86 / 229
第八十七話 エルフ皇国【其の六】
しおりを挟む
夕食を終えた後、エルゾナ皇妃から連絡を貰う。転移魔法でラミア国に送り届けてもらえる事が決まった。これで何の憂いもなく出発が出来る。ベッドで横になるが、身体は疲れているのにどういう訳か中々寝付けない。
寝酒を飲もうとベッドから立ち上がる。テーブルに置いてある酒をグラスに注いだ。今日の疲れを流すよう、一気に酒を飲み干す。体中にアルコールが行き渡るが眠気は一向にこない。二杯、三杯と酒を飲み続ける。いつもなら美味しい酒の味が、全然しなかった。
突然、扉からコンコンとドアを叩く音がした。最終日なので、エルゾナ皇妃がまたテトラの様子を聞きたくて訪れたと思いドアを開いた。
扉の前にはテトラが待っていた。
「今日で最後だから遊びに来ちゃった」
小さな口から舌をペロッと出す。
「まあ、中に入れよ」
テトラは部屋に入るや否や 、椅子ではなく俺のベッドの上にちょこんと座った。そして、俺を見つめながらポンポンとベッドを二回叩き、隣に座るように促す。
俺は彼女に促されるまま横に座る。二人の距離が自然に近づく。
旅先では彼女に密着する場面は幾度もあったが、不覚にも、彼女の隣に座っただけでドギマギしてしまった。
「明日で最後だね……」
「ああ……」
まだ、酔ってもいないのに上手く口が回らない。
「また、遊びにいっても怒らない?」
「……」
どう答えて良いか分からず返事に窮する。
「あのね、私、父とは早くお別れしたの……」
もらわれて行く子犬のように寂しげな顔をする。
「皇妃から聞いたよ」
「私が働いて初めて買ったプレゼント」
彼女は俺に小さな包みを手渡した。
「開けてもいいか?」
「うん……」
包装紙を破くと中から木彫りのカップが出てきた。
「おっちゃん、お酒が好きだから……気に入らなかった?」
「凄く気にいたぞ、明日から使わせて貰うな」
そう言って、俺は彼女の腰に手を回し、優しく抱き寄せていた。彼女の心音が直に伝わる。
俺の心音の高鳴りも相手に伝わる……。
テトラは俺の目を覗き込み、にっと笑う。
「おっちゃんと一緒に寝るのは今日が最後だよね」
小さな口をゆっくり近づけ、耳元で囁く。
「覚えている? 旅の途中で雷が鳴ったこと……」
「ああ、覚えていぞ、テントが雷光で明るく光ったよな」
「私、凄く怖かったのを忘れないわ」
彼女も俺の身体に手を回して背中をギュッとつかむ――
「実は俺も怖かったのよ」
二人でクスクスと笑った。
しばらく思い出を語り合い、いつの間にか静かになった彼女を見ると、すやすやと寝息を立てていた。
サラリとした金髪を優しく触りながら、俺は寝付けない意味が分かったような気がした。
寝酒を飲もうとベッドから立ち上がる。テーブルに置いてある酒をグラスに注いだ。今日の疲れを流すよう、一気に酒を飲み干す。体中にアルコールが行き渡るが眠気は一向にこない。二杯、三杯と酒を飲み続ける。いつもなら美味しい酒の味が、全然しなかった。
突然、扉からコンコンとドアを叩く音がした。最終日なので、エルゾナ皇妃がまたテトラの様子を聞きたくて訪れたと思いドアを開いた。
扉の前にはテトラが待っていた。
「今日で最後だから遊びに来ちゃった」
小さな口から舌をペロッと出す。
「まあ、中に入れよ」
テトラは部屋に入るや否や 、椅子ではなく俺のベッドの上にちょこんと座った。そして、俺を見つめながらポンポンとベッドを二回叩き、隣に座るように促す。
俺は彼女に促されるまま横に座る。二人の距離が自然に近づく。
旅先では彼女に密着する場面は幾度もあったが、不覚にも、彼女の隣に座っただけでドギマギしてしまった。
「明日で最後だね……」
「ああ……」
まだ、酔ってもいないのに上手く口が回らない。
「また、遊びにいっても怒らない?」
「……」
どう答えて良いか分からず返事に窮する。
「あのね、私、父とは早くお別れしたの……」
もらわれて行く子犬のように寂しげな顔をする。
「皇妃から聞いたよ」
「私が働いて初めて買ったプレゼント」
彼女は俺に小さな包みを手渡した。
「開けてもいいか?」
「うん……」
包装紙を破くと中から木彫りのカップが出てきた。
「おっちゃん、お酒が好きだから……気に入らなかった?」
「凄く気にいたぞ、明日から使わせて貰うな」
そう言って、俺は彼女の腰に手を回し、優しく抱き寄せていた。彼女の心音が直に伝わる。
俺の心音の高鳴りも相手に伝わる……。
テトラは俺の目を覗き込み、にっと笑う。
「おっちゃんと一緒に寝るのは今日が最後だよね」
小さな口をゆっくり近づけ、耳元で囁く。
「覚えている? 旅の途中で雷が鳴ったこと……」
「ああ、覚えていぞ、テントが雷光で明るく光ったよな」
「私、凄く怖かったのを忘れないわ」
彼女も俺の身体に手を回して背中をギュッとつかむ――
「実は俺も怖かったのよ」
二人でクスクスと笑った。
しばらく思い出を語り合い、いつの間にか静かになった彼女を見ると、すやすやと寝息を立てていた。
サラリとした金髪を優しく触りながら、俺は寝付けない意味が分かったような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる