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第四話
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二日後。夜。俺は指示されたとおり、一人で町の外れの人気のない通りに来ていた。
「来てくれないんじゃないかと思ってたわ」
物陰から若い女の声がした。嫌になるくらい綺麗な声だった。姿を見せたリルムは長い金髪に切れ長の瞳の、ムカつくくらいの美人だった。
「勇者パーティのヒーラー様からの呼び出しじゃ応じないわけにもいかないだろ」
俺は冷ややかに、というか半ば凄むように言ったのだが、美人な上に恐ろしく優秀なこの女は一切動じなかった。
「それもそうね。さて、Aランクパーティのリーダーであるあなたに手間を取らせるのも悪いから、早速用件に入りましょうか。あなたのパーティのルイン、彼を引き抜きたいの」
リルムの言葉は予想通りのものだった。いつかルインが引き抜かれる日が来るような気はしていた。でも、俺はその可能性から目を背け続けた。しかし、こうして目の前に突きつけられてしまってはそんなことも出来ない。
「俺はあいつの保護者じゃない。引き抜きたいなら直接あいつに言ってくれ」
俺はリルムにそう答えた。
「本人にはもう言ったわよ。でも彼は「俺はこのパーティの一員だからどこにも移るつもりはありません」って、もの凄い目つきでにらんできたわ。あなたたちがAランクに昇格する二、三日まえだったかしらね」
ふんと鼻を鳴らしてリルムが言った。
そうか、だからあの日、ルインは妙に明るかったんだな。自分は絶対にパーティを抜けないと固く誓っていたのだろう。
勇者になるのが夢のくせに。自分の力は、Aランクのパーティなんかにはもったいないってわかってるくせに。
「それじゃあ話はここまでだな。本人が嫌って言ってるんじゃ俺にはどうしようもない」
俺は肩をすくめた。が、リルムは動かない。
「あなただって分かっているんでしょう? 彼の力は冒険者の器には収らないものだってこと」
「それは……」
言いかけて、俺は歯がみした。
しくじった。気づいていないふりをすればよかった。
そんな思いが顔に出たのだろう、リルムがまくし立ててきた。
「ルインには世界を救える力があるの! だったら、出来ることをやるべきでしょう!」
出来ることをやればいい。俺がいつも言っていることだ。まさか自分の信条に自分が追い詰められるとは思わなかった。
だが、リルムの言うことを受け入れるわけにはいかなかった。
「だからあいつの意思を無視してパーティから抜けさせろっていうのか? ルインは俺の大切な仲間だ。そんな真似出来るか」
「じゃあ彼をここに縛り付けるのが正しいとでも思うの! 彼はあなたとは違うのよ!」
そう言った途端、リルムははっとなって口に手を当てた。
俺たちが勇者を目指してた奴の集まりだってことも知ってるらしい。
「よく調べてるじゃないか」
「ごめんなさい……無神経な言い方だった」
リルムは丁寧に頭を下げた。本当に申し訳なく思っているようだが、そんなことはどうでもよかった。
「謝らなくていい。俺とあいつが違うのは単なる事実だ。でも、俺はあいつを追い出すことは出来ない。四人で冒険者をやるのは、楽しいんだよ。夢は叶わなかったけど、俺たちは出来ることを出来る範囲でやってるんだ。だから、放っておいてくれ」
「……ジャック、本当に、それでいいの?」
リルムの問いかけに、俺は背を向けた。
Aランクパーティとなってからも俺たちは絶好調だった。国中に名を轟かせた大盗賊団を壊滅させ、一パーティではどうにもならないといわれていたブラックドラゴンを討伐した。
ルインは、本当に楽しそうだった。あの日、捨てられた子犬みたいな目をしてた奴と同一人物とは思えないくらいに。
俺もレドもクルツも楽しんでいたけど、ルインは俺たち三人とは少し違っていた。ここが自分の居場所で、ここにいるのが幸せだと心の底から思っているように見えた。
成り行きで拾ったとはいえ、ルインは大切な仲間だ。そのルインからいまの幸せを取り上げるなんて、俺には出来なかった。
いいじゃないか。俺たちは別に怠けてるわけじゃない。出来ることを出来る範囲で、頑張ってやってるんだ。
文句を言われる筋合いはない。
今日も俺たちは無事にクエストを達成して、酒場で飲んでいた。
ときどき周りの客から見られているのを感じた。他の連中の視線には畏敬の念がこもっている。
俺たちはたぐいまれな強者として認められていたのだ。
「来てくれないんじゃないかと思ってたわ」
物陰から若い女の声がした。嫌になるくらい綺麗な声だった。姿を見せたリルムは長い金髪に切れ長の瞳の、ムカつくくらいの美人だった。
「勇者パーティのヒーラー様からの呼び出しじゃ応じないわけにもいかないだろ」
俺は冷ややかに、というか半ば凄むように言ったのだが、美人な上に恐ろしく優秀なこの女は一切動じなかった。
「それもそうね。さて、Aランクパーティのリーダーであるあなたに手間を取らせるのも悪いから、早速用件に入りましょうか。あなたのパーティのルイン、彼を引き抜きたいの」
リルムの言葉は予想通りのものだった。いつかルインが引き抜かれる日が来るような気はしていた。でも、俺はその可能性から目を背け続けた。しかし、こうして目の前に突きつけられてしまってはそんなことも出来ない。
「俺はあいつの保護者じゃない。引き抜きたいなら直接あいつに言ってくれ」
俺はリルムにそう答えた。
「本人にはもう言ったわよ。でも彼は「俺はこのパーティの一員だからどこにも移るつもりはありません」って、もの凄い目つきでにらんできたわ。あなたたちがAランクに昇格する二、三日まえだったかしらね」
ふんと鼻を鳴らしてリルムが言った。
そうか、だからあの日、ルインは妙に明るかったんだな。自分は絶対にパーティを抜けないと固く誓っていたのだろう。
勇者になるのが夢のくせに。自分の力は、Aランクのパーティなんかにはもったいないってわかってるくせに。
「それじゃあ話はここまでだな。本人が嫌って言ってるんじゃ俺にはどうしようもない」
俺は肩をすくめた。が、リルムは動かない。
「あなただって分かっているんでしょう? 彼の力は冒険者の器には収らないものだってこと」
「それは……」
言いかけて、俺は歯がみした。
しくじった。気づいていないふりをすればよかった。
そんな思いが顔に出たのだろう、リルムがまくし立ててきた。
「ルインには世界を救える力があるの! だったら、出来ることをやるべきでしょう!」
出来ることをやればいい。俺がいつも言っていることだ。まさか自分の信条に自分が追い詰められるとは思わなかった。
だが、リルムの言うことを受け入れるわけにはいかなかった。
「だからあいつの意思を無視してパーティから抜けさせろっていうのか? ルインは俺の大切な仲間だ。そんな真似出来るか」
「じゃあ彼をここに縛り付けるのが正しいとでも思うの! 彼はあなたとは違うのよ!」
そう言った途端、リルムははっとなって口に手を当てた。
俺たちが勇者を目指してた奴の集まりだってことも知ってるらしい。
「よく調べてるじゃないか」
「ごめんなさい……無神経な言い方だった」
リルムは丁寧に頭を下げた。本当に申し訳なく思っているようだが、そんなことはどうでもよかった。
「謝らなくていい。俺とあいつが違うのは単なる事実だ。でも、俺はあいつを追い出すことは出来ない。四人で冒険者をやるのは、楽しいんだよ。夢は叶わなかったけど、俺たちは出来ることを出来る範囲でやってるんだ。だから、放っておいてくれ」
「……ジャック、本当に、それでいいの?」
リルムの問いかけに、俺は背を向けた。
Aランクパーティとなってからも俺たちは絶好調だった。国中に名を轟かせた大盗賊団を壊滅させ、一パーティではどうにもならないといわれていたブラックドラゴンを討伐した。
ルインは、本当に楽しそうだった。あの日、捨てられた子犬みたいな目をしてた奴と同一人物とは思えないくらいに。
俺もレドもクルツも楽しんでいたけど、ルインは俺たち三人とは少し違っていた。ここが自分の居場所で、ここにいるのが幸せだと心の底から思っているように見えた。
成り行きで拾ったとはいえ、ルインは大切な仲間だ。そのルインからいまの幸せを取り上げるなんて、俺には出来なかった。
いいじゃないか。俺たちは別に怠けてるわけじゃない。出来ることを出来る範囲で、頑張ってやってるんだ。
文句を言われる筋合いはない。
今日も俺たちは無事にクエストを達成して、酒場で飲んでいた。
ときどき周りの客から見られているのを感じた。他の連中の視線には畏敬の念がこもっている。
俺たちはたぐいまれな強者として認められていたのだ。
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