テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第二章

2-14 旅立ち

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  私はティーチャーのいる学院長室に向かう。どうもすでに話は通っているようで、そこには歓迎の準備が整えられていた。
「F組はどうじゃったかな?」
 入室した瞬間ティーチャーが問うてくる。その意味は理解できていた。
「しっかりサンドバッグになってきましたよ」
 
「全部仕込みだったんですね?」
 お互いテーブルを挟むようにして座り、射抜くような視線をティーチャーに送りながら問う。彼は悪びれもせずニヤリと笑った。
「仕込みと言うと語弊があるのう。我が学院選りすぐりの強能力者三名が在籍するFortitude不屈組、通称F組にお主を入れて、Evil邪悪組、こちらはE組じゃな。に完膚なきまでに殴らせる。どちらもそれぞれのクラスの為に必要な授業をしていただけじゃよ」
 お茶をすすりながらフォフォフォと笑う老人。
「私も騙されてましたよ。SS組のせいでね」
「ああ、あいつらはのぉ……」
 ティーチャーが苦笑しながらお茶を飲む。
「愚か者はすぐに活躍の場を求める。しかし我々天聖者に必要なのはそんなものではない。不条理や理不尽に耐えながら、時には辛い選択を決断しながら世界と人々を助ける存在、それが天聖者じゃ。魔物を何体屠ろうが、刀を一瞬で何回振るうことができようが、そんなことはどうでもよい」
「一応命を助けられましたけどね」
「あ奴の代わりにワシがカッコよくやる予定だったんじゃがのう」
 老人はまた笑う。
「大きすぎる力は、弱き心を容易く飲み込んでしまう。私利私欲に塗れた転生者が世界で一体何をしてきたか、ワシは嫌というほど見続けてきた。ま、お主には必要なかったかもしれんがな」
「ご配慮痛み入ります」
「よいよい。ワシは『教え導く者』、人の成長が何よりも楽しみなタダの老人じゃよ」
 そうやってしばらくの間、二人で静かにお茶を楽しんだ。あの大人数でのリンチのような模擬戦も、生徒たちの自律心を育てるものだったらしい。一方的に大勢で相手を殴ることほど気持ちのいい事はないが、それに酔ってしまっては天聖者失格だ。圧倒的有利にありながらも自分を見失わず、冷静に状況を把握することも大切である。
「我々の勝利とは戦いに勝つことではない。人を、世界を幸せに変えていくことじゃ。これをゆめゆめ忘れるでないぞ」
 ティーチャーの言葉に深く頷いた。

「さて、そろそろ時間じゃのう。ここに来た時と同じように、正面から出て行くとよい。あとは女神様がお導きになるじゃろう」
 名残惜しいが女神様をお待たせするわけにはいかない。ティーチャーにこれまでの礼を十分に述べ、握手を交わし、そして学院長室から離れる。そのままゆっくりと校舎を眺めながら入口まで到着歩いた。
(ここで殺されかけたんだよな)
 火球一つで死にかけたあの時の事を思い出す。魔法を直に身体で受けるなんていつぶりの事だっただろうか。
 入口から外に足を踏み出す。周りには見渡す限りに草原が広がり、とても気持ちのいい天気だ。鳥はさえずり、木々が風に木の葉を揺らす音が耳に心地よい。
 自分の足元の周りが金色に光輝き始め、それは道を作る様に草原に伸びていく。私は疑うことなくその光の道に沿ってゆっくりと歩いていく。デジャブのような既視感を感じたが、その正体はわからなかった。
 しばらく道なりに進んでいくと、最後は大きな樹の下にたどり着いた。そこにはオシャレな丸いテーブルが置いてあり、そこで女神様が突っ伏して居眠りをしていらっしゃるようであった。
(このような油断したお姿を拝見するのは初めてだ……)
 見てはいけないものを見てしまったかのような罪悪感、そしてもっと見ていたいという好奇心が私の中で天秤の様にグラグラと揺れ動く。お召し物もいつもの神々しいようなものではなく、身に付けた麦わら帽子と白いワンピースは、まるで女神様がか弱い少女であるような錯覚さえ起こさせた。

 私がよこしまな考えに囚われている間に、女神様は目を覚まされたのか、小さなうなり声を上げながら伸びをされ、そして私に気づいたようだ。私は慌てて距離を取り、臣下の礼を行う。
「オール、久しぶりね。お帰りなさい」
 いつもとまるで異なる女神様の口調に驚き、うまく返事を返せない。
 いや、違うのは口調だけではない。天聖の頂として君臨する覚悟と意志を秘めたいつもの眼差しはどこかへと消え去り、今はとても柔和で優しい……まるで母のような微笑みをたたえている。
「め……女神様でいらっしゃいますよね」
 思わず口をついてしまった不敬極まりない言葉に気づき、慌てて謝罪する。
「フフ、驚くのも無理がありませんね。でも本当はこちらが素の私なんですよ」
 ううむ、女性は二つの顔を持っているとはよく聞くが、そういったことなのだろうか。双子であると説明された方がしっくりくるぐらいの変わりようだ。
「ようやくこの私で、しっかりと知識を身に付けた貴方に会えましたね、オール。」
「はっ!」
 意味はあまりよくわからなかったが、女神様に対して『わかりません』など容易に言えるものではない。返事をしないのももってのほかであるので、誤魔化すように威勢よく調子を合わせる。
「前回は間に合いませんでしたが、きっと今度はうまく行くことでしょう」
 そういって女神様は導きの門を召喚する。
「オールよ、貴方にはこれからある天聖者達の元へ向かってもらいます。そこで彼らに貴方の力を貸し、彼らと共に戦って欲しいのです」
「女神様のご意向とあらば喜んでお受けいたします」
「……その者達の言動を初めから全て受け入れる事は難しいでしょう。ゆっくりとお互いを理解してください」
「畏まりました」
 女神様の命とあらば、下卑た山賊の手下にでも喜んでなるだろう。我々天聖者の忠誠は絶対であり、そして女神様も同じく絶対なのだ。
「もっとお話をしていたいのですが、残念ながら私たちには時間がありません。どうか貴方が間違いのない選択をしてくれるよう祈っています」

 女神様が手ずから開いてくださった導きの門に静かに入っていく。
 最期にどこか泣きそうな顔をしている女神様が見えた。
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