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準備
しおりを挟むニーナの友人からは二つ返事が返ってきたそうだ。
3日後ならちょうど予定も無く、都合が良いので迎えに行くとの事だ。
3日なんてあっという間に過ぎ、俺はマッチングアプリで初めて会う時のようなソワソワ感に見舞われていた。
ただギルドの仕事で狩猟に行くだけだ。それだけなのに落ち着かない。
こちらの世界に来てから、あまりグレイタール家以外の人間と接点を持たなかったからかもしれない。
せいぜい、ギルドのソフィーか配達仕事で関わった人物くらいだろうか。
「何ソワソワしてんの。デート気分で仕事行く気?」
「べっ、別にそんなんじゃねーよ! ただの武者震いだ!」
「ふーん、なんでもいいけどね。あっ、着たみたいよ」
居間でくだらないおしゃべりをしていると、扉を3度ノックする音が聞こえてきた。
ニーナは、俺の気などお構いなしに扉へと向かう。
仕事や必要に迫られた上での人間関係なら男だろうが女だろうが、割り切って接することができる。
前世の悪癖だが自分に仮面を被せ、出来る自分を演じようとしてしまうのだ。
本性を全て隠し、上っ面だけを着飾ったいい人を演じてしまう……
しかしプライベートに措いてはそうもいかない。
元々人見知りなせいか、初対面の相手だと、緊張と警戒が大きくなってしまい上手くコミュニケーションが取れない。
「ジョゼ、いらっしゃい! 待ってたわ」
俺も後を追うように扉へと向かう。
そこには真っ黒なローブに身を包みフードを目深に被った人物が立っていた。
ジョゼと呼ばれた人物は身動きひとつ言葉を発することすらしない。
フードのせいで顔を窺うことができないが背丈はニーナより低く、ローブですら隠せない胸の膨らみから女性だという事が見て取れた。
「初めまして。ショウって言います。今日はよろしくね」
自己紹介と共に右手を差し出し握手を求めたが返事はない。
頷くよう微かに頭が上下しただけで、それ以上のリアクションが一切ない。
ニーナは行き場を失った右手を下げる様子をにやつきながら見ている。
「この子はジョゼット・ウィング。気軽にジョゼって呼んであげて」
「あ、ああ。分かった、そうするよ。早速で申し訳ないんだが、ギルドの方に向かいたいんだけどいいかな、ジョゼさん」
「問題ないです。あと、私相手に敬称は不要です」
消え入りそうな小さな声でジョゼはそういった。
ニーナが含みを持った事を言っていたからてっきり話す事ができない子なのかと思っていた。
非常にかわいらしい声をしているじゃないか。ボリュームはかなり小さいが。
元気よく手を振りながら送り出すニーナを背に俺たちはギルドに向かった。
非常に気まずい。何を話していいのか分からない。
知り合いの知り合いという、絶妙に距離感が測りにくい間柄。
「ジョゼはニーナと知り合って長いのか?」
「…………はい」
「今日はせっかくの休みだってのにワザワザ付き合わせてしまって申し訳ない。ニーナが無理言ったんじゃないか?」
「…………いえ、大丈夫です」
「あ~、ギルドで討伐の仕事よくしてるって聞いたけど、一人でやってるのか? 大変じゃない?」
「…………はい、平気です」
「そっか…………気になった事があれば何でも言ってくれ。俺、この世界の事全然分かってないから、変な事するかもしれないし」
「…………わかりました」
会話が続かねえぇぇぇっ~。
俺がコミュ力不足ってのを差し引いても酷過ぎるだろ。
会話のキャッチボールしてくれよジョゼさん!
嘘でもいいから、何か会話を広げてくれ。
返事だけ返されると壁当てしてる気分になってくる。
無言でいると気まずく感じるのは俺のエゴかもしれないが……
いや、手伝ってくれるだけありがたいんだ。
俺が彼女に合わせるのが筋だし、あまり無駄口叩くのは控えよう。
無口な子に無理やり話せって言うのも酷な話だ。必要最小限に留めておこう。
互いに無言のまま砂利道を進む。沈黙の中、聞こえてくるのは砂利を踏む音と、虫の鳴き声だけ。
ニーナの言っていた話を真に受けている訳ではないが俺だって友人は欲しい。
こっちに来てからというもの友人らしい友人は出来ていない。
ギルドでは何故か避けられており、遠巻きにヒソヒソと囁き合われる始末。
それでも、ギーシュみたいな輩に絡まれるよりは断然マシではある。
「あの、ショウさん…………」
沈黙を破ったのはジョゼだった。
「どうした、何かあったか?」
「…………いえ、その…………私、口下手で……気を使わせてしまって……すみません」
「ハハッ、なんだ。距離取られてた訳じゃないのか。俺も口下手の人見知りだか気にしないでくれ」
どうやらジョゼは俺と同じタイプのようだ。
ニーナの顔を立て、嫌々付き合ってくれてるのではないかとも思ったが、そうではないようだ。
そこからは、少しずつではあるものの、彼女からも話しかけてくれるようになった。
俺のいた世界の話、仕事の話、好物の話、他にも取り留めのない事ばかり。それでも大きな一歩だ。
どうやら彼女はニーナ以外友人がおらず、同年代の異性と話す機会がないらしい。
俺と対面した時の距離感は、それが理由なのだとか。
―――――――――
――――――
――……
そうこうしているうちにギルドに着いた俺達。
掲示板に張り出されている討伐クエストは数が多い。
民家に巣を作った蜂の駆除から、近隣の山脈で目撃された竜種の討伐など難易度も選び放題だ。
二人で手分けして手頃なクエストを探していると、ジョゼが俺の袖を引っ張ってきた。
「ショウくん、これなんてどうですか? ウォーグウルフの群れの討伐」
「ウォーグウルフ……狼みたいなもんか?」
「そうです。ちょっと狼より獰猛で知的ですけどね。仲間と意思疎通を取ったり、おとりを使って待ち伏せしたり。ゴブリンなんかと群れて生活して軍団を形成したりすることもあるくらいかな」
「そこまでいくと狼じゃねぇ! それにこのクエスト、10人も死んでるよ。絶対俺が足引っ張っちまう!」
ジョゼの持ってきたクエスト用紙には10個の黒い髑髏の判が押されていた。
ギルドに掲載されるクエストには、犠牲者が出ていれば髑髏の判子が押される。
黒い髑髏なら1人の死者が。赤い髑髏なら10人の死者が出ている事を表す。
つまりこのクエストでは10人が亡くなっている事になる。
「そうかな……この死者数なら小規模の群れだろうし、何とかなると思いますけど」
「できればゴブリンやスライムみたいな魔物がいいんだけど……だめかな?」
「そっちの方が難易度高いですよ。初心者殺しの筆頭ですし」
ゲームではお約束の雑魚キャラ達が?
レベル1でも難なく倒せるイメージしか持ってないぞ。
「おいおい、いくら俺がこの世界について知らないからって、それが嘘だって事ぐらい分かるぞ」
「ホントですって! ゴブリンは個体ならそこまで脅威じゃないけど、群れて生活してるの。舐めて挑んだ冒険者があっという間に殲滅されるなんて珍しくない話。スライムも対策さえ知っていれば大したことないけど、知識もないまま挑んで、生きたまま全身溶かされた人も少なくないんですよ」
嘘だろ……完全に俺の常識が通じなくなってる。
全身溶かされるとか惨すぎる。俺の知ってるカワイイスライム像とはかけ離れている。
「う~ん、じゃあこれなんてどうです? 良さそうですよ」
ジョゼはそう言うと一枚の依頼書を手に取った。
「魔猪ワイルドボアの討伐……人死にも出てないし、良さそうだな!」
魔猪がどんなものか想像はつかないが、死人が出てないならそこまでではないだろう。
ジョゼも本当に危険な物なら推薦したりしないだろうし。
そうと決まれば膳は急げだ!
俺は掲示板から依頼書を剥がし受付に持っていく。
「あら、ショウじゃない。今日は一人じゃないのね」
「ああ。ニーナ推薦の強力な助っ人さ。ソフィー、今日はこいつの討伐に行きたいんだ。手続きしてもらえるか」
「了解、無理しないようにね……おっと、そうだわ、これ渡しておくわね。スカーレットベアの買取金」
そういうとソフィーは小さな皮袋をカウンターに置きクエストの手続きに入った。
袋の中には大銀貨が5枚と銀貨が8枚入っていた。約6万円程といったところか。
「まずはそのお金で装備を揃えたらどうです? 流石にその格好で行くのはやめた方が……」
俺の格好はグレイタール家で貰った普段着にぺト爺から渡された剣を腰にさしているだけ。
確かに、狩りに行く格好ではないのは重々承知している。金がないのだから仕方なかったのだ。
「それもそうだな。武器ってどこで売ってるんだ?」
「ギルドの隣です。でも、武器じゃなくて防具にお金使った方が良いですよ。駆け出しなら怪我する確立高いですし」
「分かった。よければジョゼが選んでくれないか? どれが良いかなんて俺には判断できないし……」
ジョゼは快く了解してくれた。
ギルドと併設されていることもあり、武器屋には3分も掛からなかった。
どうやら、防具の類も隣の武器屋で扱っているようだ。
防具の良し悪しなんて分からないのでチョイスは全てジョゼに任せてしまった。
彼女は武器や防具の類が好きなようで、目を輝かせながら店内を物色していた。
「凄いですよこの鎧! 内側にミスリル合板を打ち合わせることで魔術に耐性を持たせつつ、軽量かつ耐久性を向上させています! こっちの篭手なんて間接部分に鋼の細かな鎖を編み込んで機能性と防御性能を高めています! あ、でも魔力暴露を考慮していないみたいですし、直ぐに劣化して――」
俺には一切理解できない用語を早口で捲くし立てるジョゼ。
何はともあれ、楽しそうに選んでくれているので口は挟まないでおこう。
俺の希望としては騎士が身に着けるような甲冑が欲しかったのだがジョゼに全力で止められた。
どうやら手持ちでは全身フル装備を買うのは全然足りないみたいだ。
ジョゼの勧めで最低限急所を守る為のチェストプレート、怪我をしやすい足周りと腕周りを守る為の脛当て、腕宛て、籠手に金を掛ける事にした。
盾や兜も欲しかったのだがせっかくなら動きやすさを生かした方が良いと言われ購入を断念することに。
ジョゼが的確にアドバイスしてくれたおかげもあり、準備は30分程で終わった。
日が落ちるまでに終わらせる予定なので俺達は取り急ぎ目撃情報が有った地点へと向かった。
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