テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第三章

3-38 ブレイカー12

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 もうどれくらい繰り返しただろうか。一万七千百三十九個の世界を何度も何度も通り過ぎていく。これらの世界はもうすでにクリア済みだから、僕にできる最速の速さで駆け抜けている。それにもかかわらず、次の世界、一万七千百四十番目の世界に向かおうとすると、決まってリーダーがタイムアップを告げに来るのだ。
 時間ん短縮のためにできる何かは全てやり尽くしたように思う。動きから一切の無駄をなくし、道中から待ち時間が消え去ったためにダウターとは会話する余裕すらない。そんな中で彼はよく僕に合わせて動いてくれていると思う。本当にこれ以上短縮できるものは何もない。
 扉から出て、アカシックレコードを開き、医学の部分をコピーし、解毒の呪符を作り、世界中に飛ばし、扉に入る。これを一万七千百三十九回繰り返す。最後は扉に入れずにリーダーが出てきて終わり。これを何回繰り返した?
 僕の体は疲れを知らない。僕の心もブレイカーの為なら疲れを感じるはずがなかった。でも……
 これからもこれを続けていけるのだろうか? 終わりの見えない永遠に続く繰り返しを、自動化された動作と思考に身を預けながら、これをどれだけ続けることになるのだろうか?
 もはや自分が今どこで何をしているのかすらわからなくなっていた。それでも僕の身体は勝手に動き、スキルを自動的に発動させていく。思考や意識に余裕ができたので、全部ブレイカーに謝ることに使っている。全能をもってしても時間を止めたり伸ばしたりすることはできなかった。僕に出来ることはもうこのまま奇跡を祈るぐらいしかない。
 自分への苛立ちも、ブレイカーへの申し訳なさも、誰かへの祈りも、この繰り返しの中で段々と消えていった。



(随分と苦しそうな顔をしとるなあ)
 目の前でせわしなく動き回るオールの姿を眺める。必死の形相を浮かべながら一連の行動を繰り返す姿はもはや哀れでもある。
 彼が医学書と解毒の呪符を飛ばしたのに合わせて導きの扉を開ける。オールと同時にそれに入り、次の世界へ進んだ。
(オールはこれをもう何回繰り返しとるんやろか)
 この人生より前の記憶を与えられていない自分にとっては最初で最後の一回目なのだが、全て引き継いでいる彼はもう何十回とこの終わりのない世界旅行を続けているのだろう。経験したことがないので推し量るしかないが、自分では到底耐えることができないだろう。
 オールが何をしているかはわからない。リーダーはよく肝心な部分をぼかして話を伝えてくる。そのことについて疑問や怒りなどはない。リーダが『そうした』ということは、『そうするしかなかった』ということだから。我々アンタッチャブルにとってリーダーは絶対だ。彼ほどこの転生世界を憎み、人を助けることに費やし、罪を背負っているものはいないのだから。
(ブレイカーあたりかな)
 タイミング的にもそうだろう。さっき別れたばかりのブレイカーとその両親に、きっと何かが起きるのだと思う。そしてオールは彼女たちを助けるためにこれを繰り返しているのだ。自分を助けてくれたあの時のように。何度も何度も。
 この形相を見るにあまりうまくは行っていないのだろう。通り過ぎた世界は既に千を超えるが、彼の動きは録画したものを再生しているかのように緻密で正確だ。彼は自分達が壊してきた世界の尻拭いをしている。そんなオールをこうして見ているしかないのは自分としてもとても辛いが、リーダーからは必要最低限以外の手助けをしないように言われている。
(お前が自分で気付くしかないんや)
 あと一歩のところまで来ているように感じる。既にオールの行動やスキルの発動は自動化されているようだし、後はそれをもう一段階昇華させるだけなのだ。
(気付け……オール。今のお前の一番の無駄と可能性に……)
 強く握った拳や噛んだ唇から血が流れるのを感じてすぐに治す。オールに違和感を抱かせてはならない。自分が答えを知っていることを少しでも悟られて仕舞えば、彼の開眼の機会はまた遠くまで失われてしまうだろう。
 いつの間にかオールの口からは懺悔や謝罪の言葉が漏れていた。
(まずい……)
 彼は既に救済ではなく贖罪の段階に達しているのかもしれない。ブレイカーを助けるためではなく、ブレイカーを助けられなかった自分への罰や神頼みで、無為無策にただただ繰り返している段階。全てを諦めてしまった状態だ。
(どうする……?)
 次の自分に判断を丸投げしてしまうか? それが一番安全で確実であるように思う。しかし今回の自分が丸投げを選択すると言う事は、次回の自分もさらにその次の自分に丸投げしてしまう可能性が高いだろう。するとどうなる? オールはこの繰り返しの輪廻から逃れられない。我らの罪を肩代わりしてくれている、あのリーダーと同じように。
「スピードアップフィールド」
 オールに気づかれないように小声で魔法を発動する。ありとあらゆる隠蔽魔法をてんこ盛りにして、極めて効果の低いたった一枚のスピードアップフィールドを導きの扉の前に置いた。こんなもので短縮できる時間は一秒にも満たないだろうが、これ以上の魔法を使うことはオールにバレる可能性と、リーダーの命に反する可能性の両方から考えてもできなかった。
(諦めるな。オール。信じろ。お前は俺のビリーバーの力を持ってるんやぞ)

 ダウターにできることは、いつも通り全てを噛み殺してニコニコと笑うだけだった。
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