働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

文字の大きさ
41 / 229

第四十一話 希望の時間

しおりを挟む
 どれくらいの間、気を失っていたのか分からなかったが、夜露で服がビショビショに濡れていた。ボンヤリと目を開けて俺は苦笑する。目の前にうっすらと黄色の花がボーと光っている――月光ユリがひっそりと咲いていた……。俺は月光ユリの根を丁寧に堀り出した。まだ薄暗い空の中、辺りを見回すと川が流れている。俺は身体に残っている酷い匂いを洗い流したかったが諦めた。ここから三日かけてタリアの街に一人で戻らないといけない。この匂いで魔物が近づかない――この臭くて刺激臭の匂いが、小さな希望だと思うとため息が出た。

 崖から落ちる前に最後のポーションを飲んだとはいえ痛みは残る。それが崖から落ちた痛みか殴られた痛みか分からなかった。痛みは残るが普通に歩ける事が重要であった。獣道を一人で歩きながら笑ってしまう。昨日までビクビクしていた自分が嘘のようにいなかった。薄暗い山中、木々の間をすり抜けながら口笛を吹く。

 半日歩き続けて辺りが急に暗くなる。光が余り届かないので何の準備が出来なないまま夜を迎えた。近くの木の根元に腰を下ろしてうずくまる。肩に掛けていた鞄の中から干し肉を取りだし囓る。口の中に塩味が広がり身体に栄養が行き渡る感じがした。野営する道具を失ったので、着の身着のまま森の中で泊まるのは二度目の事だった。あの時と同じ状況だが一つだけ違う事がある、辺りが暗くなっているのにも拘らず、全く恐怖を感じない冒険者・・・になっていた。腹が満たされて俺はいつのまにか熟睡していた。

 朝靄の中、よろよろとした足取りで藪をかき分け悪路を歩く。疲労が溜まりかなり歩く速度が落ちているのが分かる。それでも歩みを止める事はなく前に進む。薄い霧の向こうに人影が見えた。じっと目をこらすと人ではなく二匹の中鬼だった。向こうも俺に気がついている様子。俺は戦いを避けようと獣道を少し外したが、中鬼は威嚇しながら俺に近づいてくる。足を止め薙刀を下に構える。二匹の中鬼が薙刀の間合いに入り一匹の中鬼を切り倒した。残った中鬼は俺を襲うことなく、下草に足を取られ尻を地面につけ動かない。どうやら仲間の中鬼が一太刀にされて怯えているようだ。俺は薙刀を上から構えて振り下ろす。刃は中鬼の頭の上で止まった。中鬼の目を見ながらゆっくりと獣道に戻りタリアの街を目指す。格好をつけた訳ではない。彼を殺そうと薙刀を振り上げたとき、コジコジとホワイトイーズルの姿が自分と重なっただけのこと――。

                        *      *      *  
  
 木々の隙間から光がこぼれ落ちる。太陽の光がこれほど力強く感じた事は今までなかった。俺はようやく無事にこの森から抜け出る事を確信した。日が沈む前になるだけ距離を稼ごうと足を動かす。疲労が溜まった身体を早く湯で流したいと夢想する余裕も出てきた。俺は肩で息をしながら最後の野営地に向かった。

 思った以上に体力の消耗は大きかった。野営地に着いた時には日はドップリ暮れていた。疲れで思考力が完全に欠如していた。勝手知ったる道だったので問題はなかったが、もし小鬼の群れにでも出会っていたらと思うとゾッとした。身体を横にし暗闇を見つめながら、早く明日が来るように痛切に願った。何故か美味い棒を食いながらラノベを読んでいる夢を見た……。

 ようやくタリアの街に着いたのに感慨に耽る事はなかった。感性が完全にオヤジ化している自分が悔しくなって――

「俺は生きて帰ったぞ!」

 道の中で大きく叫んだ。周りからイタイ人扱いされ俺を避けて人は流れていく……。そもそも、かなりキツイ臭いを振りまいていたから叫ばなくても同じだったかもしれない。

 久しぶりに我が家の扉を開けるとレイラとルリが俺を呆然と見つめる。

「生きてたんだ……」

 二人が俺に飛びついてきた。しかし、十日ほど家を留守にするとは伝えていたので、この歓迎に頭をひねる。――コジコジが俺が死んだと嘘の情報をギルドに伝えたと考えるとしっくり来た。

「訳は後で話すが、直ぐにテレサを呼んできてくれ。ルリはお風呂の準備をして欲しい」

 そう告げると膝から崩れ落ちた……。そして掠れた声で

「ポーションも……」

 十日振りの風呂が身体に染みる。身体を何回洗ってもあの臭いが取れない。仕方がないので湯船に浸かり生きている実感を感じた。温かいお湯で寝落ちしそうになったとき、部屋から大きな声が聞こえた。

「おっちゃん無事だったのか!」

 テレサが風呂場に飛び込んできた。湯槽から立ち上がり

「心配かけたな」

 素っ裸な俺を見た彼女は、真っ赤な顔をしてバタンと扉を閉めた――。

 俺はコジコジに殺されそうになった簡単な経緯と、これからする事を三人に話し行動に移した。

 俺はテレサを伴い、今回の依頼主であるゴードンの家に向かう。ゴードンはタリアの街でも屈指の大商人。大きな屋敷を構えそこで商売をしている。家の前では忙しそうに働く人が出入りしている。ゴードンに会いに来たと店の従業員に伝えると、鼻を摘んで相手にされなかった。テレサはそれを見てクスクス笑う。

「私は白薔薇騎士団の副隊長を任されているテレサというものだ、ゴードン氏に至急用件があり訪れた!」

「ハヒー、今すぐに伝えますので、しばらく待っていてくださいまし」

 態度を急変させ、店の中に飛んで入っていく。しばらくして俺たちは部屋の中に通された。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...