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第7章
勇者さまは、馬鹿です。
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「大丈夫ですか?」
シフォンはソルトのすぐそばでかがんで、洋服のあちこちから血がにじんでいるのを見ました。痛みで顔中から汗が吹き出ています。タオルを出して顔をぬぐってあげると、彼はへらりと笑って、
「怪我ないか?」
と聞くのです。
ばたん!
彼女は開けた薬箱を思い切り閉めました。
「馬鹿ですか!」
「へっ?」
取り出した傷薬を手際よくぬってあげながら、シフォンの言葉は止まりません。
「なんであのとき、私をかばったんですか。せっかくチャンスをつくってあげたのに。ミントさんの機転がなかったら、私たち、死んでいたかもしれないんですよ!」
「ごめん…。」
シフォンはそれから、しかられて落ち込むソルトの体を半分起こしてあげて、服のだめになってしまった部分をハサミで切りました。包帯を巻きつけていきます。
「だいたい、こんなに傷だらけなのに、また私をかばって傷増やしたりして。あなたは勇者なんですよ! この世界を救う役目をおっているんですよ! それなのに、こんなところで死んだら、どうするんですか!」
もう一度薬箱を開け、今度は別の薬を取り出し、
「死ななかったから、いいじゃないか。」
「よくないです!」
ばたん!
また薬箱が大きな音を立てて閉まります。
「あ。シフォン。」
ソルトは、怒っているのに優しく手当てを続ける彼女の、そのまとっているローブから見えかくれする手に、足に、傷跡を見つけました。一つや二つではありません。
「俺より自分の手当てを…。」
「まだ何か言いますか!」
彼の気づかいはしかし、シフォンの怒りに油をそそいだようです。
「なんでそんなに怒ってるんだよ…。」
ソルトはシフォンが大好きです。だから、怒られると悲しいし、落ち込みます。もう十七なのに、すねた五歳くらいの子供のようになってしまいます。シフォンがソルトの瞳をのぞき込んで、
「わからないですか?」
と聞くと、
「うん。」
ソルトはこくんとうなずきました。
シフォンは、キッとソルトをにらみつけて、それから大きなため息をつきました。ぬり薬を彼の足全体になじませていきます。
「勇者さま、もっと、自分を大事にしてください。」
「十分大事にしてると思うけど。」
「大事にしていたら、こんなに傷だらけにはなりませんよ。」
ため息まじりにシフォンは言いました。彼があまりに無茶をするので、心配でたまりません。
「勇者さま、約束してください。今度また同じように私がピンチになっても、決してかばったりしないと。」
そして、自分の無力さのせいで彼が傷を負ったことも、この感情の理由のひとつでした。
「嫌だ。」
ソルトはただ一言そう言って、
「勇者さま!」
泣き出してしまいそうなシフォンをまっすぐ見つめました。彼女が言葉を飲み込みます。
「俺は、シフォンの傷つくとこなんて見たくない。だから、また同じようなことがあっても、きっと、今日と同じようにする。」
先に目をそらしたのはシフォンでした。彼女はうつむいて、
「…馬鹿です。」
と言いました。
「そう、俺はばかだから、シフォンがいないと困る。」
「…勇者さまは、馬鹿です。」
「ん?」
「きっとミントさんにだって、いえ、この世界に住む皆に、同じように言うんです…。」
その声はとても小さくて、彼に届きませんでした。後は、だまって手当てを続けます。
彼女が大切なことを忘れていたのに気付いたのは、すべて終わって薬箱を閉めた時でした。
「勇者さま。」
「ん?」
「かばってくれて、ありがとうございました。」
「ああ、」
ソルトはにっこり笑いました。
「どういたしまして。」
安心して、シフォンも微笑みました。
シフォンはソルトのすぐそばでかがんで、洋服のあちこちから血がにじんでいるのを見ました。痛みで顔中から汗が吹き出ています。タオルを出して顔をぬぐってあげると、彼はへらりと笑って、
「怪我ないか?」
と聞くのです。
ばたん!
彼女は開けた薬箱を思い切り閉めました。
「馬鹿ですか!」
「へっ?」
取り出した傷薬を手際よくぬってあげながら、シフォンの言葉は止まりません。
「なんであのとき、私をかばったんですか。せっかくチャンスをつくってあげたのに。ミントさんの機転がなかったら、私たち、死んでいたかもしれないんですよ!」
「ごめん…。」
シフォンはそれから、しかられて落ち込むソルトの体を半分起こしてあげて、服のだめになってしまった部分をハサミで切りました。包帯を巻きつけていきます。
「だいたい、こんなに傷だらけなのに、また私をかばって傷増やしたりして。あなたは勇者なんですよ! この世界を救う役目をおっているんですよ! それなのに、こんなところで死んだら、どうするんですか!」
もう一度薬箱を開け、今度は別の薬を取り出し、
「死ななかったから、いいじゃないか。」
「よくないです!」
ばたん!
また薬箱が大きな音を立てて閉まります。
「あ。シフォン。」
ソルトは、怒っているのに優しく手当てを続ける彼女の、そのまとっているローブから見えかくれする手に、足に、傷跡を見つけました。一つや二つではありません。
「俺より自分の手当てを…。」
「まだ何か言いますか!」
彼の気づかいはしかし、シフォンの怒りに油をそそいだようです。
「なんでそんなに怒ってるんだよ…。」
ソルトはシフォンが大好きです。だから、怒られると悲しいし、落ち込みます。もう十七なのに、すねた五歳くらいの子供のようになってしまいます。シフォンがソルトの瞳をのぞき込んで、
「わからないですか?」
と聞くと、
「うん。」
ソルトはこくんとうなずきました。
シフォンは、キッとソルトをにらみつけて、それから大きなため息をつきました。ぬり薬を彼の足全体になじませていきます。
「勇者さま、もっと、自分を大事にしてください。」
「十分大事にしてると思うけど。」
「大事にしていたら、こんなに傷だらけにはなりませんよ。」
ため息まじりにシフォンは言いました。彼があまりに無茶をするので、心配でたまりません。
「勇者さま、約束してください。今度また同じように私がピンチになっても、決してかばったりしないと。」
そして、自分の無力さのせいで彼が傷を負ったことも、この感情の理由のひとつでした。
「嫌だ。」
ソルトはただ一言そう言って、
「勇者さま!」
泣き出してしまいそうなシフォンをまっすぐ見つめました。彼女が言葉を飲み込みます。
「俺は、シフォンの傷つくとこなんて見たくない。だから、また同じようなことがあっても、きっと、今日と同じようにする。」
先に目をそらしたのはシフォンでした。彼女はうつむいて、
「…馬鹿です。」
と言いました。
「そう、俺はばかだから、シフォンがいないと困る。」
「…勇者さまは、馬鹿です。」
「ん?」
「きっとミントさんにだって、いえ、この世界に住む皆に、同じように言うんです…。」
その声はとても小さくて、彼に届きませんでした。後は、だまって手当てを続けます。
彼女が大切なことを忘れていたのに気付いたのは、すべて終わって薬箱を閉めた時でした。
「勇者さま。」
「ん?」
「かばってくれて、ありがとうございました。」
「ああ、」
ソルトはにっこり笑いました。
「どういたしまして。」
安心して、シフォンも微笑みました。
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