テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

文字の大きさ
97 / 107
第三章

3-43 ブレイカー17

しおりを挟む
「やっと……、やっと間に合ったよ。ブレイカー」
 七色の盾を維持しながら、重なるようにして倒れている三人の足元に立ち、彼女たちに大きな怪我や変容がないかを確認する。ブレイカーはワアワアと泣きながらありとあらゆる文句を言っているようだったが、残り二人の様子がおかしい。まさか、と思いよく調べてみるとゆっくりと静かな呼吸音が聞こえた。どうやら単に気絶しているだけのようだ。全身を貫く激しい痛みから解放された安堵からだろう。
「もう大丈夫だよ」
 未だに激しく泣き続けているブレイカーに優しく話しかける。今の彼女からは絶対の力を持つアンタッチャブルの威厳も恐怖も微塵も感じられない。まさに年相応の女の子といったところだ。
 相変わらず上空からは数多の攻撃が降り注いでいたが、僕の盾を貫けるようなものは一つもないようだ。空を見上げて攻撃が飛んできている方向を強くにらむ。あの先にブレイカーを壊した天聖者達がいるのだ。
 遥か上空にいるであろう敵に向けて手をかざす。あとは頭の中で考えるだけでいい。
(こういう時には僕の力はとても便利なんだよな)
 この攻撃を全てかき消すような一撃を、できれば攻撃者達もまとめて消し去ることができる強い一撃を撃ちたい。
 頭の中にいくつかの魔法やスキルが浮かんだ。僕はその名前を確認することなく一つ選び、発動する。
 かざした右手から巨大な極光の光線が放たれた。このどんよりとした毒と病気の世界に相応しくない輝きをもった光は、七色の盾にぶつかるとバチバチと激しい音を立てて力比べをしている。
(おっと)
 慌てて七色の盾を解除する。障害物のなくなった光線はついに空へと解き放たれ、空からの攻撃を丸々全て飲み込みながら、さらに上空へと伸び続けた。


「地上に新手が一人現れました!」
 ブレイカー達の遥か上空。休むことなく攻撃を撃ち続けながら、天聖者の一人がシーカーに報告する。
「見えている」
 シーカーは自分の聖名による能力、覗き目によって状況を既にを把握していた。ブレイカーの横に現れたその男は
見たこともないような輝きを持つ幾層にも重なったシールドを出現させ、彼らの攻撃を完全に防いでしまっている。
「何故だ……?」
 この作戦に邪魔者は決して現れないはずだった。なぜなら全てを理解し、見通すことのできる女神様がそうおっしゃっていたからだ。にもかかわらず眼下には謎の男が現れ、ブレイカー達に対する攻撃をいともたやすく防いでいる。
「どうしますか!?」
 部下たちから矢継ぎ早に指示を求める声が聞こえてくる。シーカーは一瞬のうちに思考を巡らし、攻撃の継続を決定する。本来であれば予定外の出来事が起きた時点で撤退すべきであった。彼らの普段の役割は偵察であり、面と向かっての実戦経験は少ない。しかし『探す者』の聖名により部下たちには見張りなど花の少ない任務しか与えてやれなかった。そのせいで実戦部隊から軽んじられ、天聖者としてどれほど歯がゆい思いをさせてきたこと、アンタッチャブルの撃破による名声と尊厳を部下たちに与えたいという思いが、わずかに彼の撤退への判断を遅くしてしまい、そしてそれが彼らの命運を分けてしまった。
「光が……! 来ます!」
 部下の一人がそう叫んだのを聞いたとき、天聖軍偵察部隊隊長『シーカー』並びに、彼の忠実な部下達はこの世界から消えてしまった。
 

 空を覆う紫色の雲を突き破り、敵に向かって光の速さで伸び続けた極光は、ある瞬間にフッと全て消えてしまう。その理由はたった一つ、僕が消し去りたいと思った相手が消え去ったからだった。空からの攻撃は既に止み、そこには元のどんよりとした暗雲が広がるのみだ。
「もう大丈夫だよ」
 もう一度ブレイカーに声をかける。その頃には彼女も多少は落ち着いていたようで、顔のメイクはめちゃくちゃになってしまっていたものの、涙は止まっていた。
「ここで最後だ」
 僕は走り抜けてきた十万の世界で繰り返してきた作業をここでも行う準備をする。気持ちを落ち着けて、思考が途中で途切れないように、ちょっと間抜けで長ったらしいスキルの名前を朗読する。
「メディカルキュアコピーブレイクアウトレコード」
 僕たちの目の前に一冊の本が現れたかと思うと、それは数を増やしながらそれぞれどこかへと飛んでいく。これでこの世界も元に戻るだろう。美しい緑が生い茂るようになれば、ブレイカーやその両親達の罪の意識も薄れていくだろう。そうすれば『世界が汚れて壊れてしまった』という呪いのような強い思い込みも消えていき、導きの扉の力による世界の変化も収まっていくに違いない。

「あ……ありがとう。オール……」
 満足げに頷く僕の後ろから、モジモジしながらブレイカーが感謝の言葉を述べた。
「いいんだ。それに……感謝される資格もないと思う。ここに来るまでに何度も何度も繰り返した。とても時間がかかってしまった」
 ようやくブレイカーを助けることができたとはいえ、ここに来るまでに何回彼女を狂わせてしまったのだろうか? 終わりよければすべてよしと言う言葉もあるが、僕がやり直しをするたびに実の両親を失っていた彼女の事を考えると感謝どころか責められても文句は言えないだろう。
「それでもありがとう、オール。ここまでの私達は、きっと世界と一緒に壊れてしまったのだろうけど……それでもこれからの私はパパとママと生きていける。あなたがいなかったら、私はずっとベッドに横たわるママとそれを見つめるパパを眺める事しかできなかった。だから……ありがとう、オール。私達を助けてくれて」
 彼女はそう言って僕に近づいたかと思うと、いつもなら僕よりちょっとだけ低い彼女の背丈が僕と並ぶ。ああ、背伸びをしたんだな、と理解した瞬間、頬に柔らかい感触が触れたかと思うと、彼女はすぐに僕から離れていった。
「さあ、ここにずっといたんじゃいつまた新手がやってくるかもわからないわ! 帰りましょう、オール。みんなのところへ」
 ブレイカーはニッコリと笑うと両親を抱きかかえ、導きの扉を召喚する。相変わらず彼女の顔は崩れたメイクでめちゃくちゃだったが、その笑顔は今まで見た彼女の表情のどれよりも美しく見えた。




 ブレイカーは光の力を取り戻しました

 また中空に謎の文字が現れていたが、それは誰にも気づかれる事はなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...