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第五章 メイド、専属侍女になる。
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「ジゼル、ちょうどいいところにきていたね。あんた配置換えになったから」
「配置換え?」
パンをちぎる手を止めて、ジゼルは首を傾げる。家政婦長はなぜだか重々しく頷いた。
「そう、配置換え。あんたは明日から旦那様付きの小間使いだ。専属の侍女って奴だね。だから今夜中に部屋を移ること。これからあんたの部屋は、旦那様の部屋の隣になるからね」
思ってもみなかった言葉に、ジゼルは思わず噎せ込む。
「だ、旦那様付きの小間使い!? わ、わたしがですかっ?」
驚きのあまり思わず立ち上がってしまう。
だが驚きを示したのはジゼルだけではない。夕食を取りに集まっていたほかの使用人たちも、ほぼ全員が目を丸くして驚愕の声を上げていた。
「専属侍女ですって? 旦那様はこれまで男の従者しかつけていなかったのに」
「それもご親戚から行儀見習いで預かっていた子でしょう? なのにどうしてジゼルが……」
使用人たちの囁きは徐々に驚きから疑心へと変わっていく。だがジゼルも似たような心境で、どうしてわたしが、という気持ちでいっぱいだった。
(貴族の従者や専属の侍女って、身元がしっかりしているのはもちろん、良家出身者がほとんどよね? なのにどうして孤児のわたしが……?)
だがジゼルはすぐにピンとくる。昨夜のロイドの言葉が即座によみがえった。
『新たなランジェリー作りのためにも、僕たちの思いを深め合うためにも、僕らはもっとふれあっていかないとね』
(……旦那様付きになれば部屋もすぐ近くになるから、いつでも呼び出したりすることができるし、部屋に二人きりでいてもさほど怪しまれることはなくなる……! ろ、ロイド様ったら、ランジェリー作りのために、わたしをそばに呼び寄せるつもりね――!?)
そう思うと顔がぼっと熱くなってしまう。
だがそれを見た周囲のメイドたちは、露骨に攻撃的な目つきになって睨んできた。
「いったいどんな手を使って旦那様付きの侍女になったんだか……。前々から朝のお茶に呼ばれたり、優遇されていると思っていたけど、そのときに上手いこと取り入ったってわけかしら?」
ほかのメイドからも似たようなことを言われて、ジゼルは「ひぃっ」と悲鳴を上げそうになる。
決して取り入ったつもりはないが、自分がランジェリーモデルという秘密の仕事を請け負っているのは確かだ。それに……
(ろ、ロイド様のほうは、わたしを異性として好きでいてくれているみたいだし……)
その思いが引け目となって、取り入っていないという反論を引っ込ませてしまう。
しかし、そんなメイドたちを一喝したのは、家政婦長だ。
「馬鹿な勘ぐりはおやめ! 旦那様は純粋にジゼルの働きを評価されただけだよ。旦那様は朝のお茶だけじゃなく、ジゼルの仕事に対する向き合い方を高く評価しておいでだ。実際、パーティー前からジゼルほど働いていたメイドはここにはいないと思うけどね」
驚くほどの高評価に、ジゼルは目を丸くするが、家政婦長は当然のことだとばかりにジゼルに頷いて見せた。
「それにパーティーの夜、一日働いたにもかかわらず、あんたは廊下に落ちた蝋をきちんと剥がしながら歩いていたそうだね。ほかにそれをやっていたメイドはいるかい? 見つけたときはちゃんと掃除しろと常日頃から言っているけど、実際にやっている奴をわたしはそうそう見たことがないけどね」
家政婦長の言葉にメイドたちが口を閉ざす。中には唇を尖らせて不満を示す者もいたが、誰も反論はしなかった。
「旦那様は使用人のそういうところも、きちんと把握しておいでだ。だからこそ、その仕事ぶりを見込んで、専属の侍女にと望まれたんだよ。それをずるいと言うのはお門違いだ。悔しかったら、あんたたちもジゼル並みに働きな!」
家政婦長が言い終わる頃には、全員なにも言えずにうつむいていた。
「ジゼル、さっさと食べてついておいで。新しい部屋に案内するから」
「は……はい! すぐに……っ」
ジゼルは急いで最後のパンを口に突っ込み、食器を流しに置いて、家政婦長のあとについていった。
ロイドの部屋への道を歩きながら、ジゼルはなんと言っていいかわからず、しきりに目を瞬く。
ロイドや家政婦長が自分の働きぶりを評価してくれたことは嬉しい。
けれど専属侍女になる理由はおそらく仕事ぶりだけではなく、ランジェリーモデルが絡んでいるのは確実で……そう思うと純粋に喜ぶことは憚られるのだ。
「あの、家政婦長……」
家政婦長は果たしてそのことを知っているのかと不安になったが、ジゼルが声をかけると同時に、家政婦長も「この辺ならいいか」と立ち止まったので驚いた。
「家政婦長?」
「ほかの使用人の前だからああ言ったがね。ジゼル、あんたが旦那様付きに選ばれたってことには、わたしも驚いているんだよ」
「……」
改めて向き合った家政婦長にそう言われて、ジゼルはなんと答えたらいいかわからず口をつぐむ。
気まずい表情で押し黙ったジゼルを、家政婦長はじっと観察する目で見つめてきた。
「配置換え?」
パンをちぎる手を止めて、ジゼルは首を傾げる。家政婦長はなぜだか重々しく頷いた。
「そう、配置換え。あんたは明日から旦那様付きの小間使いだ。専属の侍女って奴だね。だから今夜中に部屋を移ること。これからあんたの部屋は、旦那様の部屋の隣になるからね」
思ってもみなかった言葉に、ジゼルは思わず噎せ込む。
「だ、旦那様付きの小間使い!? わ、わたしがですかっ?」
驚きのあまり思わず立ち上がってしまう。
だが驚きを示したのはジゼルだけではない。夕食を取りに集まっていたほかの使用人たちも、ほぼ全員が目を丸くして驚愕の声を上げていた。
「専属侍女ですって? 旦那様はこれまで男の従者しかつけていなかったのに」
「それもご親戚から行儀見習いで預かっていた子でしょう? なのにどうしてジゼルが……」
使用人たちの囁きは徐々に驚きから疑心へと変わっていく。だがジゼルも似たような心境で、どうしてわたしが、という気持ちでいっぱいだった。
(貴族の従者や専属の侍女って、身元がしっかりしているのはもちろん、良家出身者がほとんどよね? なのにどうして孤児のわたしが……?)
だがジゼルはすぐにピンとくる。昨夜のロイドの言葉が即座によみがえった。
『新たなランジェリー作りのためにも、僕たちの思いを深め合うためにも、僕らはもっとふれあっていかないとね』
(……旦那様付きになれば部屋もすぐ近くになるから、いつでも呼び出したりすることができるし、部屋に二人きりでいてもさほど怪しまれることはなくなる……! ろ、ロイド様ったら、ランジェリー作りのために、わたしをそばに呼び寄せるつもりね――!?)
そう思うと顔がぼっと熱くなってしまう。
だがそれを見た周囲のメイドたちは、露骨に攻撃的な目つきになって睨んできた。
「いったいどんな手を使って旦那様付きの侍女になったんだか……。前々から朝のお茶に呼ばれたり、優遇されていると思っていたけど、そのときに上手いこと取り入ったってわけかしら?」
ほかのメイドからも似たようなことを言われて、ジゼルは「ひぃっ」と悲鳴を上げそうになる。
決して取り入ったつもりはないが、自分がランジェリーモデルという秘密の仕事を請け負っているのは確かだ。それに……
(ろ、ロイド様のほうは、わたしを異性として好きでいてくれているみたいだし……)
その思いが引け目となって、取り入っていないという反論を引っ込ませてしまう。
しかし、そんなメイドたちを一喝したのは、家政婦長だ。
「馬鹿な勘ぐりはおやめ! 旦那様は純粋にジゼルの働きを評価されただけだよ。旦那様は朝のお茶だけじゃなく、ジゼルの仕事に対する向き合い方を高く評価しておいでだ。実際、パーティー前からジゼルほど働いていたメイドはここにはいないと思うけどね」
驚くほどの高評価に、ジゼルは目を丸くするが、家政婦長は当然のことだとばかりにジゼルに頷いて見せた。
「それにパーティーの夜、一日働いたにもかかわらず、あんたは廊下に落ちた蝋をきちんと剥がしながら歩いていたそうだね。ほかにそれをやっていたメイドはいるかい? 見つけたときはちゃんと掃除しろと常日頃から言っているけど、実際にやっている奴をわたしはそうそう見たことがないけどね」
家政婦長の言葉にメイドたちが口を閉ざす。中には唇を尖らせて不満を示す者もいたが、誰も反論はしなかった。
「旦那様は使用人のそういうところも、きちんと把握しておいでだ。だからこそ、その仕事ぶりを見込んで、専属の侍女にと望まれたんだよ。それをずるいと言うのはお門違いだ。悔しかったら、あんたたちもジゼル並みに働きな!」
家政婦長が言い終わる頃には、全員なにも言えずにうつむいていた。
「ジゼル、さっさと食べてついておいで。新しい部屋に案内するから」
「は……はい! すぐに……っ」
ジゼルは急いで最後のパンを口に突っ込み、食器を流しに置いて、家政婦長のあとについていった。
ロイドの部屋への道を歩きながら、ジゼルはなんと言っていいかわからず、しきりに目を瞬く。
ロイドや家政婦長が自分の働きぶりを評価してくれたことは嬉しい。
けれど専属侍女になる理由はおそらく仕事ぶりだけではなく、ランジェリーモデルが絡んでいるのは確実で……そう思うと純粋に喜ぶことは憚られるのだ。
「あの、家政婦長……」
家政婦長は果たしてそのことを知っているのかと不安になったが、ジゼルが声をかけると同時に、家政婦長も「この辺ならいいか」と立ち止まったので驚いた。
「家政婦長?」
「ほかの使用人の前だからああ言ったがね。ジゼル、あんたが旦那様付きに選ばれたってことには、わたしも驚いているんだよ」
「……」
改めて向き合った家政婦長にそう言われて、ジゼルはなんと答えたらいいかわからず口をつぐむ。
気まずい表情で押し黙ったジゼルを、家政婦長はじっと観察する目で見つめてきた。
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