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第四章 メイド、手を出される。
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「さぁ、じゃあさっそくこれから着てもらおうか!」
三十分後。片付けを終えて作業場に入ったジゼルを見るなり、ロイドは奥の立ち入り禁止部屋へと彼女を誘った。
そしてさっそく新しい下着を取り出し、ジゼルの前に差し出したのである。
(ほ、本当に昼日中にモデルのお仕事なんて……っ)
恥ずかしい……だがこれもまた仕事。ジゼルはいつも通りついたての陰に入って、いそいそと着替えを始めた。
「お茶の時間になったら軽食を取りに行ってもらう予定だから、それまでちょっと頑張ってね」
「はぁい……」
本日のランジェリーは初日と同じ黒。だが最初に着たものがひらひらしていたのに対し、今回のものは身体にピタリと張りつくタイプだ。
ただそのデザインはかなり……際どい。
「……だ、旦那様、これ、ちょっと、胸……というか、お腹のほうまで空いちゃってますけど……!?」
着替える最中、ジゼルはたまらず問いただしてしまった。
「うん、そういうデザインなんだ。コルセットみたいにぴったり肌に吸い付く感じだから着替えにくいかもしれないけど。……手伝う?」
「けけけ結構です!」
ジゼルは覚悟を決めて、肩紐に腕を通す。
今回はストッキングまでなぜかくっついていた。なぜに? 疑問が膨らむが、いちいち考えていてはいけない気がする。
(そう、考えたら負けよ。わたしは単にモデルなんだから、出されたものを黙って着ればいいの!)
が、実際着替えたら着替えたで、本当にこれでいいの……? と泣きたくなってくる。
「ロイド様、着替えたのですが……」
「うん。見せて? ……うわぁぁあ、想像以上! ジゼルはそういうタイプのランジェリーも似合うね」
ロイドの紫の瞳がキラキラと夜空のように輝く。ということは、この着方は間違っていないということだ。
(嘘でしょ? 本当にこの着方で正しいの!? だってこれ……乳首見えちゃうじゃない!)
ジゼルは肩をすぼめて、なるべく猫背になろうとした。
なんと言っても、今回のランジェリーは肩紐でつるされた生地が、胸元からざっくりと臍まで空いているのだ! 胸が大きい女性が着れば谷間がくっきり見えて、さぞ眼福という眺めになるだろうが、あいにくジゼルはそこまで巨乳というわけではない。二の腕で寄せないと谷間なんてそうそうくっきり出ないのだ。
だが問題は谷間云々ではなく、生地ががっつり空いているため、下手すれば乳輪や乳首までのぞきそうになるということ! おまけに生地は前もうしろも総レースで、肌がほとんど透けてしまうのだ。乳首のところは、たまたま濃いめの刺繍が入れられていたので、かろうじて隠せているが、ちょっとでも動けば見えてしまう可能性が高い。
おまけに、これまでお腹のあたりがひらひらしていたタイプと違って、今回のは身体の線に沿うようなデザインだ。裾は太腿にかかる前に切られており、ガーターベルトのような形になっている。ご丁寧にストッキング留めまでついていて、同じデザインの黒ストッキングを止める仕様になっていた。
(シュミーズなんだかガーターベルトなんだか、わけわからないものを作るなんてぇぇええ~……!)
破廉恥すぎる! ジゼルは茹でたタコさながらに真っ赤になってしまった。
だがロイドのほうはご機嫌だ。さっそくジゼルの周りをぐるりと回って、自作のランジェリーをなるほど、なるほど、と眺めている。
ジゼルは慌ててお尻のほうに手を回して布をひっつかんだ。
「あ、あんまりまじまじ見ないでください! というかこの下着、どうして丈がこれしかないんですか。前はともかく……うしろはこれ、完全に見えてますよね!?」
そうなのだ。本来のガーターストッキングも、腰にぐるりと巻いて、お尻の膨らみの上部だけ覆うような形になっているが、この下着もまさにそれ。前はなんとか恥部にかかるくらいの丈があるが、うしろはお尻の半分くらいしか裾が降りてこない。
恥部を覆っているのは相変わらず紐と布程度の小さな三角形の下着だけなので、お尻の膨らみが下半分完全に露出している状態なのだ。
「その通りだよ。そういうデザインだから」
あっさり頷くなと言いたくなるが、ロイド曰く、顧客からの新たな要望を取り入れた結果こうなった、とのことだった。
「いったい、その顧客さんはどういう意図でこんなデザインの発注を……っ」
「まぁ人間いろいろと好みはあるからねぇ。僕もこれまでにないタイプの形だから苦心したんだけど、やっぱり生身の女の子に着てもらうといいね、顧客が求めていたのはこういうことかと深く納得できたよ」
「納得ってどういう意味です!?」
顧客の性癖が理解できたっていうこと!? とジゼルは気が気ではない。
「例えばこのお尻のあたり――」
「ひゃう!?」
いきなりお尻の丸みを下からついと撫で上げられて、ジゼルは跳び上がる。
「裾からのぞく膨らみというのがなんともそそられるよね。胸の膨らみももちろんいいけれど、これはこれで、かじりつきたくなる」
「かじりっ……!?」
ジゼルは思わず驚愕の面持ちで振り返ってしまう。視線に気づいたロイドは、それまで浮かべていた鋭い視線を引っ込め、にっこりと笑顔を浮かべた。
「ああ、ごめんごめん、ついさわってしまった。じゃあ、今日はそこのソファに横になってくれる?」
(ついさわってしまった、って……)
――『つい』で済ませられることじゃないから! と叫びたい気持ちをこらえて、ジゼルは長椅子に腰掛ける。
座るとストッキングを吊り下げる紐がたわんで、なんとも卑猥だ。いつもはワンピースの下に隠しているからなんとも思わないけれど、いざ表に出すとこんなふうに見えるのかと、過剰に意識してしまう。
「そのまま身体を横に倒して、片方の腕で身体を支える感じで……そう! そのポーズ! そのまま止まっていて」
「い、いや、でもこの格好だと胸がちょっと……み、み、見え……っ」
がっつり開いた胸元の生地がペロッとまくれそうになり、ジゼルは涙目になる。だがすでにスケッチに入っているロイドには聞こえないらしい。「そのままで」とぴしゃりと言われて、ジゼルは(ひ――ん!)と胸中で泣いた。
「今度は両方の肘を突いて仰向けになって、胸を天井に突き出すような格好で……そう、それ!」
「いやあの『それ』っておっしゃいますけど、これだと胸が潰れるから逆に見栄え悪いんじゃ――」
「そんなことないよ! 人形やトルソーだと胸の膨らみはまったく動いてくれないけど、そうしてポーズを取ってくれると、どうやって膨らみが動くかわかるから、ものすごく参考になる!」
自信満々に言われるが、言っている内容は『どうなのそれ?』と突っ込みたくなるようないやらしさが満載だ。ジゼルは再び(ひ――ん!)となった。
そうしてあれこれポーズを取らされ、さんざんいやらしい格好をスケッチされたところで「うん、もういいよ」とお許しが出る。
やっと終わった、とそそくさとついたての陰に隠れたジゼルだが、そこにロイドの手がひょいっと入ってきた。
「じゃ、次はこれを着てね」
「い、一着で終わりじゃないんですか!?」
「もちろん! 午後いっぱい時間があるわけだから、あと三着は最低でも試してもらわないと!」
ウキウキ顔で言われるも、ジゼルは「あとさんちゃく……」と泡を吹いて倒れそうになる。
そしてロイドは、本当に次々と新作のランジェリーをジゼルに着せていった。
先ほどと同じ肌にぴったりくっつくものもあれば、以前までのようなひらひらのものもあり、バリエーションは豊かだ(言っておくが別にありがたくもなんともない)。
おまけに最後に着たランジェリーは、これまでの中でも群を抜いていやらしかった。
なんと乳房部分を隠す胸当てしかないタイプのものと、紐と三角の布だけでできたショーツが渡され、あまりの露出度の高さに、もはや息をすることすら恥ずかしい。
(だって息を吸ったり吐いたりするだけでお腹とか胸とか動くのが見えちゃうじゃない、恥ずかしすぎるってば!)
なまじ明るい中だから、ほんの些細な動きもつぶさに見られてしまう。
スケッチするロイドの目は真剣だったが、それでも身体の隅々まで視線を走らされると、胸の鼓動が否応なしに早くなってたまらなくなった。
とはいえ、ロイドはこちらの羞恥などどこ吹く風でスケッチを続けていく。なんだか彼の着せ替え人形にでもなった気分だ、とジゼルは思った。
途中「もっといやらしく腰をくねらせて!」などの注文も飛んできて、ジゼルも途中から「もうどうにでもなれ」の心境で腰をくいっとさせてしまっている。
(……いや、どうにもなっちゃ駄目だって! うわーん、早く終わってぇぇええ!)
そうして羞恥と緊張でガチガチになっていたせいか、午前中の洗濯と相まって、夕方になる頃にはどっと疲れ切ってしまった。
さすがに夜も同じようにモデルをするのは無理だと断れたからよかったものの、病み上がりには重労働すぎた。
夕食を終える頃にはもううとうとしてしまって、ジゼルはその夜も、ばったりと倒れるように眠り込んでしまったのだった。
三十分後。片付けを終えて作業場に入ったジゼルを見るなり、ロイドは奥の立ち入り禁止部屋へと彼女を誘った。
そしてさっそく新しい下着を取り出し、ジゼルの前に差し出したのである。
(ほ、本当に昼日中にモデルのお仕事なんて……っ)
恥ずかしい……だがこれもまた仕事。ジゼルはいつも通りついたての陰に入って、いそいそと着替えを始めた。
「お茶の時間になったら軽食を取りに行ってもらう予定だから、それまでちょっと頑張ってね」
「はぁい……」
本日のランジェリーは初日と同じ黒。だが最初に着たものがひらひらしていたのに対し、今回のものは身体にピタリと張りつくタイプだ。
ただそのデザインはかなり……際どい。
「……だ、旦那様、これ、ちょっと、胸……というか、お腹のほうまで空いちゃってますけど……!?」
着替える最中、ジゼルはたまらず問いただしてしまった。
「うん、そういうデザインなんだ。コルセットみたいにぴったり肌に吸い付く感じだから着替えにくいかもしれないけど。……手伝う?」
「けけけ結構です!」
ジゼルは覚悟を決めて、肩紐に腕を通す。
今回はストッキングまでなぜかくっついていた。なぜに? 疑問が膨らむが、いちいち考えていてはいけない気がする。
(そう、考えたら負けよ。わたしは単にモデルなんだから、出されたものを黙って着ればいいの!)
が、実際着替えたら着替えたで、本当にこれでいいの……? と泣きたくなってくる。
「ロイド様、着替えたのですが……」
「うん。見せて? ……うわぁぁあ、想像以上! ジゼルはそういうタイプのランジェリーも似合うね」
ロイドの紫の瞳がキラキラと夜空のように輝く。ということは、この着方は間違っていないということだ。
(嘘でしょ? 本当にこの着方で正しいの!? だってこれ……乳首見えちゃうじゃない!)
ジゼルは肩をすぼめて、なるべく猫背になろうとした。
なんと言っても、今回のランジェリーは肩紐でつるされた生地が、胸元からざっくりと臍まで空いているのだ! 胸が大きい女性が着れば谷間がくっきり見えて、さぞ眼福という眺めになるだろうが、あいにくジゼルはそこまで巨乳というわけではない。二の腕で寄せないと谷間なんてそうそうくっきり出ないのだ。
だが問題は谷間云々ではなく、生地ががっつり空いているため、下手すれば乳輪や乳首までのぞきそうになるということ! おまけに生地は前もうしろも総レースで、肌がほとんど透けてしまうのだ。乳首のところは、たまたま濃いめの刺繍が入れられていたので、かろうじて隠せているが、ちょっとでも動けば見えてしまう可能性が高い。
おまけに、これまでお腹のあたりがひらひらしていたタイプと違って、今回のは身体の線に沿うようなデザインだ。裾は太腿にかかる前に切られており、ガーターベルトのような形になっている。ご丁寧にストッキング留めまでついていて、同じデザインの黒ストッキングを止める仕様になっていた。
(シュミーズなんだかガーターベルトなんだか、わけわからないものを作るなんてぇぇええ~……!)
破廉恥すぎる! ジゼルは茹でたタコさながらに真っ赤になってしまった。
だがロイドのほうはご機嫌だ。さっそくジゼルの周りをぐるりと回って、自作のランジェリーをなるほど、なるほど、と眺めている。
ジゼルは慌ててお尻のほうに手を回して布をひっつかんだ。
「あ、あんまりまじまじ見ないでください! というかこの下着、どうして丈がこれしかないんですか。前はともかく……うしろはこれ、完全に見えてますよね!?」
そうなのだ。本来のガーターストッキングも、腰にぐるりと巻いて、お尻の膨らみの上部だけ覆うような形になっているが、この下着もまさにそれ。前はなんとか恥部にかかるくらいの丈があるが、うしろはお尻の半分くらいしか裾が降りてこない。
恥部を覆っているのは相変わらず紐と布程度の小さな三角形の下着だけなので、お尻の膨らみが下半分完全に露出している状態なのだ。
「その通りだよ。そういうデザインだから」
あっさり頷くなと言いたくなるが、ロイド曰く、顧客からの新たな要望を取り入れた結果こうなった、とのことだった。
「いったい、その顧客さんはどういう意図でこんなデザインの発注を……っ」
「まぁ人間いろいろと好みはあるからねぇ。僕もこれまでにないタイプの形だから苦心したんだけど、やっぱり生身の女の子に着てもらうといいね、顧客が求めていたのはこういうことかと深く納得できたよ」
「納得ってどういう意味です!?」
顧客の性癖が理解できたっていうこと!? とジゼルは気が気ではない。
「例えばこのお尻のあたり――」
「ひゃう!?」
いきなりお尻の丸みを下からついと撫で上げられて、ジゼルは跳び上がる。
「裾からのぞく膨らみというのがなんともそそられるよね。胸の膨らみももちろんいいけれど、これはこれで、かじりつきたくなる」
「かじりっ……!?」
ジゼルは思わず驚愕の面持ちで振り返ってしまう。視線に気づいたロイドは、それまで浮かべていた鋭い視線を引っ込め、にっこりと笑顔を浮かべた。
「ああ、ごめんごめん、ついさわってしまった。じゃあ、今日はそこのソファに横になってくれる?」
(ついさわってしまった、って……)
――『つい』で済ませられることじゃないから! と叫びたい気持ちをこらえて、ジゼルは長椅子に腰掛ける。
座るとストッキングを吊り下げる紐がたわんで、なんとも卑猥だ。いつもはワンピースの下に隠しているからなんとも思わないけれど、いざ表に出すとこんなふうに見えるのかと、過剰に意識してしまう。
「そのまま身体を横に倒して、片方の腕で身体を支える感じで……そう! そのポーズ! そのまま止まっていて」
「い、いや、でもこの格好だと胸がちょっと……み、み、見え……っ」
がっつり開いた胸元の生地がペロッとまくれそうになり、ジゼルは涙目になる。だがすでにスケッチに入っているロイドには聞こえないらしい。「そのままで」とぴしゃりと言われて、ジゼルは(ひ――ん!)と胸中で泣いた。
「今度は両方の肘を突いて仰向けになって、胸を天井に突き出すような格好で……そう、それ!」
「いやあの『それ』っておっしゃいますけど、これだと胸が潰れるから逆に見栄え悪いんじゃ――」
「そんなことないよ! 人形やトルソーだと胸の膨らみはまったく動いてくれないけど、そうしてポーズを取ってくれると、どうやって膨らみが動くかわかるから、ものすごく参考になる!」
自信満々に言われるが、言っている内容は『どうなのそれ?』と突っ込みたくなるようないやらしさが満載だ。ジゼルは再び(ひ――ん!)となった。
そうしてあれこれポーズを取らされ、さんざんいやらしい格好をスケッチされたところで「うん、もういいよ」とお許しが出る。
やっと終わった、とそそくさとついたての陰に隠れたジゼルだが、そこにロイドの手がひょいっと入ってきた。
「じゃ、次はこれを着てね」
「い、一着で終わりじゃないんですか!?」
「もちろん! 午後いっぱい時間があるわけだから、あと三着は最低でも試してもらわないと!」
ウキウキ顔で言われるも、ジゼルは「あとさんちゃく……」と泡を吹いて倒れそうになる。
そしてロイドは、本当に次々と新作のランジェリーをジゼルに着せていった。
先ほどと同じ肌にぴったりくっつくものもあれば、以前までのようなひらひらのものもあり、バリエーションは豊かだ(言っておくが別にありがたくもなんともない)。
おまけに最後に着たランジェリーは、これまでの中でも群を抜いていやらしかった。
なんと乳房部分を隠す胸当てしかないタイプのものと、紐と三角の布だけでできたショーツが渡され、あまりの露出度の高さに、もはや息をすることすら恥ずかしい。
(だって息を吸ったり吐いたりするだけでお腹とか胸とか動くのが見えちゃうじゃない、恥ずかしすぎるってば!)
なまじ明るい中だから、ほんの些細な動きもつぶさに見られてしまう。
スケッチするロイドの目は真剣だったが、それでも身体の隅々まで視線を走らされると、胸の鼓動が否応なしに早くなってたまらなくなった。
とはいえ、ロイドはこちらの羞恥などどこ吹く風でスケッチを続けていく。なんだか彼の着せ替え人形にでもなった気分だ、とジゼルは思った。
途中「もっといやらしく腰をくねらせて!」などの注文も飛んできて、ジゼルも途中から「もうどうにでもなれ」の心境で腰をくいっとさせてしまっている。
(……いや、どうにもなっちゃ駄目だって! うわーん、早く終わってぇぇええ!)
そうして羞恥と緊張でガチガチになっていたせいか、午前中の洗濯と相まって、夕方になる頃にはどっと疲れ切ってしまった。
さすがに夜も同じようにモデルをするのは無理だと断れたからよかったものの、病み上がりには重労働すぎた。
夕食を終える頃にはもううとうとしてしまって、ジゼルはその夜も、ばったりと倒れるように眠り込んでしまったのだった。
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