働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

文字の大きさ
169 / 229

第百七十話 亡国の姫君【其の十三】

しおりを挟む
 ギルドから出た俺とスカーレットは、横並びで辺りを警戒しながら帰路につく。同じ道だというのに緊張からか、いつもの見慣れている景色が、全く違って見えた。建物の角を曲がる度に、フードを被った男たちが、襲ってこないか警戒してしまう。もうすぐ我が家に到着する最後の道に差し掛かったとき、四人の不審者が家の周りを彷徨うろついているのが、遠目からも分かった。

 俺たちの前から四人のフードを被った、ドワーフと思しき三人と、リザードマンだと分かる、明らかな大男一人がゆっくりと近づいてくる。思ったより早く、獲物が餌に食いついてきた事に気持ちを引き締める。彼らがスカーレットの知り合いではないことを、彼女の手から出した合図を確認し、薙刀をしっかりと持ち直す。

「すまないが、そこの女性を渡して貰えないだろうか?」

 やんわりとした口調で、ドワーフの一人が、俺に声を掛けてくる。

「悪いが人違いではないでしょうか……娘に何か用事でもありますか?」

 丁寧に答えを返した。

「ははは……貴方は人間のおっちゃんさんだろう。リザードマンを娘に持つ人間なんて聞いたこともない」

「この美しいうちの娘が、どうしてリザードマンに見えると言うんだ」

「ああ失敬……彼女が魔法で姿を変えているのは、お見通しなんですよね。こんな茶番を続けるのは、もう止めにしませんか」

 ドワーフの顔色が変わった。

「ばれてーら! で彼女を渡さないと言えば、俺はどうなるんですかね」

「どうもしませんよ……今から食事が必要なくなるだけです」

 ドワーフは獰猛どうもうな笑みを浮かべた。彼の横のドワーフが俺にボーガンを突きつけ、矢を放とうと構えている。

「くくっ、この弓で死ねるなら本望だろう」

 
 一瞬「ヒュン」矢の発射される音が聞こえた気がする。「ドブッ」……今度は確実に肉が刺さった音が聞こえた。

「ううっ……」

 矢によって倒れたのは俺ではなくて、ボーガンを構えた男の方だった。続けて他の三人も背中に矢を受け、地面に突っ伏して動かなくなった。

「お前らが来るのが遅すぎて、死ぬかと思ったぞ!!」

 オットウに、俺は怒声を浴びせた。 

「正義の味方は、ギリギリで登場するのが決まりだ」

 ウヒヒと笑った彼の横には、コブクロと彼の手下一人が、矢を抱えて立っていた。

「良い腕をしているぜ、助かったよ」

 三人に感謝の言葉を口にする

「簡単な仕事をくれて、こちらこそ礼を言わせて貰う」

 コブクロは、頭を軽く下げた。

 彼らとの連携が上手くはまり俺は完全に油断していた……。死んでいたと思っていたリザードマンが、足下から急に立ち上がる。そうして尻尾が、俺の胸を直撃し、俺の身体は大きく吹き飛んで、地面へと叩きつけられてしまった。

「ぐへっ!!」

 胸当ての上からとはいえ、身体に大きな衝撃が伝わる。

「おっちゃん! 大丈夫か!?」

 オットウが叫ぶ!!

「だ、大丈夫だ……」

 俺は力なく返事を返した。

「貴様たち、よくもやったな!」

 ドスの効いた、低くしゃがれた声をリザードマンは出した。コブクロたちは手に持っていた弓矢を投げ捨て、腰から剣を抜きはなった。

 リザードマンが雄叫びと共に、手にした大剣を振り下ろす。コブクロはギリギリの所でそれを躱す。その隙にオットウが腹部を狙い剣を振ったが、リザードマンに致命傷を与えるほど深い傷を付けることは出来なかった。

「ちっ……此奴は堅い鱗で覆われていやがる」

 オットウが舌打ちをしながら間合いを広げた。しかし相手も彼に向かって突っ込んで来た。大剣がオットウの頭を狙って、振り落とされる。彼は刀でなんとか防ぐが、力負けして体制を大きく崩した。

 リザードマンは、倒れたオットウの顔を目掛けて、刀を叩き付けてくる。「ギャン」金属同士の擦れ合う音がする。薙刀で大剣を何とかぎりぎりの所で防ぐことが出来た。しかし剣の重さに押され始めた。

「ぐぬぬぬぬ。早くこいつをどうにかしろ!」

 助けに来ないふたりを罵るように、大声を上げた。その言葉で目が覚めたコブクロと手下が、リザードマンに攻撃を仕掛けた。

 が――

 リザードマンの太くて長い尻尾に足をすくわれ二人は転倒した……。その力が緩んだ隙になんとか大剣を弾き返したが、この戦いに勝てる気がしなかった。

「オットウさんよ……ちょいとヤバイんでないか」

「ああ、気が合うな相棒……すまないが頼みがある。奴の腹につけた傷を、もう少しだけ深くしてくれないか」

 そう言うと、オットウは俺を盾に後ろに下がる。

「ちっ!? 難しい注文をしやがるぜ」

 薙刀を握りしめ、リザードマンとの間合いを詰めていく。体格差はあるものの、まだ大剣が自分に届く範囲ではない。俺は柄の先を持ち、素早く腹の傷口に向けて、刃を横に振った。「ピシ」と傷が避ける音がして、腹から血が流れ出す。致命傷を与えるには至らず、リザードマンからすれば只の擦り傷に近かった。

 そこに小さなナイフが投げ込まれ、上手く命中した! 否。刃先が刺さったように見えたが、直ぐに抜け落ちた。リザードマンは大剣を容赦なく振り回し、俺は防戦一方となる。ただし端から見れば、よく防いでいると褒めて貰いたいぐらいの動きはしているのだが……。俺は横目で助けてとばかりにコブクロと手下を見ると、立ちはしているものの、まだ加勢出来るほど回復していなかった。

 絶望という二文字が頭の中に浮かんだ――

 リザードマンはそれを見透かしたかのように、剣を大きく振り下ろしてくる。やられたと思った。しかし振り下ろされた剣は、俺の頭を割らずに、地面をえぐった。そうしてリザードマンの身体が何故かぐらりと崩れ、地面に膝がついた。

「おっちゃん、今だ!!」

 俺はその合図と共に、リザードマンの腹に、薙刀を押し込んだ。ズルルと肉を引き裂く振動が、手に伝わってくる。

 リザードマンが悲鳴を上げる。俺は腹から刀を引き抜いて、もう一度突き直す。腹からは大量の血が流れ、リザードマンが血の海に沈んだ。俺たちは暫くの間、此奴が再び立ち上がらないかドキドキしながら遠巻きで眺めた。

「おい、とどめを刺しに行けよ!」

 俺が、オットウを、薙刀のこづく。

「なに言ってんだ、此奴を倒した功労者は俺だぞ」

「はーん、ちんけなナイフをちょこっと投げただけで功労者とは……」

「そのちんけな毒のナイフで救われたのは、何処の誰ですか」

「おいおい! 子供の喧嘩は止めにしろ!」

 そう言って、コブクロが仲裁に入る。

「「じゃあ、お前が確認しに行けよ」」

「断固断る!!」

 四人は大声で笑い転げた――

 そんな様子を見ていた、蚊帳の外に置かれていたスカーレットは、まだブルブルと震えていた。俺たちはこの後、まだ拠点に残っているであろう、暴漢者をどうやって襲うか話し合う。俺は彼女を守るため一緒に行動するか、少しだけ迷う。何故ならこれ以上彼女に修羅場を見せたくなかったからである。だからといって、一人で家に置いとく事は流石に出来ないので、ギルドの酒場で待って貰うことにした。

            *      *      *

 俺たちは、彼らが拠点としていると思われる、森に入った。するとガキの言った通りの場所でテントが張られ、二人のドワーフが退屈そうに喋っていた。俺たちはその様子を暫くの間、茂みの中から観察し、この拠点には二人しか残っていないと結論づける。

 コブクロと手下が弓で、ドワーフを狙う。静かに放たれた矢は、しっかりと彼らの胸に命中し、地面に崩れ落ちたのが見えた。テントからは誰も出てこないのを確認して、オットウがゆっくりと拠点に近づき、大丈夫だというサインを俺たちに送った。

 「これで依頼は終わりだな!」

 オットウは、ウヒヒと笑う。

 彼らは嬉しそうにテントと、遺骸から死体漁りをしている。「おお! 結構値の張りそうな宝石が、服の裏に縫い付けてあったぜ」そんな声を聞きながら、切り株に腰を下ろし身体を休めた。

 オットウが不思議そうな顔をして、彼らの持ち物であったボーガンを弄っていた。

「ふーん……良く出来た武器だな」

俺はそれをオットウから奪い取った。

「なにしやがる」

「悪いがこの武器おもちゃは、この国に広めてはいけないやつだ」

 オットウは俺に不満そうな顔を向けたが、稼ぎも悪くなかったようでこれ以上何も言わなかった。俺はボーガンを、拠点にあった焚き火の場所で燃やすことにした。もちろん最初に襲撃にあったときのボーガンも、回収したのは言うまでもない。

 彼らの仕事も一段落したのでテントと死体を片付けて、タリアの町に向かうことにする。

「分け前は本当にいいんだな」

「ああ、約束だからな。使えるか分からないが、魔人国の通貨は頂いたし、命が残っただけで十分だよ」

 俺はそう言って、彼らにうそぶいた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...