勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第二十話 壊れゆく現実

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 王都の宿屋で一夜を過ごしたが、正直疲れが取れた気が全くしなかった。ベッドに横になり目を瞑るが、カトリーヌ王女の声が耳から離れなかった……。

 翌朝、少し気が滅入りなりながら宿屋を後にする。もう王都に戻ることは無いと覚悟を決めて、ダブラス村に転移する。十数年振りに訪れたダブラス村は、以前の倍ほど畑が広がっており、僕はここを守れたことに心が救われる思いがした。

 畑の真ん中で牛が土を耕しているのを見ながら、初陣した時のことを振り返る。戦闘とも呼べない戦いで、この地を取り戻したことに苦笑した。牛が村人に鞭を打たれて「ブモー」と鳴いている。日本に帰還すれば、このような牧歌的風景をもう二度と見ることが出来ないと、後ろ髪を引かれるような気持ちになった。僕はまだこの国に、未練が残っていることを痛感する。そうして懐から遠眼鏡を取り出し、牛を見やると我が目を疑った。なんと手綱を引かれていた動物が、牛ではなく牛人だったのである――

 牛人は身体に縄を巻き付けられ、スキを引かされていた。スキの後ろから農民が鞭を振って、牛人を叱咤している。

「おーい、ダルシムお茶にしようか」

「そうじゃな」

 二人の村民が畑で声を掛け合いながら、休息を取りに建物の中に入って行く。僕は牛人を畑に放置したまま、畑から出ていった村人たちを信じられない思いで見つめていた。そうして牛人に向かって、一直線に駆け寄っていく。

「ここでは見かけぬ人間が、われに何か用か?」

 僕に気が付いた牛人が口を開く。

「……旅の者ですが、牛人が人間の手伝いをしているのに驚いてしまいまして……」

「ぬははは、お前は何処ぞの王子様か。わしは人間に取っ捕まって、奴隷にされている魔人じゃよ」

 僕はその右の角が折れている牛人の顔を見て息を飲む。そいつは十年前自分が殴り倒した魔人の一人だと、気が付いたからである

「なんだ少年、わしの顔に何か付いておるのか?」

「いや……以前会ったことのある牛人と似ていたもので……」

「ぬははは、十年振りに笑わせて貰ったよ。わしには人間なんぞ皆同じ顔にしか見えんが、お前はわれらの顔が見分けられるのか」

 傷だらけの大きな身体を揺すって、牛人が笑い声を上げる。

「こんな事を聞くのは失礼かもしれませんが、この村を襲ったので奴隷にされたのですか?」

「信じるかは別として旅のネタに話してやろう。人間の力では開拓なんぞ出来ないこの土地を、わしらが耕作地にした途端、人間めらに襲われたのよ。そうしてその村を人間に乗っ取られ、今では牛馬のような扱いじゃ」

 苦い思いを吐き捨てるように牛人は語った。

「……えぇ……」

 僕の唇から驚きのあまり声が洩れ出た……。そうして自然と牛人の身体に手を掲げた。

「ハイ・ヒーリング」

 呪文を唱えると胸の烙印から痛みが突き刺さり、少し干渉しただけでも、かなりの制約が掛かることを身を持って味わう――

「ぬおぅ!? 身体が元気になった」

 牛人が目を見張り、信じられないといった表情で僕を見つめた。

「はあぁー、治癒魔法を掛けました……それじゃあ僕は旅の続きを……」

 そう小さく呟いて、逃げるように牛人から離れていく。

 牛人が言ったことは真実かどうかは分からない……ただ僕が倒した魔王軍の兵士が奴隷となって十年もの間、家畜のように働かされていることだけは間違いのない事実であった。
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