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月曜日は波乱の予感
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お昼になり、愛美はお弁当を持ってゆっくりと休憩スペースに移動した。
今日ものんびり昼食を取っているオバサマたちがいるので、なんとなくお弁当を広げづらい。
「菅谷さん、大丈夫?」
足を怪我している愛美を気遣って、金井さんが椅子を引いてくれた。
「ハイ、まぁ……なんとか……」
愛美の手元のお弁当に気付いた宮本さんが、立ち上がってお茶を淹れてくれた。
「すみません」
「そんな事気にしなくていいのよ。それより今日はお弁当作ってきたの?」
「いえ……。私が作ったんじゃないんです……」
仕方なく袋からお弁当を取り出して蓋を開けると、豚肉のしょうが焼きやカボチャのサラダ、コロッケなどが入っていた。
「あら、美味しそう!誰が作ってくれたの?」
宮本さんに興味津々の様子で尋ねられ、愛美はボソボソと答える。
「健……やまねこのオーナーが……」
「へぇー、やっぱり料理のできる男の人っていいわね!それで、ホントに二人は付き合ってるの?」
「違います、付き合ってません!!」
(だからいやだったのに……)
愛美はため息をつきながら割り箸を割って、カボチャのサラダを口に運んだ。
(あ、これ美味しい……!)
美味しそうにお弁当を食べ進める愛美を見て、オバサマたちはニヤニヤしている。
「オーナー、お弁当で菅谷さんの胃袋つかむつもりね」
「何言ってるんですか……」
「だってねぇ。二人お似合いだし、いいじゃない」
「そうそう!さっきのお姫様だっこにはドキドキしちゃったー!」
「やめてくださいよ、もう……」
この調子でしばらくひやかされ続けるのかと思うとうんざりする。
愛美はカニクリームコロッケを味わいながら、高校生の頃を思い出していた。
高校時代、昼休みには愛美のクラスに集まり、健太郎、由香、武、駿介と一緒に昼御飯を食べた。
健太郎はいつも自分でお弁当を作っていて、購買のパンでお昼を済ませる事の多かった愛美におかずを分けてくれたり、おかずを多く作りすぎたからと言って、愛美のお弁当を作ってきてくれたりもした。
(たしかに健太郎とは、ちょっとだけその気になっちゃった事はあるけどさ……)
初めての彼氏は健太郎だった。
健太郎の事は好きだったと思う。
でもあれは恋ではなかったとも思う。
『付き合っちゃおうか』なんて言って、なんとなく付き合い始めた。
だけどみんなでいる時は楽しいのに、いざ恋人として二人きりになると、どうしていいのかわからなかった。
(キスとか……そのさきも、一応したけど……なんか急に、健太郎の事が怖くなったんだよね……)
さっきまで幼馴染みのみんなと無邪気に笑っていたのに、二人きりになると、それまで幼馴染みだった健太郎が、急に知らない男になったようで怖かった。
いつも割と強引な健太郎に求められると断りきれなくて流されてしまい、心と体がバラバラになるような苦痛を覚えた。
結局、そのうちうまく笑えなくなって、やっぱりやめようと言ったのは愛美だった。
幼馴染みとしては好きだけれど、恋愛対象としては好きにはなれなかった。
(元の幼馴染みに戻ろうって二人で決めて、何もなかったふりしてたけど……ホントは高校卒業するまでずっと気まずかったな……。卒業して会わなくなってホッとしたっけ……)
「支部長、佐藤さん、おかえりなさい。お疲れ様です」
ぼんやりと考え事をしながらお弁当を食べていた愛美は、金井さんの声に驚いてビクッと肩を震わせた。
緒川支部長はポケットの小銭を探りながらこちらに歩いてきて、愛美の手元を覗き込み微かに眉間にシワを寄せた。
「ただいま」
「おかえりなさい……お疲れ様です」
「菅谷、足は大丈夫か」
「まぁ……なんとか……」
緒川支部長は自販機で缶コーヒーを買い、くるりと振り返って愛美を見た。
「後で病院行くぞ」
「え?いや……あの……」
「早くちゃんとした手当てしないと、ひどくなったら仕事に差し支えるだろう。そこの整形外科なら2時から午後診やってるから。わかったな」
「……ハイ」
さっき怪我をした時は何も言わなかったのに、なぜ今になって急にそんな事を言うのだろう?
(心配……してくれてたのかな……?)
支部長として職員の心配をしてくれたのかも知れない。
それでも気にかけてくれていたのなら嬉しいと愛美は思った。
お弁当を食べ終わった宮本さんが席を立った。
「支部長、お昼はこれからですか?」
「いや、外で済ませてきた」
「佐藤さんと一緒にですか?」
「地区まわり終わったらちょうど昼だったし、目の前に定食屋があったから」
「へーぇ、珍しい事もあるもんですね」
宮本さんがまたニヤニヤしている。
確かに緒川支部長が営業職員に同行して、そのまま外で食事をしてくるのは珍しい。
「腹が減ってたんだよ。今朝、飯食えなかったから」
「ふーん……よほどお腹空いてたんですねぇ」
宮本さんは奥歯に物のはさまったような言い方をして、何か言いたげに席に戻った。
今日ものんびり昼食を取っているオバサマたちがいるので、なんとなくお弁当を広げづらい。
「菅谷さん、大丈夫?」
足を怪我している愛美を気遣って、金井さんが椅子を引いてくれた。
「ハイ、まぁ……なんとか……」
愛美の手元のお弁当に気付いた宮本さんが、立ち上がってお茶を淹れてくれた。
「すみません」
「そんな事気にしなくていいのよ。それより今日はお弁当作ってきたの?」
「いえ……。私が作ったんじゃないんです……」
仕方なく袋からお弁当を取り出して蓋を開けると、豚肉のしょうが焼きやカボチャのサラダ、コロッケなどが入っていた。
「あら、美味しそう!誰が作ってくれたの?」
宮本さんに興味津々の様子で尋ねられ、愛美はボソボソと答える。
「健……やまねこのオーナーが……」
「へぇー、やっぱり料理のできる男の人っていいわね!それで、ホントに二人は付き合ってるの?」
「違います、付き合ってません!!」
(だからいやだったのに……)
愛美はため息をつきながら割り箸を割って、カボチャのサラダを口に運んだ。
(あ、これ美味しい……!)
美味しそうにお弁当を食べ進める愛美を見て、オバサマたちはニヤニヤしている。
「オーナー、お弁当で菅谷さんの胃袋つかむつもりね」
「何言ってるんですか……」
「だってねぇ。二人お似合いだし、いいじゃない」
「そうそう!さっきのお姫様だっこにはドキドキしちゃったー!」
「やめてくださいよ、もう……」
この調子でしばらくひやかされ続けるのかと思うとうんざりする。
愛美はカニクリームコロッケを味わいながら、高校生の頃を思い出していた。
高校時代、昼休みには愛美のクラスに集まり、健太郎、由香、武、駿介と一緒に昼御飯を食べた。
健太郎はいつも自分でお弁当を作っていて、購買のパンでお昼を済ませる事の多かった愛美におかずを分けてくれたり、おかずを多く作りすぎたからと言って、愛美のお弁当を作ってきてくれたりもした。
(たしかに健太郎とは、ちょっとだけその気になっちゃった事はあるけどさ……)
初めての彼氏は健太郎だった。
健太郎の事は好きだったと思う。
でもあれは恋ではなかったとも思う。
『付き合っちゃおうか』なんて言って、なんとなく付き合い始めた。
だけどみんなでいる時は楽しいのに、いざ恋人として二人きりになると、どうしていいのかわからなかった。
(キスとか……そのさきも、一応したけど……なんか急に、健太郎の事が怖くなったんだよね……)
さっきまで幼馴染みのみんなと無邪気に笑っていたのに、二人きりになると、それまで幼馴染みだった健太郎が、急に知らない男になったようで怖かった。
いつも割と強引な健太郎に求められると断りきれなくて流されてしまい、心と体がバラバラになるような苦痛を覚えた。
結局、そのうちうまく笑えなくなって、やっぱりやめようと言ったのは愛美だった。
幼馴染みとしては好きだけれど、恋愛対象としては好きにはなれなかった。
(元の幼馴染みに戻ろうって二人で決めて、何もなかったふりしてたけど……ホントは高校卒業するまでずっと気まずかったな……。卒業して会わなくなってホッとしたっけ……)
「支部長、佐藤さん、おかえりなさい。お疲れ様です」
ぼんやりと考え事をしながらお弁当を食べていた愛美は、金井さんの声に驚いてビクッと肩を震わせた。
緒川支部長はポケットの小銭を探りながらこちらに歩いてきて、愛美の手元を覗き込み微かに眉間にシワを寄せた。
「ただいま」
「おかえりなさい……お疲れ様です」
「菅谷、足は大丈夫か」
「まぁ……なんとか……」
緒川支部長は自販機で缶コーヒーを買い、くるりと振り返って愛美を見た。
「後で病院行くぞ」
「え?いや……あの……」
「早くちゃんとした手当てしないと、ひどくなったら仕事に差し支えるだろう。そこの整形外科なら2時から午後診やってるから。わかったな」
「……ハイ」
さっき怪我をした時は何も言わなかったのに、なぜ今になって急にそんな事を言うのだろう?
(心配……してくれてたのかな……?)
支部長として職員の心配をしてくれたのかも知れない。
それでも気にかけてくれていたのなら嬉しいと愛美は思った。
お弁当を食べ終わった宮本さんが席を立った。
「支部長、お昼はこれからですか?」
「いや、外で済ませてきた」
「佐藤さんと一緒にですか?」
「地区まわり終わったらちょうど昼だったし、目の前に定食屋があったから」
「へーぇ、珍しい事もあるもんですね」
宮本さんがまたニヤニヤしている。
確かに緒川支部長が営業職員に同行して、そのまま外で食事をしてくるのは珍しい。
「腹が減ってたんだよ。今朝、飯食えなかったから」
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宮本さんは奥歯に物のはさまったような言い方をして、何か言いたげに席に戻った。
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