テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第三章

3-32 ブレイカー⑥

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 ブレイカーのいるログハウスの遥か上空、数十人の天聖者が一人の男の前に整列する。その男は随分と痩せていて、白髪をオールバックにした髪型とかけているメガネから几帳面や神経質さがうかがえる。
「全員注目。今回の作戦は覚えているな? 目標はアンタッチャブルと転生者二名。アンタッチャブルの方は無敵だ、消費の大きい魔法は控え、実銃を使うなど継続戦闘に注力する事。高高度からの連続攻撃、作戦時間は恐らく三日前後になるだろう。攻撃班と補給班の役割を間違えるな」
「シーカー様、質問をよろしいですか」
 列をなしている天聖者の一人が手を挙げる。
「許可する」
「実銃では大した威力にならないと思うのですが」
「必要なものは威力ではない、継戦能力だ。私のスキル、覗き目が見ているログハウス内の光景をお前たちにも接続する」
 全員が微動だにせずシーカーと呼ばれた教官風の男の指示を聞いている。
「ログハウスの中に三人見えるだろう。化粧の濃いこの黒い服を着た女がアンタッチャブルだ。この中にここまでハッキリと見たことがあるやつはいないだろう? こいつは無敵で不死身だ。天聖軍のなんちゃっての奴らとはワケが違う。本物だ、だからこいつは無理して狙わなくてよろしい。主に攻撃するのは残りの二名。この特徴のない男女がそうだ。こいつらは戦闘能力をまるで持ち合わせていない」
「シーカー様。お言葉ですが我々はアンタッチャブルとの戦闘経験もなく、また互角に戦えるほどの力もないかと思われますが……」
「お前たちが作戦の内容を考える必要はない。与えられた指示をこなせるかどうかだけだ」
「しかし……」
「ではお前は撤退するといい。女神様にはそう報告しておく」
 女神様という言葉がシーカーの口から飛び出した途端、異議を唱えていた天聖者の目の色が変わる。
「いえ! 失礼いたしました!」
「わかればいい。それでは攻撃の準備にかかる。とにかくこの転生者二人に照準を合わせて撃ち続けるだけでいい。これだけで我々はアンタッチャブルに勝利できるのだ。それでは……女神様の為に」
「「「「女神様の為に!!!!!」」」」


 ログハウスの中では何も知らないブレイカーが、両親のいる部屋の掃除をしていた。
「ケータさん、ヨーコさん。今話した通りー、もう娘さんのために苦しむ必要はなくなったよー。ボクの仲間のオールがねー、全部代わりにやってくれるんだー。それに娘さんは何かおっきな勘違いをしてたみたいでー、この世界も他の世界も、そこに住んでる人達もみんな元に戻るんだー! すごいでしょー!」
 ニコニコと笑いながら部屋の血や汚物を掃除していく。
「それはすごいですね……。でも私たちも娘が関わっている事ですし、今までやってきた事の積み重ねもありますから、ハイそうですかと納得するわけには……」
 夫婦の男の方が食い下がる。確かにいきなり理解できる話ではないだろう。それに自分たち夫婦がやってきた事は激しい苦痛と忍耐を伴うものであり、誰かに変わってもらうことへの後ろめたさや申し訳なさもある。
「そうだねー! じゃあさ! 色んな世界が元通りになって、そこに生きてる人が幸せに暮らしていけるようになるまでを見届けたらいいじゃん! それで何にも問題がなくなったらさ! 娘さんを探して見つけてきてあげるよ! そこからは三人で仲良く暮らそうよ!」
 ブレイカーはとても上機嫌で最後の自分の失言にも気づけていない。そんなブレイカーを転生者夫婦は優しく見つめ、頷く。

 同時に上空の天聖者達から豪雨かと見間違うほどの銃弾や魔法がログハウスめがけて撃ちだされた。

 不幸なことに、ブレイカーは自分に向けられる攻撃や殺意にあまりにも鈍感だった。彼女が持つ無敵の身体と引き換えに、慎重さや警戒心というものを失っていたのだ。
 しかしそんな彼女でも、大量の凶弾が鳴らしている空気を切り裂く大きな音には気づくことができた
「あれ? 何の音だろ?」
 ここで彼女が確認の為に窓から上を覗き込む事よりも、念のために両親に近づいたことは非常によい判断だった。確かに違和感や敵の攻撃を感じ取る力は衰えていたかもしれないが、一旦何かを感じた後の対処については何千年も続く戦いの中で磨かれていたのだ。
 ケータとヨーコがブレイカーの言葉につられて何となく上を見上げる。もちろんそこには天井があるので何も見つける事はできないのだが、真上から発せられる轟音が気にならないほうがおかしい。
 
 そして次の瞬間天井が爆音とともに砕け飛び散り、天聖者達の攻撃が三人の身体にまともに降り注いだ。

「まずいっ!」
 ブレイカーは自分の身体が穴だらけになる感覚を伴いながら両親の手を握ろうと手を伸ばす。
(でも……)
 ほんの僅かな時間、コンマ数秒だけ彼女は躊躇した。ブレイカーは自分の両親を良く知っている。誰よりもよく知っているから、怪我を治しても二人の精神を変に治療することはないはずだ。
 どのみちこのままでは二人は助からないのだ。この空からの攻撃は途切れることなく、そしてこの部屋を埋め尽くすように降り注いでいる。自分よりも両親の方に多くの攻撃が落ちていることを一瞬で理解し、二人に同時に手を伸ばす。
(間に合えええええ!)
 視界の中で自分の両親が穴だらけになっていく。しかし次の瞬間にはブレイカーの指先が二人に同時にふれ、ボロボロのなった二人の身体はすぐに元通りになった。
(治った!)
 死者を治す事はできない。傷が治ったということは二人はまだ死んでいなかったという事なのだ。本当に間一髪だったが、二人の転生者は命を落とさずに済んだ。しかし喜んでいる場合ではない。
「ケータさん……、ヨーコさん……?」
 自分の全治の能力が二人を壊していないか確かめるために恐る恐る声をかける。ここで虚ろな返事が返ってきたりしてしまえば、彼女の精神は再び音を立てて壊れてしまうだろう。しかし返ってきた答えは、彼女の想像している内容とはまるで違うものだった。
「ぐが……グウゥ……アググ」
 二人ともが何かを耐えるような苦悶の呻きを漏らしている。顔を強くしかめ、身体中から脂汗がにじんでいるのがわかった。
(もしかしてダメだったの!?)
 自分が二人を壊してしまったのかと血の気が引く。しかし自分が治療して壊してしまった人間達に、こんな苦しみ方をする者はいなかった。全治の能力は精神を『いい人』に書き換えてしまうので、反応が虚ろになったり不安定になる者はいたのだが、こんな苦痛を我慢しているような様子になった者はいない。
(どうして……!? 何が起きてるの!?)
 とにかくここから離れるために二人を抱え、すでに天井という天井をすべて失ってしまったログハウスから飛び出る。近くの森に駆け込み木々で上空からの視線を遮断しようとしたが、空から降り注ぐ攻撃は正確に自分たちを追跡し、どこにいても真上から降り注いできた。
 その間も両脇の二人からの苦悶の声は大きくなっている。逃げても意味がないのならとにかくこの攻撃主を止めなければならない。ブレイカーは一瞬でも手を離さないように注意しながら二人を地面に置き、空を見上げて落ちてくる銃弾や魔法の先を見通すかのように目を細める。
(だめだ……!)
 ブレイカーはこういう遠距離から放たれる攻撃には、その攻撃を食らいながら距離を詰める事で対処してきた。しかし今自分の両手の先には両親が横たわっており、この手を離すことは即彼らが粉々になってしまうことを意味している。そしてその両親は今、謎の攻撃に絶えず苦しまされているようで、口から呻き声を漏らし続けている。
(なんで! たとえこの攻撃者がどんな攻撃をパパとママにしていたとしても! 私が治してるはずなのに!)
 膝をすりむいて泣きわめく子供をあやすかのように、ブレイカーは両親をその両腕に抱く。
そして……そして気づいてしまったのだ。両親が苦しみ続けている理由に。

「ああ…………そんな……そんな……、どうすればいいの……どうすればいいの! たすけて! オール……! ダウター! リーダー! 誰か……誰か助けてえ……!」

 空からの攻撃によって既に焼け野原になってしまった森に、救いを求めるブレイカーの声が虚しく響き続けた。

 
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