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月曜日は波乱の予感
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お弁当を食べ終わった愛美は、金井さんの淹れてくれたコーヒーを持って内勤席に戻った。
緒川支部長が営業部長に呼ばれて席を外しているのをいいことに、オバサマたちは佐藤さんを囲んで、のんびりとお茶を飲みながらおしゃべりを楽しんでいる。
「えっ、そうなの?」
金井さんが大きな声をあげた。
「ハイ。私が高校時代に通っていた塾で、講師のバイトをされてたんですよ」
「へぇ……。じゃあ佐藤さんは支部長の教え子になるわけね。どんな先生だった?」
「優しくて教え方が上手で、すごくわかりやすくて、人気の先生でした」
「支部長はその時大学生?」
「そうです。私より3つ歳上なので」
何やら気になる会話の内容に、愛美は聞き耳を立てながらコーヒーを飲む。
(ふーん、塾の講師なんてやってたんだ。知らなかった……。大学時代の政弘さんって、どんな感じだったんだろう)
以前話した時、人見知りで地味で目立たなかったから全然モテなかったと『政弘さん』は言っていた。
昔の写真を見せてと頼んでも、恥ずかしいからいやだと言って、まだ一度も見せてもらった事がない。
(やっぱり見てみたいな。モテなかったなんて言ってたけど、案外本人が気付いてないだけで実は密かにモテてたりして……。彼女とかいたのかな?)
「もしかして佐藤さん……その時、支部長の事好きだった?」
愛美が大学生の『政弘さん』をおぼろげに思い描いていると、赤木さんが声のトーンを下げて佐藤さんに尋ねた。
愛美は急にドキドキして更に耳をそばだてる。
「そう……ですね……」
佐藤さんが小さな声で答えた。
「付き合ってたとか?」
「……ハイ」
オバサマたちが興奮して黄色い声をあげた。
「あっ……もう昔の事ですから……。ここだけの話にしておいて下さいね。支部長には……」
「わかってる、何も言わないから大丈夫よ!」
「こんな偶然もあるのねぇ……」
「支部長まだ独身よ。狙っちゃえば?」
愛美は激しく動揺して、からになったマグカップを持って立ち上がろうとした。
その瞬間足首に痛みが走り、思わずマグカップから手を離した。
床に落ちたマグカップは、ガチャンと大きな音をたてて割れてしまった。
「あ……」
愛美は割れたマグカップを呆然と見つめて立ち尽くす。
(割れちゃった……)
大きな音に驚いて振り返った金井さんが、慌てて愛美のそばに駆け寄ってくる。
「大丈夫?破片で怪我してない?」
「すみません、大丈夫です……」
金井さんは掃除道具のロッカーからほうきとちり取りを持って戻って来ると、チラリと愛美の様子を窺った。
「こんなミス、菅谷さんにしては珍しいわね」
「うっかりいつもみたいに立ち上がろうとして……足の痛みに驚いて落としちゃいました」
「そう……。捻挫、かなりひどそうね。やっぱりちゃんとお医者さんに診てもらわないと。ここは片付けるから、無理しないで座ってて」
「すみません……」
(あー……何やってんだろ、私……)
2時前。
「菅谷」
営業部から戻ってきた緒川支部長は、内勤席で書類を整理している愛美のそばに来て声を掛けた。
ゆっくりと顔を上げた愛美は、どこか浮かない顔をしている。
「どうかしたのか?」
「いえ……。何か?」
「病院連れてくって、さっき言っただろう」
「これくらいで病院なんて大袈裟です」
愛美は素っ気なくそう言って顔をそむけ、また書類の整理をし始めた。
緒川支部長は眉間にシワを寄せて、椅子ごと愛美の体をくるりと自分の方に向けた。
「わっ……!なんですか、いきなり!!」
愛美の声を無視してその場にしゃがみ、緒川支部長は愛美の足首に手を触れた。
「すごい熱持ってる。こんなに腫れて、全然大丈夫じゃないだろ」
「仕事終わってから帰りに行きます!」
「うるさい、つべこべ言うな。今すぐ行くぞ。保険証忘れるなよ」
愛美は口を真一文字に結び、膝の上で固く拳を握りしめている。
なかなか言う事を聞かない愛美に苛立って、緒川支部長は愛美を肩に担ぎ上げた。
緒川支部長が営業部長に呼ばれて席を外しているのをいいことに、オバサマたちは佐藤さんを囲んで、のんびりとお茶を飲みながらおしゃべりを楽しんでいる。
「えっ、そうなの?」
金井さんが大きな声をあげた。
「ハイ。私が高校時代に通っていた塾で、講師のバイトをされてたんですよ」
「へぇ……。じゃあ佐藤さんは支部長の教え子になるわけね。どんな先生だった?」
「優しくて教え方が上手で、すごくわかりやすくて、人気の先生でした」
「支部長はその時大学生?」
「そうです。私より3つ歳上なので」
何やら気になる会話の内容に、愛美は聞き耳を立てながらコーヒーを飲む。
(ふーん、塾の講師なんてやってたんだ。知らなかった……。大学時代の政弘さんって、どんな感じだったんだろう)
以前話した時、人見知りで地味で目立たなかったから全然モテなかったと『政弘さん』は言っていた。
昔の写真を見せてと頼んでも、恥ずかしいからいやだと言って、まだ一度も見せてもらった事がない。
(やっぱり見てみたいな。モテなかったなんて言ってたけど、案外本人が気付いてないだけで実は密かにモテてたりして……。彼女とかいたのかな?)
「もしかして佐藤さん……その時、支部長の事好きだった?」
愛美が大学生の『政弘さん』をおぼろげに思い描いていると、赤木さんが声のトーンを下げて佐藤さんに尋ねた。
愛美は急にドキドキして更に耳をそばだてる。
「そう……ですね……」
佐藤さんが小さな声で答えた。
「付き合ってたとか?」
「……ハイ」
オバサマたちが興奮して黄色い声をあげた。
「あっ……もう昔の事ですから……。ここだけの話にしておいて下さいね。支部長には……」
「わかってる、何も言わないから大丈夫よ!」
「こんな偶然もあるのねぇ……」
「支部長まだ独身よ。狙っちゃえば?」
愛美は激しく動揺して、からになったマグカップを持って立ち上がろうとした。
その瞬間足首に痛みが走り、思わずマグカップから手を離した。
床に落ちたマグカップは、ガチャンと大きな音をたてて割れてしまった。
「あ……」
愛美は割れたマグカップを呆然と見つめて立ち尽くす。
(割れちゃった……)
大きな音に驚いて振り返った金井さんが、慌てて愛美のそばに駆け寄ってくる。
「大丈夫?破片で怪我してない?」
「すみません、大丈夫です……」
金井さんは掃除道具のロッカーからほうきとちり取りを持って戻って来ると、チラリと愛美の様子を窺った。
「こんなミス、菅谷さんにしては珍しいわね」
「うっかりいつもみたいに立ち上がろうとして……足の痛みに驚いて落としちゃいました」
「そう……。捻挫、かなりひどそうね。やっぱりちゃんとお医者さんに診てもらわないと。ここは片付けるから、無理しないで座ってて」
「すみません……」
(あー……何やってんだろ、私……)
2時前。
「菅谷」
営業部から戻ってきた緒川支部長は、内勤席で書類を整理している愛美のそばに来て声を掛けた。
ゆっくりと顔を上げた愛美は、どこか浮かない顔をしている。
「どうかしたのか?」
「いえ……。何か?」
「病院連れてくって、さっき言っただろう」
「これくらいで病院なんて大袈裟です」
愛美は素っ気なくそう言って顔をそむけ、また書類の整理をし始めた。
緒川支部長は眉間にシワを寄せて、椅子ごと愛美の体をくるりと自分の方に向けた。
「わっ……!なんですか、いきなり!!」
愛美の声を無視してその場にしゃがみ、緒川支部長は愛美の足首に手を触れた。
「すごい熱持ってる。こんなに腫れて、全然大丈夫じゃないだろ」
「仕事終わってから帰りに行きます!」
「うるさい、つべこべ言うな。今すぐ行くぞ。保険証忘れるなよ」
愛美は口を真一文字に結び、膝の上で固く拳を握りしめている。
なかなか言う事を聞かない愛美に苛立って、緒川支部長は愛美を肩に担ぎ上げた。
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