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第三章
3-23 死の大地
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「不死身で無敵だって?」
急に語られた突拍子もない能力に思わず聞き返す。今まで無敵や不死身を謳った天聖者は腐るほどいたが、真に無敵であったり不死身だったものはいなかった。ただタフなだけだったり幸運の持ち主だったりしただけで、その証拠に天聖軍で編成されていた無敵軍にも不死身軍にも戦死者はいつも出ていたのだ。
「そうだよー。ボクはねー、絶対に傷ついたりしないんだー」
ブレイカーはそういいながら鋭い刃のような枯れ枝に手を叩きつけている。そのたびにその手や腕は枯れ枝を通り抜け、やはり血が流れた跡も怪我を負った様子も見受けられなかった。
(始原の四聖とはそれぐらいのレベルの能力者なのだろうか?)
例えば僕が無敵になりたいと願ったところで発動されるのは物理攻撃無効と魔法攻撃無効といった既存のスキルだ。そういったスキルを重ね続ける事で疑似的な無敵状態を作り出しているだけで、僕自身が無敵なわけではない。しかし彼女は何かスキルや魔法を使った形跡もないのに一切ダメージを受けている様子がない。
(やはり人間ではないのではないか……?)
スライムやゴーストなどのモンスターであれば、相手の攻撃や凶器を無傷のまますり抜ける事も可能だろう。しかしダウターが言うにはこの世界にモンスターや悪魔などは一切存在しておらず、それらは全て人間らしい。彼が本当のことを言っているかどうかは未だに信じられないが、彼の仲間であるブレイカーがモンスターなのであれば仲間を否定するような事をいうだろうか?
「あー! もしかして疑ってるー?」
彼女はまた頬を大きく膨らませて僕を責めた。
「まあ……さすがにね。無敵とか不死身なんて今まで見たこともなかったから」
転生世界がどれだけぶっとんだ御伽噺や神話のような世界であっても、やはり簡単に信じられる内容には限度がある。僕は天聖軍でかなりの天聖者と過ごしてきた経験もあるし、なにより全能の力で転生者が使っているスキルや魔法は全て使えるはずなのだ。しかし僕自身が無敵だったり不死身になれる様子はないし、アンタッチャブル達も僕の生死に非常に気を使っていた。やはり不死身や無敵などがそのままスキルや能力になっているのではないだろう。ということは何か別の能力で不死に近い力を得ているものと考えていいはずだ。
(そして僕の全能で使えない力なのだとすれば……)
それは聖名の力なのだろう。あのピースメイカーの能力である、悪意を持った行動を制限する力は僕には使えなかった。聖名はその天聖者が過ごしてきた人生だと彼は言っていた。そしてその使い手を完全に理解して初めてその能力理解して使えるようになるかもしれない、とも。
(そういえばダウターの聖名ってなんだったんだろう)
あの細い目で笑う男の顔を思い出す。リーダーは僕が彼を助けたと言っていた。いくら彼の過去を聞き、人を信じる事が出来なかった彼を呪いからといたとしたのだとしても、僕は彼の事をまだほとんど知らないのだ。
「ボクの事はまた教えてあげるよ! そんなことよりこの先に町がもうすぐ見えてくるよー」
彼女はそう言うとまた僕を先導するように前を歩きだす。視界の先は寒々とした枯れ木や毒々しい霧に阻まれているためその先を見通すことはできないが、果たして彼女の言った通りこの鬱屈な森はほどなくして抜ける事が出来た。
(しかし……)
あの死の森を抜けても周囲の環境は似たようなものであった。ただ不毛な荒れた大地が延々と広がっており、地面のところどころから不気味な気体や液体が吹きあがっては臭気を放っている。今が昼か夜かもわからないぐらいに薄暗く、辺り一面に色濃く立ち込めている毒の霧で視界も少し先までしか見えない。草花や動物といった命を感じさせるものはなにもなく、魔界というものがあるのだとすればまさにこのようなところなのだろうと思う。
道と言えるほどの道があるわけではなかったが、ブレイカーは迷うことなく何かに沿って歩いているように見えた。それは彼女が延々と歩き続けた痕跡なのだろう、他の場所よりわずかに地面が均されており、毒の霧や雫の発生源からもきちんと距離を取っているルートだった。
しかしさっきの死の森の中では彼女はあらゆる障害や毒物を全く気にせず、わずかに避ける事すら考えずに真っすぐ最短ルートを歩いていた。この荒野も間違いなく死の大地であることは間違いないが、それでも森の中よりは障害物は少ない、なのにどうしてここではわざわざ比較的安全なルートを歩いているのだろうか?
そんなことを考えていると、視界の先に人工物のような者が見え始めた。しかしそれらは建築と呼ぶにはあまりに粗末で簡易なものであり、まさにあばら家や物置と表現した方が正しいように見えた。町を取り囲むような壁や門があるわけでもなく、ボロボロの小さなあばら家がただいくつか集まって存在しているだけだ。
ブレイカーは見慣れているのだろう、その異様な光景を気にもせずそこへ近づいていく。僕も気後れしながらではあるがその後ろをゆっくりとついていく。そしてそのあばら家に近づいたとき、その建物の中から呻き声とも泣き声ともとれるような、恐ろしい声が聞こえてきたのだ。
(ひ……人がいるのか!?)
正直こんな地獄の様な環境で人間が生きていくのは無理だと思っていた。ブレイカーはこの世界を昔に滅ぼしたと言っていたし、実際ここには人が生きていくための物は何一つ揃っていないように見える。水も空気も毒に汚されていて、転生者であってもよほど適性があるもの以外はその実力に関わらずこの環境に耐えられないだろう。全能の僕ですらあらゆるスキルを駆使してようやくなのである。
僕は恐怖を感じながらも興味の方が勝り、隙間だらけのそのあばら家を覗いてみた。中には明かりらしいものは一切なく、建物の中だというのにこの周囲と同じような毒々しい色の霧で満たされていた。まあこれほど隙間が空いていては仕方がないのかもしれないが、暗視のスキルがなければ何も見えなかっただろう。
しかしこのあばら家の中には確かに人がいるのが見えた。家具などは何もなく、その人もただ床に……といってもただむき出しになった地面があるだけなのだが、そこに横たわった姿勢でうわごとの様に呻き声をあげている。どこからどう見ても死に直面した重病人だった。
「ブレイカー!」
この光景を全く無視して前に進んでいたブレイカーを大声で呼び止める。アンタッチャブル達は人を助けるのが目的ではなかったのか? この光景を見て彼女は何も感じないのだろうか。
「どしたのー?」
彼女はいつもと変わらぬ様子で僕に聞き返す。今はその余裕ある表情や仕草が妙に腹立たしかった。
「人だよ! 人が死にかけてる! 助けてあげよう!」
僕は彼女の返事を待つことなくあばら家のドアらしきものを開けて中に入る。住人の男性は突然の闖入者である僕たちにも全く反応せず、ただ口から呻き声をあげているだけだった。
ボロを少し体に巻いただけの裸同然のその身体はガリガリでところどころが黒く変色しており、彼は明らかに刻一刻を争う病状であることは間違いなかった。僕はそんな彼に駆け寄りその隣に立膝をついて座る。彼の弱弱しく震える手に触れ、彼を治してやりたいと強く思う。すると僕の頭に適切な魔法が浮かび、すかさず発動する。
触れていた彼の手から光が広がっていく。彼の震えは徐々に納まり、生気のなかった肌には血と水が満たされていくのが感じられた。焦点の合っていなかった目には意志の力が戻り、彼は上半身をゆっくりと起こし僕に視線を向けた。
そしてブレイカーがどこからか取り出していた鈍器で彼を殴り、彼は塵も残さず粉々になって消えた。
急に語られた突拍子もない能力に思わず聞き返す。今まで無敵や不死身を謳った天聖者は腐るほどいたが、真に無敵であったり不死身だったものはいなかった。ただタフなだけだったり幸運の持ち主だったりしただけで、その証拠に天聖軍で編成されていた無敵軍にも不死身軍にも戦死者はいつも出ていたのだ。
「そうだよー。ボクはねー、絶対に傷ついたりしないんだー」
ブレイカーはそういいながら鋭い刃のような枯れ枝に手を叩きつけている。そのたびにその手や腕は枯れ枝を通り抜け、やはり血が流れた跡も怪我を負った様子も見受けられなかった。
(始原の四聖とはそれぐらいのレベルの能力者なのだろうか?)
例えば僕が無敵になりたいと願ったところで発動されるのは物理攻撃無効と魔法攻撃無効といった既存のスキルだ。そういったスキルを重ね続ける事で疑似的な無敵状態を作り出しているだけで、僕自身が無敵なわけではない。しかし彼女は何かスキルや魔法を使った形跡もないのに一切ダメージを受けている様子がない。
(やはり人間ではないのではないか……?)
スライムやゴーストなどのモンスターであれば、相手の攻撃や凶器を無傷のまますり抜ける事も可能だろう。しかしダウターが言うにはこの世界にモンスターや悪魔などは一切存在しておらず、それらは全て人間らしい。彼が本当のことを言っているかどうかは未だに信じられないが、彼の仲間であるブレイカーがモンスターなのであれば仲間を否定するような事をいうだろうか?
「あー! もしかして疑ってるー?」
彼女はまた頬を大きく膨らませて僕を責めた。
「まあ……さすがにね。無敵とか不死身なんて今まで見たこともなかったから」
転生世界がどれだけぶっとんだ御伽噺や神話のような世界であっても、やはり簡単に信じられる内容には限度がある。僕は天聖軍でかなりの天聖者と過ごしてきた経験もあるし、なにより全能の力で転生者が使っているスキルや魔法は全て使えるはずなのだ。しかし僕自身が無敵だったり不死身になれる様子はないし、アンタッチャブル達も僕の生死に非常に気を使っていた。やはり不死身や無敵などがそのままスキルや能力になっているのではないだろう。ということは何か別の能力で不死に近い力を得ているものと考えていいはずだ。
(そして僕の全能で使えない力なのだとすれば……)
それは聖名の力なのだろう。あのピースメイカーの能力である、悪意を持った行動を制限する力は僕には使えなかった。聖名はその天聖者が過ごしてきた人生だと彼は言っていた。そしてその使い手を完全に理解して初めてその能力理解して使えるようになるかもしれない、とも。
(そういえばダウターの聖名ってなんだったんだろう)
あの細い目で笑う男の顔を思い出す。リーダーは僕が彼を助けたと言っていた。いくら彼の過去を聞き、人を信じる事が出来なかった彼を呪いからといたとしたのだとしても、僕は彼の事をまだほとんど知らないのだ。
「ボクの事はまた教えてあげるよ! そんなことよりこの先に町がもうすぐ見えてくるよー」
彼女はそう言うとまた僕を先導するように前を歩きだす。視界の先は寒々とした枯れ木や毒々しい霧に阻まれているためその先を見通すことはできないが、果たして彼女の言った通りこの鬱屈な森はほどなくして抜ける事が出来た。
(しかし……)
あの死の森を抜けても周囲の環境は似たようなものであった。ただ不毛な荒れた大地が延々と広がっており、地面のところどころから不気味な気体や液体が吹きあがっては臭気を放っている。今が昼か夜かもわからないぐらいに薄暗く、辺り一面に色濃く立ち込めている毒の霧で視界も少し先までしか見えない。草花や動物といった命を感じさせるものはなにもなく、魔界というものがあるのだとすればまさにこのようなところなのだろうと思う。
道と言えるほどの道があるわけではなかったが、ブレイカーは迷うことなく何かに沿って歩いているように見えた。それは彼女が延々と歩き続けた痕跡なのだろう、他の場所よりわずかに地面が均されており、毒の霧や雫の発生源からもきちんと距離を取っているルートだった。
しかしさっきの死の森の中では彼女はあらゆる障害や毒物を全く気にせず、わずかに避ける事すら考えずに真っすぐ最短ルートを歩いていた。この荒野も間違いなく死の大地であることは間違いないが、それでも森の中よりは障害物は少ない、なのにどうしてここではわざわざ比較的安全なルートを歩いているのだろうか?
そんなことを考えていると、視界の先に人工物のような者が見え始めた。しかしそれらは建築と呼ぶにはあまりに粗末で簡易なものであり、まさにあばら家や物置と表現した方が正しいように見えた。町を取り囲むような壁や門があるわけでもなく、ボロボロの小さなあばら家がただいくつか集まって存在しているだけだ。
ブレイカーは見慣れているのだろう、その異様な光景を気にもせずそこへ近づいていく。僕も気後れしながらではあるがその後ろをゆっくりとついていく。そしてそのあばら家に近づいたとき、その建物の中から呻き声とも泣き声ともとれるような、恐ろしい声が聞こえてきたのだ。
(ひ……人がいるのか!?)
正直こんな地獄の様な環境で人間が生きていくのは無理だと思っていた。ブレイカーはこの世界を昔に滅ぼしたと言っていたし、実際ここには人が生きていくための物は何一つ揃っていないように見える。水も空気も毒に汚されていて、転生者であってもよほど適性があるもの以外はその実力に関わらずこの環境に耐えられないだろう。全能の僕ですらあらゆるスキルを駆使してようやくなのである。
僕は恐怖を感じながらも興味の方が勝り、隙間だらけのそのあばら家を覗いてみた。中には明かりらしいものは一切なく、建物の中だというのにこの周囲と同じような毒々しい色の霧で満たされていた。まあこれほど隙間が空いていては仕方がないのかもしれないが、暗視のスキルがなければ何も見えなかっただろう。
しかしこのあばら家の中には確かに人がいるのが見えた。家具などは何もなく、その人もただ床に……といってもただむき出しになった地面があるだけなのだが、そこに横たわった姿勢でうわごとの様に呻き声をあげている。どこからどう見ても死に直面した重病人だった。
「ブレイカー!」
この光景を全く無視して前に進んでいたブレイカーを大声で呼び止める。アンタッチャブル達は人を助けるのが目的ではなかったのか? この光景を見て彼女は何も感じないのだろうか。
「どしたのー?」
彼女はいつもと変わらぬ様子で僕に聞き返す。今はその余裕ある表情や仕草が妙に腹立たしかった。
「人だよ! 人が死にかけてる! 助けてあげよう!」
僕は彼女の返事を待つことなくあばら家のドアらしきものを開けて中に入る。住人の男性は突然の闖入者である僕たちにも全く反応せず、ただ口から呻き声をあげているだけだった。
ボロを少し体に巻いただけの裸同然のその身体はガリガリでところどころが黒く変色しており、彼は明らかに刻一刻を争う病状であることは間違いなかった。僕はそんな彼に駆け寄りその隣に立膝をついて座る。彼の弱弱しく震える手に触れ、彼を治してやりたいと強く思う。すると僕の頭に適切な魔法が浮かび、すかさず発動する。
触れていた彼の手から光が広がっていく。彼の震えは徐々に納まり、生気のなかった肌には血と水が満たされていくのが感じられた。焦点の合っていなかった目には意志の力が戻り、彼は上半身をゆっくりと起こし僕に視線を向けた。
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