勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第十一話 初陣【其の三】

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 そこは何の変哲もないただの農村であった。小さな村だとは聞いていたが、思ったより大きな畑が広がっていると感じた。

「すいませんが、タブラス村を知っている兵士がいましたら、呼んできて下さい」

 と、馬車の横に併走している騎馬の兵士に頼んでみた。兵士はこの村を知っている人を、直ぐに連れてきてくれた。その兵士は四十代をとうに過ぎた、弱々しそうな髭面の男だった。

「すいません、あそこに見える村に、妙な違和感を感じませんか?」

「どう見ても、待ち伏せするような場所は見あたりませんぜ。ただ、わしの知っているタブラス村とは、ちょいとばかり違ってはいるぞ」

 ざわっと背筋が冷たくなるのを、彼の言葉から感じ取った。

「それは何ですか?」

 僕はわずかに身を乗り出して尋ねる。

「たいしたことではねえと思うが、畑がこれほど大きくは無かったはずなんだが……わしの友人の話では、開拓するにも土が硬すぎて、耕作地を広げるなんて出来ないと聞いとったんじゃがな」

 そんな僕へ髭面の兵士は、穏やかな口調で語る。

「それはちょっと気になりますね……ただあの畑から兵士が飛び出てくることは無さそうです」

 髭面の兵士の意見を聞いた僕は、しっかりとうなずいてみせた。

「ふははは、勇者様も冗談を言うものなのか」

 髭面の兵士は大声で笑ったが、冗談を言ったつもりは無かったので、憮然とした顔になった。

 このまま何も起こらずダブラス村に入れそうだったが、万が一ってこともあるので軍隊を、村の一歩手前で一端休止させる。そこから警戒しながら兵士を率いてゆっくりと進む。畑の道を進軍している途中、村民が畑仕事をしているのに出くわした。ただ、その村民の顔は雄牛そのものだった。

「あの畑にいる人は、魔王軍でしょうか」

「動物の姿をしているので、魔人だとは思いますが……」

 一人の兵士が、歯切れの悪い答えで返してくる。

「お前さん方、バルザ王国の兵隊さんか?」

 僕たちに気が付いた牛人が、僕らに向かって声を掛けてきた。

「僕たちはバルザ王国から派遣された兵隊です」

 今から戦うであろう相手に、馬鹿正直に答えてしまう。

「わしらは人間なんぞと戦う気はないから、とっとと町に帰ってくれ」

 牛人が思いがけない言葉を口にした。

「この村を返して貰うまでは、帰れません」

 そう言って、僕は腰から剣を抜いた。

「ムゥオオオオオオオオオー」

 と、牛人は雄叫びを上げた。すると村から武器を持った……いや農具を持った牛人たちが、土煙を上げ僕たちにの方に走ってくる。

「また、へっぽこな人間が村を荒らしに来たのか」

「こんな人数では、腕試しにもならねえや」

 牛人たちは僕たちを愚弄し続ける。

「皆さんはここで見ていて下さい」

 後ろで剣を構える兵士たちに向かって言う。

「グモモモモ、この子供が俺たち相手に一人で戦うんだとよ」

 その見下した言葉に少しだけイラッと来る。

「全員で闘えば、魔王様に顔向けが出来ない」

 そう言って、牛人の一人が前に出てきた。

「ほら、わしらを追い出すんじゃろ」

「あの……他の牛人さんたちは、闘わないのですか」

 僕は小馬鹿にする気は毛頭無かったのだが、悪い意味で取られてしまう……。

「一発お見舞いして、許してやろうとしたが、ここで死ね」

 牛人は唸り声を上げて、鍬を振りかざし突進してきた。先日戦った剣聖よりは動きが良いとは思ったが、それでも目に映るその動きは、赤子と変わらない感じだった。このまま攻撃すれば簡単に勝つことが出来そうだったが、自分の剣では手加減出来そうもなかった。そこで剣から手を離し、牛人の顔を拳で軽く当ててみる。

「フグモモモモモ」

 牛人は吹き飛ばされ、地面を転がった。そして口から泡を吹いて失神する。

「あいつやるでねーか!」

 それを見た牛人たちは、一斉に襲いかかってくる。僕はスペインの闘牛士のように、彼らの攻撃をヒラリとかわし、拳を当て続ける。時間にして数分間ほどで、牛人たちは地面に突っ伏した。

「力加減が分からなくてすいません……。この牛さんたちを治療してから縛って下さい」

「は、はい勇者様」

 味方の兵士が、真っ青になって頷いた。

「おいおい、人間さん! 俺たちの村で好き勝手されちゃあ困るのよう」

 牛人の中でも一際大きい体格をしたリーダーと思しき牛人が、二十名の仲間を引き連れてきた。

「あの……これで村にいる魔王軍全員でしょうか」

「肝の据わったガキだぜ」

 牛人は、ブモモモッと笑い声を洩らした。

「もう、貴方たちに怪我をさせたくないんですが……」

「そうか……ではお前が死にさらせ!」

 理不尽な言葉を吐きながら襲いかかってくる。黒くて大きな剣を、僕の頭に振り下ろしてきた。僕はその剣を簡単にかわし、牛人の懐に潜り込む。そしてそのガラ空きのお腹に、数発のパンチを叩き込んだ。

 唇から「ブモッ」っと悲鳴を洩らし、牛人は白目を向いてひっくり返った。その拍子に、立派な右の角が地面に引っかかりポキリと折れた。(やり過ぎてしまったかも……この角はまた伸びてくるよね……)

「君たちも戦うの? 今度は容赦なくこの剣で叩き切るけどね」

 牛人たちは刀や農具を捨て去り、捕縛の道を選んだ。

「勇者様! 素晴らしいです」

 兵隊たちは歓声を上げ、僕を称えてくれた。

「これからどうしましょうか?」

 何事もなかったような顔を作り、兵士たちに笑顔で問うた。

「後の処理は私たちにお任せ下さい。勇者様は馬車で王都までお帰り下さい」

 小さな戦いであったが、僕は戦争の後処理など何も分からない。だから彼らの言う通り、殆どの兵士を村に残し、馬車に乗って帰還することにした。

「勇者様、お疲れ様です。見事な初陣だと皆さんが喜んでおります」

「あはは、まあなんとかこの村を救えたのでホッとしたよ。先に帰っていいそうなので、帰りもお任せするよ」

「はい、勇者様。お任せ下さい」

 ナタリアが恭しくお辞儀をする。

 なんだかみんなに任せっぱなしだと思いつつ、僕たちはタブラスの村を後にした――
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