断罪の暗殺者~なんか知らんが犯罪ギルドのトップになってた~

流優

文字の大きさ
34 / 49
異世界生活

緊急依頼終了《1》

しおりを挟む


 イルは、目の前の光景が信じられなかった。

 ――ドラゴン。

 それは数多くの英雄譚に出て来る魔物であり、中には賢龍と呼ばれる気性が穏やかで人と会話出来る龍や、ある地方を守護する守り神としての龍などの逸話はあるが、やはり一番多いのが、勇ある者への最強最悪の敵として描かれる場合である。

 実際、ただの空想の生物ではないため、ドラゴンが出現したと言われる地域や国は、甚大な被害が発生することが多く、第一級危険生物として広く知られている。

 ドラゴンを倒すことの出来るドラゴンスレイヤーという存在も、世界にはいるそうだが……まあ、圧倒的に少ないことは間違いない。

 この国にもそんな英雄は一人いるが、その彼は今国を出張っているため、この遠征には付いて来ていない。

 故にイルもまた、今回の緊急依頼の目標が龍種である可能性が高いと聞いて、非常に強く緊張していたし、もしかすると自分もまた、死んでしまうかもしれないと覚悟を決めて遠征に臨んでいた。

 恐怖はあるが、この国に属する一人の冒険者として、国を守ろうという強い意思の下に、今回の調査へ参加していたのだ。


 ――の、はずなのだが。


「ギィィアガフッ――」

 現在、彼女の目の前に広がっているのは、そのドラゴンが為す術もなく一方的に嬲られている光景。

 それを行っているのが、縁があり、彼女が臨時パーティとしてお邪魔させてもらっている、三人組のパーティである。

 彼らが、少し普通のパーティと違うとは理解していたが……正直この光景は、想像の埒外である。

 まず、仮面を被っているため実際の年齢はわからないが、少女らしい雰囲気の女性冒険者と、『冒険者』という職がよく似合う、少し怖いが格好いい女性冒険者の二人。

 彼女らの使う武器は、イルが知っているものより大分コンパクトなサイズのボウガンと、柄の無いダガーという、少し変わってはいるもののそこまで特徴的な武器には見えないものだが……しかし、その威力はちょっとおかしなことになっている。

 何故か、爆発する。

 二人の正確無比な攻撃により、敵の咥内にボウガンの矢とダガーが刺さり、そして爆発を起こす。

 その威力は相当に高いようで、見ていて少し哀れなぐらいに効果を発揮し、ドラゴンに大きなダメージを与えていることが見て取れる。

 だが、何より一番おかしいのが――彼女らのリーダーの、黒髪の青年である。

 ――何で、斬り裂けちゃうんですか!?

 彼女が見ているその前で、青年がドラゴンの前脚の攻撃を避けたかと思うと、グルンと身を回転させながら片手の長剣でも短剣でもないような長さの剣を振るう。
 と、次の瞬間には、ドラゴンの前脚が綺麗な断面を見せ、その切断された先が木々をなぎ倒しながら地面に転がるのだ。

 ドラゴンの鱗とは、伝え聞く限りによると『最硬』と呼ばれる金属、『アダマンタイト』以上のもので造られた武器でしか斬り裂くことが出来ないらしく、それ以外の武器ではせいぜいが表面を削るぐらいしか無理だと言われている。

 にもかかわらず、今のはまるで、ケーキでも斬るかのような気軽さで、ドラゴンの前脚を斬り飛ばしていた。

 彼の持つあの赤黒い刀身をした剣が、そんな伝説級の武器であるのかもしれないが……しかし、彼の今の俊敏な動きを見れば、何も武器の性能のみが優れている訳ではないのがすぐにわかることだろう。

「これは、現実なの……?」 

 ボソリと呟かれたその声に顔を向けると、自分達が来る前にあのドラゴンと戦っていたと思われる、軽戦士風の女性冒険者が、呆然といった様子で目の前の光景に魅入っていた。

 それも、無理からぬことだろう。
 イルにとっても、全く同じ思いである。

 ――その後、戦闘自体は数分も経たずに終了したが……その間にイルが受けた衝撃は、物凄いものだった。

 ほぼ、一方的な戦闘。

 その中核を為した青年の姿が、ドラゴンと比べ圧倒的に小さいはずなのに、まるで何倍にも大きくなったかのような、そんな存在感すら感じられる。

「し、信じられん……まさか、一人で倒してしまうとは……」

 と、そう言葉を溢すのは、イル達より先にこの場にいたパーティの一人らしい、剣士の装いの男性冒険者。

 彼は武器を下ろすと、ドラゴンに視線を釘付けにしながら、青年の下へと向かって行く。

「一人じゃねぇぞ。援護があったからな。――それより、そっちは平気か? 一人重傷だったろ」

「あ、あぁ……アンタのところの魔術師が治療を手伝ってくれたおかげで、一命は取り留めた。感謝する」

「それはその子に言ってやるんだな」

 ニヤリと笑みを浮かべてから、イル達の臨時パーティのリーダーである青年は言葉を続ける。

「さて、これで脅威は排除した訳だが……この後はどうなるんだ?」

「……赤玉を使ったから、もう少しすれば皆ここに集まって来るだろう。恐らく、その中にロドリゴさん――騎士団長も来るだろうから、彼が戦果確認を行って、今回の緊急依頼は終了になるはずだ。こんな、三日も経たずに終わるとは、誰も思っていなかっただろうが……」

「じゃあ、早く終わって良かったな」

 若干呆れた様子でそう言う魔法剣士の男性に、肩を竦めるイルのパーティリーダー。

 本当に……何と言うか、掴みどころのない人だ。

 力をひけらかすでも無ければ、驕り高ぶる様子もない。

 普通の、近所にでも住んでいそうな優しい青年に見えるが、その身に宿す力は絶大で、ドラゴンすらも屠ってみせる。

 ――彼は、一体どれが素顔なのだろうか。

 この時、イルの心には、黒髪の青年に対する大きな好奇心が生まれていた。


   *   *   *


「ただ……アンタ、多分この後が大変だぞ」

「へぇ? 何でだ?」

 先にドラゴンと戦っていたパーティの、リーダーらしい男にそう聞き返す。

「仮にもドラゴンスレイヤーだ。一国を救った、な。恐らく王城に召喚され、国王様――はお身体が悪いから、宰相様辺りから何か褒美を下賜かしされることになるだろう。アンタ、今日から超有名人だぞ」

「……そこまでか? ドラゴンスレイヤーっつっても、いない訳じゃないんだろ?」

「あぁ。この国にも一人いるが、その時は国を挙げての祭りになったな。だが、その時は大規模な討伐隊が組まれ、その最大功績者が代表としてドラゴンスレイヤーの称号を受け取っただけだ。今回のように、単体のパーティが討伐した場合、どうなることか……」

「別に俺らだけじゃないだろ。アンタらが先に戦っていたじゃねぇか」

「俺達はただ逃げ惑っていただけだ。発見は確かに俺達だが、ほぼ何もしていないに等しい」

 とすると……その、国を挙げてのお祭り騒ぎとなるような功績を、俺達のみがほぼ独占する形になった訳か。

 ……マズいな、派手に動くとは決めていたが、ちょっと失敗したかもしれない。

 あまりに呆気なかったものだから、そのまま普通に殺してしまったものの、確かに俺達だけで討伐、というのはやり過ぎたか?

 味方が来るまで、のらりくらりと敵の体力を削ることだけに集中した方が、いい感じに功績が分散して、必要以上の注目は集めずに……いや、よく考えたら別に、俺達はこの国に骨を埋める訳じゃないし、構わないか。

 面倒になったら、逃げればいいのだ。
 というか、例の「枢機卿」サマにお話を聞き次第、この国はおさらばしよう。

 ……いいな、妙案に思えて来た。

 長くこの国にいるつもりならば、潜伏しながら少しずつやっていくのがいいだろうが、短期間の滞在であれば、後のことを考えないでいいので、ある程度派手に動いても構わないだろう。

 若干動きに修正は必要となるが、今回の討伐でお偉いさんに召喚されるというなら、むしろ手間が省けていいかもしれない。

 この際だ。
 目的のためには、やれるところまでやってしまおう――。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

処理中です...