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第六話
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「なに言ってるんですか! 俺がパーティを支えてるってことくらいジャックさんだってわかって――」
「ほう、俺たちがお前無しじゃやっていけないと、お前はそう思ってたのか」
「いや、そんなことは……」
「お前、俺たちを見下してたんだな。拾ってもらった恩も忘れて……」
俺は呆れたようにため息をついた。
本当に呆れているのは思ってもいないことをぺらぺらとしゃべれる自分に対してだった。
ジャック、お前あのルイン相手によくこんなことが言えるな。見下げ果てた奴だ。
でも、これはやらないといけないことだった。お前は俺たちにはもったいないくらい優秀な奴なんだから、勇者パーティに移れと言ったところで、ルインは絶対に応じない。それでなんとかなるなら、リルムは苦労しない。
ルインは、勇者になることより、夢を叶えて世界を救うことより、俺たちと一緒に冒険者をやることを望んでいる。
でもな、ルイン、それはダメなんだよ。
お前は自分に出来ることをやらないといけないんだ。
「あの日、ジャックさんに拾ってもらった恩を忘れたことなんて、一度たりともありません!」
ルインは吠えるように言った。
お前が俺に心から感謝してることなんて分かってるさ。でも、お前をここに置いておくわけにはいかない。俺も、出来ることをやらないといけない。
「そうだろうな。拾ってくれた恩義ある俺たちを見下すのは、楽しいだろうしな」
お前の言い分になど聞く耳持たないという態度で言った。
「そんな……どうして……」
ルインは泣いていた。初めて会ったあの追放のときだって、泣いてはいなかった。でもルインはいま、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「名演じゃないか。冒険者よりも役者の方が向いてるんじゃないか?」
俺はパチパチと拍手してやった。
「補助魔法なんてなくても俺たちはやっていけるんだよ。分かったらとっとと失せろ。お前は、追放だ」
俺は言った。
こうして、俺はルインを追放した。
ルインが去っていってから少しして、木の陰から女が姿を現した。何度見てもムカつくくらいの美人だ。
「あとのことは任せるぞ」
俺は勇者パーティのヒーラーに言った。
「悪いようにはしないわ。決して」
リルムは真剣な顔でうなずいていた。とびきり美人の上に恐ろしく優秀で、おまけに誠実な人間がいるとは……うらやましいかぎりだ。
「その、ありがとう、ジャック。あなたは、とても立派よ」
去り際にリルムはそんなことを言った。
俺はなにも言わなかった。
「僕の炎ほどではありませんが、美しい方でしたね」
クルツはいつも通りだった。
「勇者パーティのヒーラー殿に褒めてもらえるとは光栄じゃないか」
レドが苦笑する。
「嬉しくないけどな」
俺はため息をついて言った。
「でも、ルインはもう大丈夫だ。あいつはリルムの誘いに応じる」
「あいつが勇者パーティに入れば魔王軍なんて楽勝だな」
「魔王が気の毒なくらいですよ」
俺が言うとレドもクルツも笑った。
「あいつは本当にすごい奴だったな」
「あれ以上美しく補助魔法を使える人間はいないでしょう」
レドとクルツはルインの去っていった方を見ていた。
「ああ。俺たちにはもったいないくらいの、最高の仲間だったよ」
俺もうなずいた。
「明日からはルイン君の補助無しですか」
「実にキツいな」
クルツとレドが苦笑いする。
「全くだ。でも、なんとかしないと。ルインがいなくちゃなにも出来ないんじゃ、カッコがつかない」
俺たちは戦力の要を失ったわけだが、泣き言なんて言ってられるか。ルインにあれだけつらい思いをさせたんだ、このくらい耐えなくてどうする。
俺は空を見上げた。
がんばれよ、ルイン。お前なら、世界だって救える。それは俺たちが保証してやる。勇者パーティでガンガン活躍してくれ。
拾ったくせして追放しやがった嫌なリーダーのことなんて、とっとと忘れちまえ。
「ほう、俺たちがお前無しじゃやっていけないと、お前はそう思ってたのか」
「いや、そんなことは……」
「お前、俺たちを見下してたんだな。拾ってもらった恩も忘れて……」
俺は呆れたようにため息をついた。
本当に呆れているのは思ってもいないことをぺらぺらとしゃべれる自分に対してだった。
ジャック、お前あのルイン相手によくこんなことが言えるな。見下げ果てた奴だ。
でも、これはやらないといけないことだった。お前は俺たちにはもったいないくらい優秀な奴なんだから、勇者パーティに移れと言ったところで、ルインは絶対に応じない。それでなんとかなるなら、リルムは苦労しない。
ルインは、勇者になることより、夢を叶えて世界を救うことより、俺たちと一緒に冒険者をやることを望んでいる。
でもな、ルイン、それはダメなんだよ。
お前は自分に出来ることをやらないといけないんだ。
「あの日、ジャックさんに拾ってもらった恩を忘れたことなんて、一度たりともありません!」
ルインは吠えるように言った。
お前が俺に心から感謝してることなんて分かってるさ。でも、お前をここに置いておくわけにはいかない。俺も、出来ることをやらないといけない。
「そうだろうな。拾ってくれた恩義ある俺たちを見下すのは、楽しいだろうしな」
お前の言い分になど聞く耳持たないという態度で言った。
「そんな……どうして……」
ルインは泣いていた。初めて会ったあの追放のときだって、泣いてはいなかった。でもルインはいま、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「名演じゃないか。冒険者よりも役者の方が向いてるんじゃないか?」
俺はパチパチと拍手してやった。
「補助魔法なんてなくても俺たちはやっていけるんだよ。分かったらとっとと失せろ。お前は、追放だ」
俺は言った。
こうして、俺はルインを追放した。
ルインが去っていってから少しして、木の陰から女が姿を現した。何度見てもムカつくくらいの美人だ。
「あとのことは任せるぞ」
俺は勇者パーティのヒーラーに言った。
「悪いようにはしないわ。決して」
リルムは真剣な顔でうなずいていた。とびきり美人の上に恐ろしく優秀で、おまけに誠実な人間がいるとは……うらやましいかぎりだ。
「その、ありがとう、ジャック。あなたは、とても立派よ」
去り際にリルムはそんなことを言った。
俺はなにも言わなかった。
「僕の炎ほどではありませんが、美しい方でしたね」
クルツはいつも通りだった。
「勇者パーティのヒーラー殿に褒めてもらえるとは光栄じゃないか」
レドが苦笑する。
「嬉しくないけどな」
俺はため息をついて言った。
「でも、ルインはもう大丈夫だ。あいつはリルムの誘いに応じる」
「あいつが勇者パーティに入れば魔王軍なんて楽勝だな」
「魔王が気の毒なくらいですよ」
俺が言うとレドもクルツも笑った。
「あいつは本当にすごい奴だったな」
「あれ以上美しく補助魔法を使える人間はいないでしょう」
レドとクルツはルインの去っていった方を見ていた。
「ああ。俺たちにはもったいないくらいの、最高の仲間だったよ」
俺もうなずいた。
「明日からはルイン君の補助無しですか」
「実にキツいな」
クルツとレドが苦笑いする。
「全くだ。でも、なんとかしないと。ルインがいなくちゃなにも出来ないんじゃ、カッコがつかない」
俺たちは戦力の要を失ったわけだが、泣き言なんて言ってられるか。ルインにあれだけつらい思いをさせたんだ、このくらい耐えなくてどうする。
俺は空を見上げた。
がんばれよ、ルイン。お前なら、世界だって救える。それは俺たちが保証してやる。勇者パーティでガンガン活躍してくれ。
拾ったくせして追放しやがった嫌なリーダーのことなんて、とっとと忘れちまえ。
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