勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第三十一話 ひきこもり、TVデビューする

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 六本木駅の改札を抜けると高層オフィスビルが建ち並び、久しぶりに大都会の息吹を感じた。駅から五分ほど歩いて、全面鏡張りの夕日放送に到着した。

 建物の中に入るとエントランスの天井からは、番組を宣伝する大きな垂れ幕が設置され圧倒される。

 テレビ業界が斜陽だと言われているが、田舎者から見れば驚くほど華やかな場所に映る。受付で用件を伝え、入館許可書を受け取り収録するスタジオを教えて貰う。小さな会議室のような部屋に入ると、自分と同じく出演依頼されたと人たちが、パイプ椅子に座っていた。時計を確認し、まだ集合時間まで二十分ほど余裕があるので、椅子に腰掛け時間を過ごすことにした、

 十分ほど経ち、黒縁の眼鏡に無精ひげを生やしたAD(アシスタントディレクター)と思しき人が、部屋に入ってくる。

「今日はわざわざ集まって頂き、ありがとうございます。私は超常現象XファイルのADを任されている吹雪和宣ふぶきかずのりと申します。まだ収録時間まで時間はありますので、本番の説明と、簡単なリハーサルをしたいと思います」

 俺たちはADの指示に従い、自分たちが持ち込んだネタを、五分ほどの持ち時間で、順番にプレゼンする事を求められる。このコーナーの出演者は、自分を含め六人いたので、最低三十分の時間が掛かる。これにスタジオでのやり取りを入れれば、収録時間だけで一時間弱は使う。ショートコーナーを放送するための尺は、それほど取られないので、放送されるのは一、二組が限界だろう。俺はせっかく出演するのだから、なんとかオンエアーされたいと思った。ただ他の出演者を見ると、どの人も個性的なキャラをしており、この狭き門をくぐり抜ける自信を少しだけ失った。

                           *      *      *

 メインコーナーが半分消化され、俺たちが参加する『珍発見!? 奇想天外とんでもファイル』の収録が始まる。このコーナーは、メイン司会者と代わって、お笑い芸人が司会を勤める、完全な色物枠であった。

「はい、青い色をした小人は存在しました」

 司会者は胡散臭い持ち込み動画を軽快に裁き、会場を笑いに変えていた。

 「次は異世界から地球を狙う侵略者がいると主張する、異次元まことさんです」

 観客席から拍手が起こり、視線が集中する。何度も練習を重ねてきたので、簡単な反復行為だと心に言い聞かせ口を動かした。数分ほどしゃべり続けると、口がからからに渇き、声がひっくり返りそうになる。最後のパネルをめくり終え、持ち時間を消化した。

「異世界にいるという魔人って何だよ! 異世界の建築物の写真があるなら、一枚や二枚の魔人の写真ぐらい撮れているはずだよな」

 辛口の芸人が薄笑いで煽ってくる。ここで俺は心の中で歓喜の拳を握りしめた。実は今回、魔人や亜人というキーワードを解説の中に多々挟み込み、超常現象否定派タレントに、突っ込んで貰えるようなテーマを仕込んでいた。

「これが異世界にいる魔人です」

 そう言って、一枚のパネルをドンと置いた。その瞬間、スタジオが静かになる。パネルと連動して大画面に映し出された画像は、髪の毛の中から獣の耳がひょっこり生えた猫系亜人が、市場で買い物をしている姿だった。犬頭の売り子から果物を受け取っている様子が、臨場感を表していたが、接写されてはいなかった。

「なんだよ! 分かりにくい写真だよな」

 そう毒づいた瞬間、俺はもう一枚のパネルに置き換えた。そこには同じ市場で取られたと思える、買い物をする虎頭の亜人の全身写真が、大きく写し出されていた。

 スタジオはそれを見て大爆笑する。司会者のビットたけるは、カンカンカンとゴングを鳴らし、オチを付けた。

 最後にUFOを信じる肯定派と否定派に別れて、激論バトルが始まる。昔からテレビでこの人気コーナーを見ていたので、一視聴者として楽しんだ。子供の頃は、UFO肯定派が、あまりにも馬鹿な発言ばかりするので、もう少し論理的に否定派を追い詰めて欲しいと憤慨していた。

 しかし、肯定派はボケで否定派が突っ込みという、お笑いプロレスをしていると、大人の仕組みが、今では・・・理解出来る。超常現象否定派の大学教授と芸人に弄られる、UFO出版社の玉沢さんの力量を間近に見れて、感慨深い物があった。

 スタジオ撮影はつつがなく終え、俺たちは元居た会議室に集まる。そこで取っ払いの三万円の出演料が配られた。

「異次元さん、面白かったですよ。確約は出来ませんが、『異世界レジスタンス』はオンエアーされると思います。本放送を楽しみにしていて下さい」

 ADの吹雪さんが嬉しそうに、俺に向かってそう話す。

 「ありがとうございます」

 俺は満面の笑みで彼に答えた。
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