愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─

櫻井音衣

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男子高校生の恋愛事情 3

「学校の友達が来ててこれから一緒に勉強するけど、気にしなくていいよ」

その友達とさっきまであんな話をしていたとは言えない。
大人の英梨さんにとっては高校生の俺たちの性体験の話なんて、ガキの戯言にしか過ぎないだろう。
なぜだかわからないけど、俺は英梨さんにはガキ扱いをされたくはないから、さっきの会話を英梨さんに聞かれなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。

「お昼は二人分用意した方がいい?」
「ああ、そうだなぁ……。じゃあお願いしようかな」

そんな会話をしながら英梨さんと一緒にリビングに戻ると、太一は目を大きく見開き不思議そうな顔をしていた。

「こんにちは」
「こんにちは……。おじゃましてます……」

英梨さんに笑いかけられ、太一はかしこまって頭を下げる。
そして英梨さんがいつものように洗濯をするため脱衣所に向かうと、元の場所に座った俺の肩をつかんだ。

「……誰?」
「ああ……太一は英梨さんと初めて会うんだったな」

太一は土田さんを知っているから、英梨さんは臨時で来ている家政婦さんだと説明しようとすると、太一がくそ真面目な顔をして俺の耳元に顔を寄せた。

「潤、もしかして……あの人が本命の彼女なのか?」
「……はぁっ?!おまえ何勘違いしてんだよ?あの人はそんなんじゃないから!」

娘の出産で休暇を取っている土田さんの代わりに来てくれている家政婦で、ついでに土田さんは早産だった娘さんの産後の体調があまり良くないから、休暇を9月末まで延長することになったらしいと説明すると、太一は気の抜けたコーラみたいな腑抜けた顔をした。

「なんだ、家政婦さんか……。それにしても若くて可愛い人だなぁ……。あんな人と二人きりになっても、潤は変な気起こしたりしないのか?」
「……バカなこと言ってんじゃないよ。そんなことあるわけないだろ?そろそろいい加減にしないと帰ってもらうぞ」

テキストを広げながら仏頂面で答えると、太一も慌てて問題集を広げた。

「わかったよ……。ちゃんと勉強するって……」

テキストの文字を目で追いながら、俺は太一の言った言葉を反芻していた。
英梨さんと二人きりになるなんていつものことだけど、そのたびに吉野と二人きりになったときとは違うと感じていたことは否めない。
吉野と二人でいても俺の心は常に凪の状態なのに、英梨さんと二人でいるときは心にさざ波が起こるような、そんな状態だった。
それが何を意味するのかは自分でもわからなかったけれど、そのときハッキリとわかったのは、少なくとも吉野より英梨さんの方が、俺の心を動かしているということだ。


英梨さんの用意してくれた昼食を太一と一緒に食べて少し経った頃、吉野からメールが届いた。
明日は俺の誕生日だから、会って一緒にお祝いしたいという内容だった。
気持ちは嬉しいけど明後日には模試を控えているし、誕生日だからと言ってゆっくり遊んでいる暇はないので、一緒に勉強するならうちに来ないかと返事をすると、吉野は【明日の11時頃に三島くんのおうちに行くね】と返信してきた。

「明日吉野と会うのか?」

太一は食後のアイスコーヒーを飲みながら俺に尋ねた。

「うちで一緒に勉強することになった」
「勉強ねぇ……。ちょっとくらいは吉野にも優しくしてやれば?」
「俺は最大限優しくしてるつもりだけどな」

吉野がいやがることはしないし、いい加減な気持ちで手を出したりもしない。
それ以上どうしろと言うのか。

「潤は吉野の気持ちを考えたり、期待に応えるとか、好きになる努力はしてるのか?」

太一はなんでもわかったような顔をしてそう言った。
吉野の気持ちを受け止めて付き合っているのに、俺に期待ばかりされても正直困るし、努力して好きになるなんておかしいような気もする。

「言いたいことがあるなら直接言ってくれないと、俺には吉野の考えてることなんかなんにもわからないよ」
「思ってても相手に直接言いにくいことってあるだろ?吉野は潤が好きだから、いろいろ悩んでるんだ」
「いろいろ?いろいろってなんだよ」
「いろいろはいろいろだよ」

雑にまとめられたら余計にその意味がわからないけれど、これは俺と吉野の問題だ。
太一のお節介にうんざりして大きなため息をつく。

「俺、明後日模試だしもう勉強したいんだけど。おまえはまだ夏休みの課題残ってるんだろ?勉強しないなら帰れよ」
「……やるよ」

太一はしぶしぶと言った様子で問題集を広げた。
それからは二人とも黙々と勉強をした。
恋愛も数式と同じように明確な答を出せたら、迷うことも悩むこともないんだろうなと思った。



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