働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

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第二百七話 おっちゃんでも成長する

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 ローランツ軍が大敗したという情報を、ギルドが公式に受け取った。タリアの町や王都にある一部のギルドは、高ランクのパーティーを失い依頼を受けられない状態に陥った。そんなしわ寄せが、おっちゃんたちが所属するギルドに来ていた。

 言い換えれば特需である――

 玄関先で靴を履き、家から出ようとして伝言板をちらりと目にやる。雛鳥たちの帰宅日が乱雑に書かれていて、それをじっくりと眺めた。俺は自分の帰宅日を書かずに、薙刀と荷物を抱え、いつものようにギルドに出かける。朝から気持ちの良い風が吹き抜け、今回の冒険も無事に成功する様な気がした。

 ギルドで新しい地図を求めていると。後ろから声を掛けられる。

「よっ! 不景気そうな面してるじゃねえか」

「まあ、貧乏暇無しだな」

 俺は笑顔でオットウを睨みつけた。

「それはちょうど良かった。実は王都で仕事が入ったので、俺たちを手伝わねえか」

 俺の態度など気にもとめずに、彼は意外な申し出をしてきた。

「今は無理だ。西の山に忘れ物を探しに行かなければならなくなってよ」

 そう言って、さらりと断る。

「なんだよ~せっかく美味しい仕事を、共有させてやろうと思ったのに残念だ」

 押しつけがましいその言い方にイラッとくる。

「ははっ。わざわざ王都まで行く仕事が、美味しいとは笑わせるよな」

「おいおい、冒険者は情報が命だ! 今、王都に行けば、地面に転がった石を蹴るだけで未亡人に当たるんだぜ」

 オットウが俺を誘惑する、甘い言葉を吐いた。


「ああ、それなら頷ける……。俺もこの仕事を終わらせてから、王都に出かける事にするか」

「それまでに、俺が全部頂くので残念だったな」

「何、馬鹿なことを言ってんだ。遅れて行こうが地面から男が生えてくる訳ではないし、食い放題に変わりないと思うぞ」

「違えねえ……おっちゃんの言う通りだぜ」

 オットウと俺は、口を小さく開き下品に笑った。

 馬鹿話に一区切りつけ、俺はギルドを後にした。タリアの町から少しずつ離れ街道を抜けると、緑の畑が広がっていく。ずいぶんと昔に、死に物狂いでここまで辿り着いたことを思い出した。それが今では、鼻唄交じりでこの畑を抜け、西の山に通じる草原の中を何のためらいもなく進むことが出来た。

 太陽の光が傾きはじめ、あと半日も歩けば西の山に辿り着く所で拠点を構える。皮の水入れを手に、ゆっくり腰を下ろす。この辺りには魔物はおろか大型獣も出ない……一番危ない動物は山犬ぐらいだ。集団で襲われたら危険な生き物に代わりがないが、長い間、小鬼や中鬼を相手に冒険者生活を続けているので、山犬で大怪我をする可能性は殆ど無いと言えた。
 
 テントの中でのんびりと横になりながら、明日の天気も快晴だと願って意識を手放す。

 翌日、俺の願いが天に届いたのか、テントを出ると雲一つ無い快晴だった。太陽がもう中天にかかっており、少し油断しすぎだと反省する。これからどうなるのか全く分からないのに、どこかで浮かれている自分が居た。身体の疲れもなく数時間歩くと山の麓に到着する。

 まだ日が落ちるまで十分な時間があったので、そのまま山に入る。山を散策しながら、異世界に来た当時の記憶をたどり寄せる。急勾配で転がり落ちたところを探すが、なかなかそれらしい場所が見つからなかった。そこで一端山の頂上を目指す。魔の森と違い藪の厚みが薄く、難なく頂上まで行き着いた。そうして山の上からタリアの町を見下ろすと、不思議と懐かしい思いが込み上げてくる。

 そこから俺がここに転がり落ちてきた場所をもう一度探し回る。そしてある程度、地形の感覚をつかんでから拠点を構える事にした。夕食を腹に納めた頃、辺りは闇で覆われはじめた。ただ月明かりがあるので、森の中でランタンを焚けば十分森の中を歩けそうだと見当が付いた。

 虫の鳴き声をBGMに入り口を探す。初めてこの森に来たときは、暗闇の異様さに圧倒され、震えながら野宿した。しかし今の俺には、この山が里山ぐらいにしか思えなかった。ただし油断せずゆっくりと地面を踏みしめ、山中を練り歩く。すると見慣れた緑の光が目に飛び込んできた。俺はそれを見て息を飲む……。

 ここは日本に通じる入り口だと、そう確信した――
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