異世界チーズ冒険譚~貧者の肉は力を授ける~

胃の中の蛙

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魔力

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 一頻り休憩を取ると俺はニーナから槍術の基礎を教わっていた。
 ひとえに槍といっても10メートル以上のものもあれば、数十センチの物まで種類が多く戦い方も千差万別だ。
 一般的な槍は2メートル程らしいので今回はそれに見立てた棒で教練を受けている

 それまで触れてくることの無かった槍だが触れれば触れるほど奥が深い。
 俺は槍なんて突くしか能の無い武器だと思い込んでいたが、全く持ってそんなことはない。
 軽く触れただけでも、柄を長く持つのか、短く持つのか、はたまた中ほどを持つのかで戦い方ががらりと変わる。
 長く持てばリーチを生かした突き、薙ぎ、斬り、短く持てば短剣程とは行かないもののインファイトが可能で、
 中ほどを持てば、穂と石突きを混ぜた自由自在な攻撃が可能だ。
 他にも、関節技などの補助に使ったり、相手の武器を巻き込みながら押さえ込む、などなど。
 一通りこの身に披露され、俺の全身はボロボロのクタクタになっていた。

 これ以上の訓練は流石に身体を壊しかねないとニーナのストップがかかった。
 そこで彼女は、身体に負荷をかけない魔力の修練を提案してきた。
 ニーナの頭の中には、早めに切り上げて休むという選択肢は無いようだ。

 彼女曰く、魔力のコントロールはセンスがよければ一瞬でマスターできるが、センスが無いと何十年やってもできないのだそうだ。
 魔力を上手く使いこなせればたとえ魔術が使えなくとも空を蹴り、宙に浮く事や瞬間移動、武器を強化することができる。
 魔術を使えない者が魔術師に対抗する術として発展してきた戦闘術の一種なのだとか。
 

 2時間程教えてもらっているがニーナの教え方はイマイチ分かりにくい。
 所謂、感覚派の教え方というのだろうか。
 先ほどの槍の訓練ではそんな事無かったというのに魔力の修練に入ってからはこの調子だ。
 抽象的な説明や擬音を多用し、身振り手振りでコーチしてくれるのだが理解できない。
 そもそも魔力なんて存在しない世界で生きてきた俺には馴染みがなさ過ぎてイメージできない。

「あーーもうっ! 出来ねえええーーー! 分からん!」

「あっれ~……おかしいな~、私はこれで出来たんだけど……」

 ニーナは頭を掻きながら不思議そうに首をかしげている。
 なぜ出来ないのか心底理解できない、と言いたげな顔をしている。

「大体、こんな技があったら俺の能力の存在意義無くなるだろ! 何だよ、瞬間移動って!」

「イヤイヤ、そんなレベルの人は極一部だから」

「それにその技燃費悪いから使いすぎるとすぐ魔力切れ起こして動けなくなっちゃうんだよ」

 彼女は顔の前で手を左右に振り、否定のジェスチャーをしている。
 極一部でも瞬間移動できる人間がいる時点でヤバイだろ……
 俺はあまりにもこの世界についての知識が不足しているようだ。普通という基準が理解できていない。

「もっと理論的に教えてくれ! 天才の感覚には着いていけねーよ」

「そうだな~、じゃあ……スカーレットベアを倒した時のことを思い出してみて」

「多分無意識なんだろうけど、あの時のショウは身体と剣に魔力を纏わせていたように見えたから……」

「チーズ食べて能力が発動してたからそう見えただけだろ?」

「ううん、違うよ。いくら能力でショウが強くなったとはいえ、あんな剣で皮を切り裂くには無理があるもん。剣が折れたのもショウが魔力を注ぎすぎたせいだと思う。」

 確かに切れ味の無さそうなあの剣で分厚い皮を切るのは無理がある。
 ニーナの言う通り無意識にやっていたのだろうか。
 そもそもぺト爺はあの剣で俺にどうにかできると思ったのだろうか? なんとかなったから良いものの。

 あの時の感覚なら今でも鮮明に思い出せる。
 頭の中を埋め尽くす死に対する恐怖心。
 それら全てを一呼吸で吐き出し身体の芯にある熱を全身に巡らせる。
 
「それそれいい感じ! 後は意識しないでも出来るように訓練と出力を調整する訓練していけば一人前かな。やっぱりセンスあるよ!」

「ふぅーっ。でもこれ、維持するの難しいな。集中力が切れると一気に崩れちまう」

 一度実践でやってのけているからかコツを掴むと容易に出来るようになった。
 しかし、魔力を纏った状態を維持するのがどうにも上手くいかない。
 瞬間的に使う分にはこれでも問題はなさそうだが。後は練習するしかないのだろう。
 
「充分充分! それだけ出来れば、駆け出しの冒険者なんかよりよっぽど戦力になるよ」

「試しに簡単な討伐依頼でも受けてみたらいいんじゃない? 配達や掃除ばっかりやるのもきついでしょ?」

「なんだ……知ってたのか……さてはソフィーが密告してるな」

 俺は時間に空きが出来ると冒険者ギルドに顔を出していた。
 流石にグレイタール家の好意に甘え続けるのには罪悪感を覚えていた。
 衣食住全て用意してもらっているのだから、多少なりとも家に金を入れたかった。
 
 ソフィーに相談し危険の無い誰でも出来るような仕事を斡旋してもらっていた。
 ダンテ達に話せば余計な気を使わせてしまうと思った俺は、黙って仕事を請けていたのだ
 配達や掃除は肉体労働の割に報酬金額が安いので人気のない依頼だった。
 そういった仕事を空き時間にこなしては、小銭を稼ぎ、ヘレナにこっそり渡していた。

「ソフィーは口が堅いから聞いても教えてくれないわよ。私も牛乳の配送したりするのよ。その時、偶に見かけることがあったから知ってただけ」

「なんだ、知ってたんならもっとはやく言えよ……自分の食い扶持くらいは牧場に入れないと、って思ってな」

「そう……だったんだ。てっきり――」

「てっきり……どうした? やっぱり金貯めて、早く出て行けって思ってる? だよな、邪魔だよな……」

「違う違うって! そんなこと思ってないよ! 父さんもショウの事気に入ってるし、いつまでもいなよ!」

 いつまでも居ていい……嬉しい事を言ってくれるがそれなら尚のこと金銭的なことはきっちりした方がいい。
 ニーナの言うように今みたいに配達などの仕事だけでは正直実入りが少ない。
 
 チーズの試作もタダでは出来ない……牛乳は牧場からある程度は融通してもらえるが、レンネットは購入するほか無い。
 羊やヤギなどのチーズも作ってみたい。そう考えると、やはり先立つものが必要となってくる。

「それならよかった。勿論、当分は厄介になるつもりさ。ただ、先立つものは必要だよな~……そうだ! ニーナ、良ければ今度一緒にギルドで依頼受けてくれないか? 一人だとどうも……不安だからさ」

「誘ってくれるのは嬉しいんだけど……無理だよ……私除籍されてるし……」

「ニーナ…………」

 それまでとは一変し、トーンを落とし、伏し目がちに苦笑する。
 この子と居るとつい忘れてしまうが同じ冒険者を殺してるんだよな……
 気にはなっていたものの、彼女のいずれ話すという言葉を信じる他無かった。
 ソフィーにもそれとなく聞いてみた事はあったのだが、本人に聞けと一点張りだった。

「そうだ! 私は同行できないけど、代わりに友達を紹介するよ! ショウの事守ってくれるような、強くて頼りになる女の子! それなら安心でしょ?」

「えっ……いやまあ、ありがたいけど……」

「何でそんなに嫌そうなのよ。そんなに私と一緒がよかった?」

 嫌な顔にもなるさ。
 守ってくれて強くて頼りになる女の子って言われたら正直、筋骨隆々な女性らしさをどこかに置いてきたような姿しか想像できない。
 仕事とはいえどうせなら可愛らしい子とご一緒したい。そう思うのは男の性だろう。
 しかし安全の為なら背に腹は変えられない。

「ああ。ニーナが良かったが仕方ない。その友達の都合のいい日をまた教えてくれ……というか、勝手に話進めてるけど大丈夫なのか? 本人の了解も取らずに紹介なんてして……」

「大丈夫大丈夫。優しい子だし! その子、普段から魔獣駆除とかやってるエキスパートだから、少しくらいお荷物が増えてもへっちゃらよ!」

「誰がお荷物じゃい! そんな足引っ張るようなことするかよ!」

 魔獣駆除のエキスパートが同行してくれるなら安心だろう。
 碌に異世界らしいクエストを受けてこなかった俺にとっては、初の冒険者っぽい仕事だ。
 何を狙うかは追々、その友達とやらに相談すればいいか……

「足は引っ張っても良いから、仲良くしてあげて。ショウならきっと、いい友達になってくれそうだから……」

「友達なんて頼まれてなるもんじゃないだろ……気が合えば自然となってるし、合わなきゃならないだけだ」

「それもそうね……でも、流れ人のショウならこの世界の価値観とは違う価値観を持ってるでしょ?」

「うん? まあ、そうだろうな。何が言いたいんだ? イマイチ要領を得ないぞ……」

「それは合ってからのお楽しみってことで! そろそろ夕飯だし戻ろっか」

 変な含みを持たせるのはやめてくれ。どんな子が来るのか今から怖くなるから。 
 俺の気持ちなど、どこ吹く風に、颯爽とステップを踏みながら母屋へと戻ってしまった。

 気づけば日は沈み、夜の帳が下りる少し前、辺りはちょうど黄昏時だろうか。
 母屋から漂う暖かいシチューの香りが鼻腔をくすぐった。
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