7 / 10
第七話
しおりを挟む
リルムに誘われて勇者パーティの一員となったルインは、この日も大きな戦果を挙げていた。
二度にわたって撤退を余儀なくされた、大山脈に潜む魔王軍の大幹部である邪竜を見事打ち倒したのだ。
「何度同じことを言ったわからないが、君は本当にすごい」
勇者パーティの守りの要である女性の騎士、エイラは改めてルインを称賛した。
「エイラさんの立ち回りだって見事でした。あの邪竜のブレスに臆することなく立ち向かえるのはあなたくらいですよ」
ルインもまたエイラの働きを褒めていた。勇者パーティに入って一月ほどが経ったが、メンバーはみな本当に優秀な人たちだった。
「それはそうかもしれんが、やはりルインの補助魔法があってこそだ」
「そうそう、もっとふんぞり返って威張り散らしてもいいのだよ、ルイン君」
エイラの言葉にうんうんとうなずいているのは攻撃魔法の達人、サーラだった。小柄で、ルインよりも若い少女だが、彼女の攻撃魔法の破壊力は圧巻だった。
「そうはいきませんよ」
ルインは苦笑してかぶりを振った。
「ほほう、それも前のリーダーさんの教えかな?」
サーラはニヤッと笑って言った。
「ジャック殿か。ルインがいつもいつもあれだけ褒めているのだから、さぞ立派な方なのだろうな。一度は会ってみたいものだ」
エイラが腕を組んでそう言うのを聞いて、ルインは慌てた。
「俺、そんなにいつもいつもジャックさんのことばかり話してましたか……?」
「それはもう」
エイラとサーラがそろってうなずく。ルインは顔を赤くした。
「あの人は、俺を拾ってくれた、兄貴みたいな人で、追放されたけど、それは俺のためを思ってのことで……俺はあの人みたいになりたいって思ってるから……」
「ルイン」
「それも散々聞いたから」
エイラとサーラに苦笑されて、ルインは途方に暮れた。
あの日、ジャックに追放されたあと、呆然と町をさまよっていたルインは、リルムに再び声をかけられた。
初めのうち、ルインは反発していた。追放されたからといって簡単に勇者パーティに加わる気にはなれなかった。
すると、リルムは言った。
あなただって本当はどうして追放されたのか分かっているでしょう。それなら、自分のすべきことをしなさい。
ルインは反論出来なかった。
ルインだってわかっていた。自分の力は単なる冒険者で終わるようなものじゃない。勇者パーティの一員となって世界を救うという夢を、本当に叶えられるだけの力が自分にはあるのだ。
しかし、夢よりも世界よりも、ルインは仲間と一緒にいることの方が大切だった。
だから自分の大きすぎる力には気づかないふりをした。それは正しくないと分かっていながら。
でも、ジャックさんはそんなことじゃダメだと思ったんだ。それがあの、「お前は追放だ」という言葉の真意だった。
自分に出来ることをちゃんとやれ。ジャックさんはそう言っているのだ。
「俺に、出来るんでしょうか……」
ルインは言った。
「少なくとも、彼は出来ると思っているわ」
リルムはそう答えた。
ルインは、勇者パーティに入ると決めた。
「はいはい、あまりルインを困らせるんじゃないの」
パンパンと手を叩きながらリルムがやってきた。
「リルムさん……リーダーの治療は終わったんですか?」
ルインは少しほっとしながら言った。パーティのリーダーであるミルドレッドは先ほどの戦いで傷を負っていた。大したケガではなかったのでリルムの手にかかればすぐに治った。
ケガの原因はミルドレッドが前に出過ぎたことだったが、ルインはそれを責めたりしなかった。二度にわたって撤退を余儀なくされた因縁の相手なのだから、多少力が入ってしまうのも無理はないと思っていた。
ミルドレッドは優秀な剣士だが、少し焦りすぎるところがある。とはいえ、深刻な問題ではないし自分の力で十分カバー出来るとルインは考えていた。
「ええ。ミルドレッドはもう大丈夫。それよりも……彼の名前が聞こえたんだけど……またなにか話していたのかしら」
リルムはためらいがちに聞いてきた。
「こっちもこっちでまた始まったよ……」
サーラがやれやれと肩をすくめる。
「あなたが期待しているようなジャック殿に関する新しい話は出ていないぞ」
エイラも笑っていた。
「わ、私は別に……ただ単に、ルインが話し上手だから、興味を惹かれるだけで……」
ふたりの反応にリルムは慌てて言った。
「嘘だ」
「だな」
サーラとエイラに断言されて、リルムは黙り込んだ。その顔は赤くなっている。
ルインは三人のやり取りを苦笑しながら見ていた。最初、リルムは途中からパーティに入ることになったルインを気遣って、よく話を振ってくれた。ルインはもっぱら前のパーティでの出来事を話したのだが、それに一番食いついてきたのは当のリルムだった。
二度にわたって撤退を余儀なくされた、大山脈に潜む魔王軍の大幹部である邪竜を見事打ち倒したのだ。
「何度同じことを言ったわからないが、君は本当にすごい」
勇者パーティの守りの要である女性の騎士、エイラは改めてルインを称賛した。
「エイラさんの立ち回りだって見事でした。あの邪竜のブレスに臆することなく立ち向かえるのはあなたくらいですよ」
ルインもまたエイラの働きを褒めていた。勇者パーティに入って一月ほどが経ったが、メンバーはみな本当に優秀な人たちだった。
「それはそうかもしれんが、やはりルインの補助魔法があってこそだ」
「そうそう、もっとふんぞり返って威張り散らしてもいいのだよ、ルイン君」
エイラの言葉にうんうんとうなずいているのは攻撃魔法の達人、サーラだった。小柄で、ルインよりも若い少女だが、彼女の攻撃魔法の破壊力は圧巻だった。
「そうはいきませんよ」
ルインは苦笑してかぶりを振った。
「ほほう、それも前のリーダーさんの教えかな?」
サーラはニヤッと笑って言った。
「ジャック殿か。ルインがいつもいつもあれだけ褒めているのだから、さぞ立派な方なのだろうな。一度は会ってみたいものだ」
エイラが腕を組んでそう言うのを聞いて、ルインは慌てた。
「俺、そんなにいつもいつもジャックさんのことばかり話してましたか……?」
「それはもう」
エイラとサーラがそろってうなずく。ルインは顔を赤くした。
「あの人は、俺を拾ってくれた、兄貴みたいな人で、追放されたけど、それは俺のためを思ってのことで……俺はあの人みたいになりたいって思ってるから……」
「ルイン」
「それも散々聞いたから」
エイラとサーラに苦笑されて、ルインは途方に暮れた。
あの日、ジャックに追放されたあと、呆然と町をさまよっていたルインは、リルムに再び声をかけられた。
初めのうち、ルインは反発していた。追放されたからといって簡単に勇者パーティに加わる気にはなれなかった。
すると、リルムは言った。
あなただって本当はどうして追放されたのか分かっているでしょう。それなら、自分のすべきことをしなさい。
ルインは反論出来なかった。
ルインだってわかっていた。自分の力は単なる冒険者で終わるようなものじゃない。勇者パーティの一員となって世界を救うという夢を、本当に叶えられるだけの力が自分にはあるのだ。
しかし、夢よりも世界よりも、ルインは仲間と一緒にいることの方が大切だった。
だから自分の大きすぎる力には気づかないふりをした。それは正しくないと分かっていながら。
でも、ジャックさんはそんなことじゃダメだと思ったんだ。それがあの、「お前は追放だ」という言葉の真意だった。
自分に出来ることをちゃんとやれ。ジャックさんはそう言っているのだ。
「俺に、出来るんでしょうか……」
ルインは言った。
「少なくとも、彼は出来ると思っているわ」
リルムはそう答えた。
ルインは、勇者パーティに入ると決めた。
「はいはい、あまりルインを困らせるんじゃないの」
パンパンと手を叩きながらリルムがやってきた。
「リルムさん……リーダーの治療は終わったんですか?」
ルインは少しほっとしながら言った。パーティのリーダーであるミルドレッドは先ほどの戦いで傷を負っていた。大したケガではなかったのでリルムの手にかかればすぐに治った。
ケガの原因はミルドレッドが前に出過ぎたことだったが、ルインはそれを責めたりしなかった。二度にわたって撤退を余儀なくされた因縁の相手なのだから、多少力が入ってしまうのも無理はないと思っていた。
ミルドレッドは優秀な剣士だが、少し焦りすぎるところがある。とはいえ、深刻な問題ではないし自分の力で十分カバー出来るとルインは考えていた。
「ええ。ミルドレッドはもう大丈夫。それよりも……彼の名前が聞こえたんだけど……またなにか話していたのかしら」
リルムはためらいがちに聞いてきた。
「こっちもこっちでまた始まったよ……」
サーラがやれやれと肩をすくめる。
「あなたが期待しているようなジャック殿に関する新しい話は出ていないぞ」
エイラも笑っていた。
「わ、私は別に……ただ単に、ルインが話し上手だから、興味を惹かれるだけで……」
ふたりの反応にリルムは慌てて言った。
「嘘だ」
「だな」
サーラとエイラに断言されて、リルムは黙り込んだ。その顔は赤くなっている。
ルインは三人のやり取りを苦笑しながら見ていた。最初、リルムは途中からパーティに入ることになったルインを気遣って、よく話を振ってくれた。ルインはもっぱら前のパーティでの出来事を話したのだが、それに一番食いついてきたのは当のリルムだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる