勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第二十三話 ひきこもり、フードコートでだべる

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 ――佐川健二は、自分の犯した異世界での罪を今泉誠に語った。

「はなし長っ!!」

 友人から思いもよらない言葉に唖然とする。

「まこちゃん……それは無いよ」

 健二は思わず、上ずった声を発した。

 「いや~申し訳ない。でも、言っちゃあ悪いが、あまりにも聞き飽きた物語だったもので、ついつい口から出てしまったな。まあ、健ちゃんが召還された時代は、人間が正義で魔王が悪いわゆる勧善懲悪ものが主流なゲームやアニメ、小説が占めていたので、敵側のイデオロギーなんて知ろうとしないのは無理ないことだと思うよ。昨今のラノベしょうせつでは、召還した勇者に魔道具をつけて、無理矢理に服従させ、戦わす話なんて結構あるんだぜ」

 悪びれもせずに、俺は言い切る。

「……」

 俺が掛けた言葉に、健ちゃんはぎゅっと口を引き結ぶ。

「とりあえず、この散らかした部屋を元に戻すとするか」

「ごめん……なんだか申し訳なさ過ぎて」

 その顔に苦渋の色が浮かんだ。

「そんなに気にすんなよ。俺が片付けをするから、健ちゃんは二人に頭を下げて、安心させてこい。あっちの世界で色々煮詰まってきてるから、ゆっくり過ごす生活ってのも悪くないと思う。俺なんてゆっくりしすぎて、もう心の中はさらさらで、働く気力も失っているんだぜ」

 冗談とも本気ともとれる微妙な言葉を、友人に投げかけた。

「そうだね……すぐに謝ってくるよ」

 健ちゃんは顔を苦しそうに歪め、ボソッと声を漏らした。

「二人は長い間、健ちゃんの足取りを捜していたんだ。全てを語る必要はないが、居なかった期間を知りたいと思うのは親心だ……。『神隠しに遭って帰れなくなった。戻ってきたら何十年も過ぎていたのが信じられない』なんて、言い訳だけでもしてあげろ。その若作りした顔・・・・・・なら、絶対信用するから」

 重くなるのを嫌い、冗談めかして言った。

「まこちゃんは策士だな……でも異世界で勇者をしてましたなんて、もう一度話せないや」

 健二は愁いを帯びた悲しい笑顔を俺に向けた。そうして倒れた障子を立て直して、部屋から出て行く。

  粗方、部屋の掃除が終わった頃、健ちゃんが戻ってきた。部屋から出て行ったときとは違い、すっきりした顔で戻ってきた。彼が二人に何を話したのかは気になりはしたが、聞かないことにしておいた。

「もう昼過ぎだし、飯でも食べに行こうぜ」

 彼に促すと、久しぶりに近所のイオンに行きたいといったので、俺たちは何事もなかったかのように、彼の家から出て行くことにした。

             *      *      *

「旨っ! スガキヤ旨すぎ」

 健ちゃんはイオンの中にあるフードコーナーにある、スガキヤラーメンをすすりながら絶賛している。

「空腹が最高の調味料と言うが、長年食べない事こそが嗜好の料理だよな」

 彼の美味しそうに食べる姿に、笑みが零れた。

「部活の帰りに、ここのラーメンを部員たちとよく食べていたんだ。この独特の豚骨スープのジャンク感が懐かしすぎる!!」

 スプーンとフォークを合体させた、スガキヤ名物ラーメンフォークという妙な器具を、指先で器用にくるくると回し、健ちゃんが食レポをする。

「昔は特製ラーメンを食べても、四百円しなかったよな……学生時代は俺もよく通ったけど、久しぶりに食べたぞ。ここのソフトクリームが、一番美味しいと言ってたのが懐かしいな」

 もう舌が肥えすぎて、普通の味にしか思えなくなったソフトクリームとラーメンを交互に食べながら、当時の懐古的な記憶を呼び覚ました。

「マックのハンバーガーだけ百円って、値段も変わっていないんだ」

 そう言って、健ちゃんがトレイの上に、山積みしたハンバーガーをポテト代わりに食べている。

 「見かけだけでなく、身体も学生かよ!」

 楽しそうに瞳をきらきらと輝かせながら、ハンバーガーにかぶりつく友人に軽く毒づくと、彼は不思議そうな顔で俺を見やった。しかも「次は何を食べようかな」とのたまって、店舗にある他のフードコーナーを吟味しているという始末だった。

「日本って天国に思えるよ」

「なんだか異世界帰りがそう言うと、深いよな」

「ははっ、そうかもしれないね。帰りにうまい棒を買って帰るから、もう少し付き合って」

 俺はまだ食い足りないのかと、口から出かけたが、その言葉を飲み込んだ。その代わりに――

「家に帰って二人でゲームでもするか」

 学生時代と同じように、健ちゃんを家に誘った――


※ ようやく主人公登場です(汗)。やっと書きたい物語が進めれますwww。
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