テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

文字の大きさ
25 / 107
第一章

1-6 沈まずのマモリ③

しおりを挟む
 数日後、王国より癒しの雫受け取りのための騎士団が派遣されました。その先頭には大樹で助けたあの騎士団長がいらっしゃいました。
 彼は馬を降り改めて私に深々と礼をし、後ろに並ぶ騎士団員に『彼が王国の命の恩人である』と大声で伝えると、団員達も一糸乱れぬ敬礼を行いました。私は命の恩人は私ではなく隣の友であると言いました。彼が全てを売り払って用意してくれた物があの薬であることを伝えると、騎士団長と団員達は再度友に向かって敬礼をしてくれました。
 騎士団長は私と友に王国まで同行してほしいと言いました。何しろ今回の功績はあまりにも大きなものであったので、報酬を国王が直々に手渡してくださるというのです。村は再度沸きに沸きました。
 私は皆に王国で買ってきてほしいものを聞いて回りました。何しろ金属を使ったような農具や工具は非常に高価で、修理を頼むにしても稀に村を訪れる鍛冶屋に頼むような有様であったので、この機会にまとめて買っておきたかったのです。他にも村では中々手に入らないような苗や食べ物など、購入リストは膨れに膨れました。紙や筆記具も同じく高級品であったので、私と友で必死で覚えたものです。

 王国に着くと私たちは英雄のような扱いを受けました。小瓶一本だけでもその価値が計り知れないほど貴重な癒しの雫を、大きな壺一杯に運んできたのですからそれも当然かもしれません。王が私達にお会いくださるまでの数日間は城下の街を見て回り、暇を見つけては騎士団長が顔を店に来ては楽しくたくさんの話をしました。
 ついに王に会う日になりました。失礼がないように服屋で上等な一式を揃え、私たちが謁見の間で臣下の礼を取っていると、ほどなくして柔和そうでありながら引き締まった体つきの男性が現れました。大臣かそれとも御付きの方かと考えていると、脇に構えていた騎士団長が王のお越しを高らかに告げました。
 私は驚きました。友も王の顔自体は知らなかったようで、目の前の男性が王であることにひどく驚いた様子をしています。なぜなら彼の身に付けている服は非常に質素なもので、私の想像する『王族の装い』とかけ離れていたからです。
 彼はそんな私たちに優しく微笑み、深々と頭を下げて感謝の言葉を述べました。
 そして、この国は小国で現在他の国からの宣戦で滅亡の危機にあること、華美な宝飾などは戦争の準備や私達への報酬の為手放したこと、これからの戦で国民には辛い思いをさせることを申し訳なく思っているなどの事を話しました。
 私の勝手な想像から遥か遠くかけ離れた王の慈愛ある言葉に、たまたまこの世界に転がり込んできただけである転生者の私ですら胸に熱いものがこみ上げたぐらいでしたので、生まれたころからこの国の国民であった彼は隣で大粒の涙をボロボロと零していました。騎士団長も目と鼻を真っ赤にしながらなんとか泣くのを堪えているようでした。王は暗い話になってしまったことを謝り、たくさんの立派な箱に詰められた金貨を下賜くださいました。
 しかし先ほどの話を聞いてこれを受け取れる者がいるでしょうか。私たちは村の皆の生活必需品を買えるだけの金貨だけを受け取り、残りは戦の準備に使ってほしいと告げました。
 王は私たちの返事に大変驚いたようでしたが、ただの冒険者の我々に深々と頭を下げました。

 購入リストに書かれた分とはかけ離れた量の戦利品を村に持ち帰りましたが、その理由を聞いて怒る人は誰もいませんでした。それどころか彼らもまた皆涙を流し、王国の為に戦うことを強く決意したのです。
 私も王国や友やこの村人たちのために何かできることはないかと考えました。そしてギルドの受付嬢に全てのクエストを見せてほしいと頼みました。
 子の一件で名実ともに一流の冒険者となった私に、彼女は大量のクエストが書かれた紙を持ってきてくれました。私はその中のひときわ目立つ上等な紙に書かれた最大難易度のクエストに狙いを定めて目を通していきました。お目当てのクエストはほどなくして見つかりました

『世界の至宝を集めし古代龍一族との対話』

 王国にはどうやら領土の中の険しい山脈に古代龍が存在しており、それらはは気まぐれに人々を殺したり、王国に魔法の武具やアイテムの献上を要求しているようでした。これが王国が弱小国である主な原因だったのです。
 私は友に再度別れを告げました。彼は今度は黙って強くうなずき、私を見送ってくれました。
 龍の巣までは簡単でした。古代龍は自分たちの力を誇示するかのように大きな城を建てており、人間からの貢物を受け取るために道まで引いていたのです。場所こそは高い山と深い谷が連なる危険な場所でしたが、たどり着くのにさほどの時間はかかりませんでした。
 私は正面から城に入っていきましたが門番や警備のような者は全く見当たりませんでした。それも当然かもしれません、例え人間が侵入して暴れたとして龍族である彼らになんの脅威があるでしょうか、息を吐くだけで侵入者は焼け死ぬでしょう。
 私は真っすぐに城の中を進んでいきました。途中数匹の巨大な龍と出会いましたが、彼らは侵入者であるはずの私を完全に無視し、まるでいない者のように扱いました。
 城はかなり巨大なものでしたが、真っすぐに進むだけでほどなくして王の間と思われる場所に着きました。そこには全身を金色の鱗に覆われた、先ほどすれちがったどの龍よりもはるかに大きな龍が寝ていました。
 彼の後ろにはまさに山のような金銀財宝と、いくつかの卵が見えました。私は探す手間が省けたことに感謝しながら、玉座でいまだに寝たままの黄金龍の目の前に立ちました。
 私が彼の鼻先に触れることができるほどの距離に来た時、彼は片目を開けると口から灼熱のブレスを吐き出しました。
 馬鹿な侵入者が焼け死んだことに満足したのか彼が目を閉じようとしたとき、私は彼の鼻をペシンと叩いてやりました。
 一体何が起きたのかがわからなかったのでしょう、一瞬の間がありましたがすぐに彼は全身の鱗を逆立てて立ち上がり、巨大な怒りの咆哮を一つ放ちました。
 ただの人間であれば聞いただけで命を落としてしまいそうな咆哮をものともせず、私は龍に話しかけました。これからはこの国に迷惑をかけるな、そうすればお前たちが生きていくことを許してやる、と。
 龍は私にあらん限りの攻撃を行いました。しかしその全てが私にとって無意味でした。私はゆっくりと彼の後ろの卵に近づきました。彼はブレスや魔法を放つのをやめ、なんとか私を卵から引き離そうとします。しかし私を無理やりに押したり引いたりすれば、それは立派な攻撃です。そして私はそういった全ての行為から守られているのです。自分の背丈の何倍もある巨大な卵に寄りかかりながら彼にもう一度問いました。無事に種を繋いでいくか、ここで滅びるか。
 もちろん私にはこの卵を割ってやるぐらいが精いっぱいで、金に輝く古代龍を倒す方法などはありませんでしたが、彼がそれに気づくことはありませんでした。何しろ自分の攻撃が何一つ通じない相手です、攻撃がからっきしだと考えるような者はいないでしょう。
 龍も動物の一種なのでしょうか、彼は力関係に非常に素直であるようでした。隷属の証でしょう、頭を低く下げて私にこすりつけてきたのでそれを軽く撫でてやりました。

 たった一匹でも国が亡ぶほどの力を持った古代龍が隊列を組んで王国に飛んできた時、王と騎士団長以下全ての人が人間の滅亡を予想したそうです。しかし龍達は人間のあらん限りの迎撃に対して一切反撃することなく、王城の上空をグルグルと旋回し、先頭の巨大な金に輝く一匹だけが城下の広場へと降りました。その背に私がいた時の感情はいかばかりのものだったのでしょうか、避難していた全ての人間も呼び戻され、また大きな宴が開かれました。

 私たちは龍の城に築かれていた財宝の中から古の武具を取り出して装備し、龍の背に乗って世界全ての国を陥としていきました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...