちは俺の指示に従って動いていたルインだったが、特に問題もなさそうだったので、俺は自分で判断して動いてもらうことにした。
最初は不安そうにしていたルインだったが、次第に自分で状況を見て俺たちをサポートするのに慣れていった。
どのあたりで気づいたんだったか。
俺は最近よくそのことを考える。だが、はっきりここだと示すことは出来ずにいた。まあ、いずれにしても、ルインの奴は紛れもない天才だった。
入ったばかりの頃は思ったよりも筋がいいじゃないか、なんて思っていたが、ルインは筋がいいどころではなかったのだ。
俺たちもしばらくは気づかなかったが、ルインの才能がとてつもなく巨大なものであることは徐々に明らかになっていった。
「ほんと、あの食い逃げ野郎はドマヌケだよな」
「まったくだ。あれほどの天才を追放するマヌケは他にいないだろう」
俺とレドは二人で笑った。
「ルインに任せきりでもいいんだけどな」
「それでも俺たちはAランクに上がれる」
レドは断言した。俺も同感だった。
ルインの才能を持ってすれば、Eランクの冒険者パーティをAランクに引き上げることすら出来るだろう。そのくらい、あいつの補助魔法は強力なものになっていた。
「でも、それじゃダメだ」
俺は言った。
あいつは仲間だ。俺たちの保護者じゃない。俺は仲間として、あいつと対等でいなくちゃいけない。レドもクルツも思いは同じだ。だから俺たちは、こうして頑張っているのだ。
「よし、じゃあ再開するか」
俺は気合いを入れて立ち上がったのだが、なぜかレドはついてこなかった。
「どうした?」
「……なあ、ジャック、ルインは…………いや、なんでもない」
「なんだよ、そんな風に言われたら気になるだろ?」
「なんでもないんだ。さあ、訓練を再開しよう」
レドはかぶりを振って立ち上がった。
「お前がそう言うなら別にいいさ。じゃあ、始めるか」
俺は気にしていないことを示した。
嘘だった。
本当はレドがなにを考えていたのか分かっていた。気づかないふりをすればレドはそれ以上言ってこない。俺はそう考えて、わざとああ言った。
仲間相手にこんなおかしな駆け引きをしたのは初めてかもしれない。
でも、このことを考えたくなかった。
ルインは勇者になれる。だから、俺たちのパーティを抜けた方がいい。
そんなことは、俺だって分かっていた。
俺たちパーティはあっさりAランクに昇格した。
「Aランクか……」
レドがしみじみと言っている。
「Aランクまで来たんですね……」
クルツもだった。
「ここまで来たんだなあ……」
俺もである。
ギルドで昇格の手続きを済ませ、なじみの酒場でのドンチャン騒ぎも終えて、いまは四人で夜風に吹かれながら宿に向かって歩いているところだった。
「感慨に浸ってる場合じゃないですよ。明日からはAランクパーティとしての日々が始まるんですから」
ルインは気合い十分だった。というか、元気がよすぎるようにも感じた。結構飲んでたし、そんなこともあるのかもな。
「そうだな。俺たちは泣く子を黙らせ、飛ぶ鳥落とすAランクパーティだ。明日からはバリバリ高難度のクエストをこなすぞ」
「サポートは任せてください」
俺の言葉に、ルインは心底嬉しそうに言った。レドもクルツも笑っている。俺たちは上機嫌だった。
明日も明後日も、その次の日もそのまた次の日も、こうして四人で楽しく冒険者をやる。
疑うことなく、俺はそう思っていた。
宿に着いた俺を待っていたのは一通の手紙だった。それは見たこともないくらい丁寧で綺麗な字で書かれていた。
差出人はリルム。
知らない奴なんて一人もいやしない。
リルムというのは勇者パーティの一角を担う、最高のヒーラーの名だ。
そのリルムから、俺は呼び出されたのだった。
「ああ、そうするか。もう三時間ばかりぶっ通しでやってたからな」
レドの提案に俺はうなずいた。
剣を鞘に収めて革袋から水を飲んだ。冷たくて美味かった。レドも同じように水を飲んで一息ついていた。
「クルツのやつも同じようなことしてるんだろうな」
「あいつの魔法、明らかに前より強力になってるからな」
俺が言うとレドはうなずいた。クルツは「美学に反する」などとアホなことを言って俺たちとの訓練には参加していないが、鍛錬に励んでいるのは間違いない。
だが、この場にルインはいない。あいつには俺たちの訓練は秘密だった。
「俺たちは、Aランクに上がるな」
「ああ、ルインがいるからな」
俺が言うとレドも同意した。
初めのうちは俺の指示に従って動いていたルインだったが、特に問題もなさそうだったので、俺は自分で判断して動いてもらうことにした。
最初は不安そうにしていたルインだったが、次第に自分で状況を見て俺たちをサポートするのに慣れていった。
どのあたりで気づいたんだったか。
俺は最近よくそのことを考える。だが、はっきりここだと示すことは出来ずにいた。まあ、いずれにしても、ルインの奴は紛れもない天才だった。
入ったばかりの頃は思ったよりも筋がいいじゃないか、なんて思っていたが、ルインは筋がいいどころではなかったのだ。
俺たちもしばらくは気づかなかったが、ルインの才能がとてつもなく巨大なものであることは徐々に明らかになっていった。
「ほんと、あの食い逃げ野郎はドマヌケだよな」
「まったくだ。あれほどの天才を追放するマヌケは他にいないだろう」
俺とレドは二人で笑った。
「ルインに任せきりでもいいんだけどな」
「それでも俺たちはAランクに上がれる」
レドは断言した。俺も同感だった。
ルインの才能を持ってすれば、Eランクの冒険者パーティをAランクに引き上げることすら出来るだろう。そのくらい、あいつの補助魔法は強力なものになっていた。
「でも、それじゃダメだ」
俺は言った。
あいつは仲間だ。俺たちの保護者じゃない。俺は仲間として、あいつと対等でいなくちゃいけない。レドもクルツも思いは同じだ。だから俺たちは、こうして頑張っているのだ。
「よし、じゃあ再開するか」
俺は気合いを入れて立ち上がったのだが、なぜかレドはついてこなかった。
「どうした?」
「……なあ、ジャック、ルインは…………いや、なんでもない」
「なんだよ、そんな風に言われたら気になるだろ?」
「なんでもないんだ。さあ、訓練を再開しよう」
レドはかぶりを振って立ち上がった。
「お前がそう言うなら別にいいさ。じゃあ、始めるか」
俺は気にしていないことを示した。
嘘だった。
本当はレドがなにを考えていたのか分かっていた。気づかないふりをすればレドはそれ以上言ってこない。俺はそう考えて、わざとああ言った。
仲間相手にこんなおかしな駆け引きをしたのは初めてかもしれない。
でも、このことを考えたくなかった。
ルインは勇者になれる。だから、俺たちのパーティを抜けた方がいい。
そんなことは、俺だって分かっていた。
俺たちパーティはあっさりAランクに昇格した。
「Aランクか……」
レドがしみじみと言っている。
「Aランクまで来たんですね……」
クルツもだった。
「ここまで来たんだなあ……」
俺もである。
ギルドで昇格の手続きを済ませ、なじみの酒場でのドンチャン騒ぎも終えて、いまは四人で夜風に吹かれながら宿に向かって歩いているところだった。
「感慨に浸ってる場合じゃないですよ。明日からはAランクパーティとしての日々が始まるんですから」
ルインは気合い十分だった。というか、元気がよすぎるようにも感じた。結構飲んでたし、そんなこともあるのかもな。
「そうだな。俺たちは泣く子を黙らせ、飛ぶ鳥落とすAランクパーティだ。明日からはバリバリ高難度のクエストをこなすぞ」
「サポートは任せてください」
俺の言葉に、ルインは心底嬉しそうに言った。レドもクルツも笑っている。俺たちは上機嫌だった。
明日も明後日も、その次の日もそのまた次の日も、こうして四人で楽しく冒険者をやる。
疑うことなく、俺はそう思っていた。
宿に着いた俺を待っていたのは一通の手紙だった。それは見たこともないくらい丁寧で綺麗な字で書かれていた。
差出人はリルム。
知らない奴なんて一人もいやしない。
リルムというのは勇者パーティの一角を担う、最高のヒーラーの名だ。
そのリルムから、俺は呼び出されたのだった。
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