働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

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第百九十六話 魔王城【其の一】

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 魔王城を上空から見ると、城を中心に大きな道路が八方に広がって都市が形成されている。全ての物流があたかも、魔王の所に全て集まるそんな仕組みに思えた。二人を乗せた赤竜がその中心地へとゆっくりと降下していく。そうして俺たちは魔王城と呼ばれる建物の敷地に降り立った。
 
 パトリシアを担いで赤竜から降りると、地面は綺麗に刈り取られた緑の芝生で覆われていた。

「お待ちしておりました。人間の皆様方」

 そう言って、メイドが俺たちに丁寧な挨拶をする。驚いたことにメイドの顔は、ネコ科の動物そのものであり、例えるなら尖った耳が特徴のカラカルに似ていた。

「初めまして、私ローランツ王国の第二王女パトリシアと申します」

「魔王様の使いのアナベルですにゃ。魔王様がお待ちですので、私の後についてくるのにゃ。竜王様の使いの方、後はこちらで対応しますので、お帰り下さいですにゃ」

「私も一緒に……」

「お帰り下さいにゃ」

 有無を言わせぬ口調で、アナベルはクラリスにもう一度告げた。

「クラリス、心配してくれてありがとうな。ここまで連れてきてくれたことで十分だ。竜王様に俺たちが無事に魔王様に会えたことを伝えてくれ」

 彼女に別れを告げた。

「話はすんだのかにゃ」

「済まない、時間を取らせたな」

 黒いスカートから尻尾がふりふりと動くのを玩味して、メイドの案内で魔王城の扉をくぐる。

 城内に衛兵は不思議と見当たらず、メイド服を着た獣人たちが、通路にずらりと並びお辞儀をしていた。俺は気恥ずかしそうにその中を歩いていく。大広間を抜けると、幾つかの部屋に別れており、その中の青く装飾された扉の前で、アナベルが止まった。

「魔王様、人間たちを連れて来ましたにゃ」

 彼女は扉を開いて、先に入るようにと手で合図した。

 部屋に入ると俺たちの目に飛び込んできたのは、肘掛け椅子に腰を下ろし、足をクロスで組みながら頬に手を当てて、青い瞳でこちらをじっと見る魔王本人だった。魔王の姿は、透明感のあるパールの髪の毛が腰まで伸びており、中性的な顔立ちのため、俺には性別が分からない。

「待ちかねたぞ人間」

 魔王は開口一番、こう言ってきた。

「初めまして、私ローランツ王国の第二王女パトリシアと申します。この度は魔王様にお願いがあり、訪問せて頂きました」

 パトリシアが深々と頭を下げる。

「であるか……。その横の小汚い男は付き人か?」

「私、人間国で冒険者を生業としている、静岡音茶と申します。おっちゃんで名が通っております。今回はパトリシア王女の依頼で、魔王様の案内役として付き従ってきました。」

「であるか……。パトリシアとやら、用件を話してみせい」

「一月後に、我が国の第一王子のカティアが王になります。彼は戴冠したのち魔王様に戦争を仕掛ける事が、閣議で決まっております。まずは早急にそのことを伝えたくて魔王様の所に参りました」

「人間がわれに戦争を吹っかけると……正気なのか」

「はい、間違いない情報です」

「四十万の軍勢がわれに勝てなかったのだから、今回はさぞ人を集めて来るのだろうな」

「八十万人は下らないと聞いております」

「百年間でよく増やしたものだな」

 魔王はその数を聞いても微動だにせず、冷たく光る青い目をパトリシアに向けた。

「それと、我が国には新兵器があります」

 俺は床に置いてあった木箱を持ち上げ、魔王に差し出した。魔王は木箱を開けその中身を取り出した。

「鉄砲という兵器です。その筒状の先から、鉛の球が飛び出し相手を殺傷させます。二百メートル先の甲冑も突き抜けます」

「ほほう、これは鉄砲というのか」

 今まで全く彼女に対して、表情を変えていない魔王の顔が、微妙に崩れたのを俺は見逃さなかった。

「この兵器の数はどれぐらい用意されるのか」

 鉄砲を弄りながら魔王が尋ねる。

「兄の話では、すでに一万挺は用意しているという話です」

「それは怖いな……で、そちは何が望みなのだ」

「私と部下の身の安全を保証して頂きたいのです」

 パトリシアは緑の瞳を魔王に向け、力強い声で告げた。

「祖国を裏切り、我が陣営にて戦うというのか?」

「そ、それは……」

 パトリシアは言葉が詰まって出てこない

「それなら、お前たちに先陣を任してやろう」

 魔王が鼻で笑う。

「……くっ」

 パトリシアは俯きながら唇を噛みしめている。

「くくくく。自分の命欲しさに、情報を持ってきた事は咎めはせん。ただ敵に寝返って何も出来ませんでは、お子様の伝言と変わらないとは思わなかったのか。ここまで来れた実力があるのだから、お前もはこに入りたくなければ、何処ぞの国にでも隠れてしまえば、私に見付けられることはないと思うぞ」

 魔王はパトリシアを見ながらにこりと笑う。その微笑みには、人を人とも思わない酷薄なものが含まれている。俺もパトリシアが依頼を持ってきたときに、ただのお使いイベントだと割り切って付いて来た。実際、彼女が面と向かって魔王になじられているのを聞くと、何とも言えない気持ちにはなった。

「ああ、申し訳なかった。まだ人間国が負けるとは決まってなかったな。このまま国に帰って、我らと一戦交えて勝機をつかめば問題なかろう。用件はこれで終わりだ、もう何も話すことはないから帰って良いぞ」

「……」

 パトリシアは目に涙を一杯溜めて、口を噤むしかなかった。そのとき俺は苦笑いを浮かべて、憔悴しきった彼女に助け船を出すしかないと腹をくくる。

「なあ、魔王様。たしかにパトリシア王女はお小様のお使いだが、持ってきた情報の大きさと命ぐらいは、釣り合いが取れているのではないのか?」

 俺がそう言うと、魔王は眉をひそめた。

「ほほー、音茶と言ったか……私に意見を具申しているのか」

 その言葉を聞いた俺の背筋に、どうしようも無い悪寒が走った。

「そんな偉そうな話ではない、ただ同郷のよしみで彼女を救って欲しいと言ってるだけよ」

 魔王の圧を少しでも和らげようと、ふざけたていで答えた。

「くくく、われとお前が同郷だと……どの口がほざくのだ!」

 その言葉は火に油を注ぎ、周りにいたメイドたちがざわついた。

「眼鏡をかけた小学生ではなくても簡単に判るな。この世界で音茶おとちゃと名乗っても、同じように発音できた住人は、一人もいなかったの。だから俺の名前はここではおっちゃんだ。それが不思議なことに魔王様から音茶おとちゃなんて呼ばれたら直ぐにぴんと来るでしょう。しかも百年前から魔人国が急速に文明を発達させたのを、実際に立ち寄って目の当たりにしたら『日本人』が関与していないと、考えない方が不自然だとは思わないか」

 しばらくの沈黙のあと、魔王の口からは次のような言葉が出てきた。

「眼鏡をかけた小学生という例えは、言いえて妙だな。で、音茶はわれに、彼女を救えと命令したのか」

 俺に乗せられたのを確信した魔王は、落ち着いた口調に戻して言った。

「いや、さらに魔王様に有力な情報を付け加えてやる」

 俺は魔王に大きな釣り針を投げかける――

「ほほー、彼女の命に見合う情報をまだ持っているというのか」

「ああ、山賊王、バーサーカー物語、BUSTER×BUSTER……少女漫画以外なら結構話せるぜ。どこまで知っているかは分からねえが、たぶんこちらが持っている情報の方が多いはずだ。因みに山賊王Vは何処まで読んでいる?」

 寄せ餌をこれでもかというほど、魔王の口もとに撒く――

「七十巻だ、大切な妹が海兵に焼き殺されたところまでだな」

 玉ウキがぴくぴくと反応する――

「俺が知っているのは百三十巻だ!」

 震える手をぐっと押さえて、竿を握り締めた――

「アハハハハ! アナベルよ! われと此奴の茶菓子を用意せよ」

 魔王の言葉が、室内に大きく響き渡る―― 
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