勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第三十二話 ひきこもりと、怪奇現象

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「うわあああああああああああああああああああ!!」

 健ちゃんの震える身体をギュッと押さえると、俺の胸に頭を埋め徐々に力が抜けていくのが分かる。

「落ち着いたか……」

 そう言うと、彼は表情を和らげ、気恥ずかしそうに俺から離れた。以前と比べてフラッシュバックのような症状は、月に数回ほどしか起こらなくなっていた。俺の家で会話するときは、自ら異世界の思い出話をしたりするが、PTSDの症状は出たことがなかった。

 健ちゃんが落ちつけば、そのまま俺の家に行く流れが自然と出来ていた。

「そういえば、今日『ビットたけるの超常現象Xファイル』の放送日だよね」

 道端で何事も無かったかのように話しかけてくる。

「そうだったけな……録画予約していたから気にしていなかったぞ」

「オンエアーされるか楽しみだね」

「異次元まことに決めた、過去の自分を殴りたいぜ」

「ふはは、あれはイタイよ」

「流石に本名は身バレが怖いので適当な名前を名乗ったけど、まさか地上波で自分が出演するなど想定外だよ……人生ままならないわ」

 どこぞの主人公のように、空を見上げながら言った。

「夕食どうする」

 健ちゃんの顔が、リスのように見える。

「家では手料理食べてるんだろ……じゃあ、ケンタッキーかマックにするか」

「おごりですか」

「ああ、好きなだけと言いたいが、健ちゃんの胃袋は未だに学生時代なので、チキンなら六本までだな!」

「もちろんサイドメニューは、別だよね♪」

 何かを期待している様子で、こちらをじっと見つめる。

「し、仕方ない……プラス千円足してやる」

 俺はわざと、ぐっと顔を寄せ財布をちらつかせた。

「やったー」

 と、いうことで何気にケンタッキーに決まり、二人で駅前まで歩いて行くことにした。

「そういえば、この町も大分様変わりしたよね」

 健ちゃんが歩きながら、懐かしそうに辺りを見回す。

「そうかな……ずっと住んでいるとあんまり感じないけどな」

「ほら、あそこにあった本屋が無くなっているし」

 看板が取り下げられた、空き店舗を指差す。

「そういや、本屋は駅前のブンブン堂以外すべて潰れちまった。その流れで言えば、カードショップやおもちゃ屋は、完全に町全体から消えてたな」

「あと、レンタルショップも見ないね」

「町が変わっているのか……」

 俺は十年以上もの間、自分自身が何も変わっていないことに、少しだけそら寒いものを感じ取った。

  ただ、駅前のカーネルおじさんは、俺がここの移り住んでから何も変わらず、地蔵のように人々を見守っていた――

「あれ!? 隣にあるマックにいた、ドナルドがいなくなっている!?」

 健ちゃんが怪訝そうな顔で、ベンチに座っているドナルドオブジェの元あった場所を指差した……。

                        *      *      *

 おどろおどろしい音楽と共に、ナレーターが怪奇現象やUFO、未確認動物などこれから始まる内容のダイジェストを、引きたっぷりで語り始める。

「ビットたけるの超常現象Xファイル……禁断の秘密を大暴露!! 超常現象大スクープ番組ィィィーーー」

「このタイトルを聞くだけで、ワクワクするんですけど」

 健ちゃんが、チキンにかぶりつきながら、そう漏らす。

「俺も数年見ていなかったけど同感だ……」

 缶ビールを一気に喉に流し込む。数十分後、テレビ画面はついたまま、漫画の話に夢中になり、番組などそっちのけで盛り上がっていた……。

 「あの神化は無いと思わないか……あれをしてしまうと今までの修行が台無しだよ」

「でも、少年漫画あるあるだから、許容範囲だと――」

 まこちゃんが話しを言い終わる途中に……

「『珍発見!? 奇想天外とんでもファイル』――全国の様々な怪奇現象や、珍説を取り扱う研究者が、持ち時間五分でプレゼンしてくれます」

 若手急上昇のお笑い芸人が、マイクを握り企画内容を、簡素に説明する映像が、テレビに映し出される――

「はわわわ! 始まったよ」

「では、青い小人を研究続けている、尾頭三次さんです~」

 全身が真っ青の小人が、全国各地で現れる怪異を、指名されたプレゼンターが壇上に立ち解説する。

――「はい、青い人間もどきの小人は実在しました!!」

 司会者が締めくくり、会場は軽い笑いに包まれた。

「次は、事故物件に住み続け、そこで怪異に合うのが日常という、浜松シジミさんです」

 テレビのスピーカーから、その声が聞こえた瞬間、俺の肩がガックリと落ちた。

「放送をカットされちまったわ……」

 俺は呆然とテレビ画面を見つめていた……。

「エー!? まこちゃんの出番が公開されないってこと?」

「ああ……残念ながら青い小人の次が、俺の出番だったんだよね」

 俺は疲れきった様子で呟くように答えた。

「そうか……残念だったね」

 その傍らで健ちゃんは自分事のように、顔を暗くし俯いた……。

「次は異世界から地球を狙う侵略者がいると主張する、異次元まことさんです」

 その瞬間、俺はテレビを二度見した。

 「あれ! まこちゃんがテレビに映ってる」

「編集で順番が変わったみたいだ……」

 俺は健ちゃんの視線を外すように、肩をすくめてみせる。

「くははは! まこちゃんのボードを持つ手が震えている」

 健ちゃんは愉快そうにわらう。

「う、うるせい!!」

 俺は恥ずかしさを誤魔化すように・・・・・・・、缶ビールを一気に飲み干した。

 スタジオは大画面で映し出される亜人を見て大爆笑する。司会者のビットたけるは、カンカンカンとゴングを鳴らし、コーナーが終了した。

「亜人のインパクトは絶大だったね」

「カットて無くて良かったよ……健ちゃんには放送されるていで話していたから、順番がすっ飛ばされたときは、テレビ画面が真っ暗になったわ」

「お互いに、まるで葬式帰りの列席者だったよね」

 健ちゃんが明るく語る。俺は思いついたかのように、スマホを取り出し、自分のユーチューブチャンネルを覗いた。するとチャンネル登録者数がとんでもない数字に膨れ上がっている。

「ふはっ!? 『異世界レジスタンス』の登録数が五千人を超えている!!!!」

 俺はスマホ画面を信じられない思いで見つめる。

「ふえっ???? 最新動画で僕が見たときは、百人を少し超えてたぐらいだったけど……」

 得意気に笑みを浮かべ、スマホを手渡す。

「「テレビ効果恐るべし……」」

 俺たちは暫くの間、この怪奇現象・・・・を受け止めることが出来なかった――
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