21 / 57
月曜日は波乱の予感
6
しおりを挟む
「ちょっ……!!何するんですか!!」
「病院連れてくんだよ!」
「降ろして下さいよ!人を米みたいに……!」
「言う事聞かない菅谷が悪いんだろ!」
激しく言い合う二人の様子を、オバサマたちは楽しそうに笑って眺めている。
「今日のはまた一段と激しいわねぇ」
「激しさで言ったら今までで一番でしょ」
「やっぱり支部長と菅谷さんはこうでないとつまらないわね」
「久しぶりじゃない?第二支部名物、支部長対内勤さん」
二人の激しいバトルを初めて見る新人たちは、驚いてポカンとしている。
「降ろして下さい!スカートがっ……!!」
愛美がそう言うと、緒川支部長は慌ててずり上がりそうになるスカートの裾を押さえるようにして担ぎ直した。
「お姫様だっこの方が良かったか?」
「両方いやです!!とにかく降ろして下さい!」
「問答無用。このまま行くぞ」
緒川支部長が愛美を担いだまま支部を出ようとした時、支部の電話が鳴った。
「あっ、電話出ないと!降ろして下さい!」
愛美が緒川支部長の背中をボカボカ殴る。
緒川支部長は小さく舌打ちをして、愛美をそっと椅子の上に降ろした。
愛美がホッとしながら電話に出ると、相手は佐藤さんの担当地区の既契約者だった。
「佐藤さん、渡辺様からお電話です」
佐藤さんに受話器を渡すと、愛美は何事もなかったかのようにパソコンに向かう。
緒川支部長は愛美の横顔を見ながらため息をついた。
(本気で心配してるのに……。愛美はやっぱり、俺には素直になれないんだな……)
佐藤さんは保留ボタンを押して、緒川支部長の方を見た。
「渡辺さんのご主人、この後お時間あるそうです。3時半までならご自宅にいらっしゃるという事なんですけど……」
「……わかった。すぐ伺うと伝えて」
「ハイ」
佐藤さんが電話を切ると、緒川支部長はまた椅子ごと愛美の体を自分の方に向けた。
「戻ったら病院に連れていくからな」
「仕事終わったら自分で行きますからご心配なく」
「ああもう……!」
どんなに心配しても、愛美は言う事を聞こうとしない。
緒川支部長は険しい顔をして支部長席へ戻り、出掛ける準備を済ませて佐藤さんと一緒に支部を出た。
車に乗り込み少しすると、運転する緒川支部長の隣で佐藤さんがクスクス笑いだした。
「なんだ?急に笑って……」
「いえ……。菅谷さんってかわいいですね」
急に愛美の事を話題にされて、緒川支部長は動揺を必死で隠そうとした。
「そうか?でも見ただろ?菅谷は俺の事が嫌いなんだ。だからいつも反抗的な態度を取る」
「そうかな?ただ素直になれないだけじゃないですか?……お互いに」
愛美との事は何も話していないのに、二人の仲も自分の気持ちも見透かされたようで、緒川支部長は動揺を隠せない。
ウインカーを出そうとして、思わずワイパーを動かしてしまった。
「あっ……」
佐藤さんはまたクスクス笑う。
「ひろくんは私と付き合ってる時も、思ってる事、言葉にしてくれなかったもんね」
緒川支部長はバツの悪そうな顔をしてワイパーを止め、ウインカーを出した。
「何言ってるんだ……」
(そう……だった、かな……?)
大学生の頃、アルバイトで塾の講師をしていた事がある。
2年生の時、塾の生徒だった高2の佐藤さんに告白されて、半年ほど付き合っていた。
それまで女の子と付き合った事もなく、初めてできた彼女と過ごす事にドキドキしていたのをおぼろげに覚えている。
好きだったかと言われると、おそらく好きだったとは思う。
だけど今になってみると、初めて自分の事を好きだと言ってくれた彼女を、自分も好きだと勘違いしていたような気もする。
もしかすると、初めての経験に浮き足立っていただけなのかも知れない。
一緒にいる時は彼女の体温や柔らかさ、声や息遣いにまでドキドキするのに、離れている時は割と冷静で、切なくて胸が痛むとか、彼女の事を考えるだけで幸せだと思う事もなかった。
(あれは……恋……じゃ、なかったのかな……?)
「病院連れてくんだよ!」
「降ろして下さいよ!人を米みたいに……!」
「言う事聞かない菅谷が悪いんだろ!」
激しく言い合う二人の様子を、オバサマたちは楽しそうに笑って眺めている。
「今日のはまた一段と激しいわねぇ」
「激しさで言ったら今までで一番でしょ」
「やっぱり支部長と菅谷さんはこうでないとつまらないわね」
「久しぶりじゃない?第二支部名物、支部長対内勤さん」
二人の激しいバトルを初めて見る新人たちは、驚いてポカンとしている。
「降ろして下さい!スカートがっ……!!」
愛美がそう言うと、緒川支部長は慌ててずり上がりそうになるスカートの裾を押さえるようにして担ぎ直した。
「お姫様だっこの方が良かったか?」
「両方いやです!!とにかく降ろして下さい!」
「問答無用。このまま行くぞ」
緒川支部長が愛美を担いだまま支部を出ようとした時、支部の電話が鳴った。
「あっ、電話出ないと!降ろして下さい!」
愛美が緒川支部長の背中をボカボカ殴る。
緒川支部長は小さく舌打ちをして、愛美をそっと椅子の上に降ろした。
愛美がホッとしながら電話に出ると、相手は佐藤さんの担当地区の既契約者だった。
「佐藤さん、渡辺様からお電話です」
佐藤さんに受話器を渡すと、愛美は何事もなかったかのようにパソコンに向かう。
緒川支部長は愛美の横顔を見ながらため息をついた。
(本気で心配してるのに……。愛美はやっぱり、俺には素直になれないんだな……)
佐藤さんは保留ボタンを押して、緒川支部長の方を見た。
「渡辺さんのご主人、この後お時間あるそうです。3時半までならご自宅にいらっしゃるという事なんですけど……」
「……わかった。すぐ伺うと伝えて」
「ハイ」
佐藤さんが電話を切ると、緒川支部長はまた椅子ごと愛美の体を自分の方に向けた。
「戻ったら病院に連れていくからな」
「仕事終わったら自分で行きますからご心配なく」
「ああもう……!」
どんなに心配しても、愛美は言う事を聞こうとしない。
緒川支部長は険しい顔をして支部長席へ戻り、出掛ける準備を済ませて佐藤さんと一緒に支部を出た。
車に乗り込み少しすると、運転する緒川支部長の隣で佐藤さんがクスクス笑いだした。
「なんだ?急に笑って……」
「いえ……。菅谷さんってかわいいですね」
急に愛美の事を話題にされて、緒川支部長は動揺を必死で隠そうとした。
「そうか?でも見ただろ?菅谷は俺の事が嫌いなんだ。だからいつも反抗的な態度を取る」
「そうかな?ただ素直になれないだけじゃないですか?……お互いに」
愛美との事は何も話していないのに、二人の仲も自分の気持ちも見透かされたようで、緒川支部長は動揺を隠せない。
ウインカーを出そうとして、思わずワイパーを動かしてしまった。
「あっ……」
佐藤さんはまたクスクス笑う。
「ひろくんは私と付き合ってる時も、思ってる事、言葉にしてくれなかったもんね」
緒川支部長はバツの悪そうな顔をしてワイパーを止め、ウインカーを出した。
「何言ってるんだ……」
(そう……だった、かな……?)
大学生の頃、アルバイトで塾の講師をしていた事がある。
2年生の時、塾の生徒だった高2の佐藤さんに告白されて、半年ほど付き合っていた。
それまで女の子と付き合った事もなく、初めてできた彼女と過ごす事にドキドキしていたのをおぼろげに覚えている。
好きだったかと言われると、おそらく好きだったとは思う。
だけど今になってみると、初めて自分の事を好きだと言ってくれた彼女を、自分も好きだと勘違いしていたような気もする。
もしかすると、初めての経験に浮き足立っていただけなのかも知れない。
一緒にいる時は彼女の体温や柔らかさ、声や息遣いにまでドキドキするのに、離れている時は割と冷静で、切なくて胸が痛むとか、彼女の事を考えるだけで幸せだと思う事もなかった。
(あれは……恋……じゃ、なかったのかな……?)
1
あなたにおすすめの小説
五年越しの再会と、揺れる恋心
柴田はつみ
恋愛
春山千尋24歳は五年前に広瀬洋介27歳に振られたと思い込み洋介から離れた。
千尋は今大手の商事会社に副社長の秘書として働いている。
ある日振られたと思い込んでいる千尋の前に洋介が社長として現れた。
だが千尋には今中田和也26歳と付き合っている。
千尋の気持ちは?
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
先輩、お久しぶりです
吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社
秘書課
×
藤井昂良 大手不動産会社
経営企画本部
『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。
もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』
大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。
誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。
もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。
――それも同じ会社で働いていた!?
音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。
打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる