働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

文字の大きさ
155 / 229

第百五十六話 昆虫採集【後編】

しおりを挟む
 ダブリンと案内人がテントの前で言い争っていた。

「オオカミのテリトリーを犯すことになるので、これより上での採集をすることは出来ません!」

「屈強な部下を引き連れてきているので、襲われても大丈夫でおじゃるよ」

「そう言う意味ではないのです」

 案内人は困り果てた顔をしながら、何とか彼を説得しようとしていた。俺はこの諍いの仲裁をすることにした。

「俺はあながちダブリンが言っていることは、間違っていると思わない。が、もしお前さんの家に、家具を見るだけだからと言って、土足の集団が勝手に上がってきて糞尿をまき散らしたらどう思う? 極端な例えだが、オオカミの縄張りも同じ事じゃないか。それにな、村人とオオカミはこの山でお互いに棲み分けは出来ているはずだ。俺たちはただ虫捕りに来ただけだが、それを理解させることなど出来ないだろう」

「そう言われれば、そうでおじゃるな……」

 俺の言葉に、ダブリンはゆっくりと頷く。

「そんなに悄気しょげるなよ……俺を雇ったのを忘れたのか。昨日使ったトラップは、まだ秘策でも何でもない。今夜こよい、最高のトラップを見せてやるさ」

「おっちゃん氏~~~~!」 

「すまないが、この拠点を移動させたいので頼めるか」

「何処に行くのでおじゃる?」

「拠点を張っても安全な渓谷に案内を頼む」

 俺は案内人に、山に挟まれた沢沿いの渓谷まで道案内して貰うようにお願いをした。

「すまないな」

 俺はダブリンに頭を下げた。

「どうしておっちゃん氏が、麻呂に頭を下げる必要があるのじゃ?」

「さっきは偉そうな事を言ったが、本音を話せば俺もこのまま山を登って採集をしたいとは思ってるのよね。ただ、俺の仕事柄、案内人に喧嘩を売ってしまうと、碌でもない目にあうことも多いので、お前さんに恥をかかせてしまったからな」

「フヒヒヒヒ、本命を持ち帰ることこそ正義じゃ!」

「そう言ってくれると助かる」

「それより、秘策を教えて欲しいのでおじゃる」

「秘策を教えては、秘策にならんよな」

 一度は使ってみたかった言葉を吐いた。

            *      *      *

 細い川を挟んで、削られた地面から左右の山に木々が広がっている、開けた沢に俺が理想とした拠点を設置することができた。辺りが暗くなるまでにはまだ時間があったが、ある理由から・・・・・・メンバーには早い夕食を取って貰う事にした。

「ここにいるメンバーには悪いが、これからやる採集方法は門外不出なので、テントの中で待って貰いたい」

「なに馬鹿なことを仰っておる! ダブリン様が襲われでもしたらどうするのですか!!」

 ダブリンが連れて来た警護役のリーダーが、強い口調で俺に迫る。

「悪いがもしお前たちが、テントから出て警護するというなら、この採集は中止せざるを得ない」

 俺はきっぱりと言い放つ。

「心配するなブートンよ、キャサリンが麻呂の横に付いておるので安心せよ。狼の群れが襲ってきたときは、お前たちが助けに来る間ぐらいは、彼女が壁になって時間を稼ぐ余裕はあるはずじゃ」

「ダブリン様っ! ひ、酷いです~」

 メイドの一言で、場の空気が和む。そうこうしているうちに、少しずつ日が暮れ始めた。

「お前たちに命ずる。これから何があろうと、外を覗いたり、ここから一歩でも出れば命はないでおじゃる! ブートンは、しっかり自分の仕事をこなしてたもれ」

 ダブリンを警護するメンバーと案内人は、お花摘みをした後、テントの中に入っていく。

 テントの外に残った俺たち三人は、テーブルに腰掛けながらお茶をすする。

「ダブリン様、焼き菓子を取って参りますね」

「キャサリンさん、ついでに頼んでおいた白布もお願いします」

「おっちゃん氏、いよいよ秘策というのを決行するのでおじゃるな」

「ああ、この谷に良い風が吹き込んできている……」 

  俺はキャサリンから白布を受け取り、河原の五メートル四方が隠れるぐらいに、白布を敷いた。その上にがんどうを置いて、山と山に挟まれて谷になっている部分に光を放った。

「灯火採集という方法だ」

 真っ暗な河原から、煌々こうこうとした光が山を照らす。ダブリンとキャサリンは目を細めて俺の作業を見つめた。

「以上! これで準備は終わった。後は細工は流流仕上げを御覧じろだ」

「ホホホ、簡単な理屈でおじゃるが、光源の工夫が素晴らしいのう」

 俺たちは深く椅子に寄りかかり、焼き菓子を楽しむ。

「ひい~~~~! 虫が、虫が!!!」

 キャサリンが突如、悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。光に引き寄せられた蛾が、所狭しと飛び交い始めた。俺とダブリンはそれを見ながら苦笑する。

「キャサリンよ落ち着け、お茶がゆっくりと飲めないでおじゃる」

「そんなあ~~~」

 三十分ほど時間が経過すると、羽虫とは明らかに違う羽音が、がんどうの周りから聞こえる。

「近くに行っても問題ないじゃろうか?」

「ああ、見に行こう」

 俺たちは椅子から立ち上がり、地面に敷かれた白布を覗きに行く。

「おお! マダラオニクワガタが止まっているでおじゃる」

 白布の上には、光に引き寄せられた沢山の虫たちが蠢いていた。中には俺の知らないカブトムシも混じっており、ダブリンのテンションは爆上がりである。だが、本命のクワガタムシは飛んで来ていない……。

「ここから数時間が勝負だな……じっくり待つしかないぞ」

 そう言って、キャサリンにお茶のお代わりをお願いした。 

  二時間が経過した――

 ダブリンの顔が光に照らされているのに暗く感じる。彼はたびたび白布を覗いては、大きな溜息をついて戻ってくる。

「おっちゃん氏、だめかもしれないの」

「まだ、もう少し時間があるじゃねえか。それによ、まだ可能性が残っていることに気が付かないのか?」

「何を言っているか分からないでおじゃる」

「ふふっ! 確かに河原に敷いた布はたびたび確認したが、果たしてそれだけが正解か」

 俺はわざと彼に勿体ぶった言い方をした。

「キャサリンよ! ランプを早う持ってこい」

「はい! ただいまお持ちします」

 今までしゅんと垂れていた犬の尻尾がぴんと立つ。ランプを受け取ったその犬は、(白布から外れた)河原を照らしながら辺りを歩き回る。

 「ふおおおーーーー!! テナガオオクワガタを見付けたでおじゃる」

 ダブリンは赤いクワガタムシを高々と上げ、大声を上げた。

「捕まえたんだな!?」

「みてみろ、おっちゃん氏。立派な上顎の雄のクワガタムシでおじゃる。しかも優に八センチは超えているぞ」

「素晴らしい個体だと言うしかない」

 俺のテンションも最高潮に上がった。ダブリンと俺は沢山の蛾にまみれながら、肩を組み踊る。そんなスポットライトに照らされた二人の姿を、メイドはゴミを見るような目で見つめていた……。

「流石、我が友でおじゃる」

「最高の結果だな相棒・・

 俺たちは称え合い、満面を笑みを浮かべた。

 結局、その後も数匹のテナガオオクワガタを捕まえることが出来たので、今回の遠征は大成功で幕を閉じる。

「この、魔道具のがんどうを売って欲しいでおじゃる」

「すまないが、キャサリンさん後ろを向いて。耳を塞いでくれ」

 俺の言葉にキャサリンは首を傾げる。

「キャサリンよ、早うせい!」

 おっちゃんの言うことを聞けと、彼女を促した。

 俺はランタンを取りに行き、光源を取り出しテーブルに置いた。それを見たダブリンは思わず息を飲む。

「こ、これは龍石でおじゃるな!?」

「ああ、ある人に頂いた石ころよ」

 流石に伯爵である彼はこの一言で、この宝石の価値を瞬時に理解した。

「これを見せたくなくて、彼らをテントに閉じ込めたのでおじゃるな」

「そういうことだ。これ位の採集用の灯火装置なら作れるだろう、灯火採集を秘密にするつもりはないからな」

「と、とんでもない! この採集方法は当分の間は秘匿でおじゃる」

 昆虫馬鹿である……。

「じゃあ、利用料は高いぞ」

 俺は悪戯っ子のような笑みを浮かべながら声を上げて笑う。

「あの~!! もう目を開いても良いですか!!」

 間の抜けたメイドの声が峡谷に響く――
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...