勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第三十六話 ひきこもり、反旗を翻す

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「はい、本番はいりまーす」

 テレビスタッフが出演者に向けて声を張る。雛壇に座っている若手芸人たちが手を叩き、ガヤを挟んで番組を盛り上げている。正面の扉からスモークが炊かれ、司会者とメインの出演者たちが、スタジオに登場した。

「今日も大バトルが突発すると思うと、恐ろしいですね!」

 ビットたけるの一言で、会場全体が笑いに包まれる。袖口でそれを聴いていた俺は、上手く討論出来るか心臓が破裂する勢いでどきどきしていた。

「彼らプロに任せていれば、大丈夫ですよ。動画もかなり面白く仕上がったので、異次元さんは、彼らに噛みついて頂ければ十分ですよ」

 俺の心を見透かすかのように、吹雪さんが俺に出番の指示を出してきた。

 「異世界なんてあるわけ無いじゃないか!!」

 芸人の吉中が否定派として、最初に口火を切った。

『私たちは異次元まこと氏が主張する、異世界の画像、お金、衣服をそれぞれの専門機関に解析をお願いした。その結果驚くべき事実が判明したのだった』

 おどろおどろしい音楽と共に、専門家がVTRの映像に合わせ解説を始める。

「この異世界の建物なんですが、画像が少し荒いためCGだと言われてもおかしくないのですが……。ただこの画像枚数を制作するに当たると、数年はかかってしまうほど精密に出来ているんですよね。しかも異世界さんが持ち込んだ写真には、建物に備え付けられた花瓶や、人物の像、草花まで同じ密度で映し出されているんですよ。つまり、この花瓶一つで、簡単な建物の画像が作れてしまうんです。そして、この写真に似た建物はどれも、この地球上で見たことのない写真だと言わざる終えませんでした」

 画像を解析した担当者の発言が流されると、会場からエーという驚きの声が上がった。

「でも、描こうと思えば出来るんですよね! こんなのCGですよ」

 VTRが流れる中、吉中が反対意見を言う。

「そして、この皮で作られている服を、専門家に鑑定出したところ、牛や豚、羊などの皮ではなく、全く別の動物だと報告がありました。さらに詳しいことを鑑定して貰いましたが、どの生き物の皮なのか、特定されることは出来なかったのです」

「そりゃそうですよ! 地球上には数千もの動物がいるのですから、この皮が異世界から持ってきたなんて……ぷぷぷ」

 大水教授は小馬鹿にしたように、俺を見て笑う。

『さらに私たちは、異世界の通貨を、専門家に委ねるとどのお金も、初めて見た硬貨だと答えが返ってきた。そこで我々スタッフは、この硬貨の材質を、また別の機関で調べて貰うことにしたのだ。その結果、更に驚くべき事実が私たちに伝えられることになった』

 ナレーターは勿体ぶった説明を動画に合わせて話す。

「金色のコインはゴールドが九十パーセント含有されていました。そしてもう一枚のくすんだ茶色の硬貨が銅です。最後にこの青い金属性の硬貨なんですが、驚いたことに解析不能でした。細かい金属は、地球上にもある材質が含まれてはいましたが、この青く光る金属がどの鉱石であるか、残念ながら分かりませんでした……。合金だと仮定しても、このように青く輝く合金は、私が知る限り、見たことがありません」

 VTRが終わり、台座に乗せた異世界の異物が、アシスタントによって運び込まれる。その異物に、出演者たちが集まり、物珍しそうに手にとって眺めていた。

「どうですか皆さん……全部が証明されたとは言えませんが、異世界の存在を信じてくれましたでしょうか」

 俺は謙虚な感じを醸し出す。

「私は異世界があると思います。青いお金なんて地球上にないて言ってました」

 一人のアイドルタレントが、肯定派に鞍替えした。

「はあ……それだけで異世界があると言われてもな……」

 吉中がわざと大きな溜息をつき否定する。

「これだけの写真や服、それに地球では知られていない金属を目の前にして、異世界はないと言い切るのは、科学者として少々無理があると、僕は言わざる終えません」

「そうですか、あなたの本来の主張は異世界人が地球を狙っているということでしたよね。そんなことありえないですよ! この科学技術が発達した世界で、もし襲ってこられたとしても、近代兵器で完全に我々地球側が撃退できますよ」

 大水教授の意見に、俺は少々論点をずらされた思いがしたが

「相手の国は、魔法が使えます!!」

 と、思わず口走ってしまう。

「ヒャハハハハ!! 魔法なんて子供だましかよ」

 もう一人の辛口人気芸人の劇道げきみちふたりが、これ見よがしに突っ込んできた。

「魔法なんて馬鹿馬鹿しい」

 大水教授も相づちを打つ。

「魔法はあります」

「じゃあ、説明してください」

 吉中が目をいやらしく細め、黒縁の眼鏡を指先でクイッと上げた。

「否定派の方々は、これだけ暴言を吐くんですから、それなりに覚悟があるんでしょうか!」

 俺は身体が熱くなるのを押さえられず、思わず声を荒げた。

「ふははは。いつも私が言うとおり、異世界なぞあれば、大学教授を辞めさせて貰う」

「はっはっはーー。俺も芸人を辞めて、あんたの下でただ働きしてやるさ!!」

 威勢良く声を上げた劇道は、ニヤニヤと笑みを浮かべて俺を指差した。

「私も芸人を辞め、芸能界から引退宣言出させて貰います」

 俺は流石に三種三様の意見に、プロレスだとしてもブチ切れそうになった

 俺は大声で裏方にいるスタッフを呼び、この三人に今いった言葉を念書に書かせて貰うことにした。彼らはそれに意味もないと少々渋った……。

「それは面白い! 三人に書いて貰ってよ」

 ビットたけるの鶴の一声・・・・に、彼らは渋々と承知した。俺はその後、打ち合わせやリハーサルではしなかったことを皆に伝える。

「今から僕が魔法を見せたいので、丸椅子を三脚用意して下さい。その椅子に教授、吉中さん、劇道さんは腰掛けて下さい。ああ、その前に僕がネタを仕込んでいると思われたくないので、上着を全部脱ぎます。それから何か持っていないか検査して下さい」

 僕は否定派三人を楽屋裏に連れていき、パンツの中まで見せつけ、何かを仕込んでいないことを示した。

「教授、彼は何も持っていないんですよね」

 司会者が尋ねる。

「ああ、確認させて貰った」

 そう言って、否定派三人は丸椅子に腰掛けた。

「すいません! カメラを僕と彼らに分けて撮って下さい。もちろん全体像も、カメラで入るようにお願いいたします」

 Tシャツ姿一枚の俺は、勝手に注文を出す。そして、数メートル先で椅子に座っている否定派三人の前に、片手をかざした。会場はこのアドリブに息を飲む。

「ギラガント!!」

 そう、外連味けれんみたっぷりに呪文を唱えた。

「「「痛テテッ!!」」」

 その瞬間、教授たちは椅子から悲鳴を上げ転がり落ちた。それを目の当たりにした会場の観覧客と、ひな壇から大爆笑がおこる。

「手品じゃね………」

 鼻下にずり落ちた眼鏡姿の吉中の反論を打ち消すように、ビットたけるの終了を伝えるゴングの叩く音が、スタジオ中に鳴り響く――
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