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第五話
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「拠点を移す、か……」
レドの提案に俺は考え込んでいた。
「ああ。ここらの高難度クエストはほとんど片付けてしまったからな。都に拠点を移してもいい頃だと思う」
レドが言う。
「フフッ、きらびやかな都では僕の炎もより映えることでしょう」
クルツは乗り気のようだ。
「いいですね。俺も賛成します。俺たちなら向こうでも大活躍出来ますよ」
ルインは明るかった。まるで明日が来るのが楽しみで仕方ないといった感じだ。
反対する理由はなさそうだ。
「そうだな。じゃあ拠点を移して――」
「おい、聞いたか? 勇者パーティ、また敗走したらしいぜ」
俺が言いかけたとき、別の席からそんな声が聞こえた。
「またか。この間も魔王軍の幹部から逃げたんじゃなかったか?」
同じ席に座っているもう一人の男が言った。
「リーダー様は戦略的な判断から撤退したとか言ってるらしいけどよ、もう何回も幹部に挑んじゃ逃げ帰ってるぜ」
「勇者パーティも初めのうちは調子よかったんだけどな。力不足なんかね」
「どうだい、ジャック。お前さん達、ちょっと手伝ってやったら」
「いや、俺たちは……」
不意に話を振られて、俺はまともに答えられなかった。
「バカ、俺たちの英雄を困らせんじゃねえよ。悪いなジャック、連れが妙なこと言っちまった。気にせず飲んでくれ」
男はそう言って詫びると、何事もなかったかのように連れの男との会話に戻った。
「まいったな。俺たちに勇者パーティの手伝いだなんて……」
俺は笑って言った。
「まったくだ」
「いまさらそんなことを言われてもね」
レドもクルツも笑っていた。だが、その表情は硬かった。きっと、俺もこいつらみたいに不自然な笑みを浮かべていたことだろう。
ルインは、なにも言わなかった。
拠点を移すという話は宙ぶらりんになったまま、俺たちはクエストをこなしていった。どれも俺たちには歯応えのないものばかりだ。
それでも、楽しかった。
レドにクルツ、そしてルインと冒険者をやるのは、楽しかった。
勇者パーティが苦戦しているという噂を聞く機会は日に日に増えていった。
俺も調べてみたのだが噂はやはり本当で、このままでは魔王を倒せそうもないということだった。
出来ることを出来る範囲でやる。
勇者になれないと分かったとき、それが俺の信条となった。いままではその信条守ってきたと思っている。努力はしたし、責任は果たしてきたつもりだ。
でもいまは、自分が出来ることをちゃんとやっているのか、自信が持てなくなっていた。
だから俺は決意した。そして手紙を書いた。あのムカつくくらいの美人に宛てて。
その日、俺たちはオーガの集団を討伐するクエストを引き受けていた。Aランクパーティのクエストとしてはやや低難度のものだ。
ルインの力があれば、あっけなく終わる。
ルインの補助魔法を受けたレドの守りは、オーガが百体いたって崩せはしない。
ルインの補助魔法を受けたクルツの火属性魔法は、その気になれば森一つまとめて焼き払えるほどだ。
そして、ルインの補助魔法を受けた俺の剣は、まるで勇者の剣のように敵を苦もなく切り裂く。
オーガは決して弱くない。俺たちが、いや、ルインが強すぎるのだった。
森に住むオーガの集団をすべて倒した俺たちは、一息ついていた。
「このあたりにはもう俺たちが受けるようなクエストは残ってないな」
レドが言った。
「美しい思い出はたくさんありますが、旅立ちの時ですね」
クルツが言った。
「ああ。そろそろ拠点を移すとしよう」
俺はうなずいた。
「今度は都で冒険者ですね。楽しみだなあ」
ルインは嬉しそうだった。そんなルインを、俺は冷ややかに見た。
「いや、お前には関係のない話だよ」
「えっ? どういうこと、ですか?」
ルインはキョトンとしていた。
「都に行くのは俺たち三人だけだ。お前にはパーティを抜けてもらう」
俺はルインにそう言った。
「な、なに言ってるんですか、ジャックさん。冗談、ですよね……」
ルインは大きく目を見開き、青ざめた顔で俺を見ていた。
「冗談でもなんでもない。俺はお前を追放する」
俺は言った。
ルインは助けを求めるようにレドとクルツを見たが、二人には話を通してある。だから、どちらもなにも言わない。
「なんでですか! なんで俺を追放するなんて言うんですか!」
ルインが叫ぶように言った。
お前の居場所はここじゃないからだ。お前にはもっとふさわしい場所があるからだ。
でも、俺はこう言う。
「四人でやるより三人でやった方が取り分が増えるからな。抜けさせるならお前だろう。俺たちはAランクパーティだ。補助魔法なんてなくたってやっていける」
まるでルインの功績などないかのように、俺は傲慢に言った。
レドの提案に俺は考え込んでいた。
「ああ。ここらの高難度クエストはほとんど片付けてしまったからな。都に拠点を移してもいい頃だと思う」
レドが言う。
「フフッ、きらびやかな都では僕の炎もより映えることでしょう」
クルツは乗り気のようだ。
「いいですね。俺も賛成します。俺たちなら向こうでも大活躍出来ますよ」
ルインは明るかった。まるで明日が来るのが楽しみで仕方ないといった感じだ。
反対する理由はなさそうだ。
「そうだな。じゃあ拠点を移して――」
「おい、聞いたか? 勇者パーティ、また敗走したらしいぜ」
俺が言いかけたとき、別の席からそんな声が聞こえた。
「またか。この間も魔王軍の幹部から逃げたんじゃなかったか?」
同じ席に座っているもう一人の男が言った。
「リーダー様は戦略的な判断から撤退したとか言ってるらしいけどよ、もう何回も幹部に挑んじゃ逃げ帰ってるぜ」
「勇者パーティも初めのうちは調子よかったんだけどな。力不足なんかね」
「どうだい、ジャック。お前さん達、ちょっと手伝ってやったら」
「いや、俺たちは……」
不意に話を振られて、俺はまともに答えられなかった。
「バカ、俺たちの英雄を困らせんじゃねえよ。悪いなジャック、連れが妙なこと言っちまった。気にせず飲んでくれ」
男はそう言って詫びると、何事もなかったかのように連れの男との会話に戻った。
「まいったな。俺たちに勇者パーティの手伝いだなんて……」
俺は笑って言った。
「まったくだ」
「いまさらそんなことを言われてもね」
レドもクルツも笑っていた。だが、その表情は硬かった。きっと、俺もこいつらみたいに不自然な笑みを浮かべていたことだろう。
ルインは、なにも言わなかった。
拠点を移すという話は宙ぶらりんになったまま、俺たちはクエストをこなしていった。どれも俺たちには歯応えのないものばかりだ。
それでも、楽しかった。
レドにクルツ、そしてルインと冒険者をやるのは、楽しかった。
勇者パーティが苦戦しているという噂を聞く機会は日に日に増えていった。
俺も調べてみたのだが噂はやはり本当で、このままでは魔王を倒せそうもないということだった。
出来ることを出来る範囲でやる。
勇者になれないと分かったとき、それが俺の信条となった。いままではその信条守ってきたと思っている。努力はしたし、責任は果たしてきたつもりだ。
でもいまは、自分が出来ることをちゃんとやっているのか、自信が持てなくなっていた。
だから俺は決意した。そして手紙を書いた。あのムカつくくらいの美人に宛てて。
その日、俺たちはオーガの集団を討伐するクエストを引き受けていた。Aランクパーティのクエストとしてはやや低難度のものだ。
ルインの力があれば、あっけなく終わる。
ルインの補助魔法を受けたレドの守りは、オーガが百体いたって崩せはしない。
ルインの補助魔法を受けたクルツの火属性魔法は、その気になれば森一つまとめて焼き払えるほどだ。
そして、ルインの補助魔法を受けた俺の剣は、まるで勇者の剣のように敵を苦もなく切り裂く。
オーガは決して弱くない。俺たちが、いや、ルインが強すぎるのだった。
森に住むオーガの集団をすべて倒した俺たちは、一息ついていた。
「このあたりにはもう俺たちが受けるようなクエストは残ってないな」
レドが言った。
「美しい思い出はたくさんありますが、旅立ちの時ですね」
クルツが言った。
「ああ。そろそろ拠点を移すとしよう」
俺はうなずいた。
「今度は都で冒険者ですね。楽しみだなあ」
ルインは嬉しそうだった。そんなルインを、俺は冷ややかに見た。
「いや、お前には関係のない話だよ」
「えっ? どういうこと、ですか?」
ルインはキョトンとしていた。
「都に行くのは俺たち三人だけだ。お前にはパーティを抜けてもらう」
俺はルインにそう言った。
「な、なに言ってるんですか、ジャックさん。冗談、ですよね……」
ルインは大きく目を見開き、青ざめた顔で俺を見ていた。
「冗談でもなんでもない。俺はお前を追放する」
俺は言った。
ルインは助けを求めるようにレドとクルツを見たが、二人には話を通してある。だから、どちらもなにも言わない。
「なんでですか! なんで俺を追放するなんて言うんですか!」
ルインが叫ぶように言った。
お前の居場所はここじゃないからだ。お前にはもっとふさわしい場所があるからだ。
でも、俺はこう言う。
「四人でやるより三人でやった方が取り分が増えるからな。抜けさせるならお前だろう。俺たちはAランクパーティだ。補助魔法なんてなくたってやっていける」
まるでルインの功績などないかのように、俺は傲慢に言った。
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