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秋の感謝祭

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 日本の秋は木々が紅葉して、それを目的にたくさんの人が山や公園へと出向く。

 子供の頃、両親に連れられて近所の公園へ行き落ち葉をたくさん集めておうちの庭で焼き芋をしていた。
 都会では流石にできなかったけど日本のいい思い出として記憶に残っている。

 この国の秋も日本と変わらない。

 山や町にある木々も紅葉している。

 焼き芋の文化はないみたいだけど。

 秋の味覚としてはキノコはあるみたい。いつかキノコ狩りに行ってみたい。食べられるキノコならいいんだけど……。


 ここは東京と違って空気が年中澄んでいる。

 寒くなる秋冬はより一層澄んでくる。

 街には見張り台があって一般にも開放されている。

 そこからの景色は格別。

 近隣の森のさらに向こう遠くの山々まで見渡せる。

 高い山はうっすら雪化粧をしている。

 夜空もとてもきれい。

 天の川のようなたくさんの星。

 たまにオーロラのようなものも見える。

 ただ月はない。

 そういえば太陽は東京からみるのと変わらない。



 今日は街中がとても賑わっている。

 年に一度の感謝祭。

 もちろん国の守り神でもあるケット・シーへの感謝だ。

 朝からあちこちに屋台が立ち並ぶ。

 しかしどれも日本では見たこともない料理ばかり売っている。ぜひとも食べ歩きしたいけど今回はおあずけ。

 うちのお店も出店することにしなので仕方がない。

 販売するものは猫の形をしたお菓子など。

「オーナー。おはようございます! 早いですね」

「ナナさんこそ。ところで昨日お願いした物は大丈夫ですか?」

「はい。バッチリです。材料も全部揃えました」

「ありがとうね。では早速作り始めましょう!」

 まず最初に生地を作る。薄力粉と砂糖とバター、ふくらし粉を混ぜるだけ。あとは型に流し込んでオーブンで焼く。次に生クリームと砂糖を入れてホイップする。これをさっきの土台に半円になるように塗り付けベースは完成。あとは同じくホイップで耳や口元のωの部分を作り、木の実を目にみたてた。これでニャンケーキの完成である。日本にあるような食材があって助かった。

「さて、そろそろ開店時間ね。宣伝しに行きますね」

 今回のお祭りに合わせて事前にチラシを20枚ほど手書きで作っていた。

 早速外に出てお店のチラシを渡して回る。受け取った方の反応は。

「お、おいしそうニャ……」

「これはたまらんな……」

「こ、これは売れそうね……」

「可愛いですぅ~」

「ふむ……これはなかなか」

 評判は上々。開店と同時に店内は人で溢れかえった。口コミも広がってあっという間に売り切れ。大盛況だった。

 保護猫カフェの方も大盛況。

 猫たちもたくさん遊んでもらえて大満足しているようだった。 

「みなさんのおかげで無事に終わりました。ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ。また次のイベントも楽しみにしてます」

「はい。よろしくお願いいたします」

 みんなで早々にお店を閉め、感謝祭の締めである灯籠飛ばしへ参加した。

 日本にいたころにテレビで見たタイのお祭りの灯籠飛ばしとほぼ同じ。

 常連のドワーフのヤリさんからこの話を聞いたときはとてもテンションがあがった。

 いつかタイで体験したかったのがここで体験できる。

 ヤリさんはこの灯籠を作る職人さん。

 お店の分を作ってくれた。

 灯籠の形はすべてケット・シーの猫型でとても可愛い。


 さぁ飛ばすぞっ!と気合をいれたそのとき、突然何者かに手を掴まれ連れて行かれる。

 顔を見上げるとミキちゃんが引っ張っていた。

 えっ? 

 えっ? 

 と混乱している間にステージの上に乗せられる。

「諸君! 今年一年ありがとう。ケット・シー様に感謝をして、来年もよい一年にしようではないか! 今年の締めくくりは新しく我々の仲間に加わった保護猫カフェの店主、紬にしてもらう!」

 事前連絡はなにもなく突然の無茶振り。

 アワアワしていると、ミキちゃんが

「大丈夫よお姉様。難しくないです。灯籠を空に掲げて」

 言われるがまま両手で目一杯空に掲げる。

「そう。そしてお願い事を心の中で唱えて」

-----。

 するとなにもしていないのに灯籠が光だしゆっくりと空へ上がり始めた……。

 それを合図のように会場中の灯籠も一斉に飛び始める……。

 夢に見たあの光景と同じ。

 たくさんの光が空へと伸びていく。

 地上と空を繋ぐ糸のようにどこまでもどこまでも続いていった……。

 それをぼーっと眺めている。

 とても素晴らしい体験だけどせめてステージのことは言ってほしかったな……。

『キミは元の世界に戻る気はあまりないのかな?』

 どこからか声が聞こえる。

 とりあえず答えてみる。

「はい。戻る方法は今のところわからないみたいですし……。それにここの生活に慣れてきちゃいましたし……」

『うん。わかったよ。じゃあこれからもこの世界で頑張って生きていこう。なにか困ったことがあればいつでも頼ってくれていいからね』

「はいっ! ありがとうございます。あの……ところであなたは……?」

「おや? 知らずに話していたのかい?そうか。はじめてだったね。今日は私のお祝いの日だよ?またすぐに会いに行くよ」

 ハッとして周りを見渡しても誰もいない。確信はないけど守り神のケット・シーだったのかもしれない。夢見心地のままおうちへ帰り今日の出来事を噛み締めながら眠った。
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