オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2

櫻井音衣

文字の大きさ
18 / 57
月曜日は波乱の予感

しおりを挟む
「どうしたの?」
「あー……なんか俺のせいで捻挫させちゃったみたいで……。湿布とかありますかね?」
「あら大変!救急箱持ってくるわね」

健太郎は愛美の体をヒョイと抱き上げた。
まわりのオバサマたちが、健太郎にお姫様だっこされている愛美を見てにやにやしている。

「菅谷さんが怪我してるのに不謹慎だけど……こういうの憧れるわよねぇ」
「そうねぇ。若いっていいわぁ」

コソコソ話にはあまりに大きすぎるオバサマたちの声がイヤでも耳に入り、愛美は真っ赤になって健太郎の腕の中でもがいた。

「恥ずかしいから降ろして!!」
「危ないから暴れんな。愛美の椅子に降ろしてやるから」

健太郎に横抱きにされている時、緒川支部長と一瞬目が合った。

   (いくらなんでも、この状況はちょっと気まずいな……)

早く離して欲しいのに、健太郎は愛美を抱いたまま緒川支部長の方をじっと見ている。

「健太郎!早く降ろしてよ!」

堪らず愛美が声を掛けると、健太郎はニヤッと笑って愛美の顔を見た。

「ん?ああ、悪い」

健太郎は愛美を内勤席の椅子にゆっくりと降ろして、金井さんから渡された救急箱を開けた。

「これ履いてると湿布貼れなくね?脱げば?」

   (これ、って……ストッキング脱げってか!!)

健太郎の指先が愛美の足をツツーッと撫でた。

「……ってか、脱がしてやろうか?」

過激な言葉にうろたえた愛美は、真っ赤な顔をして健太郎の肩をグーで殴った。

「スケベ!!変態!!本物のバカじゃないの!!」
「じゃあどうする?破っちゃう?」
「脱がないし破らないよ!!そこにスプレーのやつがあるでしょ!それでいいから!!」
「なーんだ、バレたか。つまんねぇなぁ……」
「ホント最低……。そういうのをセクハラって言うんだよ」

健太郎は救急箱からアイシングスプレーを取り出し、愛美の足首に吹き付けた。

「つめたっ……!」
「いやがらせのつもりはないんだけどな」
「セクハラされたかどうかは、受けた側がどう感じたかだからね。気を付けなよ」
「じゃあ……愛美がいやがらなかったら、セクハラじゃないんだ」

スプレーの蓋を閉めながら健太郎が呟いた。

「俺は愛美以外にそんな事したいと思ってないから」
「え?」

   (何言ってるの?)

健太郎はスプレーを救急箱にしまい、愛美の膝をポンポンと叩いて立ち上がった。

「救急箱、どこに返せばいい?」
「その棚の二段目……」

救急箱を返して戻って来ると、健太郎は何かを思い出してポンと手を叩いた。

「そうだ、すっかり忘れてた。俺、愛美に弁当届けに来たんだった」
「いいって言ったのに……ホントに持ってきたの……?」

健太郎は内勤席の上に置いてある袋を指差して笑った。

「約束したじゃん。今日は怪我させたお詫びにタダでいいや。仕事何時に終わるんだ?」
「5時だけど」
「5時か。帰り送ってく。ここに迎えに来るから待ってろよ。じゃあな」
「えっ?!ちょっと……!」

言いたい事だけ言うと、健太郎は支部を出ていった。
愛美は遠くなっていく健太郎の背中を眺めて、小さくため息をついた。

   (昔からだけど……相変わらず健太郎は勝手だな)

動こうとすると、ズキズキと足首が痛む。
さっきの健太郎の言葉は何だったのか?

   (きっと深い意味なんてない。どうせいつものつまんない冗談だ。それより……)

愛美は支部長の方にそっと視線を向けた。
緒川支部長は、席についてパソコンに向かっている佐藤さんの隣に立ち、画面を指差して何か言っている。 
佐藤さんは時おり顔を上げて、笑みを浮かべて緒川支部長に何かを尋ねている。

   (あれ……?なんかいい雰囲気?)

仕事中なのだから余計な事を考えるのはよそうと、愛美はパソコンに向かった。
だけど、さっきの緒川支部長と健太郎の様子がおかしかった事を、ふと思い出した。

   (さっきのあれ、なんだったんだろう?支部長と健太郎が見つめ合ってた……というかむしろ、にらみ合ってたような?)



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

五年越しの再会と、揺れる恋心

柴田はつみ
恋愛
春山千尋24歳は五年前に広瀬洋介27歳に振られたと思い込み洋介から離れた。 千尋は今大手の商事会社に副社長の秘書として働いている。 ある日振られたと思い込んでいる千尋の前に洋介が社長として現れた。 だが千尋には今中田和也26歳と付き合っている。 千尋の気持ちは?

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

処理中です...