12 / 13
ジョゼ
しおりを挟む受けたクエストは、ミモレ村から伸びる街道を北に10キロ程行った地点にある森が目的地だ。
その道中、配達仕事で顔なじみになった行商人と、俺達は偶然村の入り口で鉢合わせた。
世間話程度にクエスト内容を話すと、彼は快く馬車に乗せてくれた。
どうやら行商で北に向かうつもりだったらしく、途中まで護衛を引き受ける交換条件で乗せて貰えた。
護衛と言っても、すでに彼は3名護衛を雇っている。
彼なりの優しさなのだろう。護衛の名目があれば馬車に乗せても角が立たない。
目的地付近に到着すると、行商人と護衛にはお礼と道中の無事を祈り、道を分かれた。
この周辺には賊なども出没するらしく、注意喚起の看板が立っている。
「目撃地点はもう少し先ですね。この辺りは賊も出るようですし、気を引き締めていきましょうか」
そういうとジョゼは今までフードで隠していた顔を晒した。
ミディアムヘアーの銀髪がキラキラと風に靡いていた。
瞳は空のように青く、皮膚の色素はとても薄い、それでいて血色の良さを思わせる艶のある肌。
端的に表現すると、とてもかわいらしい容姿をしていた。
正直、見蕩れてしまっていた。
「ショウ君? どうかしましたか」
「いや、すまない。なんでもないんだ……少しジョゼに見蕩れていた……」
「や、止めてくださいよ……でも……ありがとう。お世辞でも嬉しいです……」
照れた様に顔を背ける。そんな仕草までかわいらしい。
そんな彼女を見ていると、ますます疑問に思う。
何故彼女は全身を隠しているのか?
照れ屋だから? 人見知りだから?
「お世辞なんかじゃないさ。折角カワイイのにどうしてそんな格好してるんだ?」
まるで容姿を隠すような全身真っ黒のローブにフード。
色素が薄いし、肌が弱いのだろうか。
この容姿なら言い寄られることも少なくないだろうし、厄介避けの意味もあるかもしれない。
色々と考えを巡らせていると、ジョゼは重そうに口を開いた。
「……軽蔑するかもしれませんが…………私……墓守なんです……」
「……うん? どこに軽蔑する要素があるんだ?」
「えっ、墓守ですよ! ……気持ち悪くないんですか? 不気味だし、気味悪いし……死人……扱ってますし……」
彼女は俺の返答が意外だったのか、目を見開きこちらを見つめた。しかし、次第に彼女の目線は地面へと向かった。
墓守って事はお墓の管理人みたいなものなのだろう。
至って普通の仕事じゃないか。
「いや全然。どんな仕事だろうと、働く人を貶したりなんてしないよ。むしろ、掛け持ちでギルドの仕事までしてるなんて立派じゃないか」
なぜ彼女が、墓守という仕事に引け目を感じているのかは分からない。
もしかするとこの世界では、墓守という職業自体が差別されているのかもしれない。
職業に貴賎なし。必死に働く人を馬鹿にするのは反吐が出る。俺には理解できない。
「そんな風に言ってくれる人は初めてです……ショウ君はニーナが言ってた通りの人ですね……」
「おいおいニーナの奴、変なこと吹き込んだりしてないだろうな」
「フフッ、大丈夫ですよ。優しくて心の広い人だって言ってただけですから」
「本当かよ!? あいつの事だから奇人変人みたく伝えてたんじゃないのか?」
ジョゼはクスクス笑いながらはぐらかす。
ニーナの奴、ジョゼに何吹き込んだんだ……
―――――――――
――――――
――……
街道から外れ、10分程歩いたが目的地の森までは少し距離が有る。
俺は暇つぶしがてらジョゼの身の上話をしてもらっていた。
「私、生まれて直ぐに孤児院に預けられたみたいなんですよ。色々あって……今は墓守をやっているジェイスおじさんのお世話になってるんですけどね。少しでも恩返し出来ればいいなって思って墓守のお仕事手伝ってるの」
「墓守やってるのはおじさんの影響だったのか。さっきは墓守だから軽蔑されるとか言ってたけど、この世界は……差別とか酷いのか? ギルドではそんな様子感じた事ないんだが……」
かなりデリケートな内容だとは思ったが、どうしても気になったので聞いてしまった。
魔族だの、亜人だの、迫害を受けたりしている種族がいると、ニーナは言っていたがギルドではそんな片鱗は見てとれなかった。
獣人もエルフもドワーフも、冒険者ギルドでは異種族でパーティーを組んだり、ドンちゃん騒ぎに興じていたりと、至って普通なのだ。
「冒険者ギルドは特別だよ。自由を愛する人たちの家みたいな場所だから……種族は違えど、同じ冒険者なら家族も同じって考えの人が多いの。私は冒険者である前に墓守だから……死穢の考えが根強いイグニアでは受け入れられないのも無理ないかな……」
「死穢……ってなんの事なんだ? 聞いたことない言葉だが……」
「死は伝染するって考えの事かな。死体には穢れが宿っていて、触れたものを汚染し、やがて死が体を蝕むと信じられているの。墓守は職業柄死体と触れ合うでしょ? ………だから墓守も穢れているって訳……」
理解できない。死が感染するだって?
だから彼女は俺と距離を空けているのか?
初めて対面した時の握手を無視したのも、ギルドで袖を掴んできたのもそのせいなのか………
馬鹿馬鹿しい。感染症が流行してる訳じゃあるまいし、死者に触れただけで死んでたまるか。
どうやら公衆衛生の考えはこちらには持ち込まれていないようだ。
「馬鹿げてる! 死なんて概念的な物がうつったりする訳ないだろ。死には絶対原因があるんだ。仮に使者に触れて死んだなら、何かしらの感染症に罹った可能性が高い。ジョゼは穢れてなんかないのは俺が保証する」
「ホント変わってるね……ニーナの言ってた通り……でも、ありがと。ニーナ以外にそんな事言ってくれた人始めて……」
ニーナが含みを持たせていたのはきっとこの事だったのだろう。
この世界の価値観や考え方に囚われない俺だからこそ、彼女を紹介し、友人になって欲しいと頼んだ。
まるで病原菌のような扱い。俺には彼女の受けた苦悩や痛みは推し量れないだろう。
だが、俺にだって彼女を理解できる部分はある。友人のいない辛さだけなら痛いほど分かる……
「……ジョゼ、ニーナとは友達なんだよな? だったら俺とも友達になってくれ!」
「へ? ちょ、ちょっと急にどうしたの? 気持ちは嬉しいけど……ショウ君にも迷惑かけちゃう……私なんかと一緒にいたら、貴方まで変な目で見られてしまう……それだけは嫌なの……」
「もしかして……それを気にして全身隠していたのか!?」
彼女は小さく頷いた。
そんな事にまで気にかけさせてしまっていた。
俺に奇異の目が及ばないように、自分が何者か知られないように。
わざわざ気を遣い、俺の我侭に付き合ってくれている。
そんな彼女の思いにだけは答えたい。答えないといけない。
「だったら尚の事、引き下がれないな。ジョゼには俺と友人になってもらう。改めてよろしくな」
俺は改めて手を差し出した。
初対面の際は無視された握手。
ジョゼは穢れてなんていない、握手を通してそう伝える為にも俺は握手を求めた。
「あっ、…………こちらこそ改めてよろしくね!」
少し戸惑いながらも、彼女はおずおずと手を出す。
汲み取ってくれたかは分からない。
しかし彼女は満面の笑みで、細く小さな手で、握手を返した。
0
あなたにおすすめの小説
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる