22 / 44
第二十二話 勇者は異世界を逃げ出した
しおりを挟む
魔王城を取り囲む石垣には、魔族を侮蔑する落書きで埋め尽くされていた。以前ならここまで辿り着く人は、まず居なかったはずだが、守護者のいない魔王の迷宮は、簡単なアトラクションに近いものがあった。ただ、この城の結界をかいくぐって、中に入る程の猛者は早々いないだろう。
僕は鉄柵の門扉に手を掛けると、何もしていないのに扉がゆるりと開いた。すると門扉の前に、褐色の女性が待ち構えるようにして立っていた。
「どうやら約束は、守ったようですね」
その言葉を聞いて、初めて彼女が魔王の娘だと気が付いた。一年前に会った彼女は、きりっとしたきつめで透き通るような青い目をしていたが、僕の前に立つ女性の顔には、魔王譲りの立派な角は両方折れており、当時の面影は何処にもなかった……。
「ああぁぁ……」
僕は小さく呻き声を発し、彼女に向け両手を広げて、治癒魔法を掛けようとした。
「私に触れないで下さい!!」
彼女はぞっとするような、暗く冷たい声で僕を完全に拒絶した。
「この屋敷には、強い結界が張り巡らせているのに何故……」
「外には守る者など誰もいませんから………無駄話はいらないので、私について来て下さい」
全てを察し、何も言えずに押し黙る――
部屋に通された僕は、屋敷の奥に隠されたように作られた、地下の一室に案内される。床には複雑な魔法陣が描かれており、僕はその魔法陣を見つめた。
「転移魔法を起動させますので、お父……魔石を渡して下さい」
言われるままに鞄から魔石を取り出し、彼女に手渡した。
「魔王はどうして戦場で戦わなかったのか教えて欲しい」
彼女は不愉快そうに顔を顰める。
「この転移装置を、人間の手から守るためです」
彼女は、苛立ったように答えた。
「その守る意味を、教えて欲しいのです」
「それは私にも分かりません。ただこの装置は、誰にも触れさせてはいけないと、常々申しておりました」
「じゃあなぜ……僕が……」
「ぐだぐだ言ってないで、早くこの魔方陣の下に立ちなさいよ! もうすぐ王国軍がこの地を汚しにやってくるの。勇者を送り返さないことには、ここを破壊することが出来ないのよ!」
「えっ!? ではこの邸宅に張ってある結界まで壊れるじゃないか!! そうだとすれば、貴方は暮らす場所を失うということですか」
彼女はその言葉を聞いて、露骨に顔を引き攣らせた。
「良く喋る男ね…… 。もう私の心は、勇者にお父様を殺されてから死んでいるの! だから今更自分がどうなろうと、問題はないの」
吐き捨てるようにそう言ってから、少し泣きそうな表情で僕を睨みつけた。
勇者なら彼女を救う言葉を投げ掛けたであろう……しかし似非勇者にそれは出来なかった。僕は彼女に促されるまま、魔法陣の上に立った。暫くすると床から光の文字が浮かび上がり、転移魔法が発動し僕の身体を包み込んでいく。通常の移転魔法と異なり、一瞬で目的地に転移しなかった、初めて召還された魔法によく似ており、目的地を伝えていないのにも関わらず、成功すると信じることが出来た。
――地面に足が付いた感覚が戻ると、辺りを闇が覆っていた。異世界には無い街頭の光を見て、(日本に戻ってきたんだ……)僕の目尻から一筋の涙がこぼれ落ちた。
僕は鉄柵の門扉に手を掛けると、何もしていないのに扉がゆるりと開いた。すると門扉の前に、褐色の女性が待ち構えるようにして立っていた。
「どうやら約束は、守ったようですね」
その言葉を聞いて、初めて彼女が魔王の娘だと気が付いた。一年前に会った彼女は、きりっとしたきつめで透き通るような青い目をしていたが、僕の前に立つ女性の顔には、魔王譲りの立派な角は両方折れており、当時の面影は何処にもなかった……。
「ああぁぁ……」
僕は小さく呻き声を発し、彼女に向け両手を広げて、治癒魔法を掛けようとした。
「私に触れないで下さい!!」
彼女はぞっとするような、暗く冷たい声で僕を完全に拒絶した。
「この屋敷には、強い結界が張り巡らせているのに何故……」
「外には守る者など誰もいませんから………無駄話はいらないので、私について来て下さい」
全てを察し、何も言えずに押し黙る――
部屋に通された僕は、屋敷の奥に隠されたように作られた、地下の一室に案内される。床には複雑な魔法陣が描かれており、僕はその魔法陣を見つめた。
「転移魔法を起動させますので、お父……魔石を渡して下さい」
言われるままに鞄から魔石を取り出し、彼女に手渡した。
「魔王はどうして戦場で戦わなかったのか教えて欲しい」
彼女は不愉快そうに顔を顰める。
「この転移装置を、人間の手から守るためです」
彼女は、苛立ったように答えた。
「その守る意味を、教えて欲しいのです」
「それは私にも分かりません。ただこの装置は、誰にも触れさせてはいけないと、常々申しておりました」
「じゃあなぜ……僕が……」
「ぐだぐだ言ってないで、早くこの魔方陣の下に立ちなさいよ! もうすぐ王国軍がこの地を汚しにやってくるの。勇者を送り返さないことには、ここを破壊することが出来ないのよ!」
「えっ!? ではこの邸宅に張ってある結界まで壊れるじゃないか!! そうだとすれば、貴方は暮らす場所を失うということですか」
彼女はその言葉を聞いて、露骨に顔を引き攣らせた。
「良く喋る男ね…… 。もう私の心は、勇者にお父様を殺されてから死んでいるの! だから今更自分がどうなろうと、問題はないの」
吐き捨てるようにそう言ってから、少し泣きそうな表情で僕を睨みつけた。
勇者なら彼女を救う言葉を投げ掛けたであろう……しかし似非勇者にそれは出来なかった。僕は彼女に促されるまま、魔法陣の上に立った。暫くすると床から光の文字が浮かび上がり、転移魔法が発動し僕の身体を包み込んでいく。通常の移転魔法と異なり、一瞬で目的地に転移しなかった、初めて召還された魔法によく似ており、目的地を伝えていないのにも関わらず、成功すると信じることが出来た。
――地面に足が付いた感覚が戻ると、辺りを闇が覆っていた。異世界には無い街頭の光を見て、(日本に戻ってきたんだ……)僕の目尻から一筋の涙がこぼれ落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる