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第百三十三話 ドラゴニア王国【其の四】
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メイドのアリッサさんが、俺たちを呼びに部屋に入ってきた。
「おっちゃん様、レイラ様、竜王様の準備が整いましたので、よろしくお願いします」
「じゃあ行きますか」
俺はレイラに声を掛け、椅子から立ち上がる。
「キュピピピー」
ソラは散歩に連れていってくれると思い翼を振りながら、俺たちの周りをぐるぐると駆け回る。アリッサさんがそれを見て、咳払いを一つ打った。
「ソラ、レイラが呼んでるぞ」
ソラはレイラに近づくと、ギュムッと身体をつかまれ彼女に捕まった。「キュキュキュー」ソラは手足をばたつかせながら、納得出来ないと抗議している。俺たちはアリッサさんの後ろにつきながら、赤い絨毯が敷れた廊下を突き進むと仰々しい扉が現れた。
「竜王様、お二人をお連れしました」
彼女はその扉を開き、俺たちに入るように促した。部屋に入るとテーブルに竜王と竜妃がお茶を飲んで座っていた。
「昨日は美味しい夕食を用意して頂き、お二人に感謝する。ソラも食べきれないほど出された料理に苦戦していたよ」
俺は笑いながら竜王に頭を下げ礼を述べた。
「それは上々、喜んで貰えてなによりだ」
竜王が穏やかな口調で言った。
「で、今からどうやって儀式場まで行くのか教えて欲しい」
「おっちゃん殿、すまないがお二人を、そこに連れていくことは出来んのだ」
ここで一悶着が起こった――
ソラが受ける「継承の義」という儀式には立ち合えそうもなかったが、儀式の場所の近くで待つ事は出来ると思っていた。代々の記憶を受け継ぐ儀式は竜族の秘技であり、その場所には限られた竜しか立ち入ることが許されていないと言う。だからといって、俺たちは簡単に納得は出来ないが、彼らの言い分を飲むしか解決策はなかった。
「何とかならないのか、ソラを近くで良いから見守りたい」
あまり期待はしていなかったが、もう一度竜王に頼んでみた。
「それは許されない」
彼は顔をゆがめ、キッパリと断りを入れる。何とか打開策を考えようとして言葉につまる。――――レイラと顔を見合わせながら俺は腹をくくった。
―――「それじゃあ仕方がないな……ソラを預ける」
竜王にソラを手渡そうとしたが、いつもと違う雰囲気を感じ取り、俺の腕に爪を立て離れようとはしない。それを見た竜妃は悲しそうな顔を俺に向けていた。
「お前がこれから一人前になる為には必要なことなんだ」
「オレたちの子だろ! 竜妃と行ってきな」
レイラはソラを叱咤した。
「キュピピピーー」
ソラの翼がしおしおとへたり、仕方がないという顔をしながら竜妃に抱かれた。
「それではソラを預からせて頂きます。そして継承の義を無事に終わらせて戻ってきますので、心配なさらないで下さい」
そう言って、竜妃と竜王はソラを連れて儀式場に向かった。俺たちはただソラの無事を祈って三日間待つしかなかった……。
塔の外までソラを見送った俺たちは、今後の予定もなく、手持ちぶさたな時間を過ごすことになった。
「そう言えば、ガルシアさんとクラリスはどうしているんだ?」
少し気になったので、アリッサさんに話しかけてみた。
「二人は儀式の準備をしていると聞いております」
「せっかくなんで町を散策しようと思ったんだが……」
「では、私が案内させて頂きますので、少しの間ここでお持ち下さい」
彼女は、ぱたぱたと走って塔の中に引き返していく。
――――「大変お待たせしました」
彼女はハーハーと息を切らせて戻ってきた。そして俺たちに金貨のつまった袋を手渡した。
「これはなんだ!?」
袋の中を覗いたレイラが語気を荒げた。
「こちらで滞在するにあたって、当座の資金だと竜王様から伺っております」
「ふーん、この金貨一枚で何が買えるんだ ?」
彼女は袋から金貨を取り出しアリッサに尋ねた。
「そうですね……酒場でお腹一杯飲み食い出来る金額です」
なんともわかりづらい例えで返してきたが、レイラは笑いながら了解と答えた。
ドラゴニアの町の建物のは、豪邸で埋め尽くされていた。道路を歩いていると忙しなく行き交う人々の多くは、アリッサさんみたいなトカゲ顔のリザードマンか背の低いドワーフだった。ときおり端整な顔立ちで、髪の毛を伸ばした竜族とおぼしき人とすれ違いはしたが、確率で言えば、五十に一つ位だった……。
俺たちは三十分ほど彼女の案内で町を見回ったが、これぞというものには出会えなかった。ただ綺麗に区分けされた歩道を散歩して歩くだけで終わりそうになる。
「この辺で休憩する場所はないのか?」
「もう少し歩いたところに、焼き菓子が美味しいお勧めの店があります」
そう言って、店先に幾つものテーブルが並べられた軽食屋を指差した。店に着いた俺たちは、せっかくなので外にあるテーブルに陣取った。
俺は注文を取りに来た給仕に、焼き菓子とお茶を三つ頼んだ。
「お茶じゃなくて果実酒に替えてくれ」
レイラが当たり前のような顔をして、お酒に注文を変更した。
「果実酒に氷は入れますか?」
「凄いな!? 氷を出す店なんて高級店でないとあり得ん」
レイラは感心しながら、氷入りの果実酒を頼んだ。俺は異世界に来てから幾つかの国を回って、魔人の文明の高さを知っていたが、彼女にとってはここが初めての異文化交流の場所だと気づかされた。
「ここではたぶんビールも冷たいはずだ」
「マジかよ! じゃあビール追加で」
レイラは大声を出して給仕に注文を出した。隣に座っているアリッサさんが、真っ赤な顔をして下を向いていたのが可笑しかった。
「ぷふぁー旨い!! 」
レイラはジョッキのビールを上手そうに飲み干した。そして果実酒を俺に渡して、もう一杯ビールを追加した。俺は彼女を睨むとニシシと笑った。仕方がない奴だなと、俺もその貰った酒を煽った。
「せっかくなので、アリッサさんも酒を頼まないか」
彼女は顔を左右に振って、お茶に口をつけてひとくち飲んだ。
「そういえば、この国ではリザードマンやドワーフが住んでるんだよな」
「はい、共存ではないですが、竜族より多くの住人がこの町で暮らしております」
「「何だって!?」」
俺とレイラは驚きの声を上げた。
「どこから話せばいいかしら」――
――――そう言って彼女は語り出した。
「おっちゃん様、レイラ様、竜王様の準備が整いましたので、よろしくお願いします」
「じゃあ行きますか」
俺はレイラに声を掛け、椅子から立ち上がる。
「キュピピピー」
ソラは散歩に連れていってくれると思い翼を振りながら、俺たちの周りをぐるぐると駆け回る。アリッサさんがそれを見て、咳払いを一つ打った。
「ソラ、レイラが呼んでるぞ」
ソラはレイラに近づくと、ギュムッと身体をつかまれ彼女に捕まった。「キュキュキュー」ソラは手足をばたつかせながら、納得出来ないと抗議している。俺たちはアリッサさんの後ろにつきながら、赤い絨毯が敷れた廊下を突き進むと仰々しい扉が現れた。
「竜王様、お二人をお連れしました」
彼女はその扉を開き、俺たちに入るように促した。部屋に入るとテーブルに竜王と竜妃がお茶を飲んで座っていた。
「昨日は美味しい夕食を用意して頂き、お二人に感謝する。ソラも食べきれないほど出された料理に苦戦していたよ」
俺は笑いながら竜王に頭を下げ礼を述べた。
「それは上々、喜んで貰えてなによりだ」
竜王が穏やかな口調で言った。
「で、今からどうやって儀式場まで行くのか教えて欲しい」
「おっちゃん殿、すまないがお二人を、そこに連れていくことは出来んのだ」
ここで一悶着が起こった――
ソラが受ける「継承の義」という儀式には立ち合えそうもなかったが、儀式の場所の近くで待つ事は出来ると思っていた。代々の記憶を受け継ぐ儀式は竜族の秘技であり、その場所には限られた竜しか立ち入ることが許されていないと言う。だからといって、俺たちは簡単に納得は出来ないが、彼らの言い分を飲むしか解決策はなかった。
「何とかならないのか、ソラを近くで良いから見守りたい」
あまり期待はしていなかったが、もう一度竜王に頼んでみた。
「それは許されない」
彼は顔をゆがめ、キッパリと断りを入れる。何とか打開策を考えようとして言葉につまる。――――レイラと顔を見合わせながら俺は腹をくくった。
―――「それじゃあ仕方がないな……ソラを預ける」
竜王にソラを手渡そうとしたが、いつもと違う雰囲気を感じ取り、俺の腕に爪を立て離れようとはしない。それを見た竜妃は悲しそうな顔を俺に向けていた。
「お前がこれから一人前になる為には必要なことなんだ」
「オレたちの子だろ! 竜妃と行ってきな」
レイラはソラを叱咤した。
「キュピピピーー」
ソラの翼がしおしおとへたり、仕方がないという顔をしながら竜妃に抱かれた。
「それではソラを預からせて頂きます。そして継承の義を無事に終わらせて戻ってきますので、心配なさらないで下さい」
そう言って、竜妃と竜王はソラを連れて儀式場に向かった。俺たちはただソラの無事を祈って三日間待つしかなかった……。
塔の外までソラを見送った俺たちは、今後の予定もなく、手持ちぶさたな時間を過ごすことになった。
「そう言えば、ガルシアさんとクラリスはどうしているんだ?」
少し気になったので、アリッサさんに話しかけてみた。
「二人は儀式の準備をしていると聞いております」
「せっかくなんで町を散策しようと思ったんだが……」
「では、私が案内させて頂きますので、少しの間ここでお持ち下さい」
彼女は、ぱたぱたと走って塔の中に引き返していく。
――――「大変お待たせしました」
彼女はハーハーと息を切らせて戻ってきた。そして俺たちに金貨のつまった袋を手渡した。
「これはなんだ!?」
袋の中を覗いたレイラが語気を荒げた。
「こちらで滞在するにあたって、当座の資金だと竜王様から伺っております」
「ふーん、この金貨一枚で何が買えるんだ ?」
彼女は袋から金貨を取り出しアリッサに尋ねた。
「そうですね……酒場でお腹一杯飲み食い出来る金額です」
なんともわかりづらい例えで返してきたが、レイラは笑いながら了解と答えた。
ドラゴニアの町の建物のは、豪邸で埋め尽くされていた。道路を歩いていると忙しなく行き交う人々の多くは、アリッサさんみたいなトカゲ顔のリザードマンか背の低いドワーフだった。ときおり端整な顔立ちで、髪の毛を伸ばした竜族とおぼしき人とすれ違いはしたが、確率で言えば、五十に一つ位だった……。
俺たちは三十分ほど彼女の案内で町を見回ったが、これぞというものには出会えなかった。ただ綺麗に区分けされた歩道を散歩して歩くだけで終わりそうになる。
「この辺で休憩する場所はないのか?」
「もう少し歩いたところに、焼き菓子が美味しいお勧めの店があります」
そう言って、店先に幾つものテーブルが並べられた軽食屋を指差した。店に着いた俺たちは、せっかくなので外にあるテーブルに陣取った。
俺は注文を取りに来た給仕に、焼き菓子とお茶を三つ頼んだ。
「お茶じゃなくて果実酒に替えてくれ」
レイラが当たり前のような顔をして、お酒に注文を変更した。
「果実酒に氷は入れますか?」
「凄いな!? 氷を出す店なんて高級店でないとあり得ん」
レイラは感心しながら、氷入りの果実酒を頼んだ。俺は異世界に来てから幾つかの国を回って、魔人の文明の高さを知っていたが、彼女にとってはここが初めての異文化交流の場所だと気づかされた。
「ここではたぶんビールも冷たいはずだ」
「マジかよ! じゃあビール追加で」
レイラは大声を出して給仕に注文を出した。隣に座っているアリッサさんが、真っ赤な顔をして下を向いていたのが可笑しかった。
「ぷふぁー旨い!! 」
レイラはジョッキのビールを上手そうに飲み干した。そして果実酒を俺に渡して、もう一杯ビールを追加した。俺は彼女を睨むとニシシと笑った。仕方がない奴だなと、俺もその貰った酒を煽った。
「せっかくなので、アリッサさんも酒を頼まないか」
彼女は顔を左右に振って、お茶に口をつけてひとくち飲んだ。
「そういえば、この国ではリザードマンやドワーフが住んでるんだよな」
「はい、共存ではないですが、竜族より多くの住人がこの町で暮らしております」
「「何だって!?」」
俺とレイラは驚きの声を上げた。
「どこから話せばいいかしら」――
――――そう言って彼女は語り出した。
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