テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第0章

0-18 テンセイミナゴロシ

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 ダウターから次々と語られる話は、僕の今までを全て破壊するようなひどい内容のものばかりだった。僕の精神はことごとくが疲労困憊している。
 僕が今までやってきた転生は、無駄どころか悪行でしかなかったのかもしれない。心はなんとかそれを否定しようとするが、頭の方は彼の言葉をどこか冷静に理解していた。
 一人転生者を送る、導きの門は地球をコピーし、転生者が好むように味付けをしていく。転生世界では転生者が活躍するために、断罪すべき悪人や哀れな被害者が増えていく。その被害者は『善人だが不幸な理由で命を落とした』と、送られてくる。そして被害者だった彼らは転生者として加害者に変わっていき、また被害者が転生者として生まれかわる……
 笑ってしまうくらいにひどいシステムだ。一人の転生者が生み出す被害者は一体どれぐらいになるのだろうか? 百人だとしたら、その百人の新たな転生者が作り出す被害者は一万人だ。次は百万人、そして一億人……ねずみ講どころの話じゃない。数世代で兆を超える被害者が出る計算だ。
 この無限に等しいループの中で、彼らは裏切者と非難をあびながら転生者を殺して回っている。それはまるで海の水を紙コップですくっているようなもので、きっとはたから見れば愚かにすら感じるかもしれない。

 それでも、それでもだ……

「ダウター……、いや『doubter疑う者』、僕からもいくつか質問をしていいですか」
 彼はさっきまでの真剣な顔を一気に緩め、目を細くしてニコニコ笑った。
「さすがにわかるわな。ええで、答えたるかどうかはわからんけどな」
「何故女神様はこんな人間を苦しめるような転生をお創りに?」
「秘密や。まだ教えられん」
「転生者は星の数ほどいる。あなた達がどれほど強くても、一人殺す間に百人は生まれるだろう。どうするつもりですか?」
「計画はある。それこそテンセイを丸ごとミナゴロシにしてくれるようなやつがな。もちろんそん時には俺もお前もみんな死ぬ。でもその方がええやろ?」
 彼はニヤっと笑った。僕も同じくだ。
「どうして僕なんですか?」
「別にお前だけやない。俺らを助けてくれるやつはそれなりにおるんや。メイカーもその一人やし、お前がめちゃくちゃ特別ってわけじゃない」
「それを聞いて安心しました。僕なんかが特別に必要なグループの先なんか見えてますから」
「言うやんけ」
 笑い声が響く。
(なんだか久しぶりにちゃんと笑った気がするな)
「それじゃ……、この話どこからどこまでが本当なんですか?」
 ピースメイカーが小声で『やるじゃん』と呟く声が聞こえた。
「ええなあ! ええでサンズガワ君! ただのイジケ根暗クソザコ会社の不満休日転生世界で力奮い神騙りストレス発散精神維持陰気野郎じゃなかったんやな!」
「ウグッ……」
 ダウターは手を叩きながら大はしゃぎで喜んでいる。しかしなんて嫌なところを突いてくる人だ。
「ハハハ! 堪忍やで! 俺は好きな奴ほどボケとツッコミが厳しくなるタイプでな。そんでまあ質問の答えやけど、俺は確かに『疑う者』やから口上でペテンにかけたり煙に巻くのがうまい、けどな……」
 彼は再び真剣な顔をして目を開く。
「仲間に嘘はつかん」
 僕はその言葉に大きく頷いた。
「いや、お前普通に嘘つくだろ」
「チャチャいれんなや! そういうこっちゃないやろ! まじで! どいつもこいつも!」
 いつもの茶番もなんだかほほえましく思える。

 しばらく彼らのやり取りが続いたが、そろそろ最後の質問、僕からのしっぺ返しの時間だ。
「僕ここまでいいようにやられっぱなしで結構ストレス溜まってるんですよね。お相手してもらえませんか?」
 その言葉を聞いてダウターは思わず噴き出した。まあ無理もない、今のところ二戦二敗で完封負けしてるんだから。
「ええでええで! 俺はそういう熱いのも嫌いやないねん。でも予言したるけど今の俺には勝てんよ。あとさすがに前見たんと同じもん出したら、さっそく君の評価を三段階は下げなあかんけどなあ」
「その心配は不要ですよ」
 僕は身体を変化させていく。初めはニヤニヤと僕の身体が変わっていくところを見守っていたダウターの笑みが、少しずつ苦笑いに変わっていく。
「な……なかなかやるやんけ」
 巨大な体躯、巨大な爪、巨大な牙とアゴ、巨大な尻尾。長い間地球を支配していたまさに最強の動物、そう、今や僕はティラノサウルスとなり、小さな天聖者を見下ろしている。
「人間の天聖者と生物最強の天聖者。どっちが強いか力試しと行きましょう」
 それでもダウターはその余裕を崩さず、構えを取ることもしなかった。それほどまでに彼と僕には開きがあるのだろうか、それならそれで諦めもつくものだが。
「それじゃいきますよ」
「いやいや待ちい!」
 姿勢を低くし、突撃体制を取ったところでダウターから待ったがかかった。
「なんですか? まさかもう白旗?」
「アホ! そんなわけあるかい! いいか、サンズガワ君。ティラノサウルスは君の想像してるようなそんなごっついパワフルな恐竜じゃなかったって研究があるんや。だからその姿は誤りでほんまはもっと情けないもんらしいぞ」
 彼の言葉に僕は大きく笑う。
「これが『僕の』ティラノサウルスですよ。いいでしょ? そのほうが転生者らしくて」
 ダウターは小さく舌打ちすると肩をすくめた。
「オーケイオーケイ、でも恐竜なんてのは寒いだけで滅亡したって言われてるクソザコ種族や。俺より強いとはおもえんなあ」
 急激に全身が寒くなる。身体はブルブルと震えだし、うまく動かすことができない。
「ほな終わりやな」
 彼の勝利宣言に僕はたまらず人間の姿に戻る。そしてまた姿をどんどんと変えていく。
「なんやこりんやっちゃのお。諦めが悪いんと実力差がわからんのは別もんやで……ってまじかあああああ!!??」
 どんどんと大きくなっていく僕の姿に余裕をぶっこいていた彼の目が開いた。
「お前! それは動物ちゃうやろが!」
 巨大な身体、炎や氷のブレスを吐く口から覗く鋭い牙、天変地異を自由に操る二本の角に右手の三本の爪で握る強大な魔力の込められた宝玉、全身を覆う鱗はどのような刃物や魔法も容易く弾き、そして触れれば絶死の逆鱗。
「辞書で読んだことありますよ。龍はだって」
 僕は威嚇するように空に向かって炎のブレスを吐き、その属性を氷や雷へと変えていく。
「さあ、人間の天聖者と想像上最強の天聖者、どちらが強いですかね?」
 ダウターを正面から見つめる。彼は諦めたように両手を上げ、僕に拍手を送り始めた。
(ようやく一矢報いてやった……)
 大きな満足感に包まれる。しかし彼は発したのは降参には程遠い言葉だった。
「ほんまそこまでヤれるとは思わんかったわ。君もなかなかどうして役者やねえ。そやけど残念ながら君は勝てん。でも努力賞はあげちゃう!」
 僕の逆鱗がピクピクと揺れる。どこまでも馬鹿にして!
「なら試してみてくださいよ!」
 長く伸びる身体を空中で蛇のように丸め。ダウターを狙ってブレスを吐……けない!? ブレスが出ない! さっきまでは出ていたのに!
 体勢を変えて今度は長い身体を鞭のようにしならせてぶつけようとする。しかしこれもできない、いざダウターに攻撃を与えようとすると、身体が急にピクリとも動かなくなるのだ。
「いや実はわかっててワザとやってない?」
 今まで観戦者でしかなかったピースメイカーが呆れたように声を出す。あ……しまった……
「いや俺もなんか冗談でやってるだけかと思ったんやけど結構マジで来よるからさあ」
「完全に無視されてた、ってか眼中になかったって感じ?」
 僕はスゴスゴと身体を人間の物へと戻した。ノリノリで色々と言っていた自分が急に恥ずかしくなる。
「俺の名前はピースメイカー! その名の通り『平和を作る者』さ!」
 ヒーローの決めポーズのように大げさな身振り手振りで自己紹介をする彼。能力は、まあ恐らく名前の通りだろう。
「最初にゆうとったやろ、今の俺には勝てんって。ピースメイカーのおる場所で争いごとはおきん。勝ちも負けもなしや」
 完全に手のひらの上だったようだ。清々しささえある。
「能力者バトルなんてもんはな、チートやらわけのわからん能力のオンパレードでまともにやりあってる時点でアホのやることなんや。蘇生とかやり直しができるならそういうのもありかもしれんけどな、マジのバトルでこんなポカやっとったら即死んでまうぞ」
 至極まっとうなアドバイスを頂戴し恥ずかしさの上塗りをされる。

「最後の質問も終わったことやし、改めて確認する必要もないかもしれんけど一応はっきりさせとくか」
 ダウターはまた真面目な顔を作り僕の顔をしっかりと見据える。
「サンズガワ、君には今三つの選択肢がある」
 僕の心はもう決まっている。犯した罪に向き合い、少しずつでも、意味がないように見えたとしても、それでも海の水を少しずつ掻き出していかなくてはいけないのだ。
「まず一つ目、俺の言うことは全部嘘だと考えて天聖世界に戻り、ここに来る前と同じように転生者を自動で造り続ける。始めの頃、転生者のためを思って一生懸命面談をしていた過去の自分と俺たちアンタッチャブルに『ざまあみろ』と言いながら、高い給与とうまい飯、いい女に囲まれた質の高い生活に戻る」
「二つ目、俺たちの言葉は信じるが、命の危険や女神様始め天聖軍を敵に回すよりはさっさと天聖世界に戻り、逆にピースメイカーがアンタッチャブルと繋がっている事実や俺たちの情報を天聖軍に流す。アンタッチャブルの情報はどんな些細な物にも莫大な報酬が支払われてるらしいから、出世なんかもきっと思いのままだろう。案内人の仕事をやめ、転生者を造り出す罪悪感から解き放たれ、誰もが羨む肩書やステータスを手に入れ、元の会社の上司や同僚に『ざまあみろ』と言ってやる」
「そして三つ目。俺たちの仲間になる。これは正直お勧めできない。何しろ無敵軍や不死身軍といったチートのスーパーエリートたちと戦うことになるし、そうでなくても毎日が転生者殺しの連続だ。当然休みなんてものはありえないし、激務をこなしたとしても誰にも褒められることはない。死ぬまで殺して、殺して、殺しつくして、それでもなんとか最後まで生き残れた時にだけ、テンセイをミナゴロシて崩壊する天聖世界と心中しながら『ざまあみろ』と空に呟ける権利が手に入る」

「三つ目で」

 即答する。きっと僕は彼らみたいな、アンタッチャブルと呼ばれるような強い能力者にはなれないかもしれない。彼らが最後に戦うその場所まで、生き延びる事ができないかもしれない。それでも出来る事がある間は出来る事をしよう。助けられる命があるのなら助けよう。悲劇が減るのなら喜んで転生者を殺そう。
 転生者は被害者で、加害者で、ただ人助けが好きだったり、生きてる間にできなかったことをやりたかっただけの普通の人だ。転生なんてものがなければ、彼らは不遇だったかもしれないけど、彼らの人生の中で精一杯生きて死んだ一人の人間だったんだ。
 それを僕たちは変えてしまった。この人たちは変えてしまった。天聖者みんなで変えてしまった。だから死のう。喜んで死のう。殺して殺して殺して殺して、そして死のう。どんな最期を迎えたとしても、この地獄の様なサイクルに最後まで抗ったものとして、胸を張って死んでやろう。『ざまあみろ』と死んでやろう。
 
 僕は階段を登り、中央にある黒い革張りの立派な椅子に手をかける。
「おい、そこはリーダーの席だ」
「まあまあ、今日ぐらいはええやろ。新しい仲間に乾杯や」
 並んだ椅子の後ろに鎮座していた大きな導きの門の扉が開く。中から出てきたのはモニターで人々を助けていた赤髪の鬼と黒尽くめの女の子。
「そこ座っちゃうんだー。じゃあもう死ぬまで逃げられないからねー」
「なんだい! いい顔した男がいるじゃないか! これからよろしくな!」
「あら、新人さん? よろしくね」
 次々に投げかけられる言葉を聞きながら僕は椅子に深く、深く腰掛ける。


「テンセイはミナゴロシだ」






 


 
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