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第0章
0-1 転生案内人
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「今日もお前が最下位だぞ!」
案内所に怒号が飛ぶ。同僚たちは慣れたもので誰一人としてこちらを見ることはない。
「とにかく今日中にせめてあと十人は転生させとけよ! それでも他のやつらの十分の一にも届かねえんだからな!」
上司の怒鳴り声を背にして僕は自分の席へと戻り、隣の席とは比べ物にならないほど詰みあがった書類の山を崩さないように注意しながら次の転生者のプロフィールが書かれた書類を探す。ようやく見つけ出した書類に目を通していると、急に後ろから強く椅子の背を蹴られ机にぶつかる。その衝撃で書類の山が大きな音を立てて崩れ落ちた。
僕の名前は三途川渉(サンズガワ ワタル)。転生案内人をしている。
死者の中でも生前の行いを我らが女神様に認められた一部の人間は、神の力を授かり転生者として新しい人生を送ることを許される。その時に転生者と面談を行い、与える能力や行き先を決めるのが僕たち転生案内人だ。
その僕がどうして毎日毎日怒られているかというと、単純に仕事が滅法遅いのだ。同僚が十人百人と転生者を送り出している間に、僕はようやく一人それができるかどうか、そんなレベル。つまり僕の仕事量は他の人の十分の一から百分の一ってことで、そりゃ怒鳴られもするしこうして嫌がらせを受けても仕方ないと思う。
「一人勇者を送り出せば、一つ世界が救われる」
これは職場に掛かっている標語の一つだ。全くもっておっしゃる通りだし、仕事が遅いということはそれだけで今滅亡の危機に瀕している世界を見捨てることになってしまう。
「ハア……」
僕はため息をつきながら転生部屋へと向かう。わかってはいるがどうしても僕には他の同僚のように早く転生者を送ることができない。人の命がかかっているというのに、それでもできないのだ。
転生部屋の扉を開き中へと進む。そこには小さなテーブルをはさんで四つのソファが置いてあり、僕はそのうちの一つに座り、テーブルに転生予定者の書類を広げた。
「ハア……」
僕はまたため息を一つつき、もう何度も目を通した書類に再度目を通していく。ほどなくして転生者用の入り口から男が一人現れた。
「ようこそ。こちらへどうぞ」
僕は彼をソファへと案内し座らせる。
「お名前は?」
「はい! 星翌 剛です!」
「せいよく つよしさんですね。ハイ、大丈夫です。あなたは女神様に生前の行いを認められ、人格や記憶を保ったまま転生することを許されました。さらにその行いの褒美として特別に神の力を与えられることになります」
「はい! ありがとうございます!」
「それでは何かご希望はございますか?可能な範囲でなんでもかなえて差し上げます」
「はい! ありとあらゆる女性を好き勝手自由にできるような能力が欲しいです!」
この部屋では転生をスムーズに行うための魔法が発動しており、転生予定者は自分の欲を隠したり誤魔化したりできないようになっている。彼らはただ素直に自分が一番やりたいことや欲しい能力をそのまま喋る。
(ハア……)
目の前の男に聞こえないよう心の中でまたため息をつく。僕がこの仕事をテキパキとこなせないのはまさにこれが原因だった。
(まともな転生者がいないんだよなあ・・・)
改めて目の前の男をじっと見る。彼は曇りのない真っすぐな目で女性を自分の欲望を満たすために好き勝手したいと言っているのだ。
「うーん、女性を好き勝手ですか。そういった能力も可能ですが、例えば『女性に好かれるための努力を惜しまずできる』能力なんてのはいかがですか?こちらの方が達成感もありますし女性の気持ちを尊重……」
「どうしてそんな面倒な事をしないといけないのですか!」
つよし君は大きな声を出して怒り出す。ここでは欲を誤魔化せないのと同じように、感情も隠したりすることはできない。僕の提案が心底気に入らなかったのだろう。彼の顔は真っ赤に膨れている。
「僕は生前女に全くもてませんでした! それもこれも世の女どもが馬鹿で僕の中身のよさを理解できなかったからです! そんな女にどうして僕が何か努力をしたりする必要があるんですか! さっさと僕の言った通りの能力を渡して色んな美人ばかりいる世界に転生させてください!」
彼の本心がここぞとばかりに並べ立てられる。もう慣れた事とはいえ本当に気が滅入る。一体このクズの何が認められて転生を許可されたのかさっぱりわからない。
「とはいってもですね。やはり相手の気持ちを無視して好き勝手するというのは洗脳と同じで倫理や道徳上ひどく問題があるもので……」
「うるさいうるさいうるさーい! お前じゃ話にならん! 責任者を呼べ!」
そして結局こうなるのもいつもの通りだった。僕がテレパシーで上司に連絡を取ると向こうからの大きなため息と馬鹿にしたような声が頭の中に何度も響き渡った。
上司はすぐにやってきた。今にも揉み手を行いそうなほど平身低頭にニコニコ笑いながら男の狂った欲望をハイハイと認めている。結局彼は女性を自由に洗脳する能力に加え、僕が不愉快な思いをさせたという理由で何かすごい武技みたいなものをもらっていた。
上司と転生者は笑って握手を交わし、転生者は大きな赤い扉を開ける。あの扉は『導きの門』と呼ばれ、開けた者が望んだ世界に自動的につながるようになっている。きっと彼は美人ばかりの素晴らしい世界に転生できることだろう。
男を見送った後は気まずい沈黙が流れる。たくさんの怒号を覚悟していたが、上司は時間の無駄だとでも思ったのだろう、何も言わずさっさと部屋を出ていった。
「ハア…………」
また大きなため息をつく。今日だけでもう何度目だろう。僕は間違って上司にまた出会ったりしないよう十分な時間を空けて転生部屋を出る。まだまだ仕事は残っているし、転生予定者は行列を成して自分の順番を待っている。
「ここは地獄だ」
僕は自分の席に戻り、崩れた大量の書類の中からまた次の転生予定者の分を探すのであった。
案内所に怒号が飛ぶ。同僚たちは慣れたもので誰一人としてこちらを見ることはない。
「とにかく今日中にせめてあと十人は転生させとけよ! それでも他のやつらの十分の一にも届かねえんだからな!」
上司の怒鳴り声を背にして僕は自分の席へと戻り、隣の席とは比べ物にならないほど詰みあがった書類の山を崩さないように注意しながら次の転生者のプロフィールが書かれた書類を探す。ようやく見つけ出した書類に目を通していると、急に後ろから強く椅子の背を蹴られ机にぶつかる。その衝撃で書類の山が大きな音を立てて崩れ落ちた。
僕の名前は三途川渉(サンズガワ ワタル)。転生案内人をしている。
死者の中でも生前の行いを我らが女神様に認められた一部の人間は、神の力を授かり転生者として新しい人生を送ることを許される。その時に転生者と面談を行い、与える能力や行き先を決めるのが僕たち転生案内人だ。
その僕がどうして毎日毎日怒られているかというと、単純に仕事が滅法遅いのだ。同僚が十人百人と転生者を送り出している間に、僕はようやく一人それができるかどうか、そんなレベル。つまり僕の仕事量は他の人の十分の一から百分の一ってことで、そりゃ怒鳴られもするしこうして嫌がらせを受けても仕方ないと思う。
「一人勇者を送り出せば、一つ世界が救われる」
これは職場に掛かっている標語の一つだ。全くもっておっしゃる通りだし、仕事が遅いということはそれだけで今滅亡の危機に瀕している世界を見捨てることになってしまう。
「ハア……」
僕はため息をつきながら転生部屋へと向かう。わかってはいるがどうしても僕には他の同僚のように早く転生者を送ることができない。人の命がかかっているというのに、それでもできないのだ。
転生部屋の扉を開き中へと進む。そこには小さなテーブルをはさんで四つのソファが置いてあり、僕はそのうちの一つに座り、テーブルに転生予定者の書類を広げた。
「ハア……」
僕はまたため息を一つつき、もう何度も目を通した書類に再度目を通していく。ほどなくして転生者用の入り口から男が一人現れた。
「ようこそ。こちらへどうぞ」
僕は彼をソファへと案内し座らせる。
「お名前は?」
「はい! 星翌 剛です!」
「せいよく つよしさんですね。ハイ、大丈夫です。あなたは女神様に生前の行いを認められ、人格や記憶を保ったまま転生することを許されました。さらにその行いの褒美として特別に神の力を与えられることになります」
「はい! ありがとうございます!」
「それでは何かご希望はございますか?可能な範囲でなんでもかなえて差し上げます」
「はい! ありとあらゆる女性を好き勝手自由にできるような能力が欲しいです!」
この部屋では転生をスムーズに行うための魔法が発動しており、転生予定者は自分の欲を隠したり誤魔化したりできないようになっている。彼らはただ素直に自分が一番やりたいことや欲しい能力をそのまま喋る。
(ハア……)
目の前の男に聞こえないよう心の中でまたため息をつく。僕がこの仕事をテキパキとこなせないのはまさにこれが原因だった。
(まともな転生者がいないんだよなあ・・・)
改めて目の前の男をじっと見る。彼は曇りのない真っすぐな目で女性を自分の欲望を満たすために好き勝手したいと言っているのだ。
「うーん、女性を好き勝手ですか。そういった能力も可能ですが、例えば『女性に好かれるための努力を惜しまずできる』能力なんてのはいかがですか?こちらの方が達成感もありますし女性の気持ちを尊重……」
「どうしてそんな面倒な事をしないといけないのですか!」
つよし君は大きな声を出して怒り出す。ここでは欲を誤魔化せないのと同じように、感情も隠したりすることはできない。僕の提案が心底気に入らなかったのだろう。彼の顔は真っ赤に膨れている。
「僕は生前女に全くもてませんでした! それもこれも世の女どもが馬鹿で僕の中身のよさを理解できなかったからです! そんな女にどうして僕が何か努力をしたりする必要があるんですか! さっさと僕の言った通りの能力を渡して色んな美人ばかりいる世界に転生させてください!」
彼の本心がここぞとばかりに並べ立てられる。もう慣れた事とはいえ本当に気が滅入る。一体このクズの何が認められて転生を許可されたのかさっぱりわからない。
「とはいってもですね。やはり相手の気持ちを無視して好き勝手するというのは洗脳と同じで倫理や道徳上ひどく問題があるもので……」
「うるさいうるさいうるさーい! お前じゃ話にならん! 責任者を呼べ!」
そして結局こうなるのもいつもの通りだった。僕がテレパシーで上司に連絡を取ると向こうからの大きなため息と馬鹿にしたような声が頭の中に何度も響き渡った。
上司はすぐにやってきた。今にも揉み手を行いそうなほど平身低頭にニコニコ笑いながら男の狂った欲望をハイハイと認めている。結局彼は女性を自由に洗脳する能力に加え、僕が不愉快な思いをさせたという理由で何かすごい武技みたいなものをもらっていた。
上司と転生者は笑って握手を交わし、転生者は大きな赤い扉を開ける。あの扉は『導きの門』と呼ばれ、開けた者が望んだ世界に自動的につながるようになっている。きっと彼は美人ばかりの素晴らしい世界に転生できることだろう。
男を見送った後は気まずい沈黙が流れる。たくさんの怒号を覚悟していたが、上司は時間の無駄だとでも思ったのだろう、何も言わずさっさと部屋を出ていった。
「ハア…………」
また大きなため息をつく。今日だけでもう何度目だろう。僕は間違って上司にまた出会ったりしないよう十分な時間を空けて転生部屋を出る。まだまだ仕事は残っているし、転生予定者は行列を成して自分の順番を待っている。
「ここは地獄だ」
僕は自分の席に戻り、崩れた大量の書類の中からまた次の転生予定者の分を探すのであった。
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