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第二十八話 ひきこもり、ユーチューブを開設する
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病院では大口を叩いたものの、この年にもなって自分がユーチューブを立ち上げるとは、思いもしなかった。パソコンとは親友と呼んでも憚らないほどの、長いお付き合いをしていたので、個人のチャンネルを開設するのは造作もないことだった。
スマホを使い動画を配信することも出来たが、自分としてはせっかく立ち上げるなら、少しだけ機材にもこだわりたい。そこで室内で情報を発信するトーク系ユーチューバーが自分のスタイルになりそうなので、ミラーレス一眼を、カメラとして使うことに決める。
ユーチューブの見る専から言わせて貰えば、画像の荒い動画はマイナス要素になる。そして画面が暗ければ、コンテンツが良いと感じても、視聴を継続しない場合が多かった。この辺の問題点は、機材さえ良い物にすればすぐに解消される。初心者の俺でも、クオリィティーの高い動画が撮りやすくなるので、機材に課金することにする。カメラ本体だけでも音声はとれるが、これもマイクのランクをあげた機材を使うことに決めた。
カメラ、マイク、三脚、照明、等々――ユーチューブを開設する機材を、予算二十万円で全てそろえる。収益化を考えていないので、この出費はかなり痛いが、友人の笑顔はプライスレスだとすこし格好をつけた。量販店とネット通販を使って、開設までの準備を整えた。
――――「チース! 元気していた」
三日振りに、健ちゃんの見舞いに訪れる。
「土曜には退院なので、わざわざ来てくれなくても良いのに」
そう言いながら、破顔の笑みを見せる。
「退院の日も決まって、良かったな」
「ありがとう、貸して貰った小説を全部消化することが出来そうだよ。最近の小説は、表紙は元より、挿絵もガッツリ描かれていて驚いたよ。僕の知っている小説の挿絵って、落書きみたいなものか、イラストレーターが独特のタッチで描いているので、登場人物のイメージとかけ離れていると感じたけどね」
「この十数年で小説の表紙のスタイルも、ずいぶん様変わりしたな。今回持ってきたライトノベルというジャンルは、小説の内容は当然優れているに超したことはないけど、表紙イラストの出来次第で、発行部数が大きく変わってしまうんだ」
「天野喜孝のイラストで育った僕としては、この進化は歓迎するよ」
そう言って、お互い大声で笑い合う。そして健ちゃんの前に、スマホを取り出し、今日来た本当の目的を果たすことにする。
* * *
「初めまして、今日は! 本日立ち上げた「異世界レジスタンス」の隊長を任命された異次元まことです。この動画を始めた理由は――『異世界から侵略者たちが地球に攻めてくる』この事を、世界中の皆様に知って貰いたくて開設しました! 異世界なんてあるのと思われる人たちが大半だと思いますが、これからゆっくりと説明しますのでお付き合い下さい。まずは異世界の国を紹介します」
机に寝かしていたフリップを固定カメラに向ける。
「これが異世界のバルザ王国の街並みです。中世ヨーロッパに似ており、ラノベに登場するナーロッパみたいですね」
フィリップに解説を付け、建物の感想をゆるりと喋る。フィリップを五、六枚ほどめくり、横目で時計を見るとまだ五分ほどしか喋っていない。予定ではバルザ王国の町並みの紹介で、十分ほどの動画が撮れているはずだったが、自分が思った以上に早口で喋っていたらしい。
「異世界の存在など、物語の中にしか無いと思っていた貴方――これから『異世界レジスタンス』では、その存在を明らかにしていきたいと思っております。そして異世界の侵略に立ち向かうため、異次元まことと共に戦ってくれる戦士を増やしていく所存です」
「それでは最後まで見て頂き、ありがとうございます。チャンネル登録お願いいたします。次回また我が戦士たちお会いしましょう」
ユーチューブでありがちな定型文で動画を閉めた。
* * *
「す、凄い……」
健ちゃんは動画が終わるまで、食い入るようにスマホの画面を見ていた。
「凄いと言われちまうと、照れちまうよな」
俺は初めて挙げた動画の感想に、にやけてしまう。
「文化祭レベルな映像を、誰しもが発信出来る技術と時代に、凄いとしか言いようがないよ!!!!」
そして、満面の笑みで健ちゃんが言った……。
「ぐぬぬ……」
俺は言葉を詰まらせた。
「はわわわ、健ちゃんの作ってくれた動画を馬鹿にしたんじゃなくて、このユーなんとかという技術に、僕は置いてけぼりだと言いたかったの」
申し訳ないような気持ちを、全面に打ち出して言い直す。
「はー、まあ実際……俺自身も素人以下の仕上がりだと自覚しているさ。この動画サイトも、健ちゃんがデジカメで撮ってきた数多くの画像がなければ、成立しないし」
「召還されてから一年ほどの写真だけど……人間以外の種族の映った写真は、結構撮っていたはずなのに、どうして使わなかったの?」
健ちゃんが気になったことを尋ねてくる。
「インパクトを考えれば、すぐにでも上げる手もあったけど……動画数を増やした方が視聴者が増えると思うので、出し惜しみさせて貰うわ」
「なるほどね……確かに宇宙人の写真を最初に使ってしまうと、空に浮かんだUFO写真なんて、ただの異物に見えちゃうね」
…………しばらく思い悩んだような表情を見せてから、俺は口を開いた。
「そうだ……健ちゃんにも仕事をして欲しいんだけど頼めるかな」
俺は使い古した古いノート型パソコンを健ちゃんに手渡し、パソコンを立ち上げた。
「もちろん僕も手伝わせて貰うよ!」
草原を一陣の風が吹き抜けていくような返事が返ってくる。まだ何の説明もしていないのに――俺は少しだけ胸がキュンと痛くなる。
「このパソコンの中に、健ちゃんの撮った写真が数千枚近く入っているのよ。異世界の写真の場所や人物の特定が、自分では出来ないので、画像の名前を簡単な場所や名前の説明で、変更して分かりやすくして欲しいんだ。例えばこの【021IMA】という画像ファイル名を【王宮】みたいに……」
健ちゃんにファイル名の変更方法を教える。
「ふはー!? 結構大変かも」
健ちゃんは大きな溜息をついて、俺を一瞥した。
「退院までによろしく!」
最後に、俺はそう結ぶ。
「まこちゃんの鬼ぃ~~~~」
みっともなく叫んだ彼は、頬をプクリと膨らませ、わざと困った顔を作ってみせた。
スマホを使い動画を配信することも出来たが、自分としてはせっかく立ち上げるなら、少しだけ機材にもこだわりたい。そこで室内で情報を発信するトーク系ユーチューバーが自分のスタイルになりそうなので、ミラーレス一眼を、カメラとして使うことに決める。
ユーチューブの見る専から言わせて貰えば、画像の荒い動画はマイナス要素になる。そして画面が暗ければ、コンテンツが良いと感じても、視聴を継続しない場合が多かった。この辺の問題点は、機材さえ良い物にすればすぐに解消される。初心者の俺でも、クオリィティーの高い動画が撮りやすくなるので、機材に課金することにする。カメラ本体だけでも音声はとれるが、これもマイクのランクをあげた機材を使うことに決めた。
カメラ、マイク、三脚、照明、等々――ユーチューブを開設する機材を、予算二十万円で全てそろえる。収益化を考えていないので、この出費はかなり痛いが、友人の笑顔はプライスレスだとすこし格好をつけた。量販店とネット通販を使って、開設までの準備を整えた。
――――「チース! 元気していた」
三日振りに、健ちゃんの見舞いに訪れる。
「土曜には退院なので、わざわざ来てくれなくても良いのに」
そう言いながら、破顔の笑みを見せる。
「退院の日も決まって、良かったな」
「ありがとう、貸して貰った小説を全部消化することが出来そうだよ。最近の小説は、表紙は元より、挿絵もガッツリ描かれていて驚いたよ。僕の知っている小説の挿絵って、落書きみたいなものか、イラストレーターが独特のタッチで描いているので、登場人物のイメージとかけ離れていると感じたけどね」
「この十数年で小説の表紙のスタイルも、ずいぶん様変わりしたな。今回持ってきたライトノベルというジャンルは、小説の内容は当然優れているに超したことはないけど、表紙イラストの出来次第で、発行部数が大きく変わってしまうんだ」
「天野喜孝のイラストで育った僕としては、この進化は歓迎するよ」
そう言って、お互い大声で笑い合う。そして健ちゃんの前に、スマホを取り出し、今日来た本当の目的を果たすことにする。
* * *
「初めまして、今日は! 本日立ち上げた「異世界レジスタンス」の隊長を任命された異次元まことです。この動画を始めた理由は――『異世界から侵略者たちが地球に攻めてくる』この事を、世界中の皆様に知って貰いたくて開設しました! 異世界なんてあるのと思われる人たちが大半だと思いますが、これからゆっくりと説明しますのでお付き合い下さい。まずは異世界の国を紹介します」
机に寝かしていたフリップを固定カメラに向ける。
「これが異世界のバルザ王国の街並みです。中世ヨーロッパに似ており、ラノベに登場するナーロッパみたいですね」
フィリップに解説を付け、建物の感想をゆるりと喋る。フィリップを五、六枚ほどめくり、横目で時計を見るとまだ五分ほどしか喋っていない。予定ではバルザ王国の町並みの紹介で、十分ほどの動画が撮れているはずだったが、自分が思った以上に早口で喋っていたらしい。
「異世界の存在など、物語の中にしか無いと思っていた貴方――これから『異世界レジスタンス』では、その存在を明らかにしていきたいと思っております。そして異世界の侵略に立ち向かうため、異次元まことと共に戦ってくれる戦士を増やしていく所存です」
「それでは最後まで見て頂き、ありがとうございます。チャンネル登録お願いいたします。次回また我が戦士たちお会いしましょう」
ユーチューブでありがちな定型文で動画を閉めた。
* * *
「す、凄い……」
健ちゃんは動画が終わるまで、食い入るようにスマホの画面を見ていた。
「凄いと言われちまうと、照れちまうよな」
俺は初めて挙げた動画の感想に、にやけてしまう。
「文化祭レベルな映像を、誰しもが発信出来る技術と時代に、凄いとしか言いようがないよ!!!!」
そして、満面の笑みで健ちゃんが言った……。
「ぐぬぬ……」
俺は言葉を詰まらせた。
「はわわわ、健ちゃんの作ってくれた動画を馬鹿にしたんじゃなくて、このユーなんとかという技術に、僕は置いてけぼりだと言いたかったの」
申し訳ないような気持ちを、全面に打ち出して言い直す。
「はー、まあ実際……俺自身も素人以下の仕上がりだと自覚しているさ。この動画サイトも、健ちゃんがデジカメで撮ってきた数多くの画像がなければ、成立しないし」
「召還されてから一年ほどの写真だけど……人間以外の種族の映った写真は、結構撮っていたはずなのに、どうして使わなかったの?」
健ちゃんが気になったことを尋ねてくる。
「インパクトを考えれば、すぐにでも上げる手もあったけど……動画数を増やした方が視聴者が増えると思うので、出し惜しみさせて貰うわ」
「なるほどね……確かに宇宙人の写真を最初に使ってしまうと、空に浮かんだUFO写真なんて、ただの異物に見えちゃうね」
…………しばらく思い悩んだような表情を見せてから、俺は口を開いた。
「そうだ……健ちゃんにも仕事をして欲しいんだけど頼めるかな」
俺は使い古した古いノート型パソコンを健ちゃんに手渡し、パソコンを立ち上げた。
「もちろん僕も手伝わせて貰うよ!」
草原を一陣の風が吹き抜けていくような返事が返ってくる。まだ何の説明もしていないのに――俺は少しだけ胸がキュンと痛くなる。
「このパソコンの中に、健ちゃんの撮った写真が数千枚近く入っているのよ。異世界の写真の場所や人物の特定が、自分では出来ないので、画像の名前を簡単な場所や名前の説明で、変更して分かりやすくして欲しいんだ。例えばこの【021IMA】という画像ファイル名を【王宮】みたいに……」
健ちゃんにファイル名の変更方法を教える。
「ふはー!? 結構大変かも」
健ちゃんは大きな溜息をついて、俺を一瞥した。
「退院までによろしく!」
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