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第三章
3-43 ブレイカー17
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「やっと……、やっと間に合ったよ。ブレイカー」
七色の盾を維持しながら、重なるようにして倒れている三人の足元に立ち、彼女たちに大きな怪我や変容がないかを確認する。ブレイカーはワアワアと泣きながらありとあらゆる文句を言っているようだったが、残り二人の様子がおかしい。まさか、と思いよく調べてみるとゆっくりと静かな呼吸音が聞こえた。どうやら単に気絶しているだけのようだ。全身を貫く激しい痛みから解放された安堵からだろう。
「もう大丈夫だよ」
未だに激しく泣き続けているブレイカーに優しく話しかける。今の彼女からは絶対の力を持つアンタッチャブルの威厳も恐怖も微塵も感じられない。まさに年相応の女の子といったところだ。
相変わらず上空からは数多の攻撃が降り注いでいたが、僕の盾を貫けるようなものは一つもないようだ。空を見上げて攻撃が飛んできている方向を強くにらむ。あの先にブレイカーを壊した天聖者達がいるのだ。
遥か上空にいるであろう敵に向けて手をかざす。あとは頭の中で考えるだけでいい。
(こういう時には僕の力はとても便利なんだよな)
この攻撃を全てかき消すような一撃を、できれば攻撃者達もまとめて消し去ることができる強い一撃を撃ちたい。
頭の中にいくつかの魔法やスキルが浮かんだ。僕はその名前を確認することなく一つ選び、発動する。
かざした右手から巨大な極光の光線が放たれた。このどんよりとした毒と病気の世界に相応しくない輝きをもった光は、七色の盾にぶつかるとバチバチと激しい音を立てて力比べをしている。
(おっと)
慌てて七色の盾を解除する。障害物のなくなった光線はついに空へと解き放たれ、空からの攻撃を丸々全て飲み込みながら、さらに上空へと伸び続けた。
「地上に新手が一人現れました!」
ブレイカー達の遥か上空。休むことなく攻撃を撃ち続けながら、天聖者の一人がシーカーに報告する。
「見えている」
シーカーは自分の聖名による能力、覗き目によって状況を既にを把握していた。ブレイカーの横に現れたその男は
見たこともないような輝きを持つ幾層にも重なったシールドを出現させ、彼らの攻撃を完全に防いでしまっている。
「何故だ……?」
この作戦に邪魔者は決して現れないはずだった。なぜなら全てを理解し、見通すことのできる女神様がそうおっしゃっていたからだ。にもかかわらず眼下には謎の男が現れ、ブレイカー達に対する攻撃をいともたやすく防いでいる。
「どうしますか!?」
部下たちから矢継ぎ早に指示を求める声が聞こえてくる。シーカーは一瞬のうちに思考を巡らし、攻撃の継続を決定する。本来であれば予定外の出来事が起きた時点で撤退すべきであった。彼らの普段の役割は偵察であり、面と向かっての実戦経験は少ない。しかし『探す者』の聖名により部下たちには見張りなど花の少ない任務しか与えてやれなかった。そのせいで実戦部隊から軽んじられ、天聖者としてどれほど歯がゆい思いをさせてきたこと、アンタッチャブルの撃破による名声と尊厳を部下たちに与えたいという思いが、わずかに彼の撤退への判断を遅くしてしまい、そしてそれが彼らの命運を分けてしまった。
「光が……! 来ます!」
部下の一人がそう叫んだのを聞いたとき、天聖軍偵察部隊隊長『シーカー』並びに、彼の忠実な部下達はこの世界から消えてしまった。
空を覆う紫色の雲を突き破り、敵に向かって光の速さで伸び続けた極光は、ある瞬間にフッと全て消えてしまう。その理由はたった一つ、僕が消し去りたいと思った相手が消え去ったからだった。空からの攻撃は既に止み、そこには元のどんよりとした暗雲が広がるのみだ。
「もう大丈夫だよ」
もう一度ブレイカーに声をかける。その頃には彼女も多少は落ち着いていたようで、顔のメイクはめちゃくちゃになってしまっていたものの、涙は止まっていた。
「ここで最後だ」
僕は走り抜けてきた十万の世界で繰り返してきた作業をここでも行う準備をする。気持ちを落ち着けて、思考が途中で途切れないように、ちょっと間抜けで長ったらしいスキルの名前を朗読する。
「メディカルキュアコピーブレイクアウトレコード」
僕たちの目の前に一冊の本が現れたかと思うと、それは数を増やしながらそれぞれどこかへと飛んでいく。これでこの世界も元に戻るだろう。美しい緑が生い茂るようになれば、ブレイカーやその両親達の罪の意識も薄れていくだろう。そうすれば『世界が汚れて壊れてしまった』という呪いのような強い思い込みも消えていき、導きの扉の力による世界の変化も収まっていくに違いない。
「あ……ありがとう。オール……」
満足げに頷く僕の後ろから、モジモジしながらブレイカーが感謝の言葉を述べた。
「いいんだ。それに……感謝される資格もないと思う。ここに来るまでに何度も何度も繰り返した。とても時間がかかってしまった」
ようやくブレイカーを助けることができたとはいえ、ここに来るまでに何回彼女を狂わせてしまったのだろうか? 終わりよければすべてよしと言う言葉もあるが、僕がやり直しをするたびに実の両親を失っていた彼女の事を考えると感謝どころか責められても文句は言えないだろう。
「それでもありがとう、オール。ここまでの私達は、きっと世界と一緒に壊れてしまったのだろうけど……それでもこれからの私はパパとママと生きていける。あなたがいなかったら、私はずっとベッドに横たわるママとそれを見つめるパパを眺める事しかできなかった。だから……ありがとう、オール。私達を助けてくれて」
彼女はそう言って僕に近づいたかと思うと、いつもなら僕よりちょっとだけ低い彼女の背丈が僕と並ぶ。ああ、背伸びをしたんだな、と理解した瞬間、頬に柔らかい感触が触れたかと思うと、彼女はすぐに僕から離れていった。
「さあ、ここにずっといたんじゃいつまた新手がやってくるかもわからないわ! 帰りましょう、オール。みんなのところへ」
ブレイカーはニッコリと笑うと両親を抱きかかえ、導きの扉を召喚する。相変わらず彼女の顔は崩れたメイクでめちゃくちゃだったが、その笑顔は今まで見た彼女の表情のどれよりも美しく見えた。
ブレイカーは光の力を取り戻しました
また中空に謎の文字が現れていたが、それは誰にも気づかれる事はなかった。
七色の盾を維持しながら、重なるようにして倒れている三人の足元に立ち、彼女たちに大きな怪我や変容がないかを確認する。ブレイカーはワアワアと泣きながらありとあらゆる文句を言っているようだったが、残り二人の様子がおかしい。まさか、と思いよく調べてみるとゆっくりと静かな呼吸音が聞こえた。どうやら単に気絶しているだけのようだ。全身を貫く激しい痛みから解放された安堵からだろう。
「もう大丈夫だよ」
未だに激しく泣き続けているブレイカーに優しく話しかける。今の彼女からは絶対の力を持つアンタッチャブルの威厳も恐怖も微塵も感じられない。まさに年相応の女の子といったところだ。
相変わらず上空からは数多の攻撃が降り注いでいたが、僕の盾を貫けるようなものは一つもないようだ。空を見上げて攻撃が飛んできている方向を強くにらむ。あの先にブレイカーを壊した天聖者達がいるのだ。
遥か上空にいるであろう敵に向けて手をかざす。あとは頭の中で考えるだけでいい。
(こういう時には僕の力はとても便利なんだよな)
この攻撃を全てかき消すような一撃を、できれば攻撃者達もまとめて消し去ることができる強い一撃を撃ちたい。
頭の中にいくつかの魔法やスキルが浮かんだ。僕はその名前を確認することなく一つ選び、発動する。
かざした右手から巨大な極光の光線が放たれた。このどんよりとした毒と病気の世界に相応しくない輝きをもった光は、七色の盾にぶつかるとバチバチと激しい音を立てて力比べをしている。
(おっと)
慌てて七色の盾を解除する。障害物のなくなった光線はついに空へと解き放たれ、空からの攻撃を丸々全て飲み込みながら、さらに上空へと伸び続けた。
「地上に新手が一人現れました!」
ブレイカー達の遥か上空。休むことなく攻撃を撃ち続けながら、天聖者の一人がシーカーに報告する。
「見えている」
シーカーは自分の聖名による能力、覗き目によって状況を既にを把握していた。ブレイカーの横に現れたその男は
見たこともないような輝きを持つ幾層にも重なったシールドを出現させ、彼らの攻撃を完全に防いでしまっている。
「何故だ……?」
この作戦に邪魔者は決して現れないはずだった。なぜなら全てを理解し、見通すことのできる女神様がそうおっしゃっていたからだ。にもかかわらず眼下には謎の男が現れ、ブレイカー達に対する攻撃をいともたやすく防いでいる。
「どうしますか!?」
部下たちから矢継ぎ早に指示を求める声が聞こえてくる。シーカーは一瞬のうちに思考を巡らし、攻撃の継続を決定する。本来であれば予定外の出来事が起きた時点で撤退すべきであった。彼らの普段の役割は偵察であり、面と向かっての実戦経験は少ない。しかし『探す者』の聖名により部下たちには見張りなど花の少ない任務しか与えてやれなかった。そのせいで実戦部隊から軽んじられ、天聖者としてどれほど歯がゆい思いをさせてきたこと、アンタッチャブルの撃破による名声と尊厳を部下たちに与えたいという思いが、わずかに彼の撤退への判断を遅くしてしまい、そしてそれが彼らの命運を分けてしまった。
「光が……! 来ます!」
部下の一人がそう叫んだのを聞いたとき、天聖軍偵察部隊隊長『シーカー』並びに、彼の忠実な部下達はこの世界から消えてしまった。
空を覆う紫色の雲を突き破り、敵に向かって光の速さで伸び続けた極光は、ある瞬間にフッと全て消えてしまう。その理由はたった一つ、僕が消し去りたいと思った相手が消え去ったからだった。空からの攻撃は既に止み、そこには元のどんよりとした暗雲が広がるのみだ。
「もう大丈夫だよ」
もう一度ブレイカーに声をかける。その頃には彼女も多少は落ち着いていたようで、顔のメイクはめちゃくちゃになってしまっていたものの、涙は止まっていた。
「ここで最後だ」
僕は走り抜けてきた十万の世界で繰り返してきた作業をここでも行う準備をする。気持ちを落ち着けて、思考が途中で途切れないように、ちょっと間抜けで長ったらしいスキルの名前を朗読する。
「メディカルキュアコピーブレイクアウトレコード」
僕たちの目の前に一冊の本が現れたかと思うと、それは数を増やしながらそれぞれどこかへと飛んでいく。これでこの世界も元に戻るだろう。美しい緑が生い茂るようになれば、ブレイカーやその両親達の罪の意識も薄れていくだろう。そうすれば『世界が汚れて壊れてしまった』という呪いのような強い思い込みも消えていき、導きの扉の力による世界の変化も収まっていくに違いない。
「あ……ありがとう。オール……」
満足げに頷く僕の後ろから、モジモジしながらブレイカーが感謝の言葉を述べた。
「いいんだ。それに……感謝される資格もないと思う。ここに来るまでに何度も何度も繰り返した。とても時間がかかってしまった」
ようやくブレイカーを助けることができたとはいえ、ここに来るまでに何回彼女を狂わせてしまったのだろうか? 終わりよければすべてよしと言う言葉もあるが、僕がやり直しをするたびに実の両親を失っていた彼女の事を考えると感謝どころか責められても文句は言えないだろう。
「それでもありがとう、オール。ここまでの私達は、きっと世界と一緒に壊れてしまったのだろうけど……それでもこれからの私はパパとママと生きていける。あなたがいなかったら、私はずっとベッドに横たわるママとそれを見つめるパパを眺める事しかできなかった。だから……ありがとう、オール。私達を助けてくれて」
彼女はそう言って僕に近づいたかと思うと、いつもなら僕よりちょっとだけ低い彼女の背丈が僕と並ぶ。ああ、背伸びをしたんだな、と理解した瞬間、頬に柔らかい感触が触れたかと思うと、彼女はすぐに僕から離れていった。
「さあ、ここにずっといたんじゃいつまた新手がやってくるかもわからないわ! 帰りましょう、オール。みんなのところへ」
ブレイカーはニッコリと笑うと両親を抱きかかえ、導きの扉を召喚する。相変わらず彼女の顔は崩れたメイクでめちゃくちゃだったが、その笑顔は今まで見た彼女の表情のどれよりも美しく見えた。
ブレイカーは光の力を取り戻しました
また中空に謎の文字が現れていたが、それは誰にも気づかれる事はなかった。
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