驚異的時間

yoshimax

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T・ホークシャー蔵雄

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 一ヶ月前、モンザンバーノの小さな教会の中で目覚めた。
 一冊の日記を握りしめて・・・・・
 
 そして、もう片方の手には聖母マリアのメダイを握りしめていた。

 *** *** *** *** ***

 財団員、T・ホークシャー蔵雄の日記

 東亜が前世紀に開かれたとは云え未だ不可解な習慣は残っている。東アジアには何処かそういう霧に覆われた所が在る。そんな事を、B&Bのオーナーに薦められた『PIZZERIA・DA・COCCO』のマルゲリータを頬張りながら考えていた。ローマには三泊だ。此処では私は外国人、そのためステレオタイプ的イタリア認識があるのも仕方ない、それはイタリアがスパゲティとピザの国って事、だがB&Bのオーナーもまず私に美味いピザ屋を紹介したのだ。B&Bは、TAX入れて三日で百ユーロ。六月九日はペンテコステだった。二千年程前ヘブライ語でイェホシュア(神は救い出す)と呼ばれるイエス・キリストの聖霊が降りて来た。その日だ。イタリアはキリスト信仰の国。首都ローマは永遠の祈りの地、ヴァチカンを内包している。
 レオナルド・ダ・ヴィンチ空港からローマ・テルミニ駅迄はトレノ(列車)で十四ユーロ。キオスクでイタリア漫画を二冊、十ユーロ。ランチにポモドロと炭酸水、十二ユーロ。サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ教会でロザリオ、十ユーロ。青りんごとミネラルウォーター、二ユーロ。

 B&Bへ戻りシャワーを浴びた。

 ローマは愛の都・・・。夫婦の密接な愛は創造主がデザインした。愛し合う二人を通してキッズが生まれる。キッズは愛で育つ。神様は愛の仕事を人間に手伝わせる。TVをつけっぱなしにしてた。イタリア語ドラマ映画だ。主人公の刑事の息子が何か褒められない事をしでかした様だ。刑事は息子を叱る。親が子に良い人間に育って欲しいと思うのは万国共通だ。部屋で五時間位熟睡。(熟睡する前は主イエスの事を思い描いていた。)

 再びピザ屋。ローマの基本マルゲリータ、そしてコカ・コーラ、カプチーノで十三ユーロ。オフィスから受けた任務について思い巡らせていた。
 ローマに二十年住んでいるイタリア映画研究者を演じる事。その為にアダムと呼ばれる男の指導を受ける。彼はニューヨークのカレッジで映画コースを修了した人物らしい。購入したUDON等の、アダムへの土産二十ユーロ。
 一九七〇年はもう半世紀以上前。すでにジェット旅客機の時代に入っていた。ジェット推進でも香港から羅馬(ローマ)は十時間を超えるフライト。その時代ブルース・リーは此の場所へやって来たのだ、『THE WAY OF THE DRAGON』と云う今やクラシックとも称される映画を作る為。東亜からのトラベラーは少なかった時代。レストランのメニューにもアジアンは困った。リーはイタリア語が分からず、メニューを指差すが失敗し何皿もスープばかりをオーダーした。

 六月十日マンデー。アダムに会う日。場所はチネチッタ。
 九時にB&Bを出る。マクドナルドのブレックファスト、三ユーロ。朝食と共に読む漫画『DYLAN DOG』、十二ユーロ。
 チネチッタ迄の往復SUBWAY料金、三ユーロ。
 チネチッタ入場料、十五ユーロ。妻へチネチッタ・キャラクタードールなど、四十五ユーロ。
 メインオフィスから頼まれた特殊通信の料金、五ユーロ。事務処理用パスポートコピー料金、二ユーロ。ランチのハラル料理、九ユーロ。

 教会前のカフェ・レストランでパスタ・ディナー、二十ユーロ。ローマの物価は割と高い。昔なじんだ東欧スコピエなら三分の一で済んだ。

 ローマ滞在費是迄二百八十一ユーロ。財団が用意した準備費で足りるのだろうか。財団も近頃はめっきり不況だ。

 六月十一日チューズデー。八時半起床。サンピエトロ広場へ。置いたチップ、二ユーロ。キオスクで気になる漫画を発見、購入、八ユーロ。未来世界SF漫画。イタリーのコミックは洒落てる。スペイン風ファサードスクエア(住居群と商店のコミュニティ)を通る。ローマは多民族都市だ。この辺りも多くの移民が店を構える。空腹を感じ、ハラル式チキンとコーク、七ユーロ。半分は明日のランチ用。付近には安い衣類が売っていた。XLの衣服とタオルを購入、五ユーロ。友人の子にピノキオ絵本、十七ユーロ。行列が出来るマダムのピザ屋のカットピザ、十ユーロ。サンピエトロの、模型のお土産、二ユーロ。サンピエトロで祈り。感謝。ディナーはマカロニのポモドーロ・バジル、十五ユーロ。
 六月十二日。十時AM宿を出る。ローマ近郊ポメツィアにて、エドに会うためだ。宿の部屋にチップ四ユーロ。いい宿だった。ブレックファストは昨日のレフトオーバーのチキンサンド、そして林檎。最寄りの地下鉄駅からテルミニ迄、二ユーロ。ポメツィア迄、国鉄三ユーロ。駅でランチのパニーニ等を食べ、ポメツィアでエドと必要なものを買う。二十ユーロ。

 翌日。
 地中海へと派遣された。ポメツィアは地中海に面しているが、今回の任務はフランコ・ベルジアム・フォーリンアーミーのティームに属し、地中海の島を、乗っ取った宇宙生物から奪還する事。まるでSFだ・・・。このミッションは公にされていない。ティームは男女混合で十二人。キリストの使徒と同じ数だ。エド、ポーリーナ、フランチェスカ、サラ、マルコ、クララ、ローレンス、ニンジャ、レイディ・フレンチ、セルジオ、フランク、そして私。是迄支出四百ユーロ。
 すでに島に入って居る。宇宙生物による島の占領以来、廃墟になっているギムナジウムにファースト・キャンプを展開。ギムナジウム傍のカフェは、老齢のオーナーがまだ意地で営業している。宇宙生物襲来以前の日常生活は回復されていないが、島を出ずに暮らしている人々も居る。その中にはティーンエイジャーも居た、・・・彼はカフェで黙ってサリンジャーを読んでいた。誰もが通る道だ。

 レイディ・フレンチがティームの指揮を執る事になった。二十歳の美女である。士官学校を出たばかりだが才能はある。彼女は突然、島のビーチへ行こうと言い出した。緊張感を解す為に泳ぐと言う。彼女は水着に着替えると、長い黒髪を靡かせて海へ走って行った・・・。
 が、その時、彼女の目の前の海面が盛り上がった、・・・奴らの1匹だ!
 瞬間、レイディ・フレンチは長い黒髪の下に隠し持っていた小型の武器『ソニッカー』を作動。巨大な反響音が生じ、三メートルの『蚊』の様な怪物は息絶えた。
 フランコ・ベルジアム・フォーリンアーミーが新規開発したスペシャルウェポン最初の勝利。
 今週のミッションはサタデー迄、あと三日。だが支給されるのは五十ユーロのみ・・・。

 フライデー。ギムナジウムのキャンプは昨夜、かなりの攻撃を受けた様だった。キャンプを張る時かなりガードを施したが、その朝には殆んどガタガタになっていた。奴らは何故、島に要塞を築き占拠した? もしかしたら何故など考えてはいけないのかも知れない。スズメバチが巨大巣を造り自分たちの生命を存続させようとする、それと同じなのだろう。だが人間としては奴らをのさばらせて置く訳にはいかないのだ。すでに島民は登録人口の十分の一以下になっている。
 キャノン・ソニッカーのテストが開始された。これを使用すれば一度で奴らに四倍のダメージを与えられる。とは云え、空気中から取り出すイオンエナジーのチャージャーを携帯せねばならず、こいつを持ち運びながらエネミーにロックオンするのはかなり大変だ。テストを何度かやっておかないと、ちゃんと機能するのか分からない様な複雑なメルボルン製のプラグインマシーンさ。

 六月十五日サタデー。昨夜はキャノン・ソニッカーのテストでかなり体力を消耗したみたいで、サーモンピザを頬張ってジョージアから来た隊員と少しカラオケを歌ったら、すぐに八時間睡眠した。久々のビールがそれを手伝ったのかも知れないな。
 レイディ・フレンチはゆっくりしたもんだ。この島でもパリの時間を味わっている。花柄の赤いドレスで是迄の戦果をマックブックにレコードしている、朝市で手に入れたメロンをスイスナイフでカットして食しながらさ。彼女はカットブレッドにケチャップサルサをつけてガスウォーターと共に頂くのが毎回の流儀だと分かった。他のフランスからの隊員も彼らの流儀で、ランチにワインをピザと一緒に飲んでいるようだ・・・。
「いいじゃないか、うん、本当にいいじゃないか」私はそう思うのだった。
 イタリアのプロフェッサーはパルミジャーノコロッケ、そして白ワインとピザ・・・。お国柄とカルチャーか・・・。レイディ・フレンチはふと何を思ったのか「メロン、半分あなたにあげる」と言って隣のテーブルに移り別の隊と交信を始めた。私は地中海オレンジジュースとチェリー、そしてメロン半分、それから市で手に入れたズッキーニのピザをランチにした。
 午後の作戦で、私はエネミーに捕らわれていた東南アジアの女性トゥグムを救出した。ダライラマの本をよく読んでいた父は昔、東南アジアで参加したミッション中、現地結婚で産まれた別離女児が居たと云う・・・。その話を思い出していた、年齢的に女児がトゥグムであるはずは無いが。思い出すのも何か感じたからだろう。こうした事をアジアでは『縁』と呼ぶそうだ。トゥグムは救出後、驚異的なスピードでキャノン・ソニッカーの構造・使用法を覚え私のアクションに同行。レイディ・フレンチとトゥグムは気が合うようだった。
 トゥグムはBIRYANI(インド亜大陸系チャーハン)を作るのが上手かった。彼女は自分がしたい事を描きながら行動するタイプで基本的には何でも任せられた。イタリアは想像以上に英語が通じない為、言葉をイタリア語に変換する作業はある程度時間を取った。私はこうした隊に属しているものの、本来あまり他人と共に行動するのが得意じゃない。アメリカに数年滞在した。アメリカでは風通しの良い土地柄から色々素晴らしい事を学んだ。
 Life, Liberty and the Pursuit of Happiness・・・かの国の素晴らしい信条だ。SUBARASHII!
 
 サンデー。キリスト教徒にとっては創造主への礼拝の日だ。しかし、あの怪物らも創造主によって造られたのか、それとも・・・? カトリック・キリスト教国イタリアのサンデーには店はあまりOPENしない。
 奴らの要塞から宇宙船のようなものが飛び立つのを見た。
 午後、宇宙船のようなものが戻って来た時、キャノン・ソニッカーで撃ち落とす事に成功。ソニッカーのハイパーバイブレーションを受けて中に居た怪物は溶けていた。宇宙船のような乗り物を調べると、それがどうやら異次元間航海船だと分かってきた。積荷は冷蔵庫のようなBOXだ。ガタガタ動いている。開けると、・・・中に南アジア系の男性が囚われていた。ソニッカーは我々人類には影響を及ぼさない事を思い出した。彼はトゥグムと共にフライドライスを作ってくれるようになった。南アジア料理の味は良かった。

 しかし、・・・異次元から来る、あの者らは何なのだろう?
 溶けた彼らの一体がテレパシーで私に語りかけた。
『我々はかつて人類だった、君らと同じ・・・』
 溶けゆく体の最後の力を振り絞っている様だ。
『二万年前、我々は危機的だったこの次元を捨て、別次元に移住した。しかし、そこも我々自身の兵器で滅びた。我々も人類とは全く違う生物になってしまった・・・』

 十七日。北イタリア・モンザンバーノへキャンプバスで移動。タウンに人は疎らだ。先の島での作戦に於いて我々は多少の勝利を収めたが、エネミーの証言から意外な事実が発覚した、・・・つまり『奴ら』は『我々』だったのだ! 先の島に在った(エネミーの?)要塞は、反重力テクノロジー(のようなもの)で全要塞ビルディングごと浮かび上がり、島から此処モンザンバーノ迄移動した。モンザンバーノの古代城が奴らの新しい要塞となった。
(此処迄使用額四百五十ユーロ)

 アート・アバロン男爵、そう名乗る者が我々の前に現れた。彼は、さながらドンキホーテだった。先祖は英国騎士とイタリアンソルジャーだという。アートは我々の仲間となり、キャノン・ソニッカーをうまく使いこなした。戦線は暫く優位に立つ事が出来た。
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