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オマケの転生後
ねむりひめ
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I'm sleeping.
I'm sleeping.
But...who I am ?
「ねむりひめ」
その日はとても穏やかな日で、
通常の半分にも満たない書類。
うとうと、眠りに誘われるような――、
むしろ、これは私の見ている夢なのでは、と疑う、
滅多にない、でもなんてことはない一日。
「こんな日もあるんだねー…。」
幼い声に、そうですねと返して、
その言葉を発した少女を見た。
目を細めて、貴重な体験を喜ぶ表情には、
不安を感じている様子はない。
素直に、ありのままを受け取れる無垢な彼女を、
うらやましく、
昔の自分を思い返して懐かしくも思う。
――昔の、自分?
頭をよぎる違和感は、
しかし、一瞬で褪せていった。
少女が口を開いたので、そちらに意識をもっていかれたからである。
「シノ、今日は天気がいいみたい。」
「そうですね、春の暖かい一日になると思います。」
いいなあ、と彼女は呟いた。
頭の高い位置でひとつに結っている金色の髪は、
私の茶色よりも色素が薄く、長く、すごく綺麗だ。
私の上司にあたるその子供は、もう一度いいなあと呟いて、
「遊びに行きたい。」
と、私に向かってこぼした。
正直に言えば、全面的に同意なのだけど、
「少ないとはいえ、お仕事ありますから。」
大人らしく、微笑んでたしなめる。
「だよねー。」
椅子が高くて床につかない足をぶらぶらさせて、
頬を片方、可愛らしく膨らませる様に、自然と笑みがこぼれた。
「社長、がんばりましょ?」
神さま、と言葉ではそう言ったものの、
声は崇高な人にかけるのにはほど遠い。
自分にとって彼女は、会社の代表であると同時に
守りたいと思わせる、ずっと年下の女の子だった。
そして、
命の恩人で、私の上司。
なんてややこしいことだろう。
ただひとつ言えるのは、
今の私の生活に中心に位置することは間違いない。
――今の、私。
またも違和感を覚えて、
首を傾げた。
今日は、なんだか、おかしい。
普段は忙しくて考えてないことが、
ぼんやりと、疑問として胸に残る。わだかまる。
「どうしたの?」
くりくりとした瞳がこちらを見ているのに気づいて、
「なんでもないです。」
と、笑ってみせた。
胸が、ざわざわする。
こんな感覚は初めてで、戸惑う。
え。
本当に、初めて?
私は何か、忘れているの?
どくん。
心臓の音が大きく鳴った。
胸に手をあてて、
あれ、どうして私は生きているんだろう、
と、そう思った。
違和感がぬぐえない。
この世界は、
私の作り出した夢なんじゃないかって
私は夢の中にいるんじゃないかって
だって私は、
最後に覚えてる、あの記憶は、
ここじゃない。
それは、どこ?
「シノ。」
次の言葉は、呼び掛けだった。
私を此処に引き止める。
彼女は気づけば、私のすぐそばに来ていて、
机に置いた私の手に、そっと、自分の手を重ねる。
私は、震えていた。
「本当に大丈夫?」
少女の瞳は揺れている。
「はい…。」
これ以上は、考えたらいけないって、
警鐘でひどく頭痛がした。
「何か…おしゃべりしましょう…社長。」
私は微笑んだ。
随分と弱々しい笑みだな、と思った。
座ったままの自分は、上司を見上げる。
目線が逆になることは新鮮だった。
目の前の少女より幼くなった錯覚を覚えた。
綺麗な瞳だと思う。
小さい手に包まれた手の、震えが止まる。
ゆっくりと、まばたきをした。
大丈夫。
「おしゃべり…、」
少女は思案した後で、
「サノについてでも、話す?」
と言う。
名前を聞くだけで体中が騒ぎ出ぎ出した。
恋をしているから。
私は、サノのことが好き。
目に光が宿ったのがわかる。
少女が笑ったから、たぶん間違いない。
そして、彼女なりに気を使ってくれたんだってわかって、
嬉しくなった。
ありがとうの気持ちでいっぱいになる。
大丈夫。
「サノについて? いくらでも話せますよ!」
「本っ当に、好きだね!」
「大好きです!」
声に体温が戻ってきた。
笑顔に笑顔が返ってくる。
サノは、
私の生活の中心。
今も、昔も。
――そう、昔も。
忘れよう。
忘れるんだ。
夢ならば、夢のままで、
幸せな夢を見せて。
忘れなきゃ、いけない。
「じゃあ、」
あ、まじまじと見たら社長って、猫目なんだなーと、
そんなことを考える余裕を取り戻しつつあったのに、
「私と出会う前のサノとシノの話とか、聞きたいな!」
無邪気な言葉に、
この夢が、壊れていく。
がらがら。
忘れなきゃいけないのに。
どうして?
忘れているのは、何?
思い出したらいけないの。
忘れてなんかない。
眠ってるだけ。
起きてはいけない。
そっと、記憶の奥底に沈めておいて。
嫌だよ。
忘れてしまえば…
ああ、
『本当に、何も覚えていないんだな。』
ひとつだけ、覚えてる。
これは、此処にいる時の記憶。
サノが、悲しい顔をしている。
私が、そんな表情をさせてしまったの。
嫌われてるってわかってて
怖くて
また、忘れていた。
私は彼を好きで居続けなければいけない。
どうして?
この気持ちも、
嘘だなんて、
そんなこと、絶対に、ないって
私はどうして、はっきり言えないんだろう。
何を忘れてるの?
忘れなさい、思い出さなくていい。
どうして?
こんなに、こんなに、
貴方を好きで好きで、
苦しいの。
I'm sleeping.
I'm sleeping.
She...should be dreaming,so happy!
I'm sleeping.
But...who I am ?
「ねむりひめ」
その日はとても穏やかな日で、
通常の半分にも満たない書類。
うとうと、眠りに誘われるような――、
むしろ、これは私の見ている夢なのでは、と疑う、
滅多にない、でもなんてことはない一日。
「こんな日もあるんだねー…。」
幼い声に、そうですねと返して、
その言葉を発した少女を見た。
目を細めて、貴重な体験を喜ぶ表情には、
不安を感じている様子はない。
素直に、ありのままを受け取れる無垢な彼女を、
うらやましく、
昔の自分を思い返して懐かしくも思う。
――昔の、自分?
頭をよぎる違和感は、
しかし、一瞬で褪せていった。
少女が口を開いたので、そちらに意識をもっていかれたからである。
「シノ、今日は天気がいいみたい。」
「そうですね、春の暖かい一日になると思います。」
いいなあ、と彼女は呟いた。
頭の高い位置でひとつに結っている金色の髪は、
私の茶色よりも色素が薄く、長く、すごく綺麗だ。
私の上司にあたるその子供は、もう一度いいなあと呟いて、
「遊びに行きたい。」
と、私に向かってこぼした。
正直に言えば、全面的に同意なのだけど、
「少ないとはいえ、お仕事ありますから。」
大人らしく、微笑んでたしなめる。
「だよねー。」
椅子が高くて床につかない足をぶらぶらさせて、
頬を片方、可愛らしく膨らませる様に、自然と笑みがこぼれた。
「社長、がんばりましょ?」
神さま、と言葉ではそう言ったものの、
声は崇高な人にかけるのにはほど遠い。
自分にとって彼女は、会社の代表であると同時に
守りたいと思わせる、ずっと年下の女の子だった。
そして、
命の恩人で、私の上司。
なんてややこしいことだろう。
ただひとつ言えるのは、
今の私の生活に中心に位置することは間違いない。
――今の、私。
またも違和感を覚えて、
首を傾げた。
今日は、なんだか、おかしい。
普段は忙しくて考えてないことが、
ぼんやりと、疑問として胸に残る。わだかまる。
「どうしたの?」
くりくりとした瞳がこちらを見ているのに気づいて、
「なんでもないです。」
と、笑ってみせた。
胸が、ざわざわする。
こんな感覚は初めてで、戸惑う。
え。
本当に、初めて?
私は何か、忘れているの?
どくん。
心臓の音が大きく鳴った。
胸に手をあてて、
あれ、どうして私は生きているんだろう、
と、そう思った。
違和感がぬぐえない。
この世界は、
私の作り出した夢なんじゃないかって
私は夢の中にいるんじゃないかって
だって私は、
最後に覚えてる、あの記憶は、
ここじゃない。
それは、どこ?
「シノ。」
次の言葉は、呼び掛けだった。
私を此処に引き止める。
彼女は気づけば、私のすぐそばに来ていて、
机に置いた私の手に、そっと、自分の手を重ねる。
私は、震えていた。
「本当に大丈夫?」
少女の瞳は揺れている。
「はい…。」
これ以上は、考えたらいけないって、
警鐘でひどく頭痛がした。
「何か…おしゃべりしましょう…社長。」
私は微笑んだ。
随分と弱々しい笑みだな、と思った。
座ったままの自分は、上司を見上げる。
目線が逆になることは新鮮だった。
目の前の少女より幼くなった錯覚を覚えた。
綺麗な瞳だと思う。
小さい手に包まれた手の、震えが止まる。
ゆっくりと、まばたきをした。
大丈夫。
「おしゃべり…、」
少女は思案した後で、
「サノについてでも、話す?」
と言う。
名前を聞くだけで体中が騒ぎ出ぎ出した。
恋をしているから。
私は、サノのことが好き。
目に光が宿ったのがわかる。
少女が笑ったから、たぶん間違いない。
そして、彼女なりに気を使ってくれたんだってわかって、
嬉しくなった。
ありがとうの気持ちでいっぱいになる。
大丈夫。
「サノについて? いくらでも話せますよ!」
「本っ当に、好きだね!」
「大好きです!」
声に体温が戻ってきた。
笑顔に笑顔が返ってくる。
サノは、
私の生活の中心。
今も、昔も。
――そう、昔も。
忘れよう。
忘れるんだ。
夢ならば、夢のままで、
幸せな夢を見せて。
忘れなきゃ、いけない。
「じゃあ、」
あ、まじまじと見たら社長って、猫目なんだなーと、
そんなことを考える余裕を取り戻しつつあったのに、
「私と出会う前のサノとシノの話とか、聞きたいな!」
無邪気な言葉に、
この夢が、壊れていく。
がらがら。
忘れなきゃいけないのに。
どうして?
忘れているのは、何?
思い出したらいけないの。
忘れてなんかない。
眠ってるだけ。
起きてはいけない。
そっと、記憶の奥底に沈めておいて。
嫌だよ。
忘れてしまえば…
ああ、
『本当に、何も覚えていないんだな。』
ひとつだけ、覚えてる。
これは、此処にいる時の記憶。
サノが、悲しい顔をしている。
私が、そんな表情をさせてしまったの。
嫌われてるってわかってて
怖くて
また、忘れていた。
私は彼を好きで居続けなければいけない。
どうして?
この気持ちも、
嘘だなんて、
そんなこと、絶対に、ないって
私はどうして、はっきり言えないんだろう。
何を忘れてるの?
忘れなさい、思い出さなくていい。
どうして?
こんなに、こんなに、
貴方を好きで好きで、
苦しいの。
I'm sleeping.
I'm sleeping.
She...should be dreaming,so happy!
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