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第3章
ほら、急いでください。
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「シフォン、ミントがまだ外に。」
「彼女なら大丈夫ですから、ほら、急いでください。」
シフォンはソルトの背中を押しました。二人で奥に向かって走り出します。
すぐに道幅はせまくなり、二人で並んで歩けなくなりました。空気は進むごとに冷えていきます。そして、入り口の光が届かなくなりました。シフォンは前を歩くソルトの服をつかんで止まるよう指示し、杖をかまえます。魔法使いにとって杖とは集中力を高めるものであり、それによって無駄な力を使わないですむのです。
「ファイララ、ファイララ、ココヌス。」
呪文によって呼び出された炎が、くるくると丸まって、小さな灯りとなりました。そこにシフォンは四角と三角を指で描きます。すると、彼女の手のひらから浮いて、フヨフヨとただよい始めました。
「よし、行くぞ。」
ソルトは光で照らされた先へと一歩ふみ出しました。
「慎重にお願いしますね。」
シフォンはそう言いながらも、もう進入していることは気づかれているだろうと思いました。魔法の力を感じます。灯りを出してからずっと、見られています。
せまい通路が終わった瞬間、シフォンは、
「シェル!」
と一言呪文を唱えました。姿が見えなくても、魔法使いの彼女には、わかります。ここに敵はいます。魔法の力を肌に感じるのです。
炎の玉が飛んできて、ソルトの前ではじけました。透明な壁がそこにはありました。シフォンの魔法です。
「ここに敵がいるんだな?」
「はい。」
シフォンがうなずいたので、ソルトは剣を抜こうとしました。しかし彼女はそれを手で押さえます。
「シフォン?」
「勇者さま、あそこに道がありますよね。」
シフォンの言うとおり、先に細い道が見えます。
「ここは私にまかせて、あなたは先へ行ってください。」
ソルトは首を横に振りました。
「嫌だ。」
ソルトにとって、もちろんミントもそうですが、シフォンは大切な仲間です。彼女を置いていくなんて考えられないことでした。
「勇者さま!」
ぴしゃりと、シフォンは彼を叱るようにそう言いました。その間にも次々と炎の玉が飛んできて、バリアにあたっています。
シフォンが杖を軽く振ると、先ほど生み出した灯りは二つに分かれました。一つはソルトのそばでふわふわゆれます。
「ここに来たのはなんのためかお忘れですか。オリーブさんがここにいません。まだ奥にいるんです。とても怖い思いをしているでしょう。早く、早く行ってあげてください。」
ぐっと、ソルトは奥歯を噛みしめました。
「すぐ戻ってくるから!」
ソルトは奥へと走り出しました。炎の玉が今度は彼の方へと飛んでいきます。シフォンが
「ウィラ、ウィラ、ニュー。」
風を巻き起こして、それを押し戻します。
ソルトの足音が遠ざかり、その場がしんと静まり返りました。
「姿を見せたらどうですか?」
シフォンの声が響きます。
「いやん、怒らないでー。」
声と一緒に、女の子が上から降ってきました。
「こんにちは、ラズベリーでーすっ。ラズちゃんって呼んでね。」
「親切にどうも。私はシフォンと申します。」
二人ともにっこりと笑顔を作って、向き合います。
「おねーさん、美人だね。で、で、今の人は彼氏?」
両手に一本ずつ持った銀色の鎌(かま)が、シフォンの魔法の光を反射します。
「彼氏だなんて、違いますよ。」
シフォンは笑顔のまま、目の前の少女にまったく隙(すき)がないことを読み取って、気持ちを落ち着かせようと杖をぎゅっとにぎりしめました。ラズベリーもまた、魔法使いが笑顔で話を合わせながらも、いつでも動き出せるように呼吸を整えたのを見て喜びました。だって、強い相手ほど楽しいものはありませんから。戦うことこそがモンスターの生きがいですから。
「彼女なら大丈夫ですから、ほら、急いでください。」
シフォンはソルトの背中を押しました。二人で奥に向かって走り出します。
すぐに道幅はせまくなり、二人で並んで歩けなくなりました。空気は進むごとに冷えていきます。そして、入り口の光が届かなくなりました。シフォンは前を歩くソルトの服をつかんで止まるよう指示し、杖をかまえます。魔法使いにとって杖とは集中力を高めるものであり、それによって無駄な力を使わないですむのです。
「ファイララ、ファイララ、ココヌス。」
呪文によって呼び出された炎が、くるくると丸まって、小さな灯りとなりました。そこにシフォンは四角と三角を指で描きます。すると、彼女の手のひらから浮いて、フヨフヨとただよい始めました。
「よし、行くぞ。」
ソルトは光で照らされた先へと一歩ふみ出しました。
「慎重にお願いしますね。」
シフォンはそう言いながらも、もう進入していることは気づかれているだろうと思いました。魔法の力を感じます。灯りを出してからずっと、見られています。
せまい通路が終わった瞬間、シフォンは、
「シェル!」
と一言呪文を唱えました。姿が見えなくても、魔法使いの彼女には、わかります。ここに敵はいます。魔法の力を肌に感じるのです。
炎の玉が飛んできて、ソルトの前ではじけました。透明な壁がそこにはありました。シフォンの魔法です。
「ここに敵がいるんだな?」
「はい。」
シフォンがうなずいたので、ソルトは剣を抜こうとしました。しかし彼女はそれを手で押さえます。
「シフォン?」
「勇者さま、あそこに道がありますよね。」
シフォンの言うとおり、先に細い道が見えます。
「ここは私にまかせて、あなたは先へ行ってください。」
ソルトは首を横に振りました。
「嫌だ。」
ソルトにとって、もちろんミントもそうですが、シフォンは大切な仲間です。彼女を置いていくなんて考えられないことでした。
「勇者さま!」
ぴしゃりと、シフォンは彼を叱るようにそう言いました。その間にも次々と炎の玉が飛んできて、バリアにあたっています。
シフォンが杖を軽く振ると、先ほど生み出した灯りは二つに分かれました。一つはソルトのそばでふわふわゆれます。
「ここに来たのはなんのためかお忘れですか。オリーブさんがここにいません。まだ奥にいるんです。とても怖い思いをしているでしょう。早く、早く行ってあげてください。」
ぐっと、ソルトは奥歯を噛みしめました。
「すぐ戻ってくるから!」
ソルトは奥へと走り出しました。炎の玉が今度は彼の方へと飛んでいきます。シフォンが
「ウィラ、ウィラ、ニュー。」
風を巻き起こして、それを押し戻します。
ソルトの足音が遠ざかり、その場がしんと静まり返りました。
「姿を見せたらどうですか?」
シフォンの声が響きます。
「いやん、怒らないでー。」
声と一緒に、女の子が上から降ってきました。
「こんにちは、ラズベリーでーすっ。ラズちゃんって呼んでね。」
「親切にどうも。私はシフォンと申します。」
二人ともにっこりと笑顔を作って、向き合います。
「おねーさん、美人だね。で、で、今の人は彼氏?」
両手に一本ずつ持った銀色の鎌(かま)が、シフォンの魔法の光を反射します。
「彼氏だなんて、違いますよ。」
シフォンは笑顔のまま、目の前の少女にまったく隙(すき)がないことを読み取って、気持ちを落ち着かせようと杖をぎゅっとにぎりしめました。ラズベリーもまた、魔法使いが笑顔で話を合わせながらも、いつでも動き出せるように呼吸を整えたのを見て喜びました。だって、強い相手ほど楽しいものはありませんから。戦うことこそがモンスターの生きがいですから。
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