勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第二十四話 ひきこもり、勇者に抗う

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 お互いに数十年振りで対戦するストリートファイターに夢中になる。PS2を知らない健ちゃんに、最初は余裕をかましていた俺だったが、数時間後には、ザンギエフのスクリューパイルドライバーの前に完敗しはじめる。

「ゲームパッドに慣れさえすれば、余裕だよ」

 そう言って、鼻歌交じりで髭面のザンギエフの強さを、見せ付けるようにくるくると回す。

「ぐぬぬぬぬ。これだけは使いたくはなかったが……」

 俺は目尻に涙を浮かべ、ガイルを次のキャラに選んだ。

ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、小パンチ、ソニックブーム、ソニックブーム、小パンチ、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、小パンチ、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、ソニックブーム、小パンチ。

 ――で牽制。のろのろと近づいてきたザンギエフを、しゃがみ中キックで追い払う――いわゆる『待ちガイル』で健ちゃんを圧倒する。

「なははは、ガイル最強だ」

「健ちゃん……勝てないからって、あまりにも大人気おとなげないよね!!」

 ストリートファイターという格闘ゲームにおいて、対戦するキャラには相性がある。しかもガイルというキャラを、その場で動かさず防御一辺倒で戦う戦術は、ゲームセンターで行えば、対戦相手からぼこられても仕方がない案件だった。

「はあ!? じゃあちみも・・・ガイルを使えばいいんじゃねえ」

 俺は健ちゃんが正義感が強いので、それに応じることは無いのを承知で煽る。

「くっ……じゃあ、ダルシムで」

 ダルシムの長いリーチで、ガイルはびしばしと攻撃され、正直そこまでこのゲームをやり込んでいない俺は、簡単にぼこられてしまった。

「あれれれ……まこちゃんが急に弱くなっちまったぞ」

 逆に煽られてしまい、怒りと羞恥で顔が熱くなり、ゲームパッドを下に叩け付けてしまいそうになる。お互い相性の噛み合わないキャラをぶつけ合い、不毛な戦いが数時間もの間繰り広げられた。最終的に、ウイニングイレブン(サッカーゲーム)で決着という運びになった。

「それにしても、TVゲームの進化は凄いよね。ゲームセンタのゲームが、遜色なく家で遊べるなんて信じられないよ」

「まあな……この家庭用ゲーム機のせいで、ゲームセンターから、アーケードゲームが消え去ったんだ」

「ふえっ! マジ?????」

 健ちゃんは、その信じられない事実を突き付けられて息を呑む。

「次の新機種(PS3)が出る頃には、|格闘ゲームそのものが、絶滅寸前まで追いやられていくのよ」

「ゲーセンが消えたの!?」

 健ちゃんは目をパチクリとさて、俺を見た。

「今では悲しいことに、クレーンゲームやメダルゲームを楽しむ遊技施設に成り下がってしまったな」

「浦島太郎の気持ちが、初めて分かった気がする……」

 俺の言葉に、健ちゃんがぼやくように気持ちを吐露する。

「そうだよな……。まあアーケードゲームの移植が家庭用ゲームに無くなっただけで、ゲーム自体は、どんどん進化しているけどな。この機種はPS2なんで、PS3、PS4を見ればもっと驚くぞ」

「このサッカーゲームでさえ、名作だと感動しているのに、さらに上があると思うとワクワクが止まらないよ」

 ゲームパッドで選手を動かしつつ、会話を続ける。

「PS2のゲームをやり尽くしてから遊ぼうか。ただ新しくなると、未来の選手しか・・・・・・・登場しなくなるけどな」

 そう言って、俺は悪戯っぽく笑みを浮かべる。

「三浦知良が今でも現役選手なわけないし、それは仕方がないと諦めるしかないね」

知良カズは、今でも現役選手だぞ!」

 俺は健ちゃんの肩にポンと手を置く。

「ま、マジですか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 健ちゃんはゲームパッドを両手で握ったまま、後ろに倒れ落ちた――
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