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第二章
2-23 答え合わせ
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「やっぱりこうなってしまったか」
王の間にはいつの間にかホールダーが立っていた。
「リーダー! 力及ばず……!」
ダウターが頭を下げて謝っている。私はあまりの展開の速さにもう何も考えられなくなっていた。
「オールももう限界のようだ。今できる答え合わせをしてあげよう」
「はい……。スピードアップフィールド」
ダウターが召喚した小さな小さなフィールドが私の中に入っていくのが見えた。
「オール、頼むから動かんといてくれよ。俺の支援魔法であるこのフィールドは今オールの中のいろんな器官や腱の隙間に食い込むように配置されてる。これでもしお前が身体を動かすと何が起きるか。フィールドはお前の中の身体のその部分だけを加速する。想像できるか? 右の肺が左の肺の三倍で動いたときの痛み、スネから先だけが膝の動きより五倍速く前に投げ出される感覚。それはお前の身体を簡単に捻じ曲げる。頼むから動くなよ」
私は地面に力なく座り込んだ姿勢のままロックされてしまった。
(まあ……別にどうでもいいか……)
彼らは謎解きの答え合わせをしてくれるらしい。もう私の頭は考える事をやめたいと悲鳴をあげていたところだ。このまま彼らの話を聞くとしよう。
「口で言ってもなかなか理解できんと思うから実際に見てもらうわ」
リーダーが大きな鏡のような物を召喚した。それは鏡のようで鏡ではなく、何かの映像を映すモニターのようなものだった。
鏡の中の映像は、あの今は死んでしまった幼き兄弟と私が別れるところを映していた。
「俺は最初に色々注意したよな。箱に入ってるもん以外渡すなとか目立つなとか」
「わ……私がそれを破ったから、たったそれだけで彼らを殺したのか……?」
「黙って最後まで見ときぃ」
映像の中の幼い兄弟は幸せそうに笑っていた。清潔で上等な衣服の滑らかな感触を確かめ、渡された金貨や宝石を闇夜にかざしてその輝きを見ようとし、新鮮な果物を口にしては今まで味わった事がなかっただろうその甘みに顔を緩ませていた。
(なぜ……なぜこの子たちが……)
様子がおかしくなったのはそれからすぐだった。彼らのいる袋小路の入口を塞ぐように粗末な衣服を着た大人が何人か立ち塞がる。彼らの手には木の棒や何かしらの道具のような物が握られており、その感触を確かめるように自らの手に何度か打ちつけていた。
そこから先は無惨の一言だった。大人たちは子供たちに襲い掛かり、手にしていた武器を何度も何度も振り下ろした。兄はまた弟を守る様に両手を広げて彼らの前に立ちふさがったが、ものの数発で彼の身体は力なく地面に横たわることになった。二人の子供が二つの死体に変わった後、大人たちは彼らの服を剥ぎ取り、残った食料を次々に口に運び、そしてそのあたりを全てひっくり返して金目の物を全て奪っていった。
私は言葉を出すことができなかった。ただただ茫然と鏡に流れる情報を網膜に映していただけだ。私の脳は何の処理もしなかったが、涙腺だけは壊れたように涙を流し続けていた。
次に映ったのは私が真っ二つにした転生者、金福だ。彼は自分の売春宿を周りながら、働いている女の子たちに優しく声をかけては話を聞いていた。時折自分の境遇に絶望して泣き叫ぶ女の子には能力を使って落ち着かせ、ゆっくりと時間をかけて話を聞いてやっていた。
彼はたくさんのボディーガードを連れながら積極的に裏路地に入り、私が施しを与えたような年端も行かぬ子供たちを拾っては自分の屋敷に連れて行き、温かい食事を与え、風呂に入れては清潔な服を与えていた。
子供たちは召使やメイドになるための教育をその館で受け、一定の年齢になった時には貴族や商人の家に雇われているようだった。しかし一部の子は自分の家族や兄弟が飢えに苦しんでいることに悩み、身体を売る決意をしたことを金福に伝える。
いくら金福でもその資金が無限にあるわけではない。彼は家族全員までは救えない事を涙して謝り、それでも子供たちを何度も何度も引き留める。しかし優しい子供たちは自分だけ平穏な暮らしを手に入れる事を良しとせず、メイドの何十倍も稼げる仕事で家族を助ける事を選んだのだ。
金福はまた町の孤児院や修道院を渡り歩いては巨額の寄付をして回る。中世と呼ばれるような時代にあった孤児院や修道院は、全てが全て善き行いをしているような場所ではなかった。彼はそういった子供が被害を受けてしまうようなよくない場所を作らないために、管理者が悪い考えを起こさぬようにと見て回り、寄付をしてたのだ。
最後に移ったのはピースメイカーだった。彼がこの世界に転生した時、世界は争いの炎に包まれていた。魔族と人間だけではなく、人間同士でも醜い裏切りや争いが絶え間なく起こり続け、人類はもう限界に達していた。
彼はまず人間の国を歩いて渡り、その国の王を次々と殺していった。彼にはどの国のどんな兵士も刃を向ける事はできず、彼の銃弾は正確に王の眉間を撃ち抜いていった。
ピースメイカーが全ての国を統一し王になった時、魔族も人間を攻撃することができなくなっていた。彼はまたその足で魔王の住む古城にまで歩いていき、魔王を銃弾一つで撃ち殺した。その後彼は魔族を滅ぼすのではなく、同時に魔族の王としても君臨した。
こうして彼の世界は今までに例を見ない、魔族と人間がお互いに共存する世界になった。誰もが誰もを傷つけることなく、平和に笑い合っていたあの世界は、人間側の私がピースメイカーを殺したことで、また地獄の戦いへと突入するところだった。
私は……私は何をしていたのだろうか……?
「あんな路地裏で生活してるようなガキ共がよお、大金だのなんだのもってたらどうなるか考えたことはなかったか?」
「木箱に入ってた食いモンとボロ布に、癒しの魔法やらが込められてたのには気づかんかったんか?」
「昼間じゃなく夜中に、誰にも知られんようにやってる理由考えつかんかったか?」
「金福が今もなお無理やり女の子を働かせてるなんて一言でも誰かが言ったか?」
「店の女の子たちが正気かどうか一度でも確かめに行ったか?」
「全能なら俺の知らんようなスキルでも魔法でも使えば事の真偽を確かめられたんちゃうんか?」
「最初の檻の中に入ってたやつが死んだときはどうでもよかったか?」
「自分の知人だけが特別なんか? それで殺されたメイカーの世界はどうなった?」
「わ……わからなかったんだ……、私には……知りようがなかった……。しょうがないだろ……私は全知ではないんだ……」
「じゃあ言われた通りおとなしゅうしとけや!!!!!!」
「教えてくれても……教えてくれたらよかったじゃないか。じゃあ私は……僕は何もしなかったよ。言われた通りに……きちんと……ちゃんと……」
「じゃあセンセイがおらんかったらお前はなんもできんのか? そうやって一から十まで全部誰かに聞いていくか? 今日は靴を右から履けばいいですか? 左から履けばいいですか? 生きていてもいいですか? 死んだ方がいいですか? そんな奴はすぐおかしな奴に騙されて取り返しのつかんことをやるやろうな。現にあの兄弟の時にお前は簡単にサンズガワに誘導されとった。金福の時も一緒や、情報の一部分だけを聞かされただけで逆上して短絡的に行動を起こす。それが何を引き起こすか考えもせずにな」
「僕は……僕は一生懸命やったよ……。元々転生なんてしたくなかった……僕が望んだことじゃない……全部お前たちが……お前たちが僕に背負わせただけじゃないか……あんな拷問みたいなことまでして……どうして……どうしてこんなひどいことをされなくちゃいけないんだ……」
「…………すまん」
驚いたことにダウターは僕の責めに謝り、そして口をつぐんだ。いつの間にかリーダーは僕の側まで来ていて、隣で膝をつくと、その細い細い手で僕を抱きしめてくれた。
「オール。私たちの希望よ。今お前を責めたダウターの言葉は、全て自分自身にも向けられたものなのだ。私たちには先生がいなかった。私たちには教えてくれるものがいなかった。私たちはお前以上に過ちを犯し、罪を重ね続けた。そして今やその罪を教えられるのは我々しか残されていないのだ」
リーダーの僕を包む力がどんどん強くなっていく。同時に僕の全身が暖かい光で満たされていく。
「さようなら、オール。また会おう」
王の間にはいつの間にかホールダーが立っていた。
「リーダー! 力及ばず……!」
ダウターが頭を下げて謝っている。私はあまりの展開の速さにもう何も考えられなくなっていた。
「オールももう限界のようだ。今できる答え合わせをしてあげよう」
「はい……。スピードアップフィールド」
ダウターが召喚した小さな小さなフィールドが私の中に入っていくのが見えた。
「オール、頼むから動かんといてくれよ。俺の支援魔法であるこのフィールドは今オールの中のいろんな器官や腱の隙間に食い込むように配置されてる。これでもしお前が身体を動かすと何が起きるか。フィールドはお前の中の身体のその部分だけを加速する。想像できるか? 右の肺が左の肺の三倍で動いたときの痛み、スネから先だけが膝の動きより五倍速く前に投げ出される感覚。それはお前の身体を簡単に捻じ曲げる。頼むから動くなよ」
私は地面に力なく座り込んだ姿勢のままロックされてしまった。
(まあ……別にどうでもいいか……)
彼らは謎解きの答え合わせをしてくれるらしい。もう私の頭は考える事をやめたいと悲鳴をあげていたところだ。このまま彼らの話を聞くとしよう。
「口で言ってもなかなか理解できんと思うから実際に見てもらうわ」
リーダーが大きな鏡のような物を召喚した。それは鏡のようで鏡ではなく、何かの映像を映すモニターのようなものだった。
鏡の中の映像は、あの今は死んでしまった幼き兄弟と私が別れるところを映していた。
「俺は最初に色々注意したよな。箱に入ってるもん以外渡すなとか目立つなとか」
「わ……私がそれを破ったから、たったそれだけで彼らを殺したのか……?」
「黙って最後まで見ときぃ」
映像の中の幼い兄弟は幸せそうに笑っていた。清潔で上等な衣服の滑らかな感触を確かめ、渡された金貨や宝石を闇夜にかざしてその輝きを見ようとし、新鮮な果物を口にしては今まで味わった事がなかっただろうその甘みに顔を緩ませていた。
(なぜ……なぜこの子たちが……)
様子がおかしくなったのはそれからすぐだった。彼らのいる袋小路の入口を塞ぐように粗末な衣服を着た大人が何人か立ち塞がる。彼らの手には木の棒や何かしらの道具のような物が握られており、その感触を確かめるように自らの手に何度か打ちつけていた。
そこから先は無惨の一言だった。大人たちは子供たちに襲い掛かり、手にしていた武器を何度も何度も振り下ろした。兄はまた弟を守る様に両手を広げて彼らの前に立ちふさがったが、ものの数発で彼の身体は力なく地面に横たわることになった。二人の子供が二つの死体に変わった後、大人たちは彼らの服を剥ぎ取り、残った食料を次々に口に運び、そしてそのあたりを全てひっくり返して金目の物を全て奪っていった。
私は言葉を出すことができなかった。ただただ茫然と鏡に流れる情報を網膜に映していただけだ。私の脳は何の処理もしなかったが、涙腺だけは壊れたように涙を流し続けていた。
次に映ったのは私が真っ二つにした転生者、金福だ。彼は自分の売春宿を周りながら、働いている女の子たちに優しく声をかけては話を聞いていた。時折自分の境遇に絶望して泣き叫ぶ女の子には能力を使って落ち着かせ、ゆっくりと時間をかけて話を聞いてやっていた。
彼はたくさんのボディーガードを連れながら積極的に裏路地に入り、私が施しを与えたような年端も行かぬ子供たちを拾っては自分の屋敷に連れて行き、温かい食事を与え、風呂に入れては清潔な服を与えていた。
子供たちは召使やメイドになるための教育をその館で受け、一定の年齢になった時には貴族や商人の家に雇われているようだった。しかし一部の子は自分の家族や兄弟が飢えに苦しんでいることに悩み、身体を売る決意をしたことを金福に伝える。
いくら金福でもその資金が無限にあるわけではない。彼は家族全員までは救えない事を涙して謝り、それでも子供たちを何度も何度も引き留める。しかし優しい子供たちは自分だけ平穏な暮らしを手に入れる事を良しとせず、メイドの何十倍も稼げる仕事で家族を助ける事を選んだのだ。
金福はまた町の孤児院や修道院を渡り歩いては巨額の寄付をして回る。中世と呼ばれるような時代にあった孤児院や修道院は、全てが全て善き行いをしているような場所ではなかった。彼はそういった子供が被害を受けてしまうようなよくない場所を作らないために、管理者が悪い考えを起こさぬようにと見て回り、寄付をしてたのだ。
最後に移ったのはピースメイカーだった。彼がこの世界に転生した時、世界は争いの炎に包まれていた。魔族と人間だけではなく、人間同士でも醜い裏切りや争いが絶え間なく起こり続け、人類はもう限界に達していた。
彼はまず人間の国を歩いて渡り、その国の王を次々と殺していった。彼にはどの国のどんな兵士も刃を向ける事はできず、彼の銃弾は正確に王の眉間を撃ち抜いていった。
ピースメイカーが全ての国を統一し王になった時、魔族も人間を攻撃することができなくなっていた。彼はまたその足で魔王の住む古城にまで歩いていき、魔王を銃弾一つで撃ち殺した。その後彼は魔族を滅ぼすのではなく、同時に魔族の王としても君臨した。
こうして彼の世界は今までに例を見ない、魔族と人間がお互いに共存する世界になった。誰もが誰もを傷つけることなく、平和に笑い合っていたあの世界は、人間側の私がピースメイカーを殺したことで、また地獄の戦いへと突入するところだった。
私は……私は何をしていたのだろうか……?
「あんな路地裏で生活してるようなガキ共がよお、大金だのなんだのもってたらどうなるか考えたことはなかったか?」
「木箱に入ってた食いモンとボロ布に、癒しの魔法やらが込められてたのには気づかんかったんか?」
「昼間じゃなく夜中に、誰にも知られんようにやってる理由考えつかんかったか?」
「金福が今もなお無理やり女の子を働かせてるなんて一言でも誰かが言ったか?」
「店の女の子たちが正気かどうか一度でも確かめに行ったか?」
「全能なら俺の知らんようなスキルでも魔法でも使えば事の真偽を確かめられたんちゃうんか?」
「最初の檻の中に入ってたやつが死んだときはどうでもよかったか?」
「自分の知人だけが特別なんか? それで殺されたメイカーの世界はどうなった?」
「わ……わからなかったんだ……、私には……知りようがなかった……。しょうがないだろ……私は全知ではないんだ……」
「じゃあ言われた通りおとなしゅうしとけや!!!!!!」
「教えてくれても……教えてくれたらよかったじゃないか。じゃあ私は……僕は何もしなかったよ。言われた通りに……きちんと……ちゃんと……」
「じゃあセンセイがおらんかったらお前はなんもできんのか? そうやって一から十まで全部誰かに聞いていくか? 今日は靴を右から履けばいいですか? 左から履けばいいですか? 生きていてもいいですか? 死んだ方がいいですか? そんな奴はすぐおかしな奴に騙されて取り返しのつかんことをやるやろうな。現にあの兄弟の時にお前は簡単にサンズガワに誘導されとった。金福の時も一緒や、情報の一部分だけを聞かされただけで逆上して短絡的に行動を起こす。それが何を引き起こすか考えもせずにな」
「僕は……僕は一生懸命やったよ……。元々転生なんてしたくなかった……僕が望んだことじゃない……全部お前たちが……お前たちが僕に背負わせただけじゃないか……あんな拷問みたいなことまでして……どうして……どうしてこんなひどいことをされなくちゃいけないんだ……」
「…………すまん」
驚いたことにダウターは僕の責めに謝り、そして口をつぐんだ。いつの間にかリーダーは僕の側まで来ていて、隣で膝をつくと、その細い細い手で僕を抱きしめてくれた。
「オール。私たちの希望よ。今お前を責めたダウターの言葉は、全て自分自身にも向けられたものなのだ。私たちには先生がいなかった。私たちには教えてくれるものがいなかった。私たちはお前以上に過ちを犯し、罪を重ね続けた。そして今やその罪を教えられるのは我々しか残されていないのだ」
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