勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第二十五話 ひきこもり、勇者を泣かす

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「おじゃましまーす」

「ちーす」

 リビングで遅い夕食を食べていると、玄関から健ちゃんの声が聞こえてくる。口の中にご飯を詰めながら、訪問客に挨拶を返す。

「これ、お母さんからの差し入れ」

 彼から野菜の煮物の詰まったタッパーを受け取る。

「いつも悪いな!」

 俺はそう言って、いま貰ったばかりの煮物に箸をつけた。

「おばさんの作る料理はいつ食べても美味しいな! この感動を伝えておいてくれ」

「ああ、妹にそう伝えておくよ」

 俺に向けて、含み笑いをした。

「ぐぬぬ」

 俺は芋を喉に詰まらせる振りをするしかなかった……。

 健ちゃんは隣の部屋から漫画を抱え、床に腰を下ろし読み出す。二人が出会ってからこんな生活が一月ほど続いている。特にべらべら会話することもなく、お互い気に入った漫画のシーンがあれば見せたり、俺が積んでいるゲームを健ちゃんが崩したのを、なんとなく横で見て楽しんでいた。

 たまに異世界生活のことを俺が口にすると、彼は海外留学を経験したことを語るかのように話してくれた。こう書けば何も問題がないように思えるが、周に一二度、健ちゃんは、自宅で異世界生活を思い出して、突然大声で泣き出したりしていた。そんなとき、俺は薫ちゃんに呼び出されて彼を宥める役をしている。

 健ちゃんは心的外傷後ストレス障害 (PTSD)と思える症状を発していると思われる。彼自身も俺の家で覚えた、ネット検索でほぼ間違いないと笑って話している。俺の前では特に問題があったわけでもないので、何も言わず二人して駄目な大人を演じ続けている。

 深夜の三時を回った頃、二人して近くのコンビニにジャンプを買いに行くのが、ルーティーンの一つとなっている。まだ辺りは真っ暗な住宅街を二人して歩く。青い看板のコンビニにつくまでの十分間、学生時代に戻った気分を味わっていた――。

「ペヤングもさすがに飽きてきたので、今日はUFOにするよ」

 健ちゃんは嬉しそうに、棚から日清焼そばUFOをカゴに入れる。

「それを食べる前に教えといてやるが、健ちゃんの知っているUFOとカゴの中のUFOは、全く違う物だと覚悟して食べろよ」

 俺はふっと小さく、にが笑いを洩らす。

「なっ!? カップ焼きそばの味が変わるわけないじゃない」

「それがな、まずソース自体が全く別物なのよね……。当時のUFOのソースはおたふくソース、それが自社生産で味変したのな。しかも麺は昔みたいな縮れ麺ではなく、ストレート麺に改悪されちまって俺たちのUFOはもうどこにもいないのよ」

 そう告げると、彼は呆気に取られたような顔で俺を見た。 

「十年以上、恋い焦がれたカップ焼きそばが食べられないと言うことなの!?」

 健ちゃんは思わず声を荒げる。

「そういうこと。あの会社の社長が交代してから、カップ麺を本物に近づけると乱心してしまい、どん兵衛も健ちゃんの知っている平たい麺とは全く違った食感になっているぜ。まあ、これが改悪かどうかは何とも言い難いけどな」

「信じられないよ!! ペヤングは全く変わらない味なのにどうして!!」

 俺の言葉に、健ちゃんは盛大にぼやき、怒りを露わにした。

「悲しい話ついでに教えてやるが、カップヌードルの謎肉も、もう違う具に置き変わっている」

 俺はからかうように、わざと重苦しい口調で言う。

「ふえ~~~~~、浦島太郎状態で色々ショックを受けたけど、一番ダメージがでかいよ……」

 そう言って、コンビニの天井を見上げてうっすらと涙を流す。

「この店では見かけないけど、まさか僕の一番大好きな、エースコックの大盛りイカ焼きそばだけは、そんな馬鹿な改変はしてないよね……」

 健ちゃんは鼻に小さくシワを寄せ、しばしためらってから言う。

「イカ焼きそばの存在自体が無くなったな……。しかもスーパーカップシリーズは、ちじれ麺からスカスカのカドメンに変更して、往年のファンをどれだけ泣かせたのか口にしたくもない」

 衝撃の事実を知った健ちゃんは、がっくりと肩を落とし、コンビニから家までの帰り道、虚ろな目をして歩いて行く――
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