25 / 44
第二十五話 ひきこもり、勇者を泣かす
しおりを挟む
「おじゃましまーす」
「ちーす」
リビングで遅い夕食を食べていると、玄関から健ちゃんの声が聞こえてくる。口の中にご飯を詰めながら、訪問客に挨拶を返す。
「これ、お母さんからの差し入れ」
彼から野菜の煮物の詰まったタッパーを受け取る。
「いつも悪いな!」
俺はそう言って、いま貰ったばかりの煮物に箸をつけた。
「おばさんの作る料理はいつ食べても美味しいな! この感動を伝えておいてくれ」
「ああ、妹にそう伝えておくよ」
俺に向けて、含み笑いをした。
「ぐぬぬ」
俺は芋を喉に詰まらせる振りをするしかなかった……。
健ちゃんは隣の部屋から漫画を抱え、床に腰を下ろし読み出す。二人が出会ってからこんな生活が一月ほど続いている。特にべらべら会話することもなく、お互い気に入った漫画のシーンがあれば見せたり、俺が積んでいるゲームを健ちゃんが崩したのを、なんとなく横で見て楽しんでいた。
たまに異世界生活のことを俺が口にすると、彼は海外留学を経験したことを語るかのように話してくれた。こう書けば何も問題がないように思えるが、周に一二度、健ちゃんは、自宅で異世界生活を思い出して、突然大声で泣き出したりしていた。そんなとき、俺は薫ちゃんに呼び出されて彼を宥める役をしている。
健ちゃんは心的外傷後ストレス障害 (PTSD)と思える症状を発していると思われる。彼自身も俺の家で覚えた、ネット検索でほぼ間違いないと笑って話している。俺の前では特に問題があったわけでもないので、何も言わず二人して駄目な大人を演じ続けている。
深夜の三時を回った頃、二人して近くのコンビニにジャンプを買いに行くのが、ルーティーンの一つとなっている。まだ辺りは真っ暗な住宅街を二人して歩く。青い看板のコンビニにつくまでの十分間、学生時代に戻った気分を味わっていた――。
「ペヤングもさすがに飽きてきたので、今日はUFOにするよ」
健ちゃんは嬉しそうに、棚から日清焼そばUFOをカゴに入れる。
「それを食べる前に教えといてやるが、健ちゃんの知っているUFOとカゴの中のUFOは、全く違う物だと覚悟して食べろよ」
俺はふっと小さく、にが笑いを洩らす。
「なっ!? カップ焼きそばの味が変わるわけないじゃない」
「それがな、まずソース自体が全く別物なのよね……。当時のUFOのソースはおたふくソース、それが自社生産で味変したのな。しかも麺は昔みたいな縮れ麺ではなく、ストレート麺に改悪されちまって俺たちのUFOはもうどこにもいないのよ」
そう告げると、彼は呆気に取られたような顔で俺を見た。
「十年以上、恋い焦がれたカップ焼きそばが食べられないと言うことなの!?」
健ちゃんは思わず声を荒げる。
「そういうこと。あの会社の社長が交代してから、カップ麺を本物に近づけると乱心してしまい、どん兵衛も健ちゃんの知っている平たい麺とは全く違った食感になっているぜ。まあ、これが改悪かどうかは何とも言い難いけどな」
「信じられないよ!! ペヤングは全く変わらない味なのにどうして!!」
俺の言葉に、健ちゃんは盛大にぼやき、怒りを露わにした。
「悲しい話ついでに教えてやるが、カップヌードルの謎肉も、もう違う具に置き変わっている」
俺はからかうように、わざと重苦しい口調で言う。
「ふえ~~~~~、浦島太郎状態で色々ショックを受けたけど、一番ダメージがでかいよ……」
そう言って、コンビニの天井を見上げてうっすらと涙を流す。
「この店では見かけないけど、まさか僕の一番大好きな、エースコックの大盛りイカ焼きそばだけは、そんな馬鹿な改変はしてないよね……」
健ちゃんは鼻に小さくシワを寄せ、しばしためらってから言う。
「イカ焼きそばの存在自体が無くなったな……。しかもスーパーカップシリーズは、ちじれ麺からスカスカのカドメンに変更して、往年のファンをどれだけ泣かせたのか口にしたくもない」
衝撃の事実を知った健ちゃんは、がっくりと肩を落とし、コンビニから家までの帰り道、虚ろな目をして歩いて行く――
「ちーす」
リビングで遅い夕食を食べていると、玄関から健ちゃんの声が聞こえてくる。口の中にご飯を詰めながら、訪問客に挨拶を返す。
「これ、お母さんからの差し入れ」
彼から野菜の煮物の詰まったタッパーを受け取る。
「いつも悪いな!」
俺はそう言って、いま貰ったばかりの煮物に箸をつけた。
「おばさんの作る料理はいつ食べても美味しいな! この感動を伝えておいてくれ」
「ああ、妹にそう伝えておくよ」
俺に向けて、含み笑いをした。
「ぐぬぬ」
俺は芋を喉に詰まらせる振りをするしかなかった……。
健ちゃんは隣の部屋から漫画を抱え、床に腰を下ろし読み出す。二人が出会ってからこんな生活が一月ほど続いている。特にべらべら会話することもなく、お互い気に入った漫画のシーンがあれば見せたり、俺が積んでいるゲームを健ちゃんが崩したのを、なんとなく横で見て楽しんでいた。
たまに異世界生活のことを俺が口にすると、彼は海外留学を経験したことを語るかのように話してくれた。こう書けば何も問題がないように思えるが、周に一二度、健ちゃんは、自宅で異世界生活を思い出して、突然大声で泣き出したりしていた。そんなとき、俺は薫ちゃんに呼び出されて彼を宥める役をしている。
健ちゃんは心的外傷後ストレス障害 (PTSD)と思える症状を発していると思われる。彼自身も俺の家で覚えた、ネット検索でほぼ間違いないと笑って話している。俺の前では特に問題があったわけでもないので、何も言わず二人して駄目な大人を演じ続けている。
深夜の三時を回った頃、二人して近くのコンビニにジャンプを買いに行くのが、ルーティーンの一つとなっている。まだ辺りは真っ暗な住宅街を二人して歩く。青い看板のコンビニにつくまでの十分間、学生時代に戻った気分を味わっていた――。
「ペヤングもさすがに飽きてきたので、今日はUFOにするよ」
健ちゃんは嬉しそうに、棚から日清焼そばUFOをカゴに入れる。
「それを食べる前に教えといてやるが、健ちゃんの知っているUFOとカゴの中のUFOは、全く違う物だと覚悟して食べろよ」
俺はふっと小さく、にが笑いを洩らす。
「なっ!? カップ焼きそばの味が変わるわけないじゃない」
「それがな、まずソース自体が全く別物なのよね……。当時のUFOのソースはおたふくソース、それが自社生産で味変したのな。しかも麺は昔みたいな縮れ麺ではなく、ストレート麺に改悪されちまって俺たちのUFOはもうどこにもいないのよ」
そう告げると、彼は呆気に取られたような顔で俺を見た。
「十年以上、恋い焦がれたカップ焼きそばが食べられないと言うことなの!?」
健ちゃんは思わず声を荒げる。
「そういうこと。あの会社の社長が交代してから、カップ麺を本物に近づけると乱心してしまい、どん兵衛も健ちゃんの知っている平たい麺とは全く違った食感になっているぜ。まあ、これが改悪かどうかは何とも言い難いけどな」
「信じられないよ!! ペヤングは全く変わらない味なのにどうして!!」
俺の言葉に、健ちゃんは盛大にぼやき、怒りを露わにした。
「悲しい話ついでに教えてやるが、カップヌードルの謎肉も、もう違う具に置き変わっている」
俺はからかうように、わざと重苦しい口調で言う。
「ふえ~~~~~、浦島太郎状態で色々ショックを受けたけど、一番ダメージがでかいよ……」
そう言って、コンビニの天井を見上げてうっすらと涙を流す。
「この店では見かけないけど、まさか僕の一番大好きな、エースコックの大盛りイカ焼きそばだけは、そんな馬鹿な改変はしてないよね……」
健ちゃんは鼻に小さくシワを寄せ、しばしためらってから言う。
「イカ焼きそばの存在自体が無くなったな……。しかもスーパーカップシリーズは、ちじれ麺からスカスカのカドメンに変更して、往年のファンをどれだけ泣かせたのか口にしたくもない」
衝撃の事実を知った健ちゃんは、がっくりと肩を落とし、コンビニから家までの帰り道、虚ろな目をして歩いて行く――
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる