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月曜日は波乱の予感
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「どうしたの?」
「あー……なんか俺のせいで捻挫させちゃったみたいで……。湿布とかありますかね?」
「あら大変!救急箱持ってくるわね」
健太郎は愛美の体をヒョイと抱き上げた。
まわりのオバサマたちが、健太郎にお姫様だっこされている愛美を見てにやにやしている。
「菅谷さんが怪我してるのに不謹慎だけど……こういうの憧れるわよねぇ」
「そうねぇ。若いっていいわぁ」
コソコソ話にはあまりに大きすぎるオバサマたちの声がイヤでも耳に入り、愛美は真っ赤になって健太郎の腕の中でもがいた。
「恥ずかしいから降ろして!!」
「危ないから暴れんな。愛美の椅子に降ろしてやるから」
健太郎に横抱きにされている時、緒川支部長と一瞬目が合った。
(いくらなんでも、この状況はちょっと気まずいな……)
早く離して欲しいのに、健太郎は愛美を抱いたまま緒川支部長の方をじっと見ている。
「健太郎!早く降ろしてよ!」
堪らず愛美が声を掛けると、健太郎はニヤッと笑って愛美の顔を見た。
「ん?ああ、悪い」
健太郎は愛美を内勤席の椅子にゆっくりと降ろして、金井さんから渡された救急箱を開けた。
「これ履いてると湿布貼れなくね?脱げば?」
(これ、って……ストッキング脱げってか!!)
健太郎の指先が愛美の足をツツーッと撫でた。
「……ってか、脱がしてやろうか?」
過激な言葉にうろたえた愛美は、真っ赤な顔をして健太郎の肩をグーで殴った。
「スケベ!!変態!!本物のバカじゃないの!!」
「じゃあどうする?破っちゃう?」
「脱がないし破らないよ!!そこにスプレーのやつがあるでしょ!それでいいから!!」
「なーんだ、バレたか。つまんねぇなぁ……」
「ホント最低……。そういうのをセクハラって言うんだよ」
健太郎は救急箱からアイシングスプレーを取り出し、愛美の足首に吹き付けた。
「つめたっ……!」
「いやがらせのつもりはないんだけどな」
「セクハラされたかどうかは、受けた側がどう感じたかだからね。気を付けなよ」
「じゃあ……愛美がいやがらなかったら、セクハラじゃないんだ」
スプレーの蓋を閉めながら健太郎が呟いた。
「俺は愛美以外にそんな事したいと思ってないから」
「え?」
(何言ってるの?)
健太郎はスプレーを救急箱にしまい、愛美の膝をポンポンと叩いて立ち上がった。
「救急箱、どこに返せばいい?」
「その棚の二段目……」
救急箱を返して戻って来ると、健太郎は何かを思い出してポンと手を叩いた。
「そうだ、すっかり忘れてた。俺、愛美に弁当届けに来たんだった」
「いいって言ったのに……ホントに持ってきたの……?」
健太郎は内勤席の上に置いてある袋を指差して笑った。
「約束したじゃん。今日は怪我させたお詫びにタダでいいや。仕事何時に終わるんだ?」
「5時だけど」
「5時か。帰り送ってく。ここに迎えに来るから待ってろよ。じゃあな」
「えっ?!ちょっと……!」
言いたい事だけ言うと、健太郎は支部を出ていった。
愛美は遠くなっていく健太郎の背中を眺めて、小さくため息をついた。
(昔からだけど……相変わらず健太郎は勝手だな)
動こうとすると、ズキズキと足首が痛む。
さっきの健太郎の言葉は何だったのか?
(きっと深い意味なんてない。どうせいつものつまんない冗談だ。それより……)
愛美は支部長の方にそっと視線を向けた。
緒川支部長は、席についてパソコンに向かっている佐藤さんの隣に立ち、画面を指差して何か言っている。
佐藤さんは時おり顔を上げて、笑みを浮かべて緒川支部長に何かを尋ねている。
(あれ……?なんかいい雰囲気?)
仕事中なのだから余計な事を考えるのはよそうと、愛美はパソコンに向かった。
だけど、さっきの緒川支部長と健太郎の様子がおかしかった事を、ふと思い出した。
(さっきのあれ、なんだったんだろう?支部長と健太郎が見つめ合ってた……というかむしろ、にらみ合ってたような?)
「あー……なんか俺のせいで捻挫させちゃったみたいで……。湿布とかありますかね?」
「あら大変!救急箱持ってくるわね」
健太郎は愛美の体をヒョイと抱き上げた。
まわりのオバサマたちが、健太郎にお姫様だっこされている愛美を見てにやにやしている。
「菅谷さんが怪我してるのに不謹慎だけど……こういうの憧れるわよねぇ」
「そうねぇ。若いっていいわぁ」
コソコソ話にはあまりに大きすぎるオバサマたちの声がイヤでも耳に入り、愛美は真っ赤になって健太郎の腕の中でもがいた。
「恥ずかしいから降ろして!!」
「危ないから暴れんな。愛美の椅子に降ろしてやるから」
健太郎に横抱きにされている時、緒川支部長と一瞬目が合った。
(いくらなんでも、この状況はちょっと気まずいな……)
早く離して欲しいのに、健太郎は愛美を抱いたまま緒川支部長の方をじっと見ている。
「健太郎!早く降ろしてよ!」
堪らず愛美が声を掛けると、健太郎はニヤッと笑って愛美の顔を見た。
「ん?ああ、悪い」
健太郎は愛美を内勤席の椅子にゆっくりと降ろして、金井さんから渡された救急箱を開けた。
「これ履いてると湿布貼れなくね?脱げば?」
(これ、って……ストッキング脱げってか!!)
健太郎の指先が愛美の足をツツーッと撫でた。
「……ってか、脱がしてやろうか?」
過激な言葉にうろたえた愛美は、真っ赤な顔をして健太郎の肩をグーで殴った。
「スケベ!!変態!!本物のバカじゃないの!!」
「じゃあどうする?破っちゃう?」
「脱がないし破らないよ!!そこにスプレーのやつがあるでしょ!それでいいから!!」
「なーんだ、バレたか。つまんねぇなぁ……」
「ホント最低……。そういうのをセクハラって言うんだよ」
健太郎は救急箱からアイシングスプレーを取り出し、愛美の足首に吹き付けた。
「つめたっ……!」
「いやがらせのつもりはないんだけどな」
「セクハラされたかどうかは、受けた側がどう感じたかだからね。気を付けなよ」
「じゃあ……愛美がいやがらなかったら、セクハラじゃないんだ」
スプレーの蓋を閉めながら健太郎が呟いた。
「俺は愛美以外にそんな事したいと思ってないから」
「え?」
(何言ってるの?)
健太郎はスプレーを救急箱にしまい、愛美の膝をポンポンと叩いて立ち上がった。
「救急箱、どこに返せばいい?」
「その棚の二段目……」
救急箱を返して戻って来ると、健太郎は何かを思い出してポンと手を叩いた。
「そうだ、すっかり忘れてた。俺、愛美に弁当届けに来たんだった」
「いいって言ったのに……ホントに持ってきたの……?」
健太郎は内勤席の上に置いてある袋を指差して笑った。
「約束したじゃん。今日は怪我させたお詫びにタダでいいや。仕事何時に終わるんだ?」
「5時だけど」
「5時か。帰り送ってく。ここに迎えに来るから待ってろよ。じゃあな」
「えっ?!ちょっと……!」
言いたい事だけ言うと、健太郎は支部を出ていった。
愛美は遠くなっていく健太郎の背中を眺めて、小さくため息をついた。
(昔からだけど……相変わらず健太郎は勝手だな)
動こうとすると、ズキズキと足首が痛む。
さっきの健太郎の言葉は何だったのか?
(きっと深い意味なんてない。どうせいつものつまんない冗談だ。それより……)
愛美は支部長の方にそっと視線を向けた。
緒川支部長は、席についてパソコンに向かっている佐藤さんの隣に立ち、画面を指差して何か言っている。
佐藤さんは時おり顔を上げて、笑みを浮かべて緒川支部長に何かを尋ねている。
(あれ……?なんかいい雰囲気?)
仕事中なのだから余計な事を考えるのはよそうと、愛美はパソコンに向かった。
だけど、さっきの緒川支部長と健太郎の様子がおかしかった事を、ふと思い出した。
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