テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第二章

2-19 慈善活動

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 次の日私たちはダウターの開けた導きの門によってとある世界に到着していた。
(全く、どうして私がこんな格好をせねばならんのだ……)
 闇夜に集合したメンバーは全員浮浪者のような格好だ。ダウターの指示で随分汚れてボロボロの衣服を着せられている。端から見れば随分と異様な集団だろう。全部で二十人ぐらいか? この世界に住む人間か、それとも私やサンズガワのように天聖者なのかはわからない。何にしてもアンタッチャブルのような裏切者達に仲間がこれほどいるというのは腹立たしい。
「はーい、みんな揃うたかー? それじゃ今日はこの世界の貧困区域で食料と衣類の配給をします」
 そういってダウターは小さな木箱を大量に持ってきた。
「初めてのモンに説明するけど、これ配る時に絶対気ぃつけて欲しい事がいくつかある。まず一度に持っていくのは一人一個にすること、この箱以外の物を渡さない事。目立つようなことをしない事。以上や。これを守れんもんには最悪死んでもらうことになるからな。絶対に守ってくれや」
 タダの配給をどうしてそんなにコソコソやらなければならないのだろうか? やはりこれは配給を騙った犯罪か何かなのではないか? ……まあいい、まずは箱の中身を確認してからだ。
「今並んでもらってる横のやつと二人一組でやってくれ。これは今の決まり事をお互い守ってるか確認してもらうためでもある」
 私の相手は……サンズガワか。
「それじゃ各自始めてくれや」

「行きましょうか、オールさん」
 木箱を小脇に抱えたサンズガワが先を促す。
「うむ。……しかし随分と暗い町だな、ここは」
「そうですねえ。転生者が行く世界って、どうしてだかこれぐらいの文明レベルが多いんですよね。機械の類がほとんどなくて、識字率が高かったりする割には教育はそれほど行き届いてない。かと思えば町は清潔で糞尿の臭いがするようなこともない。下水道でも完備されてるんですかね?」
「この世界がどんな発展を遂げてきたのかはわからぬ。しかし現状がそうであるなら、そういう風に発展したんだろう。それ以外に何がある?」
「あまりにも都合よく出来てないですか? 転生世界って」
「全て女神様のお導きである」
「……天聖者ってそれがあるからどうしようもないですよねえ。考える事やめちゃってないですか?」
「女神様を愚弄するか!」
「いやいや、僕たちは絶対にそんなことしませんよ。絶対にね。そんなことよりこの辺りがこの町で最も貧しい人の集まる場所です」
「うむ……」
 サンズガワの言葉に辺りを再度見回すと、この辺りは明かりもほとんどなく真っ暗だ。天聖者であれば大した問題にはならないだろうが、普通の人間ではまともに歩くことすらおぼつかないだろう。
「どうしてこんな夜中にやる必要があるのだ。人さらいではないのだろう?」
 疑惑の目をサンズガワに向ける。
「そのはずなんですけどね。僕も実はこの配給あんまり好きじゃないんですよ。木箱の中身見てください」
 彼の乗り気ではないという言葉に驚く。アンタッチャブルも全員が全員一枚岩ではないという事なのだろうか? 
 言われた通りに木箱を開けると、そこに入っていたのはなんと腐りかけの食べ物と、自分たちが今着ているようなボロとしかいいようがない、なんとか服の形を保っているだけの布切れだった。
「な、な、なんだこれは……! こんなものを配って一体どうするつもりだ?」
「でしょう? ダウターさんがね、『あいつらにはこれぐらいがお似合いや』なんて言うんですよ。ひどくないですか?」
 あの男がヘラヘラと笑いながら実際に言っている姿が目に浮かぶようだ。やにわに怒りが沸いてくる。
「ほら、あそこを見てください。路地裏で寝てるあの可哀そうな兄弟を」
 サンズガワが指さす方向に視線を向けると、そこにはガリガリに痩せた小さな子供二人が寄り添うようにして寝ていた。
「こんな夜中に路上で寝ているっていうことは、彼らは本当に家がないんです」
「どういうことだ?」
「路上生活者にもいくつかありましてね、仕事として乞食をやらされている子供なんかもいるんですよ。でもそう言った子は夜になれば家族の待つ家の中で寝る事が出来る。まあ愛に溢れた家庭とは言い難いですがね、最低限寝床と仕事をしていくだけの食べ物は与えられるんです」
「うううむ……」
 私はずっと天聖軍の為に能力を振るうばかりで、こういった町の人の暮らし一つ一つに焦点を当てたことがなかった。アンタッチャブル達がこういった貧しい人たちへの施しをずっと行っているというのなら、彼らも完全な悪人というわけではないのかもしれない。
「でもあの子たちにこんな腐りかけた食べ物を渡せますか? この服なんて今彼らが着ているようなボロと何にも変わらないですよ」
 そうだ! 施しをするというのなら、なぜこのような物を渡す? 高級な物を山ほど用意することはできなくとも、せめて普通のパンや汚れていない服を渡せばよいではないか!
「安心しろ。私は全能のオール。これぐらいは造作もない」
 私は錬金とクリエイトの能力を使い、無から金貨や宝石を造り出す。そして探知スキルで彼らの身長や足の長さなどを正確に割り出して、しっかりとした生地で上等な服を編んだ。
「おお……さすがは全能ですね。これはすごい。……でも大丈夫ですかね? ダウターさんの言うことを無視しちゃって。言うことを黙って聞かないと天聖者への推薦もらえないんでしょ? それに最悪殺されるかもしれませんよ」
 ダウターの言葉を思い出す。しかし私の心には少しの迷いも生まれなかった。
「救える人を救わずにして何が天聖者か。殺せるものなら殺してみよ、正義を捨てた者が最後に笑うことは決してない」
 クッキングで温かい食事を造り出した私は幼い二人に声をかける。
「ヒイッ」
 眠りから覚めた彼らは私の姿を見てかなり怯えてしまったようだ。容貌から見て兄らしき方の少年が、もう一人の少年を庇うように手を広げて前に出てきた。このボロじゃ無理もないだろう。私は天聖の鎧を召喚し装着する。
(やはりこの鎧が一番しっくりくるな。確固たる意志が一層強くなるのを感じる)
 少年たちは私の鎧を見て、少なくとも物盗りや反社会的な人間ではない事を理解したのだろう。まだ多少怯えてはいるようだが、少なくとも逃げられたりはしないはずだ。
「食べなさい」
 まずは彼らに温かいスープを与える。人の心を開かせるには温かい食事が一番だ。これは軍でもそうであった。我々に食事は必要ないのだが、戦場で共に戦う仲間との食事はどれほどうまかったことか。
「あ……あの……」
「怯える事はない。私たちは君たちの様に辛い生活をしている者に富を分け与えるものだ」
 しかし彼らは一向にスープを手をつけようとしない。何かおかしい、相当な空腹であるはずなのになぜだ? 毒などを警戒しているのだろうか。
「大丈夫だ。毒などは入っていない」
 彼らに渡したスープを一口自分で食べ、毒見の役割をこなす。しかしそれでも彼らの手は動かなかった。
「どうした? なぜ食べない?」
 怒られると思ったのだろうか、兄の方は一瞬体をこわばらせたあと、恐る恐ると言った様子で私に話しかけた。
「お、弟が……」
 兄に隠れて表情などがよく見えていなかったが、改めてよく見てみると後ろの子は随分と具合が悪そうだ。
「病んでいるのか。ちょっと失礼」
 検診のスキルで彼の病状を把握し、そのままヒールで治す。
「風邪をこじらせてしまっていたようだな。今治したから安心しなさい」
 青白かった弟の顔に赤みが差し、ようやく兄の方も安心したようだ。二人は大慌てでスープを口に運んでいく。
(相当腹が減っていただろうに、それよりも弟の心配をしていたのだな……)
 彼らの兄弟愛に感じ入りながら製剤スキルで癒しの薬を造り出す。
「もしまた体調が悪くなったらこれを飲むといい」
 先ほど造り出した金貨や宝石と一緒に薬を彼らの手に握らせる。彼らはその輝きに言葉を失い、涙を流して喜んだ。
「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」
「強く生きろよ」
 そう言葉をかけて彼らの元を離れた。


「養ってあげたりはしないんですね」
 さきほどまでの流れをずっと見ていたサンズガワが言う。
「意地の悪い事を言うな。言葉にするのも辛い事であるが、彼らのような子は世界の数だけ存在する。そして私なら出会う端から彼ら全員を養うこともできるだろう。だがそれでは何の解決にもならぬ。同じような者たちは後から後から生まれてくるだろう。だから辛さを知る彼らが大人になったときに、せめて今より少しでも良い世の中にしてくれることを願って、彼らの自立を助けてやることしかできんのだ」

「…………そこまで理解してるのに、どうしてわからないんですかねえ」
「何か言ったか?」
「いいえ、なんにも」
 さっきの兄弟と同じように、この暗闇の中で飢えや貧しさに苦しんでいる者達に次々施しを与えていく。

「やだなあ。ここの子達が死ぬの。見たくないんだけどなあ」
 後ろでサンズガワが何かを呟いていたが、スキルを使っていなかったので何を言っていたのかはわからなかった。

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