テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第三章

3-14 先生の世界

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「……ダウター、大丈夫かい?」
 ダウターが宿に帰ってきたのは別れてから随分経ってからの事だった。
「ああ。オール、ありがとうな」
 自身の手で恩師を殺してしまったのだろうから、最悪の可能性も十分に想定していた。しかしダウターの表情は悲嘆や苦悩に苦しめられているものではなかった。
「お前のおかげで俺と先生はようやく過去を乗り越えられたんやと思う」
 ダウターは力なく笑う。彼と先生の間で何を話したのかはわからないが、納得のいく結末を迎えられたのかもしれない。とはいえ自分の家族のような人を殺したのだ、胸中が明るいわけがない。
「そう……。よかった、って言っていいのかはわからないけど……」
「これでよかったんや。教会の中も見てきたけど、毎日暮らしていくのでいっぱいいっぱいみたいやった。先生は自分を売ってまでなんとかしてたみたいやけど、一生それができるわけやない。しかもそれをやったところで無限に犠牲者が生まれてくるだけやねんからな……」
「子供たちはどうしたの……?」
 前回までは子供たちもこれ以上苦しむことがないようにと殺してきていた。生きてさえいればチャンスがあるというのは本当に恵まれた、限られた極一部の地域に暮らしている人たちだけの言葉だ。
「魔法でずっと眠らせとる。数日もしたら何も知らんまま先生と同じとこにいけるはずや」
「そう……。この世界はそれまで壊さないでおくの?」
 今までは転生者を殺したら、その転生世界もすぐにルイナーが破壊していた。
「いや……、先生が育てたんならあの子供たちも俺の兄弟や。せめて名前ぐらいは覚えて帰りたい。でもその後にこの世界も壊す。住人も何もかも全部含めてな」
 どこまでも優しい人だな、と思った。それと同時に、どうしてこんなに優しい人が転生者を殺した後に、わざわざ世界を丸ごと破壊して、生きている人を皆殺しにしているんだろうと改めて疑問に思う。
「ダウター。良いも悪いも関係なく、転生者を殺さないといけない理由は今回で痛いほど理解できたよ。でもその後さらに世界まで破壊する理由は何なんだい? たとえこの世界があの導きの扉によって造られた仮初めの物であったとしても、転生者以外の人間まで皆殺しにしなきゃいけない理由が僕にはまだわからないんだ」
 ダウターはため息をつくように深く息を吐きだし、そして言葉を繋ぐ。
「そうやな。お前もそろそろ転生の真実に近づいてもいい頃やと思う。ただ現状ではお前に真実は信じられへんし、耐えられへん。それでも真実を知りたいか?」
 あまりに脅しが過ぎる言い回しだ。僕だってこの転生というシステムの邪悪さを少しずつ理解し始めたし、それに対抗しようという意志も持ち始めている。
「大丈夫。きっと乗り越えてみせるよ」
 そう答える僕に対して、ダウターはとても複雑な表情で笑った。

 それから僕たちは一日を過ごす場所をあの先生がいた教会の中に変えた。いつも通りに客が来たりして、中で起きていることがばれてしまっては面倒だ。教会に認識妨害の魔法をかけ、町の人の意識からこの場所を切り離した。
「本当に幸せそうに、ぐっすりと寝ているね」
 広い聖堂にはたくさんの子供たちが薄い毛布をかけて並んでいる。元々あった椅子などは全て取り払われているのか、ここはまるで体育館のようだ。
「ああ。ここの兄弟達も転生によって生まれたんじゃなけりゃ、たとえ先生が死んだとしても生きていく道はあったんやけどな……」
「それだよ。ダウター。どうして転生世界も転生世界の住人も皆殺しにするのか、僕はまだ教えてもらってない」
「焦らんでええ。ここで数日暮らしとけば、理由は向こうからやってくる。オールはその時の為に心の準備をしっかりとしとけ。真実とか現実って奴はな、だいたいが自分の想像よりもはるかにひどいもんや」
「それなら先にその真実を教えてくれたらいいじゃないか」
 僕は口を尖らせてぼやく。もちろん彼が教えてくれるとは思っていない。
「ハハハ。あかんあかん。実際目にしても信じられんような事がおきるんや。口でなんぼ説明したって理解できるようなもんやないわ」
 ダウターは笑いながら手を振る。このあらゆる魔法やチートが当たり前のように存在する世界で、目にしても理解できないようなことはたくさんあるだろう。しかし信じる事すらできない光景とは一体どのようなものなのだろうか?
 ダウターは教会に置いてあった彼らの私物や先生の遺品から、本当に子供たちの名前を一つ一つ覚えるつもりのようだ。穏やかな顔で眠っている彼ら一人一人の顔をじっと見つめ、脳に焼き付けているようにも見える。
「この子達は裕福ではなかっただろうけど、それでもきっと幸せだったんだろうね」
 子供たちの手を握り、頭を撫でているダウターに語り掛ける。
「当たり前や。先生はここでは転生者やったからなんだかんだうまくいくようになってたやろうけどな、そうでなかった時、俺や当時の兄弟を育ててくれた時も、不自由で辛い事も多かったけど、間違いなく俺たちは幸せやった」
「……うん。きっとそうだったんだろうね」

 そうして僕らは教会で数日を過ごした。子供たちの呼吸も随分とゆっくりになっていて、きっともうその日は近いんだということを僕に認識させるが、幸せそうな寝顔や顔色は何一つ変わっていない。
 ダウターも子供たちの名前と顔をしっかり目と脳に焼き付けたようだった。僕には記憶系や情報系のスキルが腐るほどあるので、こういった『覚える』事は何の努力もなしにできてしまったのだが、その全能さが今の僕には少し悲しかった。
(努力って、きっとそれ自体が思い出になるような大事な物なんだな)
 全能を無理やり与えられたことに対して、今はそれほど怒りや理不尽さを感じる事はなくなった。全能というのはやはり強力で、これのおかげで成し遂げたことや自分の得になったことは数えきれないほどだ。しかし全能を得たことによって失ってしまったことも、きっと間違いなくあるのだろう。
「ねえダウタ……」
 なんとなくダウターに話しかけようとしたとき、彼の様子がおかしい事に気が付く。表情は険しく、何かを睨むようにして教会の屋根を見つめている。
(いや、屋根じゃなくて……空か?)
 ついにその信じられない事がやってきたのかと思い、探知系のスキルを全開にしていく。しかし今はまだスキルには何もひっかからなかった。
「シールド貼ってくれ。オールのあの虹色の奴。教会を包むくらいでいい」
 それでもダウターはやはり何かを感じ取っているようだ。僕は言われた通りに全属性をシャットダウンする七色のシールドを教会を包むようにして出現させる。
 そしてその直後、探知スキルにいくつもの反応が現れた。間を置かず、僕のシールドに様々な魔法が降り注ぐ。
「来よったな」
 ダウターはその一言だけを残して外に飛び出す。僕のこのシールドの弱点は、自分中心に球状にしか出せない事だ。シールドの半径を大きくしながら僕もダウターに続いて外に出る。
 ダウターは既に教会の屋根に上っていたようだ。僕も飛び上がり彼の横に立つ。空を見上げてもまだはっきりとは何も見えなかったが、僕のスキルは間違いなく自分たちの真上にたくさんの反応を捕えていた。
「探知してるんやろ? 今の攻撃してきたんが誰かわかるか?」
 探知した反応に焦点を当てていく。僕のこのスキルは、対象が全くの他人であったときには場所や生死ぐらいの簡単な事しか探知できないが、既に一度探知を行った後の者や、見知った者に対してはより詳しく状態が表示されていく。
「あ……あれは……」
 僕の探知スキルは対象に対して実に詳しくの情報をもたらしてくれた。それはつまりさっきの攻撃者は、僕にかなり近しいものだということだ。
「な、言った通り中々おもろいことになっとるやろ」
 僕のスキルが解析した上空の攻撃者達……。僕がとてもよく知っていて、転生世界を自由に行き来できる、魔法やチートスキルの使い手たち……

「天聖者だ……」

 上空から二度目の攻撃が降り注いできた。
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